第18話 午後実習⑮ 特別新人研修、開始
第18話 午後実習⑮ 特別新人研修、開始
その言葉を合図にしたかのように、石碑フロアのざわめきが、すっと一段階静まった気がした。
僕たち新人五人と、その背後に控えるギルドGメンたちの視線が、一斉に黒田さんへと集まる。
ここから先に告げられる内容が、「ただの研修」なんかではないことを、本能が先に悟っていた。
「これから向かうのはCランク四十階層の御経塚ダンジョンになる。
魔物進軍掃討戦の発令時刻は本日十四時三十五分だ──初観測階層は、二十八階層の石碑崩壊が起点となっている」
黒田さんの低く落ち着いた声が、石碑フロアの喧噪の中でもはっきりと耳に届く。
そのすぐ脇では、迷宮ポーターの魔法陣が次々と点灯し、光に包まれたストレッチャーが、ひとつ、またひとつと転移してきていた。
血に染まった包帯。片腕を失った探索者。ぐったりとしたまま動かない人影。
ついさっきまで「新人研修」という言葉でくくっていた現実が、音を立ててひしゃげていく。
「時間の経過とともに、魔物進軍の脅威は拡大の一途をたどっている。
現在までに確認されている、御経塚ギルド登録探索者の死傷者は、少なく見積もっても千人以上だ」
「正式な人数は、いまだ現場の混乱が収まらず、御経塚ギルドからも確定した数字は出ていないが──
当ギルド登録探索者のおおよそ半数が、すでに戦線から脱落している計算になる。
この状況を受けて、石川県知事は近隣の富山県と福井県に対し、実力者派遣の緊急要請を出した」
(……千人以上。
ここ最近は大きな魔物進軍なんて聞いてなかったのに、いきなりこの数字って、どういうこと……)
隣に立つ小恋路の指先が、かすかに震えているのが見えた。
その向こうで、武田と上杉は顔を引きつらせながらも、必死に平静を装っている。
京極マリアは唇を強く結び、じっとポーターの魔法陣を見つめていた。
(翔太様~、みなさんのバイタルはまだ安定してますよ~。いざとなったら、わたしのが強制退避させますから~)
(その「いざ」が来ないのが一番なんだけど……)
「二十階層の第一防衛拠点はすでに崩壊。
現在は十階層までの第二防衛線で、かろうじて魔物進軍を食い止めている」
けれど、すぐそばでまた新しいポーターの魔法陣が光り、うめき声とともに別のストレッチャーが運び出されていくのが視界の端に入ってきて、足元の感覚が冷たく引き戻された。
僕は一度だけ息を吸い込み、意識して黒田さんの方へと耳を傾け直す。
まだ、話は終わっていない。
「この第二防衛線が抜かれ、最終防衛拠点となる一階層石碑フロアまで侵攻を許せば──
石碑が崩壊した瞬間、迷宮内の魔素と魔物の軍勢が地上へ一気に溢れ出す。
そうなれば、この一帯は魔素汚染で、人が日常生活を送れない土地になるだろう」
(……それ、もう完全に“戦争”じゃないか)
胸の奥がじわりと冷えていく。新人研修の延長線なんかじゃない。
これは、命のやり取りだ。僕はただの新人で、何の実績もない。
それでも、この場に立っている。
(……怖い。正直、めちゃくちゃ怖い)
◆◇◆◇◆◇
背中を冷たい汗が伝っていくのを感じながら、僕はなんとか膝が笑わないように、つま先に力を込めた。
(大丈夫ですよ。翔太様が御経塚ダンジョンを支配下におけば、こんなの簡単に鎮圧できますから~。わたしに命じてくれれば、すぐにパパっと解決しちゃいますけど、どうします~?)
(もしかして……フェアって、シナリオブレイカーですか?)
(シナリオブレーカー?? それって何ですか? おいしいですか~?)
