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第24話 『紅蓮の炎』 その後

 魚津うおづギルドが管理する新人迷宮。

 ここは、巨大な石碑がそびえるボス部屋前の安全地帯だ。


 ダンジョンボス部屋へと続くフロアでは、重々しい両開きの扉が固く閉ざされている。


 巨大な石碑せきひから少し離れた、その扉の手前の広場の空中に、九つの物体が宙に浮いていた。


 それは、大きめの卵――そう、九つの卵が、ゆるやかに浮かんでいる。


 より正確には、それはフェア複製体が次元収納から取り出し、

 霧の遺跡迷宮ミスト・ホール・ルーインズ十階層の石碑フロアに設置した九つの『捕縛洗脳卵ほばくせんのうたまご』だった。


 そして、九つの卵をぐるりと取り囲むように、九人のフェア複製体が配置されていた。


 準備完了と、ファア複製体が本体に念話を送った。


(はい、あとは翔太様の出番待ちです~)


(なる早すぎて、頭が追い付かないけど、面倒事はさっさと終わらせてしまいたいし、やっちゃうね。いくよ――『卵解放』)


 宣言した瞬間、九つの卵は一斉に息を吹き返した。


 直後、卵を起点とした圧倒的な光の洪水が、安全地帯一面にあふれ出す。

 光が頂点に達した瞬間、卵のから一斉いっせいに弾け飛んだ。

 まぶしさに視界そのものが白く染まる中、粒子となって飛び散った魂の残骸ざんがいは、すぐさま再構成を始める。


 こうして卵から孵化した彼らは再びこの世に生を受けた。

 光の洪水が収まる頃には、九人分の人影がそこにいた。


 武器に手をかけたままの者。詠唱に入りかけていた者。前へ踏み込もうとしていた者。一度止められた時間が、別の場所でそのまま再開されたかのようだった。


(はい、翔太様、よくできました~)


 ぱちぱちぱち、と翔太の耳にフェアの拍手の音が届く。


(いや、最後に僕、念じただけだし……。ま、いっか。深く考えたら心が病む。……後は任せた、フェア)


(アイアイサー)


 事情聴取じじょうちょうしゅを担当する黒田くろだは、翔太しょうたの少し前を無言で歩いていた。もちろん、翔太たちの念話での裏工作など知るはずもなく、赤槻あかつきさんたちから距離を取るよう、彼を廃墟はいきょの奥へと導いていった。


◆◇◆◇◆◇


 ――同じ頃。


 光が収まった十階層の安全地帯には、九人の人影だけが残されていた。

 周囲を取り囲んでいたフェアの複製体たちは、それを最後まで見届けることなく、ふっと気配ごと姿を消していた。


「……ここは、どこだ?」


 最初に口を開いたのは、赤と黒の軽装アーマーをまとった男だった。

 紅蓮寺 炎真(ぐれんじ えんま)。Aランクパーティ「紅蓮の炎」のリーダー。


 視線の先には、薄い霧と、崩れかけた石造りの遺跡がいくつも点在している。

 頭上は、ダンジョン特有のくぐもった光。外ではない。どこかの迷宮の内部だ。


「霧があって、遺跡跡が点在……初心者ダンジョン、霧の遺跡迷宮ミスト・ホール・ルーインズか」


 炎真えんまの隣で、魔法担当の火野 礼奈(ひの れいな)が眉を寄せて呟く。


「ここ、ボス部屋の扉があるし、ダンジョン最奥だよ。ていうかさ、これ、どういうこと。訳が分かんないんですけど」


 礼奈れいなが指さした先には、見慣れたはずの重々しい両開きの扉がそびえていた。


 本来の予定をスケジュール表どおりに思い浮かべると、今日の『紅蓮の炎』は、急ぎのクエストが舞い込まないかぎり、金沢のBランクダンジョンで魔物の間引きに向かっているはず――そこまでの記憶はあった。


