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第12話 午後実習⑨ フェアの暗躍

 第12話 午後実習⑨ フェアの暗躍


 ふふっ。

(翔太様の仲間をいじめるなんて……許しませんよ〜)


 フェアは翔太の膝の上で、にこにこと説明している“ふり”を続けていた。

 だが、その裏で――


 薄い霧に包まれた遺跡の上空には、すでに透明化した複製体二百体が静かに浮かんでいた。


 初心者ダンジョンの第一階層は、崩れた石柱と苔むした階段が残る古代遺跡だった。

 割れた石畳の隙間からは白い霧が立ち上り、光源石の淡い光が霧に反射して、遺跡全体を乳白色に染めていた。


 フェアがこれほどの複製体を同時に操れるのは、

 彼女のジョブ――『ワーカーホリックの申し子』の特性によるものだ。


 レベル数以下の複製体なら、MP消費ゼロで、無制限に、不眠不休で動かせる。

 複製体の基本スペックは本体の八割の能力値で、いつでも完全同化が可能。

 最大稼働数は三百六十五体。


(だから二百体なんて、準備運動にもなりませんよ〜。

 欠伸が出ちゃいますね〜)


 フェアは心の中で軽く笑いながら、

 翔太に『捕縛洗脳卵』の作り方を教えるふりを続けた。


 だが、フェアの脳内では――

『並列思考』が何十層にも重なり、高速で事態を解析していた。


 襲撃者の動き、ギルドの介入可能性、迷宮術師の魔力観測リスク、

 翔太の精神負荷、今後の育成ルート、複製体の最適配置、


 そして――

 翔太の仲間を守るための最短手順。


(翔太様はまだ赤ちゃん迷宮術師ですからね〜。

 フェアが全部守ってあげますよ〜)


 複製体たちは心話通信で指示を受け取り、遺跡の影へ無音で散っていく。


(はーい、みんなー。大好きなお仕事だよー。頑張ってね〜)


 フェア本体は翔太の膝の上で足をぶらぶらさせながら、同時に翔太の育成プログラムを構築していく。


(まずは精神系スキルの土台作りですね〜)


 その瞬間、『直感』スキルが閃きを告げた。


(あっ、わかっちゃいました〜。

 卵生成スキルから育てるのが一番効率いいですね〜)


 並列思考が一斉に賛同し、翔太の育成ルートが再構築されていく。


 フェアの視界には、翔太の『卵生成』スキルの構造が看破スキルを通して鮮明に浮かび上がっていた。


(ふむふむ……難易度は高いですけど〜、穴を突けば最強武器になりますね〜)


 フェアは満足げに頷く。


 その時――

 並列思考の一つが報告を上げてきた。


(十二個の特殊卵、完成しましたよ〜)


 同時に、翔太から魔力パス越しに「なんか怪しいことしてない?」

 という思念波が飛んできた。


 フェアの背筋がぴくりと跳ねる。


(やばっ、バレる前に逃げろ〜)


 次の瞬間、フェアの姿は翔太の膝からふっと消えた。


 ――『瞬間転移』


 光の粒子にほどけ、フェア本体は遺跡の上空、薄霧の中に現れた。

 透明化した身体は霧の揺らぎに溶け込み、誰にも気づかれない。


 フェアが離れたことで、ダンジョンカートの魔力制御が一瞬空白になり、

 フェアが以前に施した“安全改造”が作動した。


 ゴウン、と低い音を立てて、

 ダンジョンカートは自動飛行モードへ移行した。


 霧を切り裂きながら、遺跡の上空十数メートルへとふわりと上昇していく。


 翔太たちは驚き、優斗兄さんは慌ててハンドルを握り直すが、カートはまるで意思を持つように滑らかに上昇を続けた。


(さてさて〜……ここからはフェアちゃんの“楽しいお仕事”ですよ〜)


