第22話 御経塚十階層~十一階層、黒騎士と異常値の少年 ※黒田庄兵衛視点(後編)
第22話 御経塚十階層~十一階層、黒騎士と異常値の少年 ※黒田庄兵衛視点(後編)
ドッカーン。
車輪付きの投石器を引いてきた人馬兵ごと巻き込む大爆炎が上がり、戦場の一角を激しく焼き尽くす。
「よし、その調子で投石器を狙え」
敵勢力の遠距離攻撃の主軸だった投石器を潰していくことで、石碑の倒壊確率がグッと下がる。
それを引き起こしたのは、反攻に転じた人類側魔法部隊の集中砲火だ。わたしの号令に合わせ、前線の魔法使いたちが一斉に詠唱を叩き込んだ。
一時は大きく攻め込まれていた十階層の戦場だが、わたしの目には、時間の経過とともに人類側が有利に傾きつつあるのがはっきりと見て取れた。
個々に戦っていた探索者パーティも、徐々に合流して数を増やしていく。やがてわたしの属する集団も、ひとつの大きな塊になりつつあった。
その中には、何故か当然の顔をして、木製魔法人馬や木製槍兵人馬、木製弓兵人馬、木製剣闘人馬、木製騎士人馬、木製重騎士人馬までが、いくつも紛れ込んでいる。
この木製人馬兵は、人間の言葉をきちんと理解し、命令にも忠実だ。しかも、それぞれに独自の特徴まで備わっている。
交戦中の探索者の援護に回る木製魔法人馬は、木魔法を主体に、地面から伸ばした木の枝を敵の足に絡みつかせて転倒させる。敵勢の機動力という弱点を、容赦なく突く、実にえげつない拘束魔法だ。
遠距離攻撃を担う木製弓兵人馬は、自らの身体から次々と木の矢を生み出し、途切れなく射続けている。
木製槍兵人馬は、敵の一撃で腕を切り落とされても、数秒もすれば切断面から新たな腕が生えてくる。
木製剣闘人馬は、鉄塊ならぬ木魂の巨大剣を両手で構え、敵の手勢を一刀のもとに叩き伏せる。
木製騎士人馬は、剣と盾を巧みに操り、確実に敵に止めを刺していく。
木製重騎士人馬に至っては、一般種の二倍の体格を誇る巨体そのものが、まさしく移動する防壁と言ってよかった。
ただ、それだけの戦力が加わっても、なお、溢れくる魔物の軍勢がもたらす脅威は、ほとんど薄れてはいなかった。
(この魔物進軍掃討戦、まだ終わりには程遠い。全国からの応援が来るのは、早くても明日以降だ。自衛軍への出動要請も、すでに出ているはず……まさか、“あの少年”を見定めるために、わざと待機させているのか。もし本当にそうだとしたら、証拠を添えて週刊誌にでも情報を流すことも、やむを得んか)
戦場で敵を切り伏せつつ、同時に思考を巡らせていると、事態がまた少し動いたようだ。
(ようやくのお出ましか……重役出勤にも、もう少し時と場合というものをわきまえてほしいものだが)
石碑の方角から、この最前線の戦場に足を運んできたのは、白馬に乗り、白いローブの上から同色の軽装備をまとった一団だった。
――女神教団。
全国各地に支部を構える大手クランにして、迷宮の女神を掲げる新興宗教組織だ。白馬の胸当てと白いローブの襟元には、横顔だけを象った女神が《《小さな棺》》を胸に抱く紋章が縫い付けられている。一見、慈愛深い抱擁の図柄だが、抱かれているのが棺だと気づいた瞬間、戦場の空気とは別種の薄寒さが背筋を撫でた。
大手クランに属さない熟練探索者たちの間にも、戦場に厚みが増したことで、軽口を叩く余裕が生まれていた。
「精鋭、女神の聖棺騎士団のご登場。主役は最後にってか」
「大手クランは、どこも動き出すのがいつもおせえわな」
「だが、女神教団の秘蔵っ子がくれば、もうこっちのものだぜ」
「最前線で戦う回復要員が来たからには、戦況が動くぜ」
女神教団の精鋭部隊が魔物進軍掃討戦に参戦したことで、戦場の空気にも、再び熱気が帯びてきたのをわたしは肌で感じ取っていた。
白馬の先頭に立つ女騎士が、黒田に気づいて馬を止めた。白いローブの裾から覗く脚は、見た目に似合わず前線慣れした動きをしている。
