表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

蛇足

蛇足だそく とは無い方がスマートだと思いながら付け加えてしまうイタズラ心なのだと思います。

 魔王が消滅し、勇者達を魔法力の英雄がそれぞれの世界に返した玉座の間に残った英雄5人。

 

 「お疲れ様でした~」

 呑気な調子で挨拶する薔薇の英雄。


 「ふ~。 毎回の事だけど、倒しても倒しても魔王はわいて出て来るな」

 防御力の英雄が文句を言う。


 「仕方ありませんよ。 女神の命令なんですから。 それが我々の仕事ですし」

 叡智の英雄が(なだ)める。


 「ところで薔薇の英雄。 毎回なんでクマのぬいぐるみで魔王を倒すんですか?」

 魔法力の英雄が質問する。


 「僕は探し人に会えるって聞いて、この仕事を引き受けたんだ。 このクマは僕の探し人にあげる為に女神が準備したクマなんだよ。 女神が魔王を倒し続けたら、そのうち僕の探し人に会えるって言うからさ」

 薔薇の英雄が答える。


 「探し人が魔王で現れるってこと?」

 魔法力の英雄が質問する。


 「さぁ? 例え魔王の姿で探し人が現れてもわからないけどね。 骨だし? 復顔師(ふくがんし)でもあるまいし骨で人の区別はできないし。 だからもし探し人が魔王でも良いように保険でクマで倒してるんだ」

 薔薇の英雄が答えた。


 「ア……アバウトな」

 魔法力の英雄は絶句した。


 「もし薔薇の英雄と魔王の秘められた関係を想像して感動していた人がいたら『感動を返せ』とか思うかもしれませんね」

 叡智の英雄は、ため息をついた。


 「神でさえ全知全能でないのに、この僕が何もかも知っているわけ無いじゃないか。 真実は古典の中にある。 物理の世界でも証明された。 完璧な存在など無いってね。 世の中には知らない方が幸せな事があるのは、いつもの事だよ」


 薔薇の英雄は(こと)()げに話を続ける。


 「でも知ろうとしない事が関心の無い事が罪である事もある。 そしてその罰は自分に()ね返ってくるんだ。 何に興味を持つのかは難しいテーマだ」

 薔薇の英雄は肩をすくめる。


 「何故、女神は薔薇の英雄に探し人を教えないのでしょうか? 報酬の支払いが不明ならば契約とは言えなません」

 叡智の英雄が疑問を述べた。


 「本当にそうだよね。 僕もその点に疑問を持って女神に尋ねたんだ。 女神が言うには、僕と探し人は会うと働かなくなる七夕の彦星と織姫のような関係だから、お互いがそうとわかるようには会わせられないって言うんだよ」

 薔薇の英雄はため息をついた。


 「じゃぁ、知らないうちにもう会ってるって可能性もあるんですか?」

 叡智の英雄が質問する。 


 「うん。 もしかしたらもう最初の方に会ってて、それ以降はタダ働きさせられてる可能性もあるなぁ」

 薔薇の英雄はため息をついて空を見上げた。


 「あ~。 あの女神ですからね。 人使いが荒いっていうか」

 魔法力の英雄は、思い出し笑いをした。


 「そういう安易な物言いは止めなさい。 (おそ)れ多くも女神役として選ばれた我々の代表に対して。 輪廻(りんね)というものは、縁というものは我々の叡智の及ばない叡智によってコントロールされているのです」

 叡智の英雄が魔法力の英雄をたしなめる。


 「そうだね。 それに完璧でないものを愛する事が優しさであり全ての始まりだよ」

 薔薇の英雄がつぶやく。


 「オイ。 しゃべってないで、そろそろ帰ろうや」

 攻撃力の英雄が声をかけてくる。


 「そうだね。 魔法力の英雄。 送ってくれるかい?」

 薔薇の英雄が声をかけ、英雄5人は送られるために集合した。


 「では……」

 魔法力の英雄の魔法で5人は消滅し、魔王の城の玉座の間は再び静けさを取り戻した。


 ◇◇◇

 