(ああ、分かりました、翔太様の言いたいこと~。
人間に嫌がらせする異世界人にとっては、フェアはそう受け取られるかもしれないですね~)
(異世界人って……いまはそれどころじゃないからスルーするけど、ちなみに、どうするつもりなの? もう計画立ててあるんでしょ)
結局、馬に乗っていたときからここに来るまで、フェアはずっとしらばっくれていた。
けれど、これはどうしても聞いておかなければいけないことだ。
僕の命だけじゃない。ここにいる新人たちと、前線で戦っている人たちの命もかかっている。
黒田さんは、そのまま新人たちに与えられる具体的な支援任務の説明へと移っていく。
前線と後方、負傷者搬送ルート、迷宮ポーターの使用優先度──
聞き逃してはいけない単語が次々と並べられていくのに、僕の意識は、別の「声」に半分引きずられていた。
視界の片隅に、現実とは別のウインドウが、静かにいくつも立ち上がる。
それは、空中に浮かぶステータス画面や目の前の石碑端末とは違い、
頭の内側にだけ表示される、フェア専用の管理画面だった。
(もちろんですよ~。翔太様とみなさんが、できるだけ安全に動けるようにする計画です~)
(……具体的には?)
(いまのままだと、翔太様のステータスとジョブ構成が、ちょこっと非効率なので~)
(まずはそこを整えて、今回の御経塚ダンジョンを“安全に経験値を稼げる場所”に変えちゃいますね~)
◆◇◆◇◆◇
フェアは、いまだ僕に憑依したまま、膨大な情報の洪水から、必要な分だけを少しずつこちら側へと流し込んでくる。
もしこれを一度に浴びせられたら、きっと僕の精神なんて、一瞬でパンクしていただろう。
(まず、翔太様の持つ迷宮術師を、ジョブスロット⑩に設定しておきました~)
(もう勝手に動かしてる……)
気づけば、ジョブ欄の一覧が脳内のウインドウに並んでいた。
空いているスロットには、新しい候補が二つ、淡い光をまとって浮かび上がっている。
・妖精術師
ジョブSP一〇〇〇ポイント消費で取得可能──妖精を使役し、その能力を底上げする。
・迷宮商人
ジョブSP一〇〇〇ポイント消費で取得可能──迷宮内での取引や売買を専門に行う商人職。
(この二つをジョブスロット⑧と⑨に割り振っておけば、今回の御経塚ダンジョンはすごくやりやすくなりますよ~。武器も弾薬も、迷宮内で直接仕入れられますし~)
弓矢の予備、魔力製の爆弾、そしてガーゴイルやゴーレムのような迷宮内警備用の魔導兵器。
それらをDPで購入し、戦場のど真ん中で即座に投入する光景が、フェアの説明に合わせて頭の中に映像のように流れていく。
(そこに、わたしの複製体を憑依させれば、ガーゴイルさんもゴーレムさんも、あっという間に無双モードです~。いまのフェアなら、レベルに応じて三百六十五体まで同時展開できますからね~)
(三百六十五体……いや、今はその数字をちゃんと想像したらダメな気がする)
本気を出したフェアにとって、この御経塚ダンジョンでの魔物進軍は、「ちょっと派手な遊び場」くらいにしか見えていないのだと、うすうす理解してしまっている自分がいる。
問題は、その準備に必要なコストだった。
そして、そのコストを払う覚悟が、自分に本当にあるのかどうかだ。
現在の僕のジョブSPは三〇〇。どう見ても、千や二千という数字には届いていない。
けれど、同じウインドウには、もうひとつ別の数字が、しれっと並んでいた。
フェアのジョブSP:五〇〇〇。
(足りない分は、フェアのジョブSPを貸してあげますから、心配いりませんよ~)
(……その言い方、さっき自分で高額のDPローン組んでた妖精が言うセリフじゃないと思うんだけど)
フェアの明るい声が、なぜか闇金業者の「大丈夫大丈夫、サインだけしてくれれば」という甘い囁きに聞こえてしまうのは、きっと気のせいではない。
(もちろん、あとでちゃんと返してもらいますけどね~。利子はあまり取りませんから、安心してください~)
(……取り立ては優しい方ですよ~。ちゃんと返せるうちは、ですけど~)
(えっ、利子がつくの!?)
(あれ? 翔太様の世界でも、それが普通じゃなかったんですか~?