 だが、なぜ今、自分たちが霧の遺跡迷宮ミスト・ホール・ルーインズの最奥に立っているのか。

 そもそも、今日に関する記憶が、礼奈れいなの頭からきれいさっぱり抜け落ちていた。


「あれ、おかしい……わたしたち、今日、何してたっけ。昨日のことは思い出せるけど、今日のことに関してだけ、何も覚えてない?」


 回復担当であり参謀役さんぼうやくでもある朱堂ミサキ(あけどう みさき)も、今日の記憶が飛んでいた。


 その横で、黒い革鎧をまとい、斥候せっこう・暗殺・偵察ていさつを受け持つ志愚呂 零士(しぐろ れいじ)は、短く息を吐いた。


「俺もだ。記憶がない」


 分厚い大盾を片手に持ち、パーティのタンク役を担う岩城 盾吾(いわき じゅんご)が低く短く言う。


「俺も今日の記憶が抜け落ちてる」


「落ち着け」


 炎真えんまがピシャリと言葉を吐いた。


「ダンジョンの罠に掛かったのかもしれん。記憶撹乱きおくさくらん系か、転送系だ」


「そうね。まずは落ち着くべきね」


 ミサキが頷き、深呼吸ひとつ。そのあとで、ふと視線を別の方向へ向けた。


「……ねえ、君たち。今がどういう状況かわかる?」


 霧の薄い側に、四人が固まっていた。

 中学生くらいの少年少女が三人と、その前に立つ一人の男性だ。

 その男性が、腕につけた腕章を軽く示しながら頭を下げた。


「わからない。さっぱりだ。わたしは山能 浩二(やまのう こうじ)。ギルドの臨時新人指導員だ。この腕章をつけているということは、研修をおこなう月曜日だというところまでは予想がつく。だが、今日に関しては何一つ記憶がない。まるで狐に化かされた気分だな」


 ギルド指導員の山能やまのうは言葉を区切り、苦い顔をした。

 “臨時新人指導員”という肩書きは表向きのものにすぎない。実態は、佐々木製薬からギルドへ送り込まれた諜報員ちょうほういん――内部の動きをいち早く察知し、必要とあらば“後処理”の段取りを整える役目だった。


(……よりによって、こいつらと同じ場に放り込まれるとは)


 紅蓮の炎がこれまで何度も“表に出せない仕事”を片づけてきたことを、山能やまのうは嫌というほど知っていた。

 後処理の現場も見た。血の匂いも、跡形も残らない処理の仕方も――あれは人間の仕事ではなかった。


(俺はもう第一線を退いて久しい。元B級の諜報寄りじゃ、あいつらには絶対に勝てない。不要と判断されたら……終わりだ)


 そのとき、炎真の指先で“干渉石かんしょうせき”が軽く弾かれた。

 宙を跳ねるたびに、山能やまのうのどが勝手に閉じる。


 干渉石かんしょうせき――石碑の階層内映像記録から除外する魔道具。使い方によっては、証拠を残さず人を消せる、危険な代物しろものだ。


 それをニヤつきながらもてあそぶということは、つまり。


(ああ……今日は、俺が“不要”になる日かもしれない)


 胃が裏返るような冷たさが背骨を駆け上がる。

 誰にも相談できない密室の迷宮。逃げ場はない。

 山能やまのうはただ一人、静かに追い詰められていった。


 そんなギルド指導員の内心など知る由もない、新人の三人は、茂部 野功(もぶの いさお)朧田 平(おぼろだ たいら)氷川 麗香(ひかわ れいか)と名乗り、それぞれ、意見を述べた。


「わからないッス。中学三年で……今日は“初心者ダンジョン体験”のはずッスけど……その後のことは、俺も覚えてないッスね」


「僕も、昨日のことまでは覚えてるんですけど……ここまで来た記憶が何もなくて。あと、理由は分からないんですけど、いつも一緒にいる人の顔を思い浮かべると、すごく怒りが込み上げてきて……自分でも、なんか変だなって」


「そう、それ、わたくしも同じですわ。なぜか“許嫁”の佐々木様のお顔が頭にちらつくだけで、胸のあたりがざらつくと申しますか、どうにも落ち着きませんの。


 昨日の夜に眠りについて、気がつきましたらこの場に立っておりましたの。そこからこちらの記憶が、すっぽり抜け落ちておりますわ。一体どういう了見ですの?


