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追われかぼちゃと勘当姫  作者: 憤怒の灰かぶり
プロローグ
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登坂修5

信じていたかった。信じたかった。アリスはクルスに対して絶大な信頼を置いていた。しかしいつからかクルスには命を狙われていた事に、アリスは大きなショックを受けた。


「クルスよ……お主は妾を……殺したいと思っておったのじゃな……それで王になりたいと」


思えばクルスの気持ちは何一つ考えてはいなかった。上辺だけを見て、その奥に何を考えているのかさえ分かっていなかった。このアルストロメリア王国は代々女王が統治してきた国だ。故に男の王は生まれづらい。それこそ王家の血統を持つ女を皆殺しにでもしなければ、男としての生を受けたクルスは王にはなれないだろう。


「妾は……妾はどうしたら良いのじゃ……」


アリスは思っていた。もし弟であるクルスの悲願が王になる事であるのならば、王位を譲ってあげるのが姉としての責務ではないのかと。ずっと王にはなれないとクルスから望みを奪ってきたのだ。その罰を受けるべきでないのかと。


「シュウよ……お主ならどうする………」


そんな時、アリスの頭に浮かんだのはシュウの姿だった。



シュウはアルストロメリアから出立していた。お礼金を小袋にたんまりと貰って、得意の空間魔法でラタリナまであっという間。


「確か、身分を手に入れるのに白金貨五十枚だったな」


シュウの持ち金は身分を買う金額を悠に越していた。身分を買うまでは、賞金稼ぎ(バウンティ)として生きる他ない。身分がなければ、町の一部出入りや買い物も不便な事もある。しかし日々質素に生きるシュウにとっては必要のないものなのかもしれない。だがこの世界で暮らすからには、念には念を入れておきたかった。



それから三日経ったある日の事だ。シュウはいつもの様に賞金稼ぎ組合(バウンティユニオン)で依頼書の張り出される掲示板を見通す。というのも、オウルドラゴンの素材集めの依頼が無くなってしまっていたからだ。都合のいい依頼だっただけに、シュウは困っていた。

そんな時、シュウの耳にとある話が聞こえてきた。



「なぁ見たかよ。昨日の大行列」

「ああ見たぜ。ありゃルノーラだろ、またどっかに戦争でもふっかけるじゃないのか?」

「あの方向は確かアルストロメリアだっけか。あの小国」


シュウはその会話をしていた男達の間に割って入る。


「おい、今の話、詳しく聞かせろ」

「ん? ああいいぜ。昨日な、依頼をこなしてる時に見たんだよ。ルノーラの軍が大行列作ってどこかへ向かっていくのをさ」

「で恐らく、向かったのはアルストロメリアってちっちゃな国だと思うんだよな。終わったなあの国。先日も女王が謎の病で亡くなったって聞いたしな」


シュウは考える。このタイミングでルノーラがアルストロメリアに攻め入る理由。そもそも端から攻め落とすつもりならば、女王が亡くなったという隙を狙えばいい話だ。


「でもよ、あそこには魔力抑制の結界を張れる王族がいるんだろ? それを生かした戦術で、国として生き残ってるって聞いたけど。ルノーラも魔法に特化した国だから、戦いづらいんじゃないのか?」


それを聞いてピンと来たシュウ。ルノーラが戦争を仕掛けるタイミング。そして王女の持つ魔力抑制の結界。戴冠の儀。ルノーラは恐らく、王女を暗殺した後にアルストロメリアへと攻め入るのだと。


「ちっ………めんどくせぇ」


シュウは受付に寄らず、組合ユニオンを後にした。



戴冠の儀。ついにその日がやって来た。恐らくこの日、自分は死ぬ。結局誰にも言えぬまま、その日を迎えてしまったアリス。弟のクルスはあれからも違わぬ笑顔で語りかけていた。その笑顔が何の笑顔なのか、考えるだけでも痛心する。


「姉上、緊張なされているのですか?」


姉を気遣い弟が声をかける。


「だ、大丈夫じゃ。心配いらぬ。心配いらぬから」


悲しい笑顔を弟に向けるアリス。その様子にクルスは鈍感にも気づかなかった。

バルコニーの下にはいよいよ大勢の国民達が集まっている。屋根から日の下に出れば、どこかから何かが飛んできて、歓声と共に倒れるのだろう。

アリスの心臓は大きく跳ねていた。


「クルスよ………色々とすまなかったな」

「姉上?」

「………」


アリスは意を決した。王子と共にようやくその一歩を踏み出す。バルコニーから一面見渡す限りの人集りが出来ていた。そしてアリスの胸騒ぎは最高潮を来たす。

途端、群衆がどよめいた。クルス王子の装着している腕輪に嵌められた魔法石が眩い光を放つ。


「ん? 何だこれは」


その瞬間、バルコニーは吹き飛んだ。



「きゃあああ!! 爆発したわ!!」

「王女様と王子様が!」


立ち上る粉塵。群衆はパニックを引き起こしていた。



ルノーラ軍はアルストロメリアを高地から見下ろし、時を待っていた。

ドカン。爆破の音が高原に鳴り渡る。


「よし、合図が鳴った。行くぞ! 全軍前進!」


爆破の音は王女と王子共に吹き飛んだ事を意味する。それを作戦開始の合図に、ルノーラはアルストロメリアへ。ルノーラの総隊長であるロウシュの指示に従い、ぞろりぞろりとルノーラ軍は地面を揺らし始めた。


