31話 その日、世界が泣いていた
晴夏がもうすぐ勤務に戻ろうとしてると、真央ちゃんが、血の気の引いた顔で話しかけてきた。
「先輩、ごめんなさい。美澄さん、亡くなった。再生中に意識を失ったから、最後まで聞けたか分からない……」
涙はもう、出なかった。
美澄耀、享年26歳。その日は、激しい雨が降っていた。
(まるで、あの人の死を世界が悲しんでいるかのようだった)
晴夏が帰宅して玄関に入ると、子ども達が走ってくる音が聞こえた。
「ママー、おかえりー!!」
「ママー!!」
「ただいま、ゆうちゃん。海斗ちゃん」
湊もタオルを手に持って、リビングの方からやってきた。
「晴夏、休日出勤お疲れさん。雨、凄かったな。風呂沸いてるぞ」
「あれ!?ママ、泣いちゃったの!?」
「何!?」
悠翔の声に、湊が晴夏の顔を見つめると、化粧直しで隠しきれないほど泣き腫らしたような目をしていた。
「ママ、いたいたい?」
「大丈夫よ、海斗ちゃん」
「何があったんだ。晴夏」
湊の鋭い眼差しから目を背けて、彼女は歩き出した。
「高校の頃の後輩患者が亡くなったの。……ごめんなさい。先にお風呂に入りますね」
「ままっ」
「ままぁ」
子ども達のか細い声が、廊下に虚しく響いた。
数日後。
湊は言いようのない焦燥感に駆られていた。
(おかしい。今まであんな風になる事は無かった。あれでは廃人寸前じゃないか)
あれから晴夏とは一度も会話が出来ていない。常に凪のような微笑みを顔に貼り付けて、日常をただひたすらこなしているだけだ。子ども達も不安がっている。
湊は家族が寝静まる深夜に、晴夏のスマホを見た。
(メッセージやメールには異常は無いようだ。後は写真くらいか?)
そして、美澄と晴夏の動画と絵を見つけた。
動画を全て見終えた頃には、彼の凍てついた切れ長の目は吊り上がっていた。
「俺を、神様扱いしてただと……!?」
湊の押し殺すような声が、部屋に響いた。
「違う、俺は神じゃないっ。神なんかじゃない!!」
自分の頭を引っ掻きながら、彼は震えていた。
その後、部屋を歩き回っていた湊は。子ども達の寝室へと歩き出した。ドアを開けると、布団の中ですやすやと眠るあどけない表情の我が子達と、その真ん中で2人を抱きしめながら眠る晴夏がいた。彼女の目の下にはまだ、うっすらとクマが残っている。
(こんな状態でも、子ども達の面倒を見ていてくれたんだな……)




