第11話 午後実習⑧ 特殊卵生成
第11話 午後実習⑧ 特殊卵生成
――時間は少し巻き戻る。
「じゃあ、翔太様、まずは――」
フェアが僕の膝の上でちょこんと座り、無邪気な笑顔でこちらを見上げてくる。
「卵生成してもらいまーす。その前に注意点をちょこっと言いますね。
まず、卵生成スキルの特性から説明するとですね……」
フェアは指を立てて、まるで授業を始める先生みたいに話し始めた。
このギャップ、反則だろ。
「“スキルはイメージに作用するんですよ〜。
翔太様は本質は掴んでるんですけど、細かい部分がぜーんぶ抜けてるんですよね〜」
フェアは僕の顔を覗き込み、にこっと笑う。
その笑顔が妙に眩しくて、ちょっとだけ胸がくすぐったい。
「じゃあ、試しにやってみましょうね〜」
フェアは軽く足をぶらぶらさせながら、僕の膝の上で身を乗り出してくる。
その仕草が妙に子どもっぽくて、なのに説明はやたらと的確で――
このギャップに、胸の奥がほんの少しくすぐったくなる。
こんな状況なのに、フェアの無邪気さだけは空気を柔らかくしてくれるから不思議だ。
「フェアが言うとおりにイメージしてみましょうね~。
まず最初、殻が最初からない、塩加減もいい感じのホカホカ茹で卵。
それを頭に完璧に思い浮かべた段階で――『卵生成』してみましょう~」
(これは……卵好きの僕への挑戦状だな?)
(よし、みてろ。やってやろうじゃないか)
イメージすると、すぐに“見慣れた卵”が脳内に浮かぶ。
手のひらを下に向けてスキルを発動すると、周囲の魔素が光の粒子になって集まり――十秒ほどで、宙にふわりと卵が浮かんだ。
同時に、お腹がぐぅと鳴る。
……余りにもタイミング悪すぎる。
優斗兄さんが大きくため息をつき、小恋路が目を吊り上げる。
「翔太、真面目にして。みんなの命が掛かってるんだから」
(いや、緊張感が続くと余計にエネルギー消費するんだよ……
美味しそうだなんて、ちょっとしか思ってないよ……)
「……わかってるって」
しかし、その卵は――フェアがパクッと食べた。
「……もぐもぐ……うまーいです〜」
フェアは、僕が差し出す前に当然のように卵へかぶりつき、頬をふくらませながら幸せそうに目を細めている。
その小さな口が、もぐもぐと忙しなく動くたびに、僕の“食べたかった気持ち”がじわじわ削られていく。
(はー……切ない。
せめて一口くらい……いや、全部終わってからで……隙を見て作って食べよ……)
「小恋路ちゃん、その通りですよ〜。
緊迫感とか危機感もイメージに入れると、完成も早くなるし質も上がるんですよ〜」
「でも流石、翔太様ですね〜。
フェアの目から見ると、最初から神がかってる最高品質なんですよ〜」
フェアは胸を張って褒めてくれる。
……褒められると悪い気はしない。
「次はですね〜、このウインドウの順番どおりにやると簡単ですよ〜」
卵生成スキルの横に”▼”が表示されたので、もう一度タップする。
すると、ウインドウが新たに立ち上がる。
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◆作成する種族を選択できます
①.無精卵 ②.妖精
【選択ボタン】
◆卵生成に追記するイメージを登録できます
①.空白 ②.空白 ③.空白 ④.空白 ⑤.空白
⑥.空白 ⑦.空白 ⑧.空白 ⑨.空白 ⑩.空白
【実行ボタン】
◆複数選択イメージを纏めて簡略化しサブスキルとして登録できます
①.空白 ②.空白 ③.空白 ④.空白 ⑤.空白
⑥.空白 ⑦.空白 ⑧.空白 ⑨.空白 ⑩.空白
【実行ボタン】
◆登録したサブスキルとして実行できます
※サブスキルLvは派生元である卵生成Lvに依存します
※現在、サブスキルは登録されていません』
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(ああ、ウインドウってこんな仕組みだったんだ……ていうか最初から”妖精”を創造できちゃうのね。これは初期設定から先代の迷宮術師が仕組んだものってことか)
「空白欄をタッチして、思い浮かべたイメージを注ぎ込む感じで大丈夫でーす。
点滅してたら読み取り不十分、青色になったらOKですよ〜」
助手席の小恋路は、背もたれを抱きしめるようにして僕を見守っている。
その視線が、心配と興味の入り混じった複雑な色をしていた。
「どうしたの?小恋路。なんか言いたそうだけど」
「ごめん、作業の邪魔して……
でもちょっと気になったことがあって……」
「何?言ってみて?」
「フェアちゃんってさ……どこまで見えてるのかなーって」
フェアは即答した。
「翔太様のスキルウインドウなら、ぜーんぶ見えてるんですよ〜。
フェア、看破スキル持ってますからね〜」
確か、無料配布されたテキスト教材によると、対象の隠された情報や潜在能力を可視化するのが『鑑定』。その上位互換は『鑑定』→『解析』→『詳細解析』→『看破』とくるんだったよね。
「え、それってわたしのステータスも丸見えってこと」
フェアは迷いなく、無邪気に答えた。
「はい、余すところなく全部見えてるんですよ〜」
「……はははは」「……………」
(フェアの看破スキル、Lv.MAXだって伝えたら、二人共どんな表情するのかな?
