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追われかぼちゃと勘当姫  作者: 憤怒の灰かぶり
プロローグ
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登坂修3

アリスの懇願により、シュウは仕方なくといった様で話を聞いた。何でもアリスはアルストロメリア王国の王女にあたる人物らしい。王女であればそれなりの礼が期待出来ると開き直って、シュウは護衛の任務に就く事となった。だが元々護衛をしていた兵士達の眉は潜まる。


「何故ですか! どこの馬の骨とも知らぬ輩を同行させるなど、私は反対です!」

「まあそう言うでない。お主も見たじゃろう。この者の強さを」


護衛の兵士達は反対をしていたが、アリスのわがままで押し切られてしまう。


「実はの、大切な商談に向けて慣れないヒールを履いたために、足を捻ってしまってな。ポキリじゃ。いやぁ、ほんとうにお主の様な者が通りかかって助かったぞい。どうか最後までよろしく頼むの」


こうしてシュウはアリス一行に連れられてラタリナの街へと向かう。ラタリナの街には国と国同士での取引などが行われる議事堂が存在していた。五大国を繋ぐ様に位置している事から、有名な街である。そんな街だからこそシュウは最初の拠点にしたというのもあった。



商談が終わり今度はアリスをアルストロメリア王国まで護衛する事となる。アルストロメリア王国までの距離は少し遠い。恐らく到着頃には日が暮れてしまうだろう。空間魔法で行けばすぐだが、シュウの空間魔法でとてもでないが、馬車ごとの輸送は難しい。その上アルストロメリア王国には行ったことがなく、空間魔法の指定をする事が出来ない。故に歩かざるを得なかった。


「シュウよ。今日は城へ泊まって行くがよい。部屋を用意させるぞ」


とアリスは道すがらにシュウへ提案を持ちかけていた。断る理由もなく、シュウは快諾する。



王城へ着く頃には辺りは真っ暗になっていた。王城の中へ入る際に、アリスは兵士の一人に背負われて馬車を降りる。


「お帰りなさいませ、姉上」

「帰ったぞクルスよ、何事も無かったかの?」


出迎えたのはアルストロメリア王国が一王子のクルス=アルストロメリアだった。輝く程にきめ細かな金色のショートボブはいかにも王族らしい。藍色の正装に身を包みにこやかにアリス一行を一瞥する。


「そちらの方は?」

「ああ、この者は今日限りで雇った者じゃ。実は道中賊に襲われてしまった所をこの者に救われての。その腕っ節を見込んで護衛を頼んだのじゃよ」

「それはそれは、此度は姉上をお守り頂き感謝致します」


華麗に体を折って会釈するクルス。その満面な笑みは社交辞令だとしても、些か不気味に思えたシュウだった。



アリスと分かれたシュウは城の女中に連れられてとある一室へと向かう。一室に入るとそこは、今まで安い宿屋暮らしには慣れない程に煌びやかで、質の良さが空気を伝って漂ってくる様だった。薄汚さの微塵も感じられない行き届いた部屋で、自身には勿体なくも思うシュウ。


「マジかよ……これで礼もくれるってんだから……まあいい話を受けたな」


シュウは大きな羽毛布団に体を埋めると、うたた寝を始める。そして何十分かした頃に食事が運び込まれてきた。それも安い宿屋で食べる食事とは比べ物にならないくらいで、クロッシュの下には光沢を放つ料理が勢揃い。あまりの待遇の良さにはシュウはとても気を良くしていた。となるとシュウは全て食べ終わる頃にある考えを巡らせる。その考えは、後に食器を回収しにきた女中へと打ち明けられた。


「なあ、聞いていいか?」

「はい、なんでしょう?」

「カレーライスってあったりするか?」


見た事もない豪華な料理ばかりでとても満足していた。だがやはり食べ慣れないのは否めない。そこで訊ねることにした。シュウの大好物はカレーライスだ。もしあるのであれば、明日の朝食にでも出していただきたいものだとシュウは考えていた。


「かれーらいす? とは、いったいなんでしょう?」


その反応を見てがっくりと肩を落とすシュウ。やはりこの異世界の食文化には日本のものが存在しない様だった。


「お客様、入浴の準備が出来ております」

「んあ? あーいいよいいよ。俺そういうの入んねぇから。水魔法でちゃっちゃと洗うからよ」


シュウはこの世界に来てお風呂の問題に直面した事があった。だが幸いシュウは水魔法を使えると知る。この異世界では水魔法が使えると、洗濯も体の洗浄も自在だという事が分かった。だから日々、風呂を利用すること無く水魔法で清潔さを保っていた。