「女神教団・富山支部戦闘部門責任者、立花誾子と申します。ここから先の前線維持は、北陸三県合同隊にお任せいただけますか」
さらりと名乗りつつ、状況を把握している目だった。
「……北陸三県、合同隊?」
「ええ。石川と福井から小隊が一つずつ。それに、富山から私の隊がひとつ。本隊は、全国からの増援をまとめてから動くと聞いています。女神教団として、本格参戦するのは明日以降でしょう」
つまるところ、今日ここにいるのは“つなぎ”だと言いたいらしい。
「棺桶に入らない程度には、きちんと働きますよ」
冗談めかした口調だったが、目だけは笑っていなかった。
「ちょうどいい。わたしとしても、前線を任せられる大手クランを待っていたところだ。その申し出、受けるとしよう」
黒田は一度だけ視線を戦場に走らせ、押し寄せる魔物の波と、そこに食い込んでいく女神教団の隊列を確認する。前線を任せるには、ぎりぎり足りる――そう判断した。
「ありがとうございます。では、黒田さんも、私たちの指揮下に入ると――」
立花は当然の前提として告げたのだろう。わたしを、北陸三県合同隊の戦力として組み込むつもりで。
「いや、遠慮しておこう。個人的に調べたいことがあってね。その調査に当たることにするよ」
きっぱりとした否定に、立花がわずかに目を瞬かせる。だが、すぐに表情を整えた。
「そうですか。それは残念です。ちなみに、好奇心から伺うのですが、どのような調査を――」
(はっ。将来ある者たちを見殺しにし、戦場に遅れて平然としていられる貴様らに、話すことなどないと言えれば、どれだけ楽なことか)
「今回の魔物進軍掃討戦で、迷宮がどれくらいの規模で魔物を吐き出しているのか。全国からの応援が駆けつける前に、改めて押さえておく必要があるはずだ」
わたしが生きる世界では、迷宮はすでに社会に溶け込んでいた。日本各地で毎年のように発生する魔物進軍掃討戦は、台風被害を最小限に抑えるための災害対策に近い。
「誰かが行かなければいけないのなら、A級探索者のこの私が適任だろう」
ならば、必ず予算が発生する。地方自治体の枠でも、国家の災害対応予算でもいい。実際にどれほどの規模の進軍だったのか、早い段階で把握できれば、それに沿った対応マニュアルに当てはめればいいだけの話だ。
そのための“最初の目”として、十一階層まで見に行く。わたしにとって、それは派手さこそないが、必要な仕事だった。
「死ぬ気ですか」
立花の声音には、怒りでも嘲りでもなく、純粋な確認の色だけがあった。
「舐めてもらっては困る。私も君と同じ現役のA級探索者だ」
わたしは、口の端だけでわずかに笑ってみせた。
(――それに手元にはまだ、“あの少年”に貰った卵が二個残っている。バフ効果を含めれば、実質S級だ。そのS級の見ている世界を味わうには、このダンジョンは最適と言っていいだろう。いっそ、ボス部屋に特攻して、人間側の底力を見せつけてやるのも一興か)
「……そこまで言われては、止める言葉がありませんね。うちの新人たちの前で、格好悪いところは見せないでくださいよ?」
立花は肩をすくめてみせると、わずかに口元だけを緩めた。
「もちろんだ。そちらも、私が戻るまで石碑を守り切ってくれたまえ」
「ええ。女神様の顔に泥を塗らない程度には、きちんと働きますよ」
軽口を交わしたあと、立花は胸元の紋章に一度だけ触れ、短く言葉を添える。
「迷宮の女神が、その歩みをひととき護ってくださいますように」
「神仏に縋る趣味はないが……縁起物くらいには受け取っておこう」
わたしはわずかに肩をすくめてみせると、黒馬を召喚し、その背に跨がる。次の瞬間、十一階層へと続く階層ゲートの方角へと駆けだした。立花もまた、前線へと視線を戻す。
◆◇◆◇◆◇
今回の部隊も、もともとは魚津ダンジョン一階層から動き出した。迷宮ポーターを使い、一気に御経塚ダンジョン十階層まで跳んできたのだ。
