28話 キラキラ笑顔の呪い
翌年5月。晴夏は次男を出産した。
鼻や口元、輪郭は湊似なのに、目元だけは晴夏の亡き母・芙由子のような、優しげな印象の子だった。
退院日には晴夏の父・正治もお祝いに2人の家を訪れた。
「おめでとう、晴夏。湊くん。ゆうちゃんは、もうお兄ちゃんになるのか。月日が経つのは早いなあ」
「ありがとう、パパ」
「ありがとうございます。お義父さん」
晴夏はいつもの輝く笑顔で、湊は患者用の優しげな表情で礼を言った。
「パパも抱っこしてみる?良いですよね?湊さん」
「ああ。どうぞ、お義父さん」
正治は湊から次男を受け取ると、たんぽぽのように微笑みながら、涙を滲ませた。
「目元が芙由子にそっくりだ……」
その声を聞いて目を覚ましたのだろうか。目を開けて、ほにゃりと微笑んだ。
「あー」
(ママが帰ってきたみたい……。可愛い)
「今、笑いましたね。おじいちゃんっ子になりそうですね?お義父さん」
「芙由子……」
正治の頬に涙が伝う。晴夏はハンカチでそっと拭った。
「うー」
もう一度ほにゃりと笑う次男を見て、全員が自然と微笑んでいた。
「もうそろそろ悠翔の保育園のお迎えがあるので、行ってきます。お義父さん達はゆっくりしていてください」
「ありがとう、湊くん。すっかり良いお父さんだね」
「…恐縮です」
湊の外出後、晴夏は父に伝えた。
「あのね、パパ。湊さんのごはん、とっても美味しいんだよ?……ママと同じ味だったの」
「そうか……。いつか食べてみたいなあ。…良かったなあ、晴夏。一般家庭から開業医家系に嫁ぐ事に不安もあったが、良い家庭を築いているようで、安心したよ」
「湊さんが良い人だったから。私は運が良かったんだよ」
正治の微笑みを見て少し胸が痛んだが、晴夏は輝く微笑みを崩さなかった。
(私はまだ、子ども達みたいに綺麗には笑えない……)
すやすやと気持ち良さそうに眠る次男を見つめながら、彼女は自分の顔を憎んでいた。
(怖い…。家族の前で笑ったら、壊してしまいそうで。でも笑わなきゃ。自分には、それしかないんだから……)




