登坂修1
喧嘩なら誰にも負けない、橋川中学3年の登坂修はいつも他校の不良達と喧嘩に明け暮れていた。傍若無人に多勢を蹴散らし、様々な校に通う不良や道を外れた年上の若者達にその名は知れ渡る。趣味は喧嘩、好きなものは喧嘩、といった様に腕自慢を誇りに生きていた末についたあだ名が、橋川の龍。そんな修は今日もまた喧嘩に走る。だがただ横暴に喧嘩をしている訳では無い。ちゃんと喧嘩の前には断っている。そうでない場合、ある時は集団虐めの目撃や、ある時は恐喝に遭っている社会人を助けるために進んで慈善活動と銘打っている。好きな喧嘩をして感謝されるのだ。それで目をつけられてあちらから喧嘩の話を持ち込まれた日には、スカッと気分を良くしている。
「ひぃぃ! も、もう許してくれよ」
「俺達が悪かった。悪かったよ!」
喧嘩は相手が倒れるまでやる。降参なんてつまらない。こうしてへっぴり腰になった相手を見るのはもう飽きた。もっと刺激が欲しい。消化不良に終わらせたくない。修はそう常々思っていた。
ある日の夜、修は小腹が空いて自宅から小銭を持って外へ出た。暗い夜道は危ないと吐かすのはひ弱な人間だけ。修にとっては夜こそ、危険の潜むわくわくとさせる空間だ。冷たい風が心地よい。虫達が不気味にホラー演出をしてくれている。何か楽しみはないかと暗闇の中目を光らせて辺りに気を配りながら、修はコンビニへと向かっていた。
コンビニの前ではだらしなく着こなした学生服の人間達がたむろして喫煙をしている様だ。だが修を見かけた一人が仲間に呼びかけて怯えた様子で足早に立ち去っていく。それに舌打ちをしながら、シュウはコンビニの中へと入っていった。
「いらっしゃいませ、こんばんは」
笑顔で挨拶をするコンビニ店員を尻目に、店内の奥へと進んでいく。ウォークインの扉を開けて飲み物を一つ手に取り、ぐるりと回っておにぎり売り場に向かい、シュウは適当におにぎりを二つほど掴むとレジへと向かった。
「合計406円になります」
金額ちょうどの小銭を雑にトレイへ散らし、店員の挨拶に耳を傾けもせずに商品を受け取り店外へと向かって歩いていく。
「ありがとうございました!」
修はそのまま家には帰らなかった。どうも気が収まらず、気分転換にでもと近くにある海の堤防まで向かった。
近くまで来ると潮の匂いが風に乗って漂ってくる。今日は海でも眺めながら軽食といこう、そう決めた。
「はぁっ、はぁっ!」
ある男の荒い呼吸が耳についた。慌ただしく足音を立てて、どうやら修の背後からこちらへ向かってきているようだ。
「あのっ、お願いですっ、助けてっ」
振り向くと酷く焦った様子の男がいた。格好はスーツにシャツと会社勤め帰りの様な格好をしていた。
「あん? どうしたんだ?」
「追われてるんです。どうか助けてっ……来た!!」
男は修の背中に隠れる様に肩を窄める。前からは複数人の黒服達が走って来た。
「おい、そこのお前。どけ!」
「よくもここまで逃げて来たもんだな。もう逃がさねぇ」
黒服達は殺気立っていた。背後にいる男が余程の事をしたのだろう。しかし修の心は歓喜に震えていた。待ちに待った面白い事がやってきたのだ。おまけにがたいの良い大人達を相手取る事が出来る。修は腕を鳴らした。
「おいおっさん。この俺が助けてやんよ」
「何でもいい! 僕はまだ死にたくないんだ!」
修は黒服の一人に飛びかかった。一発拳を振るうと他の黒服達は唖然とする。
「このガキ!」
咄嗟に状況を把握して修を押さえ込もうとする一人の黒服。だが大人の力をものともしない修の怪力は簡単にそれを振り払う。
「こいつすげぇ力だ……お前ら! 全員で押さえ込むぞ!」
相槌を打つと全員で一斉にかかる黒服。修の体に覆い被さる様に黒服達が囲む。だが修はそれすらも怪力で振り払ってしまった。
「「「ぐああっ!」」」
修は再び果敢に攻める。一人の黒服には足払いをしてバランスを崩した所を猛り殴る。背後に回った黒服の一人に対して横に旋回し、回し蹴りを首元にお見舞いする。更に一人の黒服には堂々と正拳突きを繰り出し、お腹を抑えて蹲るその黒服。
「いやっほー! 楽しい!」
「くそっ、調子に乗るなよ」
その時修の目に入ったのは黒光りした何かだった。それが灯台の光に照らされて、はっきりと銃であると認識した時は既に遅かった。空気を破裂させる銃声と共に、修は意識を失った。
「う………うう……ここは……どこだ?」
修は起き上がるとそこは見知らぬ荒地だった。人の姿は見当たらず、見渡す限り枯れた土地。おまけに乾燥していて、日照りが汗を誘う。
修はとりあえず歩く事にした。何もしないよりは良いからだ。ただひたすら歩き、歩き続けた。
こうなる前の記憶はある。しかもはっきりと。修は自身が銃で撃たれた事を認識していた。けれどどこも傷口は見当たらない。痛みもない。つまり今いる場所は死後の世界という場所なのだろうかと思ったりもする。
「水……喉が乾いた」
もう何時間か歩いた頃だった。目先に影が見える。もしかすると水を分けてくれるかもしれない。シュウは走った。だが次第にはっきりと映し出されていく影は、人の形をしていなかった。
「なんだ……ありゃ」
それは食虫植物が蔓を足にして歩いている様な見た事もない生き物だった。あちらも修に気づいて、唸り声を上げながら向かってきていた。
「あん? なんだよ……やんのかよ」
修は怖がる素振りも見せずに不敵に笑ってみせた。拳を握って待ち構える。
「キシャアアア!!」
修は拳を振り抜いた。すると足元の硬い地面は凹む様に地形を変え、拳の直撃した食虫植物は派手に弾け飛んだ。
「何だ? いつもより……力が」
修は気づく。自身の力が尋常でない程に強くなっていることに。そして敵を粉砕した事に喜びを覚えた。
「おっ、水だ」
弾け飛ばした食虫植物の、残った茎の部位から水が溢れている。修はすぐさまその水にありついた。
「キシャアアア!」
「シャアアア!」
見ると辺りからは同じ様な食虫植物の化け物が集まってきていた。お腹を空かせているのか、どうも修を食べようとしているらしい。修は濡れた口を拭って拳を掌に殴りつける。
「面白ぇ。俺は今喉が乾いてんだ。ちょうどいいなぁ! おい!」
無慈悲な修の独壇場が今ここに発生する。