……まっ、いまはそれどころじゃないから、口をつぐんでおくけど)
「じゃあ、試しに1回操作して感覚をつかんでみましょ~」
という訳で
『①.無精卵』『②.ホカホカ殻無し半熟煮卵』『③.直径7cm』『④.4個同時』『⑤.至高の旨さ』『⑥.危機感・緊張感』『⑦.疲労回復効果持続』『⑧.腸内環境改善』『⑨.完成一秒で』『⑩.絶対成功』を登録。ここまでに要した時間は30秒くらい。
【実行ボタン】が青色になったのを確認してからボタンを押す。
――閃光!!
そして、ぷかぷか浮かぶ4個の半熟煮卵。
「これ、食べてみていい?」
「いいけど、先に僕が味見したほうが――」
「いいよいいよ。翔太のスキルだから大丈夫。翔太は作業に集中、集中」
(……食べたい……)
小恋路の方をチラ見すると、僕をしっかり睨みつけている。
「……はい、集中します……じゃあ、優斗兄さんとフェアの分も作ったから、食べたら感想聞かせて……」
「ありがとうでーす」とフェア。
「小恋路、俺が先に毒見するから少し待て」と優斗兄さん。
「……はいはい」と呆れ果てたように相槌を打つ小恋路。
「いっただっきまーす」
卵にかぶり付くフェアと、無言のまま試食する優斗兄さん。
試食したあと、しばらく無言の時間が続く。
「「………………」」
一斉に二人は口を開くと、感情の爆発を露わにする。
「おいっしーーです〜!ほっぺ落ちちゃいそうですよ〜!」
満面の笑顔を浮かべ、百点満点の食レポを返すフェア。
「旨い……はー、これ、卵の常識がかわるぞ。小恋路も食べてみろ。これは何個でも行ける味だ」と優斗兄さんも大変ご満足の様子。
「じゃあ、翔太の分ももーらい!」
二個纏めて手に取る小恋路。
「えーー」
遅ればせながら、小恋路も試食すると――
「……はー……ホントだ……メッチャうまっ……」
(……うらめしやー)
フェアは、僕のスキルウインドウを覗き込みながら、
いつもの無邪気な笑顔で指を立てた。
「じゃあ翔太様〜、まずは“前半の五つ”から登録していきましょうね〜。
ここまでは基礎の基礎なので、さくっと終わりますよ〜」
フェアが読み上げる。
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①.妖精
②.卵の中に一時保管
③.空間を内包
④.妖精の魂と融合し『妖精の友』の対象に設定
⑤.翔太様と魔力パスを繋げる
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フェアは軽く頷きながら続ける。
「はい、ここまでが“基本設定”ですよ〜。
翔太様のイメージ力なら余裕でできちゃいますね〜」
(いや、余裕って言われても……内容が重いんだけど)
フェアは気にせず、次のページをめくるような仕草をして――
「じゃあ次は“後半の5つ”いきますね〜。
ここからちょっとだけフェアの趣味が入ってまーす」
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⑥.翔太様の命令に逆らえない上下関係のはっきりした契約
⑦.翔太様に好意を寄せるように設定
⑧.今日の記憶の完全抹消
⑨.佐々木家への嫌悪と決別の記憶改竄
⑩.解放権は翔太様のみ・完全不壊属性
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(前半5つはまだ分かる。問題は後半5つだよね……)
フェアは満面の笑みで胸を張る。
「はい、これで“前半五つ+後半五つ”の合計十個、全部そろいましたよ〜。
翔太様だけだと時間かかっちゃうので、フェアもサポートしまーす」
(いや、後半の五つ、絶対フェアの趣味だよね……)
何のためらいもなく、無邪気な笑顔を浮かべたフェアは僕の身体に憑依する。
フェアが僕に憑依した直後――
小恋路が、ほとんど聞き取れないほどの小声でつぶやいた。
「……フェアちゃん、翔太に近すぎ……」
僕は思わずそちらを振り向きそうになったが、
小恋路はすぐに視線をそらし、何事もなかったように背もたれを抱きしめ直した。
(……今の、嫉妬……?)