迷宮一階層と、各十階層に一つだけ据えられた巨大石碑。その足元に刻まれた迷宮ポーターの魔法陣が、十階層ごとの魔法陣同士を結ぶ要になっている。パーティリーダーが登録した分だけ、別の迷宮の十階層ポーターとも繋がり、行き来ができる仕組みだ。
十階層の石碑広場から先へ進む道は、実質三つしかない。
九階層と十一階層へ通じるのが、それぞれの階層ゲート。そして迷宮ポーターだ。
第二防衛ラインであるこの十階層の石碑が倒壊すれば、その階層の魔法陣は使用不能になる。普段、魔物を弾いている結界も消え、九階層へ続く階層ゲートだけが肥大化し、魔物の出口と化す。
さらに、最終第一防衛ラインである一階層の石碑が折れれば、地上とダンジョンを結ぶ唯一のダンジョンゲートが肥大化することになる。
十一階層へ続く階層ゲートは、本来なら縦十メートル、横三メートルほどの“黒い穴”であるはずだった。
だが、わたしが近づくにつれて、その違和感ははっきりとした形を帯びていく。
(……凄まじいな)
距離を詰めるごとに、胸の内側でざわめきが大きくなる。
(標準値どころの話ではない。縦は二倍、横は──五百メートルはあるか)
数値として弾き出してみた瞬間、自分でも馬鹿げていると分かる。それでも、目に映る光景は、わたしの経験則と計算結果、どちらとも矛盾していなかった。
(……だからこそ、ここで引くわけにはいかん)
十階層の防衛線を任せた以上、十一階層で踏みとどまるのは、もはや性分とか職務とかを通り越して、自分が選んだ「役目」そのものだった。
ランスアーツを全開にした突撃で、わたしはそのまま十一階層へと飛び込んだ。
◆◇◆◇◆◇
視界が一瞬、黒で塗りつぶされ──次の瞬間、目の前に広がったのは濃い赤の森だった。
勢いを殺さぬまま、わたしは近くの大樹の幹にランスを突き立て、その反動で枝へと跳び移る。そこから枝伝いに木々の上を駆け抜け、より高い位置へと登っていく。
やがて見晴らしのいい枝の高台に出て、十一階層の全体像が視界に飛び込んできた。
眼下には、縄文時代の集落を思わせる竪穴住居がいくつも固まった居住地区が広がっている。そのあちこちで、夥しい数の人馬兵が、逃げ惑うNPCたちを次々と蹂躙していた。
焚き火の煙と土埃が入り混じるその光景は、まさしく「集落の虐殺」という言葉以外に言いようがなかった。
わたしは腰の収納ポーチに手を伸ばし、記録機材を取り出すと、手早く電源を入れる。枝の上から、十一階層の全体像が収まるように、ゆっくりと視界をなぞっていった。
縄文人めいた木造の高床住居が、炎と血煙に包まれている。赤土の路地を、半裸のNPCたちが悲鳴を上げて駆け抜け、その背を人馬兵の槍が無造作に貫いていく。
(集落の中心部……黒い渦が三つ。あれが、魔物の発生源か)
広場とおぼしき開けた場所に、ぐるりと円を描くように三つ、地面から噴き上がるような黒い渦が見えた。渦の頂点からは、次々と人馬兵の身体が形をとり、そのまま走り出していく。
(魔物を生み出す黒い渦の存在を、こうして目視できたのは収穫だな。特大魔法を叩き込めば、いったんは消せる……問題は、これが十一階層にいくつあるかだ。他の階層も、同じ構造かもしれん)
わたしは渦の位置と数を頭の地図に刻み込み、記録機材のレンズもそこに向けておく。
(次に必要なのは、階層ごとのおおよその頭数を把握できる資料だな。こうして映像記録を残しつつ、各階層を一通り撮影……余力があれば、ボス部屋に特攻をかける)
頭の中でやるべきことを箇条書きにしていく。そのどこにも「NPCを助ける」という項目はなかった。
わたしの知る限り、NPCは死んでも、次の日には何事もなかった顔で生き返る存在だ。一度死ねば二度と戻らない人間とは、根本から仕様が違う。
「悪く思うな」
誰に向けたともつかない言葉を、唇の裏側だけで転がす。わたしは記録機材を仕舞い、次の階層へ向かうべく、枝の上で体勢を変えた。
――そのときだった。
(……なんだ?)
