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第17話 午後実習⑭ 特別新人研修、開幕

 第17話 午後実習⑭ 特別新人研修、開幕


 石碑を目指し、黒馬は勢いそのままに駆けていく。


 遺跡の景色が物凄いスピードで通り過ぎ、待ち構える数匹のゴブリンを構わずなぎ倒し、障害物を乗り越える。


 ときおり、崩れた遺跡の壁を飛び越えるたび、ふわっと重力がなくなる感じがして、それが病みつきになった。


 初めての乗馬で、背後に乗せてもらったのだけれど、こんなに気持ちのいいものだなんて想定外だった。心地よい風を浴びて胸が高鳴り、なんともいえない爽快感に包まれる。


 ただ、一つ不満があるとすれば。


 三十五歳のイケオジの背後にしっかりしがみつく、現在進行形の男の汗が匂う、苦々しい青春の一ページとして、一生記憶に残ってしまうこと。


(イケオジと一緒にハハハ、ウフフと笑い合う幻視が、マジでキモい)


(ていうか勝手に脳内再生するな、僕の心の純情を返せ)


 とはいえ、黒田さんの背中は広くて、安定感はある……でもね。


(どうせなら小恋路と乗りたかったな)


 もちろん、僕が背後からしっかりしがみつく形でね。


(じゃあ、あっちの迷宮にいったら、フェアは人馬を乱獲しときますね)


 人馬、つまりケンタウロスのことらしい。


 なんだか、聞き捨てならない念話が頭の中に流れてきたけど、天真爛漫なサイコ妖精のフェアさん、あなたは一体、何を考えているの?


(ん、どゆこと?)


(フェアはですね~、翔太様のお役に立とうと思って、石碑から御経塚ダンジョン関連の情報をごそっと漁っておきました~)


(そしたら、魔物生息情報もあったんですけど~、その迷宮には、四本足の馬の胴体に、人間の腰から上がくっついたケンタウロスも生息してるようですよ~)


(千頭もいれば、繁殖できますし~、翔太様がプライベートダンジョンを造った時に一緒に階層に放つといいですよ~)


 ……報連相の基本なんてさらっと放り投げて、自由気ままに石碑に接触した。


 となれば、ジョブ『ワーカーホリックの申し子 Lv.365』のチートを持つフェアのことだ。それだけで済ますはずがないよね。きっと、まだ僕に報告していないことが山ほどあるはずだ。……この機会に問い詰めておくか。


(フェアさんや、ちょっと聞きたいことあるんだけど、いま大丈夫かな?)


(はい、翔太様、なんでも言ってください。フェアが何でも叶えちゃいますよ~)


(じゃあ、フェアが今何を計画してるのか、全部、話して貰えないかな?)


(えー、それは難しい問いかけですね~、折角の面白い計画、先に話しちゃうと面白さ半減しちゃいます~)


(じゃあ、御経塚ダンジョンで何しようとしてるのか、それだったらいいでしょ)


(うんんん~、わかりました~。でも~、その代わり、ひとつ翔太様にお願いがあるんですが~……)


(ああ、交換条件ってことね。いいよ。たったひとつのお願い聞くだけで壊滅的被害を事前に防げるんなら、安い物だよ)


(じゃあ……フェアを眷属として迎え入れてくれた翔太様にお礼のプレゼント用意しました。受け取ってください)


 という思念会話が届くと同時に、僕の肩がふっと軽くなる。

 馬の背に二人乗りして風を受ける僕の肩に、透明化したフェアが、ちょこんと座っていた。彼女は『次元収納』の黒穴から、何かを取り出す。


 それは宙に浮かぶ拳大のクリスタル製球体――『オーブ』


 それが8つも……それらが輝きを放つと一斉に僕の身体の中に吸い込まれていく。


『ジョブスロットが8つ解放されました』


 頭の中にアナウンスが流れる。


「……はっ」


 いきなりのことで頭が真っ白。


(え、つまりこれはどういうこと? どこにあったの、そんな超希少品。あ、それより先に、ありがとう、だったね。フェア……助かった……って言っていいのかな? ちなみに、さっきのオーブ、どこから取ってきたの。盗んできたとかじゃないよね?)


