表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/36

31話 その日、世界が泣いていた


 晴夏がもうすぐ勤務に戻ろうとしてると、真央ちゃんが、血の気の引いた顔で話しかけてきた。


「先輩、ごめんなさい。美澄さん、亡くなった。再生中に意識を失ったから、最後まで聞けたか分からない……」


 涙はもう、出なかった。


 美澄耀、享年26歳。その日は、激しい雨が降っていた。


(まるで、あの人の死を世界が悲しんでいるかのようだった)





 晴夏が帰宅して玄関に入ると、子ども達が走ってくる音が聞こえた。


「ママー、おかえりー!!」

「ママー!!」

「ただいま、ゆうちゃん。海斗ちゃん」


 湊もタオルを手に持って、リビングの方からやってきた。


「晴夏、休日出勤お疲れさん。雨、凄かったな。風呂沸いてるぞ」

「あれ!?ママ、泣いちゃったの!?」

「何!?」


 悠翔の声に、湊が晴夏の顔を見つめると、化粧直しで隠しきれないほど泣き腫らしたような目をしていた。


「ママ、いたいたい?」

「大丈夫よ、海斗ちゃん」

「何があったんだ。晴夏」


 湊の鋭い眼差しから目を背けて、彼女は歩き出した。


「高校の頃の後輩患者が亡くなったの。……ごめんなさい。先にお風呂に入りますね」

「ままっ」

「ままぁ」


子ども達のか細い声が、廊下に虚しく響いた。



数日後。


湊は言いようのない焦燥感に駆られていた。


(おかしい。今まであんな風になる事は無かった。あれでは廃人寸前じゃないか)


 あれから晴夏とは一度も会話が出来ていない。常に凪のような微笑みを顔に貼り付けて、日常をただひたすらこなしているだけだ。子ども達も不安がっている。


 湊は家族が寝静まる深夜に、晴夏のスマホを見た。


(メッセージやメールには異常は無いようだ。後は写真くらいか?)


 そして、美澄と晴夏の動画と絵を見つけた。


 動画を全て見終えた頃には、彼の凍てついた切れ長の目は吊り上がっていた。


「俺を、神様扱いしてただと……!?」


 湊の押し殺すような声が、部屋に響いた。



「違う、俺は神じゃないっ。神なんかじゃない!!」


 自分の頭を引っ掻きながら、彼は震えていた。


 その後、部屋を歩き回っていた湊は。子ども達の寝室へと歩き出した。ドアを開けると、布団の中ですやすやと眠るあどけない表情の我が子達と、その真ん中で2人を抱きしめながら眠る晴夏がいた。彼女の目の下にはまだ、うっすらとクマが残っている。


(こんな状態でも、子ども達の面倒を見ていてくれたんだな……)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