 透明化した複製体たち全員が一斉に動き出した。


 遺跡の影と影の間を縫うように、複製体たちは薄霧の中を滑るように移動していく。

 崩れた石柱の影に入り、階段の段差をすり抜け、霧の揺らぎに紛れて姿を消す。


 まるで遺跡そのものがフェアの軍勢を生み出しているかのようだった。


 複製体の一部はダンジョンカートの周囲に展開し、外部からの魔力干渉を遮断した。


 別の複製体は遺跡全階層に配置してある石碑に散開し、石柱の影を伝って無属性の結界を張り巡らせた。霧が静かに揺れ、遺跡全体が“見えない障壁結界”に包まれる。これで、フェアがこれから拡散する魔力が外に漏れることを防げた。


 残る複製体たちは、崩れた階段の影をすべるように降下し、襲撃現場へと向かっていく。鎮圧チームが全員持ち場についたと念話報告を受けると。


(はい、鎮圧開始〜)


 複製体たちの念動力が一斉に働き、『捕縛洗脳卵』が高速射出された。


 刹那。


『紅蓮の炎』の五人、取り巻き二人、高飛車女子、佐々木の子分――

 計九名は白い砂山のように崩れ落ち、流砂となって卵に吸収されていった。


 回収された卵はすべて『次元収納』へ。

 武器・所持品も“盤上の駒をひっくり返すように”回収された。


 首謀者・佐々木勝正には、即席の魔力結界が張られ、『天候操作』で空気が排出された。


 佐々木は苦しげな表情を浮かべ、そのまま気絶した。


(見事なはまり役だったよ〜。

 これからも悪役子息としてガンバだよ〜)


 続いて、武田・マリア・上杉の三人の順番で、睡眠効果付き完全回復卵が投射された。


 光が走り、傷がみるみる塞がり、装備も新品同様に修復された。


 周囲の血痕は『生活魔術:補修リペア』で完全消去。

 複製体たちは三人を川の字に並べ、魔力の流れを丁寧に整えた。


 無事鎮圧した襲撃現場には複製体が数体残ることになった。

 ギルド調査の妨害者がいれば、記憶を消して外へ排出する準備を整える為だ。


 佐々木には透明複製体が十体張り付き、ギルド職員に引き渡されるまで逃亡ができないように、また職員からの現場検証の聞き取り時には、虚偽報告ができないよう、監視体制を敷いておくことにした。


(あなたは翔太様の教材ですからね〜。勝手に動いちゃダメですよ〜?)


 そして、最後にフェア特製卵、百個の行方についてだが――


(使い道は……ひ・み・つです〜)とのこと。


 すべての作業が問題なく進んでいるのを確認すると、

 フェア本体はふわりと翔太の肩へ転移した。


 ◆◇◆◇◆◇


 ちょうどその時、

 ダンジョンカートは遺跡の上空を滑るように下降していた。


 フロントガラスには、

 “誰も立っていない襲撃現場”が映し出されていた。


 三人は唖然としていた。

 フェアは満面の笑みで宣言した。


「そして……ここから誰も居なくなったのでした……おっしまい!!」


「翔太様、只今戻りました〜!

 きっちりお仕事してきましたよ〜。褒めてくださーい!」


(ふふっ……翔太様のためなら、フェアはいくらでも働けますよ〜)


「ああ、本当に助かった。ありがとう、フェア!!」


 フェアは僕の肩の上で、

 まるで褒められた子犬みたいに身体を揺らして喜んでいた。

 小さな足をパタパタさせて、羽根までふわふわ震えていた。


(……いや、可愛いな。

 仕事した後の“褒め待ちフェア”は破壊力が高すぎる……)


「えへへ~うれしいでーす」


 フェアは僕の肩の上で、

 嬉しさを隠しきれないみたいに身体を左右に揺らしていた。

 羽根がふわふわ震えて、

 そのたびに僕の頬に柔らかい風が当たる。


 小さな尻尾(?)までピコピコ動いていて、

 “褒められたら全力で喜ぶ生き物”そのものだ。


(……ほんと、こういう時のフェアは反則級に可愛いな……

 このテンションのまま何かやらかさなければいいけど……)


「じゃあ、気分アゲアゲのフェアさん……ちょっと隣の席に正座しよっか」


 僕がそう言うと、フェアは“えっ?”という顔で固まった。

 肩の上でピタッと動きが止まり、さっきまでのテンションが一瞬で蒸発する。


(……あ、これが完全に“やましいことがある時のフェア”の反応なんだね。覚えとこッと)


 フェアは首をかしげ、

 わざとらしく大きな瞳をぱちぱちさせてみせる。

 その仕草が“無実アピール”全開で、逆に怪しさしかない。


(……いや、その顔は絶対なんかやった顔だよね?

