ルマの商い記 -26-
夜のかなり深い時間にも関わらず、歩いている人の量にさほど変わりはない。
それだけ安心して夜遅い時間に出歩くことが出来る夜市場。
歩けば所々に自警団の制服を来ている者たちが目につく。
特に幹のようになった大通りでは枝の入り口に一人といった具合に自警団の人が立っている。
その誰もが屈強かと思えば、一軒細身の者もいるようだ。
それだけこの市場が安全な運営を目指しているのかがよく分かる。
その中を、柔和な表情を崩さないまま歩いて行くルマ。
先ほどのような奥まった店ではなく、今度は幹に面したやや人通りのある店に入っていった。
店の佇まいは今までの時間にあったような店と変わらない。
他の店のような妖しさは一切無く、健全な感じのさせる店のようだ。
店舗前の松明の灯りも強めで、それなりに明るい。
他の店と違って、明るさと健全さを売りにしているようだった。
ルマは躊躇することなく店内へと入っていく。
店内は夜の遅い時間型の店内で、店内に机はほとんどなく、全員が立ち飲みをしている。
店内の明るさも、外のように明るめで、しっかりと店内を見渡すことができる。
先ほどの店とは違って、店内に椅子もなければ、机もない。
室内は完全に立ち飲み場として運用されている。
出された飲み物は常に手に持った状態。
置く場所が無いので手早く飲み干して手を休ませる。
あるいは店頭に出ている机の上に置いたりすることで疲れを取る。
食べ物はひとりが頼んだ物を机の上に置いてそこの席に腰掛けて食べる。
それでも端の隙間にひと声掛けて飲み物が置かれていくのが慣例となっている。
ここではそのくらいの寛容さがないとこの時間を楽しく過ごすことは出来ないらしい。
誰一人その姿に文句を言うことなく過ごしている。
ルマは先ほどまで注文していなかった酒をカウンターで注文すると、店内に繰り出していく。
店内には先ほどまでと違ってかなり若い層が店内に立っている。
人数にして10人ほど。
カウンター前に3人、店内に4人、店頭の机付近に3人。
この店内は張り出しを簡易の机のようにして使っていて、店内の4人は全員壁に張り付いている。
店内は3つのグループに分かれている。
2人組で話しているグループと、1人で飲んでいるのが2組。
ルマはカウンターに足を置くのではなく、店内の側へと向かった。
部屋の入り口付近の張り出しが空いていたので、そこに陣を取ることにした。
酒があまり得意ではないルマは鳥のようにほんの少しだけ口をつけては眉をしかめる。
それに合わせて、柔和な表情がほんの少しだけ曇る。
ルマはそれをとても嫌っているようで、容器の水面を見ては、飽き飽きした表情を浮かべる。
恐らくは、こんなもののどこが美味しいんだ、とでも言いたげに水面を眺めている。
加えて、酒にもそこまで強く無いのもあって、すぐに赤くなってしまう。
頬が熱くなったりと、正常な状態ではなくなるのを知っているのもあって、酒は遠ざけている。
それでもなぜ酒を頼んでいるのか。
それがルマの戦略であることを知るのは、このすぐ後のことになる。
この場所では何かしら良い情報は得られなかったのだろうか。
柔和な表情を崩す事無く会計を済ませて出ていった。
夜はさらに深まっていく。