 再び魔王の城の玉座の間。


 動かない魔王に向かって薔薇の英雄が魔法を唱える。


 「あれ?」


 出て来たのはいつもの光るクマでは無く、水晶玉だった。


 首を傾げながら薔薇の英雄は水晶玉で魔王を消滅させた。

 魔法力の英雄が勇者を元の世界に送る。


 「薔薇の英雄。 今日は何で水晶玉にしたの?」

 魔法力の英雄が近寄って来て水晶玉をのぞき込む。


 「いや……僕はいつも通りにクマを出そうとしたら、コレが出て来たんだ」

 薔薇の英雄が答える。


 「何か(うつ)るかもしれません。 薔薇の英雄。 水晶玉に力を注いでみたらどうでしょう」

 叡智の英雄が言う。


 「そうですね。 やってみます」

 薔薇の英雄が光を水晶玉に注ぎ込むと、水晶玉は、ある光景を映し出した。


 「地球みたいですね」

 叡智の英雄が言う。


 「あれ?この子、前回の薔薇の勇者じゃないの?」

 魔法力の英雄が言う。


 「よく覚えてるね。 魔法力の英雄。 確かにそうみたいだ」

 薔薇の英雄が答える。


 「だって薔薇の英雄が珍しく可愛がっていたじゃない。 覚えてるに決まってるさ」

 魔法力の英雄が言う。


 「そんなに周りにわかるほど可愛がってたかなぁ?」

 薔薇の英雄が言う。


 「いつもだったら『僕弱いから』の一言ですぐにカードに戻っちゃって冒険の間は天界で仕事してるくせに、前回はずっと彼の側にいてあげていたじゃないか」

 魔法力の英雄が言う。


 「ふふふ。 嫉妬してるのかな? 魔法力の英雄は本当に可愛らしいんだから」

 薔薇の英雄が魔法力の英雄にデコピンする。


 「そ……そんなんじゃないから」

 魔法力の英雄がそっぽを向いた。


 「わかってるって。 僕達は肉体を持たない生命体だ。 欲とは無縁だからね。 からかっただけさ」

 薔薇の英雄が言う。


 「あれ? この子クマのぬいぐるみ持ってますよ?」

 水晶玉をずっと観察していた叡智の英雄が言う。


 「え? ほんと? 本当だ。 薔薇の英雄の持っていたクマのぬいぐるみだ。 何で彼が持ってるんだろう? 女神が与えたって事?」

 魔法力の英雄が言う。


 「……。 そういう事か。 彼が僕の探し人だったんだ。 まさか男の子に生まれ変わっていたとはね。 本当に女神はイタズラ好きだなぁ」

 薔薇の英雄は空を見上げた。


 「おめでとう。 薔薇の英雄。 契約終了だな」

 防御力の英雄が言う。 


 「ありがとう。 またどこかで会おう。 1回分多く働かされちゃったよ」

 薔薇の英雄が言う。


 「あの女神ですからね~」

 魔法力の英雄が言う。


 「そろそろ帰ろう。 お疲れ様。 薔薇の英雄」

 攻撃力の英雄が言う。


 「そうだね。 お疲れ様。 攻撃力の英雄」

 薔薇の英雄が言う。


 「でも……もう一緒に冒険が、できなくなるんだね……。 寂しくなるよ。 薔薇の英雄」

 魔法力の英雄が言う。


 「そんな事を言うなんて、人の精気に()てられたみたいだね。 天界で浄化すると良い」

 薔薇の英雄が笑った。


 「そうだな。 特に魔王の城は肉体を持たない我々でも感情に引きずられる場所だ。 早く帰ろう」

 防御力の英雄が言った。

 

 「そうだね。 魔法力の英雄。 送ってくれるかい?」

 薔薇の英雄が声をかけ、英雄5人は送られるために集合した。


 「では……最後にちょっと僕も女神を見習ってイタズラしてから皆を送るよ」

 そう言うと魔法力の英雄は、魔王の玉座の間のあちこちに薔薇の花を魔法で作り出して飾った。


 「綺麗だね……。 人間世界の送別会みたいだ。 ありがとう魔法力の英雄」

 薔薇の英雄は魔法力の英雄の手を取り手の甲にキスをした。


 「花で飾られるとココも悪く感じなくなる。 不思議なものだな。 たまには、こういうのもありだろう。 楽しませてもらった。 ありがとう魔法力の英雄」

 防御力の英雄が言う。

 

 「たまにイタズラするのも楽しいものだね」

 照れたように魔法力の英雄が言う。


 「魔法力の英雄は、もう少し落ち着いた方が良いと思いますけれど……でもそんなあなただから女神は人間の冒険にあなたを案内役に選んだのでしょうね。 お花ありがとう魔法力の英雄」

 叡智の英雄が言う。


 「しんみりせずに気楽に行こうや。 どうせまた冒険は続くんだから」

 攻撃力の英雄が言う。


 「では……」

 魔法力の英雄の魔法で5人は消滅し、魔王の城の玉座の間は再び静けさを取り戻した。

 いつもと違うのは、魔法の効果が切れるまで薔薇の花が残っていた事だった。

 誰に見られる事もなく。

  

 終。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

(●´∀`)ノ~.ア☆.リ。ガ.:ト*・°


ムーンライトR18作品『プレイボーイを目指したら鬼畜になりました』

 著 子夜須 みちえ の番外編です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