 どなたか、この上級国民たるわたくしに、きちんとご説明してくださる方はいらっしゃいませんこと?」


「それは、俺達も知りたいところだ」


 炎真えんまが短く答え、今わかっていることをまとめて口にした。


「つまり、こういうことか。俺たち『紅蓮の炎』の面々に、プラスして中三の新人研修組と指導員も、全員まとめて記憶が飛んでるってことだな」


 炎真えんまが、わずかに口角を歪めた。


「……どう考えても、普通のダンジョン事故じゃねえな」


 ミサキは静かに全員の顔を見渡し、炎真えんまから流れを引き継いで口を開く。


「一つずつ確認しましょう。まず、全員、“昨日まで”の記憶はあるんですね?」


 『紅蓮の炎』組と、他四人がそれぞれ頷く。


「では、その時点までは、少なくともギルドの公式ルートで研修に参加していた、ということになります。わたしたちは今日の予定では金沢でダンジョンの間引きする予定でしたが、なぜかこの場に立っている。問題は、今日ここに至るまでの記憶が、全員きれいに抜けていることです」


 ミサキは、にこやかな表情を崩さないまま、少しだけ声のトーンを落とした。


「念のため、全員、ステータスを確認してみてください。幸い、ここは石碑があります。何か状態異常があったとしても、石碑から解毒ポーションを購入することができますから安全は確保できています。パーティ間でしかステータスは確認し合えませんから、状態異常があるかないかだけでも、教えて貰っていいでしょうか?」


(――ここで新人たちにだけステータスを更新させれば、呪いは“公式記録”として確定する。戻れなくなるのは、あくまで彼らの側だけ)


 ミサキは、その腹黒い算段を胸の奥に押しとどめ、いつもの笑みを崩さなかった。


(どうせ、この場にいるってことは、誰かの策略にはまったってことだもの。新人が無謀な真似をしたら使い捨てにされるのなんて、今さら言うまでもないわ。せいぜい、呪いや石化じゃないことを祈っておくくらいね)


 頼もしい大人に囲まれた新人たちは、すっかり信用しきり、大人たちの操り人形と化している状況に、むしろ安心しているようにすら見えた。自分で考えないほうが楽だと、どこかで決め込んでいる顔だ。


「ステータス……ですね。分かりました」

「分かったッス。やってみるッス」

「庶民にしては鋭い指摘ね。じゃあわたくしもやってみますわ」


 茂部野功もぶの いさお朧田平おぼろだ たいら氷川麗香ひかわ れいかが、ほぼ同時にステータスウインドウを開く。


 それを見ながら、大人たちも自分のステータスウインドウを開く“振り”をしてみせる。落ち着いた空気を装いながらも、その実、全員が固唾かたずをのんで三人の表示結果を見守っていた。


 恐る恐るステータスウィンドウを開いた三人は、それぞれ、この場で唯一信頼するしかない大人たちに、自分の置かれた最新情報をさらけ出した。


「……ジョブ:モブ民 Lv.5、スキル:モブ魂 Lv.2……え、状態が『洗脳状態』『翔太様絶対主従者』になってるッス。どういうことっスか。過去ログには、『捕縛洗脳卵』に内包されました……なにこれッス」


「あれ、俺のジョブ:里長 Lv.5、スキル:NPC好感度UP Lv.2になってた。俺も、状態に変な項目がついてる。茂部野もぶの、どうやんだ……あ、これか。てか、おいおい、『妖精の魂と融合』って、なんだよ、これ」


「いつのまにか、わたくし、ジョブ:氷の魔女 Lv.5、スキル:氷魔法 Lv.2を覚えてましたわ。わたくしの資質なら、上級国民として当然ですわね。どうしたのですの? 茂部野もぶの朧田おぼろだ……状態、ですか? あら、何ですの、わたくしが『洗脳』されてるとか、あり得ないですわ」