 フェアの“しらばっくれモード”って分かりやすぎだよな……)


「フェア、何か悪いことしましたか~?」


 僕がそう返すと、フェアは胸の前で両手をぎゅっと握りしめ、

 “胸に聞く”という動作を本当にやり始めた。


(……いや、そういう意味じゃないんだけど……

 ていうか胸って……

 フェアの胸って……どこ基準?)


「それは、自分の胸に聞いた方がいいんじゃないかな」


 フェアは胸に手を当てたまま、

 うーん……と首を傾げて考え込んでいた。

 その姿はどう見ても“反省”ではなく、“どう誤魔化すか考えている顔”だった。


(……はぁ。

 可愛いけど、絶対なんか企んでるよね……

 フェアの“ひみつ”ほど信用できないものはない……)


 さて、これからじっくり質問タイムが始まる……と思ったところで、あえなく時間切れ。


 ダンジョンカートが地面に降り立った。


 心底ホッとしたフェア。


 そして――

 僕たちは、何も知らないまま襲撃現場に辿り着いたのだった。


 ◆◇◆◇◆◇


 やっと襲撃現場に到着した。

 目の前には――佐々木勝正が白目を向き泡を吹いて倒れていた。

 正直、こいつのことなど今はどうでもいい。

 まず一番最初にやるべきことは、三人の安否確認。

 リアルタイム映像に釘付けだったから、もちろん大丈夫なのは分かっていた。

 それでも、自分の目で見て、触って、確かめたくてウズウズしっぱなしだった。だから、ダンジョンカートから降りると、小恋路と一緒に、真っ先に襲撃を受けた三人の元に駆けていく。


 一方の優斗兄さんは、意図せずにグレードアップ後のカート初飛行試験を無事に乗り越えられたことにホッと胸を撫でおろしながらも、すぐさま、緊急信号灯のボタンを押した。これで信号をキャッチした新人研修関係者がこの場に駆けつけることだろう。そして、関係者がここに来るまでに、一度、ずっと記録し続けていた車外録画機能を確認するということだった。


 哀れな姿を晒す佐々木は、しばらくそのまま放置しておくことで全員同意した。

 下手に触って、あとで絡まれるのは割に合わないし、何より現在も録画してあるから、ギルド関係者が来てから、仲裁してもらった方が話が早い。


 一応、何故倒れている新人を放っておいたのかという、想定問答に対する答えは、泡と白目を向いているので、強力な毒を受けているように見えて、こちらとしても触るに触れなかったという理由で押し通すと優斗兄さんが決めた。


 倒れた三人の居場所は、周囲は崩れた壁で遮られ、直ぐに発見するのは無理という隠れた場所だった。そこに到着すると、武田・上杉・マリアは天然の石畳の上に寝かされていた。頭部を低くして、足を高く保つような絶妙の高低差のある安全な場所だった。


 三人の状態は映像で見た通り、呼吸も浅く、身体の何処にも傷ひとつないもので、装備の汚れもなかった。あれほど壮絶な暴力に晒されつづけたにも拘らず、この安らかな寝顔。この寝顔を見られてようやく胸を撫で下ろす。僕らに出来ることと言えば、脈拍を確認してから、意識の確認をするくらいだった。


「おい、憲政、しっかりしろ。目を覚ませ」


 まず上杉の肩をゆすって話しかけてると、その横で、小恋路はマリアを起こそうとしていた。


「マリア、お願い、起きて。ごめんね。辛かったよね。ごめんね」


 そのまま上杉の肩をゆすっていると、ゆっくりと腕を動かす反応があった。二人して繰り返し呼びかけていると、最初は上杉の方から薄っすらと重い瞼が開いていく。


「……こ……ここは……天国か?……地獄か……どっちだ?」


(……どんな世迷言だよ。死線を越えた直後の名言タイム?