「申し訳ございません。アルストロメリア王国では魔法の使用が禁じられております。以前までは女王様のお力だったのですが、今は王女様のお力で、この王国には魔物を遠ざける結界とは別に、魔力を抑える結界が張られています」

「あん? 何だそりゃ」

「もしよろしければ、お試しになられてください」


言われてシュウは試しに水魔法を唱えてみた。


下位水魔法スプラッシュ


いつもはこれで丁度酔い飲み水が具現されるのだが、全く何も起こらなかった。


「尚、魔法は発動しませんが小さな術式程度であれば作動します」


シュウは仕方なく女中の勧めにより入浴する事となる。



アリスは一人、書斎に篭って本日の取引の資料をチェックしていた。小難しい文章に眉を潜めながら、じっくりと目を通すアリスの耳に、軽快なノック音が入る。


「入れ」

「失礼します、姉上」


やって来たのはアリスの弟であるクルス王子だった。


「本日の商談は上手くいきましたでしょうか? 姉上」

「うむ。バッチしじゃ。このままいけば、母上が望んでいたエスプランドルとルノーラとの連立も夢ではないかもしれんの」

「それは何よりのご進捗ですね」


忙しそうに喜々とするアリスを見てさも嬉しそうな表情を見せるクルス。


「姉上、戴冠の儀、心待ちにしております」

「うむ」

「では、失礼します」


クルスは書斎を後にした。


「このアリス=アルストロメリア、亡くなった母に代わり、何としても王としての責務を果たせる様にならねば」


アリスの母、女王は謎の病に斃れた。つい先日の事だ。急な出来事であったために、王の座は今は空席だ。一刻も早くと新たな王として推薦されたのは王女であるアリス=アルストロメリア。今は女王としての仕事を成すべく、奮闘中である。



次の日は魔物の襲撃から始まった。それは最近になってちまたに出現する様になったソルムという狼の魔物だ。クラスはHハイで、当然王国の兵士達は太刀打ちするすべもなく、一方的にやられる事となった。だがソルムが結界を破ったお陰で、シュウは固有能力であるスーパーパワーが使える。飛んでいくように現場へと駆けつけたシュウはソルムと対峙した。


「おい君、早く逃げないか!」

「あん? うるせぇ。逃げんのはお前らだろ。ソルムか……ひっさしぶりに腕が鳴るぜ」


暴れるソルムの猛攻に、果敢に立ち向かうシュウ。防戦一方だった形勢が逆転する。



ソルムをたった一人で斃してしまったシュウ。兵士や逃げ遅れた人々は、一時呆気に取られていた。そしてそれは一つの歓喜の叫びを皮切りに、喜びが波及していく。

シュウはその後兵士達の宴に参加する事となる。アルストロメリアの一英雄として持て囃され、祭り上げられた。

そんな折に、王女であるアリスからの呼び出しがある。


「シュウよ、此度は国の危機を救っていただき感謝する」


アリスは書斎の上座で頭を下げた。その机には積み重なった書類や散らばった書類の数々が存在している。


「それで、その腕を見込んで頼みがあるのじゃ。お主、正式に護衛になってはくれぬか?」


王族の正式な護衛になるというのはとても名誉な事であり、誰彼構わずなれるものではない。もちろん直属という事もあってそれなりの権力も有する事が出来る。断る理由もないはずだとアリスは自信に満ちた言動をしていた。


「いや、それは遠慮しときます。俺堅苦しいのとかそういうの苦手なんで」

「…………な、ななな」


アリスはそんな馬鹿なと口をあんぐりと空けてしばらく固まっていたがすぐに気を取り直す。


「そ、そそ、そうか……それは残念じゃの………であればせめて、もう一度だけ護衛を頼まれてはくれぬか? お主も知っての通り、今この国は王が不在じゃ。それで近々妾の戴冠の儀が執り行われる事になっておっての。その証として、王家の紋章をとある洞窟へ取りに行かねばならぬのじゃ。妾は足が今不自由。じゃからお主に一緒に行ってもらいたい。どうかの?」


シュウの反応をおずおずと確認しながら、今度は自信なさげに話すアリス。


「それならいいぜ。その代わり、礼をたんまりくれよ」


こうしてアリスとシュウの二人は明日、王家の洞窟という所へ向かう事となる。


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