登坂修4
パソコンからの投稿です。
アルストロメリア城裏門から出て、茂みを越えると、反り立った崖に立派な扉が見えた。
「シュウよ……その、何じゃ……妾、重くないかの?」
「……」
シュウに背負ってもらいながら、恐る恐るアリスは尋ねる。城から出てくるまで終始無言であったのが気がかりで、機嫌が悪いのかと懸念してのことだ。
「別に……重くねぇよ」
「そ、そうか……ならば良いのじゃ」
同じ年頃の男子と二人きり、暗い洞窟への扉を潜る。アリスはそれなりに緊張していた。
洞窟の側面には、術式型のランプがずらりと張り巡らされていた。一つ作動させると、他のも連動して点灯していく仕組みだ。
コツコツと足音が洞窟内に反響する。
「シュウよ。お主はどこ出身なのじゃ」
「あ? 俺は…………日本だ」
「にほん? 何じゃそこは。聞いたことがないのう」
アリスが知らないのも無理はない。知っていたら知っていたでシュウにとっては大問題だ。正直に話しておいて損はないと判断していた。続けざまにシュウは異世界から来たことを事細かく話してみる。信じてもらえる保証などない。
ただ話しておきたいと、シュウは心の奥底で思っていた。
アリスの反応は思った通りだ。笑われた。
「シュウよ……ぷふっ、お主見かけによらず面白いの」
「あん? 見かけは余計だろ!」
シュウは落胆し深く息を吐く。
「じゃがまぁ……初めて見た時、出会った時、お主からは不思議な感じがした……こうビビビッとな。興味惹かれたのじゃ。それももしかしたらお主が別の世界から来たことと、関係があるのやもしれんのう」
「けっ……何だそりゃ」
シュウは気にいらない素振りをするも、そっと笑いを零したのは、アリスは気がつかなかっただろう。
洞窟内を進んでいくと、空洞が広がっていた。中央には神妙な壇があり、その中心には黒い小箱が置かれていた。
「あれじゃ。あの箱の中に戴冠の儀で用いる王家の首飾りが入っておる」
その瞬間、シュウは気配を感じた。シュウは慌ててバックステップを踏む。シュウの目前には小さな針が光った。
「おおお!? ど、どうしたのじゃ!」
シュウはアリスを床に下ろすと、一角の暗がりに突っ込んでいく。
「ひぃぃっ! た、助けてっ」
「おいてめぇ、今針を飛ばしたろ! 吹き矢か。目的は何だ! 王女の命か!」
シュウの向かった先には不審な男がいた。シュウは男に掴み掛かっている。
「シュウよ、いったいどうしたと言うのじゃ」
アリスはよろめきながらもシュウの元へと行こうとする。
「そこで待ってろ!」
暗がりでアリスにはよく見えなかったが。シュウは誰かを床に捩じ伏せている様だ。
「その者は誰じゃ? 何が起きておる」
「恐らくこいつは、王女のあんたを狙った暗殺者だ……おいてめぇ……何で王女を狙った?」
「だ、誰が言うものか! 口が裂けても俺は何も言わねぇ!」
その時、シュウの中で何かのスイッチが入る。
「ほうそうか、口が裂けても言わねぇか……だったらいいぜ……お前の口を裂いてやるよ」
「ひっ」
シュウは男の口に両手を入れると、横へ横へと広げていく。
「ひゃ、ひゃめろっ!」
「やめない」
「ぎゃああああああああ!!!!!!」
悲痛な叫びが空洞内に轟く。
「お、おい……シュウよ……あまり手荒な真似は」
「黙っとけ! こうでもしねぇと、何も吐かねぇだろ……だよな?」
「あああああああ!!!!! はへる! はへる!」
目前で繰り広げられる修羅場に、アリスは何も言葉が見つからない。
「ははっは! ははっは!」
「あん? 何言ってんのか分からねぇよ」
「ひひまふ! いいまふはらっ!」
聞き取れなくもない男の発言を聞いて、ようやくシュウは手を止めた。その手に付着した血液は、男の口が裂けかけていた事を意味する。
「はぁ、はぁ……」
「おら、早く言えよ……口裂かれてぇのか」
「わ、分かった! 言うからっ! …………め、命令されたんだよっ! この国の王子にっ」
その予想外の発言にアリスは一声目を上げた。
「そ、そんなわけがあるか! 弟が……クルスがそんなことを命ずるはずはないっ」
「そんなわけないってよ。おら、もう一回いっとくか? 口裂きをよ」
「ほんとだって! 信じてふへひょ~」
男は泣きながら助けを乞うた。
その後王家の首飾りを無事回収し、二人は城へと戻っていく。口が裂けかけた男は兵士に預けた。
(クルス……)
クルスの事はアリスの意向で手付かずとなる。
しかしどうにも拭えない疑念が、アリスの頭を支配していた。
シュウと別れ、その日の夜。アリスは自室のベッドで寝つけなくて困っていた。ふとベッドから起き上がり松葉杖を用いて部屋の外へと出ようとする。
「王女様? こんな時間へどちらへ?」
暗殺未遂事件があったため、部屋の外すぐには護衛の兵士がついていた。
「眠れぬから、一湯浴みしてこようと思ってな」
「では私もお供します」
「お主、妾と同じ湯につかりたいのか?」
兵士の兜の下は赤面する。
「そ、そういう意味でなく」
「冗談じゃ。なぁに、心配せんでも良い。不貞の輩が城内に潜んでおるわけがなかろう」
そう。城内の警備はしっかりしている。だからこそ違和感を抱いていたアリス。もしクルスが本当に自身を殺そうとしているならば、今日の暗殺者も容易に忍び込めたと推測出来る。
アリスは一人、浴場でない場所へと向かった。それはクルスの部屋だ。
クルスの部屋の前には兵士が配置されていなかった。よっていちいち兵士に断りを入れる必要もない。
アリスは部屋の前まで来ると、自身の動悸が激しくなっている事に気がついた。
「ああ、そうだ……」
部屋の中から誰かとの話し声が聞こえてきていた。アリスは恐る恐る扉に耳を当てる。
「間抜けな暗殺者で困ったよ、ほんと……母上の時にはあんなに上手くいったのに……ああ……ああ……次のチャンスは戴冠の儀だ。一瞬だけ王女が無防備になる。日程は分かるな? ……ああそうだ。頼むぞ。次こそ腕の立つ奴を用意してくれよ。王女が死なない限り、僕は王になれないのだからね。しっかり殺してくれ。母上と同じように」
アリスはクルスの部屋の扉を叩くことなく、自室へと戻っていった。