「第一魔法部隊! 発射用意!」


王女と王子、王家の血統を持つ者亡き今、アルストロメリアは無防備な状態。よって魔法が通用する。


「放て!」


ロウシュはほくそ笑む。しかし、魔法は発動しなかった。混乱するルノーラ軍。


「何故だ! 王女と王子は先程の爆破で始末出来たのではないのか!」


暗殺の失敗。もしそうだとすれば、ここは引くのが定石。だがルノーラ帝国の陛下の期待に背く事は避けたい。ロウシュは迷っていた。



バルコニー爆破事件直後、王国郊外にて。


「シュウ……なぜここに」


アリスは爆破直前、空間の裂け目から現れたシュウに連れられて今に至る。


「いいか、聞け。今、ルノーラの軍隊が迫っている」

「ルノーラが? いったい何故その様な事態に。いや、それより今の爆発は何じゃ。妾……生きておるのか」


アリスは自身の身に起こった出来事に困惑していた。


「今の爆発は、王女のあんたと、王子を狙ったものだ。その目的は魔力抑制の結界。その能力を絶って、それからこの国に攻め入る事だ」

「ま、待て。急にそんな事を言われても追いつかん………そうじゃ……クルスは……弟のクルスはどうなったのじゃ」

「知らねぇ…………あの王子はルノーラと手を組んで、まんまと利用されたんだろう」


シュウは淡々と語り連ねる。


「………クルス……」

「自分の命を狙っていた奴の心配か?」

「妾の………妾の弟じゃ……妾に残された、たった一人の家族じゃ………気にかけるのが当然であろう?」


シュウは呆れる様に息を吐いた。

シュウの両親は家事で焼け死んだ。おかげで両親の死に顔も見る事すら出来なかった。だから家族がどれほど大事なのかはよく分かっているつもりだった。


「ちっ………まああんたのそういう所、嫌いじゃねぇ………おい王女、ルノーラの軍は俺が何とかする」

「何とかって……お主一人でか?」

「いや、二人だ。一つ頼めるか?」




シュウはアリスに頼んで、魔力抑制の結界の拡大をしてもらった。おかげでルノーラ軍との戦闘は肉弾戦。シュウの独壇場となる。


「何者だ! 貴様!」

「俺はアルストロメリアのシュウ・トサカだ!! てめぇら、こそこそ弱ぇやつ狙ってんじゃねぇよ。狙うんだったら俺を狙いやがれ! 喧嘩を売るならまず俺にしろ!」


ここに、ルノーラ軍との対決が繰り広げられる。



後日、式典はし直しとなった。ルノーラ軍はシュウの圧倒的な強さに、まさに手も足も出ずの状態であった。たった一人でルノーラ軍を追い返してしまった功績を称えられ、シュウも最上段でアリスの女王就任式の参加をする事になる。バルコニーは粉々に破砕してしまったために、城の屋上に場を設けられた。

そしてアリスの心配も虚しく、例の爆破直後に無惨になったクルス王子のバラバラ死体が発見された。クルスは王女の命を狙った。それは由々しき罪であったが、アリスの内心で不問となる。


「妾は此度女王として就任する。この国を平和に保つために尽力しようと思っている。国民達一人一人の声を大切に、自由で安全に暮らしやすい国を実現したい。そのためにまず、他国との貿易に力を入れたい。それを行うにあたり、先日エスプランドルとルノーラとの商談に足を運んだ。首尾は上々だ。妾はこのアルストロメリアを、五大国に並ぶ国として連立させようと思っている」


だが国民達の声は思う様にはならなかった。ルノーラとの関係は最悪じゃねぇのか。聞けばルノーラ帝国が王子を暗殺し、この国へ攻め入ろうとしたというではないか。ルノーラ帝国はこの国を狙っている。五大国に連立というのは無理ではないのか? もし次にルノーラが攻め入ってきたらどう対処するつもりだ。大きな戦争になって、自由も安全もなくなるんじゃないのか。そんな声が後を絶たない。


「おい聞け!」


見るに堪えなくなったシュウがアリスの前にしゃしゃり出る。


「ルノーラが攻めてきたら、そん時は俺がぶちのめす!」

「何だあいつは」

「ほら、ソルムが襲ってきた時に街を救ってくださった」

「聞けばあの方は、たった一人でルノーラを追い返しちまったって話だぜ」


がやがやと煩く止まない声にシュウはイライラを募らせる。


「うるせぇ! ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ! ルノーラだろうが魔物だろうがこの俺の目が黒い内は、ぜってぇこの国に手出しさせねぇ! この俺がこの国の抑止力になってやらぁ! 以上!」


こうしてシュウは正式にアルストロメリアの人間となる。アルストロメリアの誉れ高き腕輪を腕に、その名を世界に広める事となる。




「ん! うめぇ! これだよこれ!」


そしてシュウの知識を元に生まれたのが、後にホヅミとリリィが口にするカレーライスである。

飛ばしすぎましたかね。

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