ルマの商い記 -23-
夜も深まり、酒を提供する店が目立ち始める。
ルマは変わらず柔和な表情のまま夜市場を歩く。
夜市場を歩いていると、様々な話題が聞こえてくる。
今日の買い物の成果を高らかに自慢する買い物客。
今日の商売の出来高を酔いながらも探り合う商売人。
若かりし頃の武勇伝を若い者に語る熟練者。
未来を高らかに歌い上げる若者。
そこには身分の上下の別は無く、ただただ人として存在している。
年齢を重ねている者には相応の敬意が払われている。
それでいながら上の者は下の者に偉ぶるわけでも尊大になるわけでもなく、経験談を高説する。
このとても良い光景が、そこかしこに広がっている。
それだけこの夜市場が良い場所として存在している証拠なのだと、ルマは確信している。
それと同時に管を巻いては周りに絡むような大人がいることもまたこの場であることの証左であるとも確信している。
絡まれた方は面倒な顔をしながらも、一応年長者を立ててはいる。
それでまた尊大になって、態度が厚かましくなっていく。
いい加減面倒になったのか、絡み酒を放っておいてそさくさと別の店へ行ってしまった。
絡み酒はと言うと、絡む相手が消えてしまったのが寂しいのかその場で残りの酒を一気に飲み干すとそさくさと夜市場のぼやけた灯りの隙間に消えていってしまった。
まだまだ夜の深さはこの程度ではない。
もっと夜が深くなれば怪しい話や、危ない場面もちらほらと現れる。
最も頻繁なのが小競り合いなどのいざこざ、次いで多いのが千鳥足の泥酔から倒れ込む厄介だ。
この地域は年中温暖な気候であることも手伝って、そこらで一晩程度なら明かしても死ぬことはそうそうない。
また夜市場の性質上朝には一旦全ての店がその場から消えてしまう。
それを知らずにここで羽目をはずしてしまった者は、朝になって全てが消えたことに驚いて、自分が夢を見たのではと錯覚する者が毎夜1人は居るという噂がある。
それほどにこの夜市場は特殊な場所だということだ。
そういった色々な光景を眺めながら、ルマはまだ歩いている。
入る店を決め兼ねているのかと思えば、表情からは迷いは感じられない。
ただただ柔和な表情のまま、ずっと歩き続けているだけ。
夜も遅くなると客引きが出始め、声掛けを始める。
それを横目にしながら、上手に客引きをあしらって歩き続けている。
かれこれ夜市場を3周はしただろうか。
ようやく一軒の店の前で足を止めた。
手に持ったままになっていた画板を鞄にしまい込んで、店の中に入っていった。