金の切れ目が縁の切れ目。友達の間にも、けじめあり。ですよね~)
(いや、それ友達の間で言うセリフじゃないから……)
フェアは、おそらく僕が追い込まれて、本当に瀬戸際になるまで、こうした交渉を切り出すのをわざと遅らせてきたのだろう。
その手際のよさは、どこかの高利貸しを連想させるほどの鮮やかさだった。
(……つまり、僕に残された選択肢は、「お願いします」って頭を下げる一択ってことか)
(別に採用しなくてもいいですけど~? その場合は、もっと原始的で過激な方法に切り替えるだけですから~)
(……例えば、前線に魔物さんを大量に誘導して、一気にまとめて焼き払うとか~)
(原始的で過激って言い方、絶対ロクな案じゃないよな……)
(じゃあ、仕方ない……フェアさん、お願いします)
(まいどありーです~)
『ジョブ:妖精術師を取得しました』
『スキル:妖精召喚を取得しました』
『ジョブ:迷宮商人を取得しました』
『スキル:購入を取得しました』
頭の中に、淡々としたアナウンスが流れる。
(あれ、まてよ。迷宮商人って、わざわざ石碑まで行かなくてもDP使って商品仕入れられるっていうけど、そのDP、すでにマイナスだよね。どうするの?)
(大丈夫です。フェアが保証人になってるので、いくらでも借りられますよ~)
(まだ搾り取る気か……この悪徳サイコ妖精さん)
◆◇◆◇◆◇
フェアは、取る物を取ったあとは、本当に仕事が早かった。
さっさとジョブ⑧とジョブ⑨に、それぞれ新しいジョブをセットしていく。
黒田さんの説明は、そのあいだも途切れることなく続いていた。
新人が担当する搬送ルート。ポーター要請の優先順位。支援任務における「絶対に勝手な判断をしてはいけないライン」。
すべてを聞き逃すわけにはいかないと分かっているのに、僕の頭の中では、フェアが組み立てる別ルートの作戦図が、静かに広がっていく。
・安全圏からのレベル上げを優先すること。
・その際は必ず、新しく取得したジョブを装備した状態で戦うこと。
・敵撃破時の経験値とジョブ経験値は等しく分配され、フェアのスキルが常時適用されること。
(要するに、翔太様は、できるだけ安全な位置から少しずつ敵を削っていくだけで、あとは全部おいしい経験値だけ持っていける仕様になってますから~)
その「おいしいところ」という表現の裏で、フェアが無数の複製体を使って、どれだけえげつないレベル上げとダンジョン乗っ取り計画を描いているのかは、あえて考えないようにした。
(……それでも、本当に僕なんかが、そんな計画の中心にいて大丈夫なのか?)
不安を飲み込みきれずに、念話でそう問いかけると、フェアはいつもと変わらない調子で即答した。
(大丈夫です。翔太様はどーんと構えて、フェアに向かって「やれ、蹂躙しろ」って命令してくれれば、あとは全部万事OKになりますから。
そのうち、御経塚ダンジョンは翔太様専用の“行きつけ迷宮”になりますし~)
(……行きつけって言い方、完全に近所の喫茶店みたいに扱ってない?)
フェアの口ぶりはいつも通り軽いのに、その中身はどう考えても笑い事ではない。
この非常事態のダンジョンを、「行きつけ」だの何だのと呼べる感覚に、頭を抱えそうになる。
◆◇◆◇◆◇
そのとき、現実世界のほうで、黒田さんの声が一段階低くなった。
僕はあわてて意識を引き戻し、あらためてその言葉に耳を澄ませる。
「これで説明は以上だ。何か質問はあるかね」
気づけば、状況説明はもう終わっていた。
僕だけ一人、話の大事な部分を聞き逃してしまったような心許なさが胸に残る。
さてどうしようかと、小恋路たち仲間のほうに目を向けると、五人全員が真剣な表情を浮かべていた。
あれれと、ふと気が付いた。
僕は黒田さんのすぐ横に立ち、正面には横一列に並んだ新人たちがいる。
その少し後ろに、さっき合流したギルドGメンの隊員たち。
赤槻さんは、僕たちと新人たちのあいだに立ち、指導員リーダーの位置から、黒田さんの話に真剣に耳を傾けている。
僕って、どちらかというと、小恋路たちと同じ場所にいるべき存在じゃないのか──
そう疑問に思ったところで、大きく手をあげた小恋路が視界に入った。
「八神小恋路君だね。言ってみなさい」
黒田さんに指名されても、小恋路の視線は、まっすぐこちらを向いたままだった。
「朝倉君と、わたしたちが別行動になることは理解しました。
でも、どうして朝倉君だけ別なのか、その理由をまだ伺っていません。
教えていただけないでしょうか?」
石碑フロアの空気が、わずかに張りつめるのを感じる。
僕自身も気になっていた疑問を、小恋路が正面から口にしてくれた形だ。
(フェアさん、結局さ、僕以外の新人って何するの?)
