勇者と魔王5
勇者の街カルベラ。
カルベラが勇者の街と言われる様になったのは、昔の事。凶暴凶悪な魔物による支配によって陥った、世界の危機を救ったと言われる先祖の英雄を讃えて、人々は勇者と呼んだ。勇者は人々に希望を与えた。魔族を悪とし、魔物を敵とする勇者の教えが現在にまで息づいている。
勇者の一生は明かされていない。それは勇者が次代に復活するであろう魔物の魂を懸念して、自身に封印を施したからであった。そしてその封印は今、解き放たれようとしている。
「偉大なる勇者様。先日より魔物率いる魔王がこのカルベラの街へと向かってきています。どうかお力添えを」
召喚士の手に握られたのは、ソウルリング。勇者の生きる魂を留めておくものである。だが勇者の肉体は当の昔に朽ち果ててしまった。故に肉体の媒介として選ばれたのは、異世界から召喚した一人の人間。古来より異世界から呼び寄せた者には、奇抜な能力が備わっていると言われている。
「アルシアノソールジャーアルシアノソールジー」
斎場の祭壇に寝かせた異世界人へ、ソウルリングに封印された勇者の魂を徐々に送り込んでいく。リングからは光の雪が溢れる。
「きぇーい!!!」
リングからは何も出なくなった。それは魂を全て移しきった事を意味する。
後は勇者の復活を待つのみ。
「ん………んん。むぅ………ここは………どうやら眠りから覚めた様だな。という事は、魔王が復活したという事か」
「勇者様! お初にお目にかかります。私、召喚士の者でございます」
「ほう、お主が。上手くやってくれた様だな。私の魂を使って呼び寄せた片割れは何人いる?」
祭壇から起き上がると、自身に着せられた衣装や体の関節具合を吟味する。そして祭壇の下で跪く召喚士を満足気に俯瞰した。
「はい、ただいま七人ございます」
「そうか。ならば全員を魔王軍との戦いに参加させよ」
「はっ」
召喚士は暗闇に紛れて姿を消した。
リリィと別れて、早数日経った。現在アルストロメリアにて待機中のホヅミとシュウ。ホヅミは無事だが、シュウの怪我はすぐには治せる者がいなかったために、療養に時間を使っていた。本来であればすぐに治っていたはずだった。治療が長引いたのは、シュウの悔しさのせいだった。魔王ラーミアにいとも簡単に圧倒されてしまったシュウ。頼みのスーパーパワーも当てられなければ意味もなく。その後のシュウは一言で言うに、荒れていた。
一命を取り留めたゼロやユキはホーミストに残り、復興のために尽力する事となる。火の手が広範囲に亘っていたために、民家や畑はほとんどが焼け尽くされていた。ホーミストは鎖国化を図っているために、己の力で復活を遂げるしかない。自分達がやらねばとゼロもユキも意気込んでいたのをホヅミは覚えている。
「どうも、私は召喚士のケアラと言います。あなたがた勇者を、この世界と異なる世界からお呼びしたのは、私です」
ある日召喚士という者がアルストロメリアへとやって来た。何でも魔王の軍がカルベラという街に迫ってきているために、力添えを戴きにきたとの事だった。いずれ来る魔王の復活に備えて、勇者として異世界からホヅミ達を呼んだのだ。勇者は他にもいる様で、シュウやホヅミを入れて七人。
「今まで一度の連絡にも至らず、申し訳ありません。私共召喚士の方で手違いがありまして、本来であればカルベラに一斉召喚するはずが、時系列も位置もバラバラになってしまいました。ですがこの度、原初の勇者様のご復活により、位置の特定に至る事が出来ました」
「しかし、シュウが勇者の称号を持っていたとはの。通りであれほどの力を持っておる訳じゃ」
「あん!」
どうもアリスはシュウから勇者である事を聞いていなかった様だった。
「どうかお二人共、力をお貸しください」
深々と頭を下げるケアラ。
「けっ! 別に構わねぇぜ。けどよ、どうして俺達をこの世界に呼びやがった。つうか何でわざわざ異世界から呼ぶ必要があったんだ?」
シュウの尤もな意見にホヅミは賛同の意を表する。
「それは、異世界から呼び寄せた者には、特殊で人並外れた能力が与えられると言います。勇者として相応しい能力を備えた者にしか、勇者の荷は負えません」
手当たり次第に異世界から呼び込んだという訳だろう。勇者という役割に選ばれてしまった人間は、シュウの様なタイプの人間でなければいい迷惑だろう。かく言うホヅミも戦いは好きでない。今でこそ魔物との戦いに慣れてきたのだが、それがいきなり魔王との戦いだと言われたら、逃げたい気持ちが募るばかりだ。何より、リリィがいない。ぽかりと空いた心の穴。言い様のない不安感。ずっとリリィの存在に頼りきりだった。リリィがいて当たり前だった。そんな今のホヅミは、この場に立っている事すらも辛いだけであった。
「魔王の軍はカルベラより、東、西、南と分かれて進行しております。中でも南はアンデッドの軍です。浄化魔法を持つホヅミさんに担当していただきたいです」
アンデッドはホヅミにとっては触れるだけでも倒せる魔物だ。だが軍勢となるとやはり不安が大きいホヅミ。
「ホヅミよ。実はの、南の軍の魔王なんじゃが………」
アリスは口を重くして言いづらくしていた。
「偵察隊を向かわせたのじゃ。それでの………南の魔王には、ある者と風貌が似ておる者がおったのじゃ………その」
はっきりとしないアリスに、シュウがイライラを募らせていたのか、早く答える様に促した。
「早く言え」
「分かっておる………ある者とは、リリィの事じゃ」
「リリィが………」
その時、決意めいたものがホヅミの中で芽生えた。
リリィがカルベラの南からやって来る。けれどもしリリィと他の勇者が鉢合わせしてしまえば、戦いになる事は避けられないだろう。
「行かなくちゃ。もうリリィに、誰かを殺させたりしちゃいけない」
リリィは一度ハイシエンス王都を滅ぼしてしまっている。その時の重責に苦しんで、ずっと後悔の念に苛まれていたリリィを傍目から見て知っていた。もう二度と、リリィの苦しんだ顔は見たくない。そうホヅミは思っていた。
「策はあるのか」
ただリリィの元へ行っても無駄だ。説得を試みるつもりでも、リリィに伝わらない可能性もある。それでホヅミには一つ、試してみたい事があった。
「シュウ、お願いがあるの」