視界の端で、人馬兵の姿がふっと薄れた気がした。最初は、焚き火の煙にでも紛れたのだろうと流そうとしたが、すぐに考えを改めることになる。
(気のせいではないな。今のは、完全に“消えた”)
今度は正面だ。逃げ惑うNPCの背に槍を振り下ろそうとしていた人馬兵が、黒い粒子を残すこともなく、一瞬で消失した。
(黒い渦から生まれる魔物は、倒されれば黒い粒子を残すはずだが……これは、どういう理屈だ)
まるで誰かが、見えない網で一体一体を掬い取っているかのように、消失は続く。しかも、その規模は徐々に大きくなりつつあった。
生きたまま腕を噛まれ、泥の上でもがいていたNPCの子供に覆いかぶさっていた人馬兵も、次の瞬間には痕跡ひとつ残さず消え失せる。
直後、今度は白い蒸気の粒子が、子供の頭上からふわりと降り注いだ。
「……ほう?」
思わず、わたしの口から低い声が漏れる。
白い粒子が消えたあとには、襲われていたはずの子供が、傷ひとつない身体で座り込んでいた。噛み千切られていたはずの腕も、泥と血で汚れた衣服も、すべて元通りになっている。
子供はぽかんと口を開け、何が起こったのか理解できていない顔で、自分の腕を何度も握ったり開いたりして確かめていた。やがて、遅れて恐怖が追いついたのか、慌てて立ち上がり、近くの家屋の中へと駆け込んでいく。
同じような光景が、集落のあちこちで同時並行的に起き始めていた。追い立てていたはずの人馬兵が一瞬で消え、白い粒子に包まれたNPCが、傷と汚れをすべて失って辺りを見回す。
数分も経たないうちに、さっきまで地鳴りのように押し寄せていた魔物の群れは、大乱獲でもされたかのように、その数を激減させていた。
(……黒い渦も、か)
視線を集落の中心へ戻す。つい先ほどまで、魔物を吐き出していた三つの黒い渦は、いつの間にか跡形もなく消え去っていた。
焚き火の煙と血の匂いだけが、さっきまでの惨状を辛うじて物語っている。だが、地上を見下ろす限りでは、魔物の影はほとんど見当たらず、代わりに、戸口からおそるおそる外を伺うNPCたちの気配だけが静かに増えていくのだった。
(……どういう理屈だ)
わたしはランスを構えたまま、しばし身動きを止める。森の梢を渡る風が、さきほどまでの絶叫と怒号を、まるで嘘のように攫っていく。
地表には、魔物の死骸も血溜まりもほとんど残っていない。あるのは、踏み荒らされた赤土と、焚き火の残り火だけだ。さっきまで人馬兵に追い立てられていたはずの縄文風のNPCたちは、倒壊しかけた竪穴住居の陰や、土壁の影から、恐る恐る外を伺っている。
(魔物だけを狙って消し飛ばし、ついでにNPCの治癒と装備の修復まで……。ダンジョン側の自動修復機能にしては、芸が細かすぎる)
わたしの知る限り、迷宮は理不尽ではあっても、ここまで「選んで救う」存在ではない。
(となると、第三者の介入か。しかも、相当な規模で)
十一階層全域から魔物の気配が薄れていくのを肌で感じながら、黒田は静かに息を吐いた。
(……あの少年か、あるいは、それに類する“何か”だと考えるのが妥当だな)
木の枝に足を掛け、ひとつ呼吸を整えると、わたしは慣れた手つきで記録機材を操作し始めた。魔物の群れが消えた後の集落、黒い渦があったはずの中心部、その周囲で戸惑うNPCたちの様子を、ひととおり映像に収めていく。
「災害対応マニュアルには、まず“現状把握”だ」
ぽつりと独りごちる声は、誰に聞かせるでもない習慣のようなものだった。