(盗んでませんよ~、しっかり石碑端末のアイテムを売り買いする画面から購入してきましたよ~)


(……ちょっと待ってね。一旦考えるから……えっと、フェアさんって妖精枠だから、探索者登録できないよね)


(はい、そうです。だから探索者登録されてる翔太様の登録ウインドウからDP消費して買っちゃいました。フェアのいた異世界よりもここの世界の品、ずいぶん安いから、思い切って、まとめ買いしちゃいました~)


(……てか、僕まだ探索者なりたてで、DP残高なかったはずだよね)


(大丈夫でしたよ。ばっちぐーです~。フェアが保証人登録したら、どんだけ消費しても大丈夫ってでましたから、ついうっかり沢山使っちゃいました。テヘ)


(保証人って……それ、ブラックカードの比じゃないよね……?)


(……ちなみに総額おいくら?)


(ゼロがたくさん並んでましたね~。でも、どれくらいだったか、忘れちゃいました。あとで翔太様、確認しといてくださいね~)


 女性は光物に弱いというけど、妖精はそれに輪を掛けて酷かった。

 フェアの場合、それに『チート財布』までついてくるからタチが悪い。


(探索者初日にして……もうおわた)


 某有名鉄道ゲームの貧乏神も真っ青になるような、無邪気な振る舞いで、僕の精神をガリガリけずりにくるフェアさん。


 気を取り直して、彼女に石碑に接触した本来の目的を問いただすと……


 あっさり吐いた。どうやら、僕のステータスデータを完全偽装――もとい、エラー修正するために、石碑ワールドデータをこっそり弄るためだったらしい。


(……いや、待って。石碑ワールドデータって弄れるものなの?)


 これはフェアなりの気遣いの一環で、絶対に誰にも知られてはならないレジェンドレア級ジョブ『迷宮術師ダンジョンメイジ』の存在を秘匿するための工作だったらしい。彼女は石碑の魔力仮想空間内に、三段階の鍵付き障壁を張っていた。


 一つ目は、フェアが持つ『迷宮言語プログラム』から『迷宮術師ダンジョンメイジ』と検索を掛けても結果が表示されないよう、プログラムそのものを書き換えたこと。

 二つ目が、『スキル遮断』による障壁。

 三つ目が、『完全偽装』による秘匿情報の徹底管理だった。


(これ敵に回したら世界終わるやつだよね)


 それと、そのときフェアが、この世界の石碑アップデート数も確認してくれていたらしい。


 彼女によると、石碑端末に接触してステータス情報の更新が確定したとき、外部に表示されるジョブはスロット①〜③までだという。


 つまり、世界各国の石碑端末を通じてステータス情報を閲覧しても、ジョブスロット④〜⑩は表示されないということらしい。


(翔太様~、これらを踏まえてですね~、ちょこっとステータスを弄らせてくださいね、そうだ、ついでに訓練もやっちゃいましょうか~)


(あ、これ絶対ろくなことにならないやつだ……)


 有言実行、この念話が届いた次の瞬間、フェアが僕に憑依してきた。


 突如、自分の心の核に襲い掛かる、凄まじいまでの能力の濁流。

 魔力の海に投げ出されたかのような無力感。

 このまま溺れてしまうかもしれないという恐怖感。

 このまま魂ごと消滅してしまうかもという絶望感。

 視覚、聴覚はもちろんのこと、魔素もハッキリ粒子となって見えるし、黒田さんの心の声、植物の心の声、精霊の心の声、霊体の心の声、あらゆる声が、僕の耳に一斉に飛び込んでくる。


 このままじゃあ、フェアの持つ圧倒的なスキルと実力差に溺れて、僕の自我が取り込まれてしまうかも、そう不安がよぎったところで、フッとあらゆる負荷が取り除かれた。


『スキル:精神防御を取得しました』

『スキル:精神障壁を取得しました』

『スキル:精神干渉耐性を取得しました』

『スキル:憑依耐性を取得しました』


 再び、頭の中にアナウンスが流れる。


(十秒重圧負荷訓練、終わり、良かったですね~、スキル4つも生えましたよ~)


(……はー、はー、はー、マジで止めて、これ普通に死ぬやつだから)


 僕に憑依したフェアは、僕の魂に障壁を施してくれたうえで精神回復魔術を行使してくれたので、すっかり体調は元に戻ったけど、ひと言だけ言わせてほしいことがある。


(はー、はー、はー、鬼畜妖精さん……頼むから、手加減って言葉とその意味、フェア日記に今日、しっかり書いといて……)


(アイアイサー)


 とフェアと念話越しでやり取りしてると、身体を預けてしがみ付く背中を通して、黒田さんの心の声が伝わってきた。


(……直感スキルが人生で一番の凄まじい警告音を発している。……何だこれは……わたしはここで死ぬのか。……そんな馬鹿な。だが、汗が止まらない。鳥肌が全身を覆う。後ろを振り向いたら、まず、間違いなく終わる……だと。どうすればいい。わたしは何を間違えた。背中越しに伝わる恐怖の足音、何故わたしは、この少年を信じて後ろに乗せてしまったのか?)