(翔太様のお友達は、治療師と石碑端末オペレーターとの橋渡し役みたいなお仕事とか、治療補助のお仕事とかに回されるみたいですよ~)
念話で送られてきた情報を整理すると、石碑端末オペレーターが商品ウインドウから購入したポーションや医療器具を、治療師のところへ運ぶ役、ということらしい。
(そっか、ありがと、フェア)
黒田さんは一拍だけ目を閉じ、それから全員に聞かせるように口を開いた。
「……すでに君たちも見ている通りだが、本日、午後の実習中に一件の異常が発生した。
朝倉君が石碑に接触した際、通常ではありえない規模のエラー反応が検知された」
僕の背中に、いくつもの視線が集まる気配がする。
あのとき石碑に浮かんだ、“エラー”の赤い文字。新人全員が目撃している。
「世界中のギルドで石碑の管理は徹底されている。
我々Gメンのような者でも、魔素の薄いFランク迷宮では、まれに接触時に警告レベルの反応が出ることはある。
だが、先ほどのような“石碑そのものが判定に迷うレベル”のエラーは、私の知る限り前例がない」
黒田さんは、静かに言葉を区切った。
「これから向かうCランク迷宮ほど魔素が濃い環境であれば、そのエラー反応がどう変化するか。
そして、その結果が今回の魔物進軍掃討戦に、どのような影響を与えうるか。
ギルドとしては、そこに一つの“鍵”があると見ている」
短く息をつき、黒田さんは言葉をつないだ。
小恋路の喉が、かすかに鳴るのが聞こえた気がした。
「もちろん、危険性については、事前に朝倉君本人にも説明している。
それでもなお、この場への参加を希望したのは、彼自身の意思だ」
ちらりと横目で見られ、僕は無意識に背筋を伸ばした。
僕がここに立っている理由を、黒田さんはそういう形でまとめてくれたのだ。
(でもね、真実は、全部、日本政府お抱えの預言者のせいなんだよね。フェア、いつかそいつに嫌がらせしといて。僕が許す)
(アイアイサー)
という僕らのやり取りを知らない小恋路は、苦いものを飲み込むように唇を噛み、それでも一歩も引かなかった。
「……わたしは、朝倉君の幼馴染です。
ずっと一緒にいて、これからも一緒にいるつもりです。
そんな朝倉君が、危ない場所に一人で行くのを、ここで黙って見ているのは……嫌です」
そこで一度、ぐっと息を飲み込む。
「わたしも朝倉君と一緒に行くのは、駄目ですか?」
石碑フロアのざわめきが、また一段階だけ静まった気がした。
黒田さんは小恋路を正面から見据え、それからゆっくりと視線をこちらへと移す。
「……どうするね、朝倉君。
これは君自身の問題でもある。君が決めなさい」
いきなりこちらにボールを投げられて、喉がからからになる。
小恋路の視線が、正面から僕を射抜いていた。
怖い。正直、めちゃくちゃ怖い。
それでも──
「僕は……小恋路と一緒にいたいです。
一緒にいたほうが、きっと僕も踏ん張れますから」
(……戦う理由が、また一つはっきりした。小恋路を絶対に守る)
言葉にしてしまった瞬間、胸の奥が少しだけ軽くなった。
小恋路はきゅっと目を見開き、それから小さくうなずく。
(うん。一緒に頑張ろうね)
黒田さんは短く息を吐き、わずかに目を細めた。
「……よろしい。
では、八神小恋路は朝倉翔太の直近支援要員として、同一行動を許可する」
そう宣言されたところで、別の方向から手が上がった。
「すみません、一点だけよろしいでしょうか」
声の主は、ついさっきまでダンジョンカートのことで振り回されていた、八神優斗兄さんだった。
小恋路の兄であり、筋金入りのシスコンでもある。
「八神優斗君。聞こう」
黒田さんに促され、優斗兄さんは周囲を一度見回してから、真面目な口調で続けた。
「石碑のエラーが、前例のないレベルだって話は分かりました。
それが、この魔物進軍を止める“鍵”になるかもしれないって見解も。
でも……本来なら、そういうのって、もっと時間をかけて協議してから動く案件じゃないんですか?」
石碑フロアの空気が、別の意味でざわつく。