 大人たちは、自分たちもステータス異常であるかのように“嘘”を重ねて振る舞い、新人三人から必要な情報だけを抜き取っていった。


 紅蓮の炎の面々は、誰一人として石碑に触れようとしなかった。

 ステータスウインドウも、開く“ふり”だけで更新を避けている。

 彼らの視線は、ときおり迷宮ポーターの方へ流れた。

 魔素濃度が低い地上へ戻りさえすれば、この場の状態異常は長くは保たない――

 呪いや、洗脳も、融合さえも、魂に定着さえしなければ、回復できる余地がある。

 そんな確信めいた気配が、彼らの仕草の端々ににじんでいた。


 紅蓮の炎の参謀役であるミサキは、笑顔の裏で新人達を観察し続けていたが、誰ひとりとして、その意味に気付く素振りがなかった。


 三人から得た情報を精査すると、次のことが露呈した。


-------------------------------

過去ログ:

『捕縛洗脳卵』に内包されました。

『捕縛洗脳卵』の特殊効果:妖精の魂と融合しました。

『捕縛洗脳卵』の特殊効果:スキル『妖精の友』の対象者になりました。

『捕縛洗脳卵』の特殊効果:朝倉翔太を主とする『翔太様絶対主従契約』を締結しました。

『捕縛洗脳卵』の特殊効果:朝倉翔太と魔力パスを結びました。

『捕縛洗脳卵』の特殊効果:本日記憶抹消、記憶改竄の効果が常時発動しました。

『捕縛洗脳卵』の特殊効果:朝倉翔太に対して好感度UP大効果が常時発動しました。


朝倉翔太が『捕縛洗脳卵』の解放権を行使しました。

『捕縛洗脳卵』から解放・孵化しました。

-------------------------------


 この新人たちから言葉巧みに情報を抜き出す様子を、ギルド指導員の山能やまのうは敢えて容認していた。


 彼自身も命が惜しいのと、紅蓮の炎のリーダーが片手でポンポンと軽く宙に放る『干渉石かんしょうせき』から、どうしても目が離せなかったからだ。


 炎真えんまはニヤリと歯を覗かせる。


 『干渉石かんしょうせき』が宙を弾むたびに、山能の喉は勝手に閉じた。

 “逆らえば消される”――その理解だけで十分だった。


「どうする?」


 つい先ほどまで融和的な態度をとっていた『紅蓮の炎』リーダー炎真えんまは、その偽りの仮面を脱ぎ捨て、冷たい視線を参謀役の朱堂ミサキ(あけどう みさき)に向けた。


 今回、炎真えんまが短く問うた「どうする?」には、こいつら四人をどう扱うか、という意味がはっきり込められていた。


 思考を巡らせたミサキは、『洗脳』とほぼ『奴隷契約』に等しい素晴らしい罠をはめて自分たちを弄ぶ朝倉様に、むざむざ新しい駒をくれてやるのはシャクだと感じていた。A級パーティとしての自尊心を、ここまで平然と踏みにじるやり口に、「“遊び”なら負けないわよ」と対抗心を燃やす。