(この異常な収束の仕方も、きちんと報告書に残しておく必要がある。あとで“偶然の幸運”だなどと処理されてはかなわん……しかし、もしも“あの少年”が何らかの行動を起こしたのだとすれば、十階層でも何か状況が変化しているかもしれん)
ひと通りの撮影を終えると、わたしはもう一度だけ、十一階層全体に意識を巡らせる。新たな魔物の気配が生まれる様子は、今のところない。
(……よし。一度十階層に戻り、あちらの様子を確認したうえで、記録メモリを分析に回し、改めて出直すとしよう)
枝から枝へと軽やかに飛び移りながら、わたしは静かに踵を返した。背後では、まだ恐怖の残る眼差しで空を仰ぐNPCたちの気配と、十一階層の赤く染まった原風景が、少しずつ、日常へと戻ろうとしていた。
◆◇◆◇◆◇
十階層に戻ったわたしを出迎えたのは、怒号でも悲鳴でもなく、割れんばかりの歓声だった。
「押してるぞ! このまま一気に掃討だ!」
「見ろよ、奴ら、地面に這いつくばったままだ!」
「いける、いけるぞ! ここで終わらせるんだ!」
さっきまで魔物の波に押し潰されかけていたはずの防衛線は、いつの間にか逆転していた。石碑広場の周囲には、四つん這いで地に伏せたまま動けなくなった魔物たちが、まるで打ち上げられた魚の群れのように折り重なっている。
(……なるほど。こちらでも、派手にやってくれたようだな)
槍や剣で一方的にとどめを刺して回る探索者たちの顔には、疲労と興奮がないまぜになった色が浮かんでいた。回復役の戦闘タイプNPCですら、珍しく上気した様子で負傷者の間を駆け回っている。
その喧噪の中にあって、ただ一角だけ、別種の熱気を帯びた一団があった。白いローブと白馬の隊列、女神の紋章を掲げた女神教団だ。
「見ましたか、立花主任。あの一斉崩れ……」 「ええ。あれは、わたしたちの火力だけでは説明がつきません」
近くにいた幹部格らしきシスターと立花が、押し殺した声で言葉を交わしているのが、風に乗って耳に届く。
「これは、女神様のお導きです。もしかすると、女神の使徒様が、この迷宮に救いの手を差し伸べてくださったのかもしれません」
鉄の籠手をはめたシスターが、胸元の紋章に手を当て、恍惚とした面持ちで空を仰いだ。
(女神の使徒、ね……)
わたしは馬上からその横顔を一瞥し、ほんのわずかに目を細める。
(仮に“使徒”とやらがいるとしても、少なくとも女神教団の人間ではあるまい。少なくとも、わたしの知る限りではな)
鉄拳シスターと呼ばれた女が、周囲の探索者たちに向けて高らかに声を上げる。
「これは女神様の奇跡です! 恐れることはありません、女神は勇気ある者を決してお見捨てにならない!」
戦場の熱と、安堵と、信仰がないまぜになった歓声が広場に渦を巻く。そのざわめきを背に受けながら、わたしは静かに馬の頭を石碑の方角へと向けた。
(……ともあれ、これで当面の大崩れは避けられた。あとは、この“奇跡”の裏側をどう扱うか、か)
(あの少年を、こいつらの物語に組み込ませるわけにはいかない。少なくとも、公の場で接触させるのは、極力避けるべきだな)
十一階層で撮影した記録機材の重みが、腰のあたりでじんわりと主張しているように感じられた。
(――さて、“奇跡”の実数を、どこまで現実として突きつけてやれるかだ)
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