(フェア、これ、どうすんの?)

(どうもしません。いまは翔太様のステータスを完全偽装する方を優先デース。大丈夫ですよ。すぐ終わりますから~)


 そんなこんなで、僕たちの漫才道中は石碑に辿り着くまでしばらく続くのであった。


(……あれ、そういえば、御経塚ダンジョンでなにするか、

 結局、フェアから聞き出せなかったよ)


 ◆◇◆◇◆◇


(よし、やっとついた)


 午後の一番最初の実習で来た場所だ。

 20メートルくらいの高さの三段の基壇に支えられた、白い石碑がそびえている。


(翔太様~、お疲れ様デース)

(ホント、疲れたよ。主に精神的にね……)


 僕たちを背中に乗せて運んでくれた黒い名馬さん。

 出会った当初の威風堂々とした姿は、いまや見る影もなく、ぶるぶる震えて怯えまくり、召喚解除で足元に黒い穴が開いた瞬間、逃げるように吸い込まれていった。


(なんか、ごめん……)


 そして、黒い名馬の召喚主であるギルドGメンの“黒騎士”イケオジ――黒田庄兵衛さんも、全身汗びっしょりだ。背中をくの字に折り、膝に両手を添えて、肩で大きく息をしながら体の調子を整えていた。


 同じフェア被害者の会員として、何か声を掛けるべきところだけど、どんな言葉を掛けたものやら。


 しばらく考えた結果、これが一番無難だという言葉を掛ける。


「黒田さん……大丈夫ですか?」


 黒田さんは体勢こそ立て直していたが、その表情には、さっきまで背中越しに伝わってきたあの尋常じゃない恐怖の余韻が、まだ色濃く残っていた。


 迷宮の修羅場を何度もくぐってきたであろうプロのギルドGメンでA級探索者をここまで消耗させるとか、うちのフェアさん、どれだけ規格外なんだろう。


「ああ、少し休めば動ける……。しかし、迷宮省の審議官がわたしに直接通話してきて、預言者の言葉を持ち出し、君の選択肢を二つに絞った意味を、わたしはすっかり甘く考えていたようだ。これからは気を付けることにするよ」


「ははは、すいません。まだ力の調整がうまくいかなくて、黒田さんに精神的な負担を強いてしまいました。その謝罪の意味も込めて、よかったらこれ、食べてみてください」


 右手のひらを上に向けて、僕の持つスキルを行使する。

 すると、一瞬のうちに光の粒子が集まり、宙にぷかぷかと浮かぶ卵の形を形作っていく。


 これは、僕ひとりだけだとレシピの設定や作成にだいぶ時間を取られるけど、フェアのサポートがあれば、いとも簡単に作成できてしまう。


 ちなみに、いま憑依しているフェアから魔力パスを通じて頭の中に送り込まれてきた卵レシピの内容によると――


『無精卵』『殻無し半熟卵』『回復魔法(大)』『精神回復魔法(大)』『洗浄』『自動生命力回復Lv.50』『自動魔力回復Lv.50』『魔力障壁Lv.50』『至高の旨さ』『効果1時間』の十項目を選択した、という思念情報が含まれていた。


 これらのレシピをスロット限界まで詰め込み、あっという間に作成したようだ。


「……卵、か? これが朝倉君が持つ能力の一端ということかい」


「そうですね。何度か優斗兄さんと小恋路にも試食してもらったんですけど、だいぶ好評でした。というか、スキル保持者の僕、まだ一度も食べてないんですよね。みんなに取られてしまって。でも、よくよく考えたら、まず僕が先に試食すべきですよね?」


「まあ、朝倉君を信用していないわけじゃないが……どうせなら、二人同時に試食してみるのはどうだい?」


「じゃあ、それで」


 さっきと同じような動作で、もう一個、特殊卵を作った……と思ったら、なぜか手のひらの上には二つ並んでいた。しかし、瞬きをした次の瞬間には、そのうち一つがきれいさっぱり消えていた。