 ならば、その“遊び”という制約の中でどう勝つか。ミサキは、勝負に勝つための道筋を論理的に組み立てていき、やがてひとつの答えを導き出した。


 ただの“火遊び”の範疇はんちゅうでなら、契約の強制力を無力化できるのではないか、と。


 炎真えんまの真意を正確に読み取ったミサキは、冷酷な判断を下した。


 ミサキの視線は、『紅蓮の炎』の魔法担当であり、“つい、うっかり”火付け役でもある火野礼奈ひの れいなに向く。


「礼奈、ちょっとその辺で、魔法の“練習”をしてみてくれないかしら」


 ミサキはニッコリと笑みを浮かべ、心躍る“火遊び”を持ちかけた。

 参謀役の意図をすぐに読み取った礼奈れいなは、この場の空気にそぐわない陽気な口調で返事をした。


「いいわよ。じゃあ、どれくらいの強制力があるか調べるってことで、魔法の“練習”をするね」


 礼奈れいなが「火遊び」と笑った瞬間、ギルド指導員の山能やまのうの膝から、力がすっと抜けた。それは紅蓮の炎が“処理”を始める時の合図だと、彼は知っていた。


「よし、礼奈の“火遊び”が始まったら、残った奴らでボス戦だ。討伐後はボス部屋から帰還ポーターを通って地上に戻るぞ。準備はいいか」


 炎真えんまは、その後の作戦をパーティメンバーに向けて手短に伝えた。


「いいぞ」

「やってくれ」

「大丈夫よ」


 紅蓮の炎の面々からは返事がくるが、新人たちは何が何やら、サッパリ話についていけてなかった。


 そして、どうなるか震えながら場の成り行きを見守っていたギルド指導員の山能やまのうだが、ついに堪え切れずに礼奈へ縋りつこうと一歩踏み出した、その瞬間だった。


 分厚い大盾を構えた岩城盾吾いわき じゅんごが、背後から素早く腕を回し、山能の上半身を羽交い締めにする。


 それでも、最後まで必死に命乞いを続ける山能やまのうは、声を張り上げて訴えた。


「待て、待て、待て、おいおい、お願いだ。一旦、冷静になってくれ。俺には妻と子供がいるんだ。なあ、頼む。俺だけでもいいから、見逃してくれないか」


 大人が本気で命乞いをする光景に、新人三人はそれぞれ違う反応を見せた。


 茂部野功もぶの いさおは、場の空気についていけずに、落ち着きなく視線をさまよわせる。


「えっ、どうしたッスか、空気悪いッス」


 朧田平おぼろだ たいらは、訳が分からないまま、とりあえず指導員を心配して声をかけた。


「山能さん、いきなりどうしたんですか?」


 氷川麗香ひかわ れいかも、状況の深刻さを理解しきれず、いつもの調子で鼻で笑う。


「みっともない。庶民同士で争うのはお止めなさい」


 これまでほとんど影のように存在感を消し続けてきた志愚呂 零士(しぐろ れいじ)が意表をつき、いきなり詠唱を始めた。


「深淵よ、影を鎖へと変えろ。逃れ得ぬ奈落の枷をもって、闇に縫い留めろ――」

奈落鎖縛アビス・チェイン!!」


 直後、大地から無数の闇属性の拘束ワイヤーが一斉に溢れ出し、狙った獲物へと殺到した。その獲物とは、三人の新人とギルド指導員の山能やまのうだ。


 闇色の拘束ワイヤーが四人の標的へ素早く伸び、腕や脚に巻きついた。

 そのまま闇の手枷や足枷のように形を変え、対象をその場に縛りつけた。


「嘘だ……」「なんだよこれ、冗談だろ」「なにこれ、早く解きなさいよ!」


 事態を理解できていなかった新人たちも、ようやく――

 この場の空気が、最初から濁りきっていたことに気づき始めた。


「じゃあ、火遊び始めるよ。みんな、避けてね――

 炎よ、天より来たれ」


「頼む、有り金払うから、助けてくれ」「嫌ッス、悪い冗談ッスよ!」

「え、俺を殺す気……やめてくれ……!」

「え、え、え、殺される……? わたくしが……嫌、嫌、いやーーー!」


 四人の悲鳴が安全地帯の天井にまで反響し、耳をつんざく。その中で、礼奈れいなだけが遊びの続きでも始めるかのように、淡々と詠唱を紡いでいく。


「業火よ、大地を赤き焦土と化せ」

「燃え散る火の雨よ、灼熱の世界を顕現せよ」


 礼奈れいなの詠唱に呼応するように、彼女の身体に灼熱の魔力が渦を巻き始めた。空気そのものが焦げつくように歪み、肌を刺す熱が安全地帯の中にまで伝わってくる。


