ルマの商い記 -27-
いよいよ夜も最大の深まりをみせる時間。
月も真上を越えて、いよいよ深夜となっている時間。
その時間になっても夜市場の活気は衰えることはない。
夜時間とはまた違った妖しい雰囲気を醸し出していた。
浅い時間とは違った賑わいを見せる。
賑わいの中を歩いていると、雑多な会話が耳に入ってくる。
大抵は浅い夜の時間と同じような内容、話題ばかり。
その会話を環境音のように聞き流しながら、夜市場をぶらりと歩き続ける。
何かを探している気配はあるものの、飲み物や人を探しているのではなさそうで、ただ歩いているように見える。
それでもルマは夜市場をパトロールするかのように柔和な表情のままで歩き続ける。
目抜き通りから枝通り、枝通りから目抜き通り。
ただただ歩いていくルマの姿。
背中からは何を探しているのかが見えてこない。
目抜き通りを歩いて、2本目の枝通りにすぐ入ったところにある店。
そこで足を止めたルマ。
店の中に入って、弱い酒を頼んだ。
店内側の壁に寄りかかって、ちびちびと飲む。
飲み込むたび、柔和な表情はそのままに、ほんの少しだけ眉をひそめる。
そこには4人の男たちが他の店と変わらない談笑をしていた。
ルマの視線はずっとそこに向けられている。
その横にいる二人組。
隣の4人とは違ってトーンを下げた会話をしているようで、会話は聞こえ難い。
そんな断片的な会話から、被りの人、統一戦線、と、他の会話とは違った、不可思議な単語が交わされていた。
それらをルマは聞き逃さなかった。
二人組に振り向こともなければ、柔和な表情は変わることは無い。
けれどもその目だけは奇妙な鋭さを湛えていた。
ルマは器に残った一口には多い酒を一気に飲み干して、カウンターに器を返す。
店を後にすると、足早に別の店を探す。
今度は枝通りの奥の店。
さっき入った場所とはまた違って、もっと奥の店。
そこでも弱い酒を頼んではちびちびと飲む。
店内の照明はこの時間とあって相変わらずろうそくだけ。
顔ははっきりとは確認ができない。
ただ、会話の内容からはあの不可思議な単語は聞き取れない。
今度の店は空振りのようだ。
なんとか一杯を飲みきって店を後にする。
そうやって幾つかの店を回っているうちに、空が白み始めていた。
結局5杯ほど飲んでしまったルマの顔は真っ赤になってしまっていた。
それでも柔和な表情を崩すことはない。
赤みがかった顔と柔和な表情は、とても心地好く酔っている人のように見える。
ただ、本人は顔が火照ってしまってどうしようもないので、あまりこの状況は好んではいない。
最後に入った店。
国営市場のほとんど目の前。
顔を見せて、水を頼んだ。
出てきた器に注がれた水を、またちびちびと飲む。
いよいよ閉店の時間も近いとあってか、ひとの姿はまばら。
ほとんどが1人で飲んでいる。
その中にまた二人組が入ってきた。
先ほどの会話を交わしていたのと、よく似た背格好をしていた。
瞬間に、ルマの酔いが一気に引いた。
水を辛そうに飲んでいる。
それでも柔和な表情は崩さず、その耳は二人組の会話を追っていた。
だた、二人の会話はありきたりで、今日の夜を楽しむものだった。
ほっとして水を飲みきると店を出る。
風下の国は明け方になると一時昼間よりも冷え込む時間がある。
その時間、涼しさを受けながら国営市場の入り口で証明書を取り出して国営市場へ入っていく。
それでもルマの店までは距離があるので、明け方の涼しさが、ルマには心地良い。
長い夜が、ようやく終わりを迎える。