(翔太様だけズルいです~。フェアも貰いますね~)


「いま、二つあったような気がしたが……」


「ははは。すいません。まだ、全然慣れてないので、うっかり間違って二つ作ってしまいました。なので僕の持つもう一つのスキル――『卵BOX』っていう卵専用の収納BOXに仕舞ったところです」


(実際にはフェアさんが美味しくいただきました。

 ……なんて、口が裂けても言えない)


「では、頂くよ」

「僕も頂きます」

(はぅ、フェアの卵~、もう無くなっちゃいました。悲しいデース)


(フェアのデースって、もしかして、呪いの言葉入ってないよね?)


 パクッと食べてみると……旨い。ていうか本当においしい。


 まず、大きめの黄身の味が濃厚でジューシーだ。コクもある。

 白身はぷりっぷりで弾力のある食感が妙に心地いい。

 白身にここまで旨みと甘みが詰まっているなんて、マジで感動だ。

 半熟卵でこれなら、半熟煮卵は一体どれだけおいしいんだろう。

 小恋路たちが食べたあと、しばらく言葉を失っていたのも納得だ。

 あとで半熟煮卵も作って、じっくり味わってみよう。


「……は……なんだこの卵は」


「一個千円もする卵よりも、よっぽど味がしっかりしている。

 黄身の色も鮮やかで濃い。白身も旨いな。これはいくらでも食べられる味だ」


 さっきまで肩で息をしていた人とは思えないくらい、黒田さんの呼吸がすっと楽になっていく。額の汗も引き、みるみるうちに顔色が戻っていった。


「何より、かさばらないのがいい。迷宮で小腹がすいたときには重宝するぞ。……いや待て……なんだ……体が……軽い?」


 というか、黒田さんの全身から、ゆらゆらと白い魔力の粒子が立ち上っている。

 幻想的な演出だけど、たぶんこれは回復しているというエフェクトだよね。


「この白い魔力粒子の多さは信じられん。これは高級回復薬エクストラポーションクラスだ。朝倉君、これはどういうことだ」


 黒田さんは、この卵がハイポーション以上の効果を発揮しているのを実感しているらしく、目を大きく見開いて、僕の答えを待っていた。


(フェア監修の卵、迷宮産ポーションより、よっぽど危険な気がするんだけど)

(そんなことないです~。フェア監修なので、安全性は保証付きです。ただ、用法用量を守らないと、魔力アレルギーになるかもです~)

(あれ、一度でも魔力アレルギーになったら、もうダンジョンに一生入れないって、午前の新人講習で言ってなかったっけ)


「そうですね。あえて言えば……初回ダンジョン入場で、個人の隠れた才能に迷宮の膨大な魔力が侵食して発現した、僕オリジナルの固有スキル、ということで。

 現代社会の常識的には、その説明でギリギリ通りませんか?」


「……ギリギリか……そうだな、そういうことにしておこう」


 黒田さんも、本当はいろいろ思うところはあるはずだけれど、「現場判断で飲み込む」大人として受け止めてくれたようだ。


(ていうか僕自身が一番信じられないんだけど……いったいどうしてこうなった?)