 そんな状況のなか、炎真えんまが淡々と告げる。


「恨むなら、俺たちじゃなく、こんなちんけな枷をつけた朝倉 翔太(あさくら しょうた)って奴を恨みな」


 そして、「紅蓮の炎」の面々は礼奈れいなを抱えながら、ボス部屋の扉をあけ放つ。


 最高潮に高まった魔力が礼奈れいなの身体へ収束し、紅蓮の光が肌の下から脈打つ。周囲の空気は爆ぜる寸前の熱でゆらぎ、息をするだけで喉が焼けるようだった。


 そして、礼奈れいなが指を鳴らす。


「――降焔散弾雨フレイム・ショットレイン!!」


 ――その瞬間だった。


 空気が、音もなく反転した。

 熱が爆ぜるはずだった空間から、まるで見えない手が一気に熱だけをつまみ取ったかのように、周囲の魔素が一瞬で霧散する。

 焼けつくはずの世界は、ただ不気味な静けさだけを残して、別物の空気へと書き換えられていた。


 礼奈れいなの周囲に渦巻いていた灼熱の魔力は、まるで糸が切れたようにほどけ、光は吸い込まれるように消えていく。時を同じくして、四人を拘束していた闇属性の拘束ワイヤーも溶け落ちた。


 安全地帯の空気は、“誰かの意志”で書き換えられたかのように静まり返る。


 魔法が発動する気配は――どこにもなかった。


「はっ……何が起こったの? ……失敗した……なぜ?」


 次の瞬間、この場に集う全員の頭の中へ、強烈な思念波が叩きつけられた。


((((((はい、みなさん、ちゅーもーく))))))


 それは声ではなく、脳の奥へ直接流し込まれる“情報の奔流ほんりゅう”だった。

 重圧を伴ったその波は、思考を揺さぶるには十分すぎるほど強く、

 その場にいた全員のひざから力を奪い去る。


 結果、誰もが片膝をつき、うめき声を上げながら、ただその場で耐えるしかなかった。


 やがて、頭蓋の内側をえぐるような圧はすっと引き、代わりに冷たい気配が安全地帯を満たしていく。


 そして、この状況を作り出した元凶が姿を現す。

 九人の妖精。全員そっくり同じ見た目。フェア複製体の面々だ。


「はーい、みなさん、仲間割れ劇場、お疲れ様でした~。見ごたえあってワクワクしました。とっても面白かったです~。そんな迫真の舞台俳優を演じてくれた『紅蓮の炎』のみなさんに、素敵なご報告がありますね。

 なんとなんと、『紅蓮の炎』のみなさんはですね、フェアの所属派閥の親分さんの第四迷宮神、こと、遊戯迷宮神=フェリド・メイズロア様の駒になる名誉が与えられました~。拍手~!!」


 ぱちぱちぱち。


 炎真えんまは、誰かが何か言わなければと頭では分かっているのに、喉だけが氷みたいに固まって動かない。逆らった瞬間、駒にすらなれず消される――そんな確信だけが、全身を冷やしていった。


「ちなみに、ちゃんとフェアのほうでみんなのステータス更新しときましたから、仲間割れしても無駄だったんですけど~。じゃあ、そういうことなんで、さっさと迷宮神様にお目通りしてきてくださいね」


 次の瞬間、『紅蓮の炎』メンバー全員を中心に光の御柱が立ち上り、一瞬で消え去った。


「次は、翔太様の同級生の新人ちゃんたちは、ゲームの景品でいっか。そんじゃまたね~」


 フェア複製体の言葉が言い終わるより早く、三人の新人は苦情を発することすら叶わないまま、次元収納の黒穴へと吸い込まれていった。


「最後に残ったのはギルド指導員ちゃんだけど、指導員ちゃんは、翔太様の専属受付要員でおねがいしよっかな~。逆らったらプチッてしちゃいますから、頑張ってくださいね~、はい、じゃあ、何か質問あったら、聞きますよ~」


 ふざけた口調とは裏腹に、拒絶を許さない圧だけははっきりと伝わってくる。選択肢など、初めから用意されていないのだと、誰の目にも明らかだった。


「助けていただき、本当に、本当にありがとうございました。誠心誠意働きますのでよろしくお願いします」


 かろうじて震えを押し殺した声で、ギルド指導員の山能やまのうこうべれる。生き延びるために取れる態度は、もはやそれしか残されていなかった。


「はい、一緒に翔太様をおささえしましょうね~」



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