それでも、優斗兄さんは言葉を止めなかった。
「今日の午後、初めてダンジョンに入ったばかりの中学生に、その“最初の一手”を任せる。
しかも、魔物進軍掃討戦の真っ最中に、ですよね。
正直、それは……大人として、どうなんだろうって思ってしまうんですが」
赤槻さんが、小さく息をのむのが見えた。
それでも、黒田さんは表情を崩さない。
「……もっともな疑問だ」
短くそう言ってから、黒田さんは少しだけ視線を上げ、石碑フロア全体を見渡した。
「本来であれば、その通りだ。
石碑の挙動に世界規模の影響が出うる案件であれば、各国ギルド本部と政府を交え、時間をかけて検証と協議を重ねるべきだろう」
そこで言葉を切り、今度は真っすぐ優斗兄さんを見つめる。
「だが現実には、魔物進軍はもう始まっている。
第一防衛拠点はすでに崩壊し、第二防衛線も、いつ持つか分からない。
このまま打つ手なく時間だけが過ぎれば、御経塚だけでなく、周辺県にも被害が及ぶ」
低い声が、石碑フロアの奥まで染み込んでいく。
「その“今”この瞬間に、唯一、大きな変化を起こせるかもしれない要素が、朝倉君のエラーだ。
危険を承知で試すのか、それとも、何もせずに防衛線の崩壊を待つのか。
ギルドとしては、前者を選んだ。
その結果として、君の妹さんや君たちを、この場に巻き込んでいる。
それについては、私も決して誇れる判断だとは言えない」
そこでようやく、黒田さんは、ほんの少しだけ眉をひそめた。
「だが、それでも私は、ここにいる全員を“戦力”ではなく、“生きて帰すべき人間”として扱うつもりだ。
だからこそ、朝倉君にも、小恋路君にも、そして八神優斗君、君にも──自分の意思で立つかどうかを選んでもらいたい」
優斗兄さんは、しばらく黙って黒田さんを見つめていた。
「……ずるいですね、そういう言い方」
小さく笑って、肩をすくめる。
「俺は、妹が危ないところに行くのは、本音を言えば反対です。
でも、小恋路が行くって決めたなら、その隣で、うるさく文句言いながらついていくタイプなんで」
優斗兄さんは、小恋路の頭をぽん、と軽く叩いた。
「だから、俺も一緒に行きます。
……それと、もし逃げられないくらい最悪な事態になったら、あのダンジョンカートを使ってもいい許可を、いまのうちにください」
一瞬だけ赤槻さんが目をむき、すぐに顔をそらす。
どうやら、フェアによる魔改造カートの件を思い出したらしい。
(翔太様、あのダンジョンカート欲しいなら~、自分で購入してくれたら、すぐに改造しますよ~)
(フェア、お口チャックね)
(はーい)
黒田さんは、ほんのわずかに口元をゆるめた。
「非常時の退避手段としての使用、ということだな。
……分かった。
その判断が必要にならないことを祈るが、許可は出そう」
そう言い切ると、黒田さんは石碑フロアをぐるりと見渡し、声の調子を切り替えた。
「以上で、事前説明と確認は完了だ。
これより、石川・御経塚ダンジョン前線拠点へ移動する。
新人組は、ギルドGメン隊員の誘導に従い、隊列を崩さないように」
号令と同時に、石碑フロアの空気が一気に動き出す。
赤槻さんたち隊員が素早く持ち場につき、僕たち新人組も指示に従って並び直した。
すぐに、石碑前の転移ゲートが起動し、足元から魔素のうねりが吹き上がる。
次の瞬間、視界が白い光に塗りつぶされ──僕たちは、石川・御経塚ダンジョンの前線拠点へと送り出された。
応援よろしくお願いします!
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「この後一体どうなるのっ……!?」
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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
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