魔女じゃない。私は科学で戦う
一重、二重とわたしの周りをジワジワと取り囲む輪。殺気と興味本位の視線がわたしを貫いた。彼らは口々に「魔女だ」「魔女だったのか」と呟く。
わたしは何が起きたのか理解できないまま、声を絞り出した。
「わ、わたしは魔女じゃないです。知らないうちにバケモノの前に落とされて……なんて言えばいいのか、戦っただけです。怪しいものじゃありません」
それが今言える精一杯の言葉だった。
「なぁ、みんなも見ただろ? こいつは俺たちを助けてくれた」煉が声を振り絞る。
リーダー格と思われる男が応えた。「だが、その力で俺たちを焼き払いに来たのかもしれない」
「そんな事あるわけないだろ。現にゴーレムを倒すのに、力を貸してくれた」
リーダー格の男は煉の目を見据えた。「その力が魔女そのものだ。どれだけ、あのクリスタルに苦しめられたか。もしかしたらこいつも神の残滓かもしれない。ゴーレムが爆発したあと、粉々に握り潰された。あんな強力な魔法、見たことあるか? 魔女に違いない」
「違う。あれは科学よ」
討伐隊の誰かが眉をひそめる。
「……カガク?」 「何を言っている?」「……カガクってなんだ?」
討伐隊は鋭い刃先をこちらに向け、いつでも飛びかかれるよう身構えていた。
言い争っていると、馬の蹄の音が遠くから聞こえてきた。
馬には男が乗っている。
男が近づくと、討伐隊が敬礼をし、相手も敬礼を返す。鞍からその男は降りた。皮の手袋を外した。
第一ボタンまで厳格に留められた深緑の詰襟。喉元で、白銀の勲章が冷たい光を放っている。黒髪の中に白髪が目立つ。着こなしに一部の隙もないように感じた。
わたしは煉の耳元で囁いた。「あの人は?」
煉は呼吸を乱しながら答える。
「……セオドア卿だ。この討伐作戦の全権を握る軍閥の頭領……。あの人が来るなら、もう俺たちの手には負えない」
鋭い眼光が、まるで兵器を検品するかのように、わたしの全身を足先から頭頂までなぞっていく。討伐隊のリーダーが、鬼の首を取ったかのように報告する。
「セオドア卿! ちょうど良いところへ。この女、あの強大な力でゴーレムを土に還しました! 恐らくは我が国を内部から陥れる魔女に相違ありません!」
セオドア卿は何も言わず、ただ薄く口角を上げた。その沈黙が討伐隊には「同意」に見えたらしく、周囲の兵たちが一斉に殺気を高める。
しかし、セオドア卿が口を開くと、その言葉は冷たい刃となって彼らの高揚感を削ぎ落とした。
「ふむ……確かに、今の現象だけを見れば『魔女』という呼称を冠したくなるのも無理はない。だが……私の考えとは少し違うな」
セオドア卿は兵の目を見ながら言った。
「もし、その魔女ならゴーレムとの混乱に乗じて王宮を目指すがね。だが、しなかった」
彼は冷徹に言い放った。
「それにゴーレムを倒した力で、我々が対抗できるとも思うのか? もし彼女が敵対する気なら、既にお前たちは死んでいる――それが起きていない以上、可能性は低い」
兵たちの動きが凍りついた。セオドア卿は一歩だけわたしに歩み寄り、煉の肩をすり抜けて、目を見据える。
「ただし、あの推し量れぬちからをただ見逃す事は出来ぬ。恐れるなら見極めるのが得策だ。……我々は魔女狩りという、生産性のない慰め合いをしている暇はないのだよ」
セオドア卿は真っ直ぐわたしの目をみた。
「魔法とは、また違う力のようだな。……まだ知らない力があるかもしれんな」
その一言だけが、やけに引っかかった。彼の目の奥に、興味とも警戒ともつかない色がよぎった気がした。
「それは魔女より、厄介な力かもしれん」
セオドア卿は近くの討伐隊の一人に告げた。
「王宮にお連れしろ。だが、丁重にな」
わたしはセオドア卿に小さく会釈をし、討伐隊の人間について行った。少し振り返る。
白い歯だけが見えた。笑っているのか、それとも別の意味なのか、わたしには分からなかった。
◇
――その頃、王都へ向かう砂漠の列車では。
砂漠の彼方から、一本の列車が王都へ向かっていた。貨物車両の一両だけが、異様に重装備されている。鉄の枠で固定された、巨大な“結晶塊”。布の内側から、淡く光っていた。
「……まだ、動いてないな」
兵士の一人が呟く。
「音がしたら終わりだ。魔力核が起動したら、俺たちは――」
そのとき。
ゴトン……。
内部から、魔力核が妖しく輝いた。全員が、息を止めた。
貨車の鉄枠が、ミシリと悲鳴を上げた。