助手席の小恋路は、表情こそ平静を装っていたけれど、指先がわずかに震えていて、胸の奥に不安を抱えているのが伝わってきた。
でも、その不安すら一瞬で吹き飛ぶほど、視界が劇的に変わった。
(うわっ、情報量が洪水みたいに押し寄せてくる……!)
空気の粒子が見える。魔素の粒子もみえる。小恋路や優斗兄さんの魔力の色が見える。ダンジョンカートの内部構造まで透けて見える。まじで規格外。
そして。
(……翔太にばっか押し付けて、わたしにも何か手伝えることがあればいいのにな……こうしてる間にも、上杉君が痛めつけられる姿を見せられるのって、辛いよ。助けたいよ。涙が浮かんでしまいそうになるの、堪えるの必死なのに。わたし、本当に無力だ……)
(畜生、全部、翔太任せかよ。俺、いままで何をやってたんだ。年上としての威厳もないし、これまで積み重ねてきた経験も糞の役にも立っていないじゃないか。いや、まて。翔太と小恋路はまだ中学三年。俺の方が二つ上という現実はどうしようもないものだ。大人達とのやり取りは俺がするしかない。だったら、想定問答してしっかり対処できるように事前準備をしておくべきだ。そうだ。俺の役割を果たそう……)
耳にも様々な音が拾われて入ってくる。頭の中にいっぺんに声が届くのを読み解いていると……。
(えっ、これって二人の心の声まで拾っているでしょ)
(……ていうかこれ、僕の脳みそで処理していい量じゃない……!)
フェアの持つ異次元みたいな馬鹿高いステータスが僕のステータスに加算され、意識がぶっ飛びそうになるが、それも一瞬のこと。直ぐに楽になる。
(はー、はー、はー)
(大丈夫ですよ〜翔太様。
脳の処理はフェアが肩代わりしてますからね〜。
この体験を何度もすると、翔太様にもスキルの芽が生えちゃうかもですよ〜)
(……わお、さすが規格外)
思考も鮮明、視界もクリア、聴覚も調整されて問題なし。見えてるものが全く違う世界に少し戸惑うが、それすら全く気にならなくなる。
集中したら、フェアのサポートもあり、瞬く間に言われた通りのレシピで作業終了。
小恋路と優斗兄さん、両方ともポカーンとした間抜け面を晒している。
「……手がブレて、見えないや……スゴッ」「……フェアと友達になろうとした翔太の判断は間違ってなかったと言うことか……」
目の前には、鎮圧用に作成した九個と、別用途の三個。合計十二個の特殊卵が、ふわふわと宙に浮かんでいる。
その三個――武田・上杉・マリアに使う予定の睡眠効果付き完全回復卵で、僕が作業に集中してる間に、ちゃっちゃと僕のスキルを使って作ったそうだ。これらは作成してる時にフェアから、魔力パスを通じての刹那の思念によるものだ。
ただ、その理路整然と整えられた思念の中にちょっと聞き捨てならない念話内容が含まれていたような気がするけど……
確か――
(翔太様ごめんね~!事後報告になりますが~、余分に百個フェアちゃん特性ブレンド卵をパパッと作っちゃいました~。これ使って翔太様と楽しいサプライズ訓練しましょうね~。詳しい内容ですが~今は秘密で~す!! だってその方が面白そうだし~。じゃあー、念話通信終わり)
その件をしっかり問い正そうとしたら、問い詰められる気配を察したようで、ささっとフェアは憑依を解除し僕の身体から抜け出し、さらには――
「これで勝敗のカギは全て揃いました。さっそく、三人救出作戦始めちゃいますね~。あとはお任せー。じゃあ、いってきまーす」
その言葉を最後に、卵十二個も一緒に、パッとこの場から消え去った――……
あの無邪気なサイコ系妖精さん……逃げ足も速かったようだ。
(……この子に悪気がないぶん、いちばん怖いのかもしれない)
「なんか最後……ちょっと不自然な感じがしたんだけど……なんかあった?」
小恋路は眉をひそめ、僕の顔とフェアが消えた空間を交互に見比べていた。