 ◆◇◆◇◆◇


 気力と体力の回復待ちだった黒田さんが、すっかり元気を取り戻したことで、ようやく周りを見渡せる余裕ができた。


 今、僕たちがいるのは、四方を崩れた遺跡の壁に囲まれた石碑フロアへと続く、いくつかある回廊の手前だ。

 薄い霧が立ちこめる石碑フロアの中をよく見ると、大勢の人が詰めかけていて、どこか戦場のような緊迫感が漂っている。


 本来なら、ここはFランク霧の遺跡迷宮ミスト・ホール・ルーインズ一階層。新人研修の定番コースに過ぎないはずのフロアだ。けれど、いまは様子がまるで違っていた。


「では、ついてきなさい」

「はい」


 こうして石碑フロアに足を踏み入れると、石碑がそびえる中央付近はやけに込み合っている。


 そんな中、高音でよく通る女性の掛け声が、石碑フロアを突き抜けていった。


「ただいま、石川・Cランク御経塚ダンジョン十階層で、魔物進軍掃討戦モンスターパレードウォーが発令中でーす!」


 大勢のパーティーが行き交い、喧噪に満ちたその場で、朝方の新人研修の受付を担当していて印象に残っていた受付嬢を見つけた。


 彼女はヘルメットをかぶり、灰色の迷彩服に着替え、両手を口元に添えて必死に声を張り上げている。


 ほかにも、受付嬢と思しき迷彩服姿の女性たちが、何人も視界に入ってきた。


「そのため、探索者個人による石碑端末は、現在ご利用できません!」


 石碑の前には即席のロープが張られ、普段なら個別に並んでいるはずの探索者たちが、一様に足止めを食らっていた。


 代わりに、迷彩服姿の受付嬢たちの前には、行き先も階層もばらばらなパーティーの列が、幾筋も伸びている。


 御経塚ダンジョンで魔物進軍が発令されたことで、全国のダンジョン一階層にある石碑の転移先が、一部だけ書き換えられた。

 地元の実力者たちは、わざわざ町の中心部まで出ていく必要も、新幹線に乗る必要もない。いちばん近いダンジョン入口から一階層まで降りて、石碑に手を置くだけで、御経塚ダンジョン十階層の石碑フロアへ即座に転移できるようになっている。

 その結果として、御経塚行きの転移ルートのひとつに指定された、このFランク一階層にも、近隣各地から応援の探索者たちが次々と送り込まれてきているのだ。


「緊急時受付オペレーターが、御経塚ダンジョンに向かう探索者に対し、迷宮ポーターの申請・管理手続きを一括で行っておりまーす!」


 彼女たちの前には、臨時の簡易パネルが横一列に立てかけられ、そこに各パーティーの情報や行き先階層が、途切れることなく書き込まれていく。


 このフロアには、石碑端末と対になるように、八つの迷宮ポーターが横一列に据え付けられている。

 平時なら、各パーティーが好きな階層へ行き来するための“乗り換え駅”みたいな設備だけど、緊急事態が発令された今は違う。

 八基の石碑端末からの転移申請をまとめて制御し、どのポーターをどの行き先に優先して割り振るかを、その場で切り替えていく──それが、迷彩服姿の受付嬢たちに与えられた「緊急時受付オペレーター」としての任務だった。


 声だけは明るく張られているが、その視線と手の動きには一切の迷いがなく、前線に人員を送り出す兵站担当の緊張が、こちらにもひしひしと伝わってきた。


「参加希望の探索者は、八つの窓口の列にお並びくださーい!」


 これからこの列のどれかに並ぶのかと思うと、正直げんなりしかけたところで、視界の端に見覚えのある顔が飛び込んできた。


 襲撃事件現場で事情聴取の対応をしていた、黒田さんの部下のギルドGメン、赤槻万理華だ。


 ◆◇◆◇◆◇


 赤槻さんは、こちらをまっすぐ見据えたまま駆けてくる。

 それだけではない。


 僕と一緒に新人研修を受講した仲間、八神小恋路、上杉憲政、武田新之助、京極マリア。

 そして、小恋路の保護者枠として参加している彼女の兄、八神優斗の姿が、列の後ろからこちらに向かってくるのが見えた。


 小恋路は、僕の姿をとらえた途端、張りつめていた表情をふっと緩めた。


(小恋路たちと合流できたのは安心だけど……僕の都合でみんなを巻き込んでしまって、本当にこれでよかったのかな?)

(翔太様のお仲間と、小恋路ちゃんには、しっかり透明化したわたしのを複製体を護衛につけておきますから、大丈夫ですよ~)

(ははは、じゃあ問題ないのか? でも、ほんとにそうか?)


 彼女は黒田さんの正面に立つなり、直属の上司に対してきびきびと右手をこめかみに掲げて敬礼した。

 それを終えると、緊張感のただよう表情のまま口を開く。


「黒田先輩、お疲れ様です。全員分のポーター使用手続きは完了しました。新人にはバックパックを装備させました。わたしと、先ほど合流した他五名のギルドGメンで、引き続き新人五名他一名の指導にあたります」


「ご苦労。よくやった、赤槻君。本当に助かった」


「はい」


 そう言うと赤槻さんは、新人五人が一列に並ぶ位置までさっと下がり、振り向きざまに直立不動の姿勢をとった。

 そのすぐ背後には、合流したというギルドGメン隊員五名が、きれいに整列して立っているのが見えた。


「よし。これより特別新人研修のブリーフィングを始める。

 ギルドGメンの諸君と、新人の君たちには、これから十階層での実戦支援任務についてもらう」



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