 そのテンションに付き合ってたら、こっちが恥ずか死ぬって……)


「バーカ。ここは憲政が絶対に諦めずに守った、本来いるべき場所だよ。

 ていうか、マリアの影響受けて役者にでもなる気?

 まあ……二人共お似合いかもよ」


 僕の言葉に、上杉はハッと目を見開いた。

 驚くほどの勢いで上体を起こし、周囲を見渡す。


 そして――

 すぐに視線が定まる。

 その先には、静かに眠るマリアの姿。


 上杉の喉が、かすかに鳴った。

 胸の奥から押し寄せる安堵が、その表情にじわりと滲む。


「……マリア……」


 掠れた声で名前を呼ぶ。

 触れたいのに触れられない、そんな迷いが指先に宿っていた。

 その気配に応えるように、マリアの睫毛がふるりと震えた。

 小恋路がそっと肩に触れ、優しく呼びかけた。


「マリア……大丈夫……? 起きて……」


 僕ら三人が見守る中、マリアの瞼がゆっくりと持ち上がる。

 最初に映ったのは、小恋路の顔。


 そして――

 マリアは、かすかに微笑んだ。


「……小恋路ちゃん……おはようさんでありんす……」


 もはや、感情の荒波にあがらえなかった小恋路は、涙を浮かべてマリアに抱き着く。


「ごめんね。マリア、先に行かせて。別行動する前に、一緒に行動するようしっかり主張しとけば、こんな風にならなかったのに……ごめんね。ホントごめんね……」


 小恋路の感情の爆発にオロオロするマリア。


「小恋路ちゃん、どうしてそんな涙を浮かべておいででありんすか……

 あたしの頭ぁぼんやりして、よう分からねえのでありんすけれどもねえ、

 小恋路ちゃんは、なんにも悪うござんせんよ……」


 まだ意識を失う前の記憶と結びついていないのは明らかだったが、マリアは優しく小恋路を抱きかかえ、困惑しながらも優しく背中を撫で続けていた。


 その光景を、上杉はただ黙って見つめていた。


 胸の奥をぎゅっと掴まれたような感覚。

 安堵と、何か別の感情が入り混じって、呼吸が少しだけ乱れた。


(……よかった……本当に……)


 伸ばしかけた手を、上杉はそっと膝の上で握りしめた。

 マリアが小恋路の背を撫でながら、ふと顔を上げた。


 その瞬間――

 マリアと上杉の視線が、静かに重なった。

 マリアの瞳が、一瞬だけ大きく揺れた。


「……上杉はん……?」


 掠れた声。驚きと、安堵と、照れが混ざったような響き。

 上杉は言葉を失ったまま、ただ小さく頷いた。


「……無事で……よかった」


 その一言に、マリアの頬がほんのりと赤く染まる。

 小恋路は気づかずにマリアにしがみついたまま。


 でも、僕には分かった。

 二人の間に、確かに“何か”が芽生えた瞬間だった。


(……あっこれは……あれだね……

 もう僕が口を挟む余地なんてないやつだ……)


 上杉の視線も、マリアの視線も、お互いにだけ向いていて、

 その空気はあまりにも静かで、甘くて、触れたら壊れてしまいそうだった。


(……うん、これは邪魔しちゃダメだ。二人が諦めずに掴んだ未来なんだから)


 甘酸っぱい空気を吸い続けていたら、本当に酸欠になりそうだったので、

 僕はそっとその場を離れることにした。


(さて……もうひとり、忘れてないからね。武田――今から起こすよ、新之助)




 応援よろしくお願いします!


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「続きが気になる、読みたい!」


「この後一体どうなるのっ……!?」


 と思ったら


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 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


 ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


 何卒よろしくお願いいたします。

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