「あったか、なかったで言えば、あったね。でも問い詰める前に逃げられた……まっ、あとで問い詰めることにするよ」
「……そうね。フェアちゃんには、世間の常識を山ほど教える必要がありそうね……翔太、頑張ってね」
小恋路はため息をつきながらも、どこか安心したように僕の肩を軽く小突いた。
その仕草は強がっているようにもみえるが、さっきの心の声を聞けば、小恋路の気持ちは痛いほど、僕の胸に届いている。
「えー、一緒に手伝ってよ。こんなの、僕一人じゃ絶対に無理だって。優斗兄さんも関係ないって顔してないで、ちゃんと手伝ってよね」
優斗兄さんは腕を組み、わざとらしく顎に手を当てて考えるふりをしていた。
けれど、その目はすでに“どうせ助ける気満々”の兄貴の目で、
口元にはわずかに苦笑が浮かんでいる。
僕が頼ってくるのが嬉しいのか、どこか誇らしげですらあった。
「なにか見返りがあれば助けてやらんこともないが、それ相応の見返りが必要だな。それよりも、いまは襲撃現場に向かうぞ。フェアから襲撃現場の位置情報はきいてないのか?」
と優斗兄さんが僕に尋ねたら、AI機能が働きダンジョンカートのフロントガラスに階層地図が表示され、目的地と思われる場所に赤印の×マークがつく。
(これもフェアの仕業ですよ〜。で三人の位置情報を丸ごと共有してるので〜、ダンジョンカートさんに転送しておきました〜)
(……サラッと言うけど、やってることは完全に高性能ナビなんだよな)
そして。
ダンジョンカートが何故か、宙に浮いた――浮いてしまった。
本来、そんな機能がない筈にも関わらずだ。
想定外と言ってもいい状況が起きてしまった。
フワッとした浮遊感に思わず肝が冷える。
ダンジョンカートはそのまま上空まで一気に加速。赤印の×マークを目標にすえ、飛行自動運転モードで移動しているようだ。風圧は全く感じない。カートを覆う円状の魔力シールドが風圧を遮断してるようだ。
優斗兄さんは突然のダンジョンカートの暴走に、言葉で注意を促すより先に、反射的に小恋路を庇う姿勢をみせ、その小恋路は威勢のいい悲鳴を上げている。
「きゃーーーー」
(多分……飛んでるダンジョンカートに乗ったの、僕たちが初めてかも……やったね。時代の先取りしちゃった……とはならないよね?)
(はー……色々あり過ぎてもう頭が可笑しくなりそうだけど、一応フェアの所有者?として言っておかないと……まあ、事後報告になるけど、言わないで黙ってるよりはましってことで……)
思考をまとめて顔を上げると、
小恋路はまだ背もたれを抱きしめたまま、やっぱり僕を睨んでる。
一方のダンジョンカートの所有者である優斗兄さんも、自分の知らない新機能を起動し暴走した探索用魔道機器が突然落下することはなさそうだと、ようやく落ち着きを取り戻したようで、その理由を知るであろう僕を、同じく睨んでる。
「……ああ、これだけど、さっき僕にスキルの使用方法を教える片手間に、暇だったからって、ダンジョンカート改造して、スペック十倍くらいUPしといたってさ。憑依してる時、フェアの頭の中にあった大量の思考の中に、そんな念話情報入ってたよ。……これ、見返りにならないかな?」
「その前にフェアに常識を叩きこんでおけ。本人の許可なく勝手に改造するなとな」
「よく言っとくよ」
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※補足――『妖精の友』
・範囲エリア内にいる妖精同士はMP消費なしで思念会話が可能。
・範囲エリア内にいる妖精同士はMP消費なしで五感共有が可能。
・範囲エリア内にいる妖精同士はMP消費なしで位置情報を共有。
・範囲エリア内にいるだけで能力増幅して補助系魔法効果×二倍
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