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追われかぼちゃと勘当姫  作者: 憤怒の灰かぶり
第四章
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勇者と魔王2(魔法講義ちゃん休止中)

真っ白な毛皮にカジュアルなファッションを決めた、赤いくりくり瞳のうさぎさん。


「ゼロ! 久しぶり!」

「リリィさん、お久しぶりです!」


嬉しそうに耳を立てて歩み寄ってくるゼロ。主に野菜類を籠に入れて持っている所を見ると、買い出しの途中か何かだったのだろう。


「それにしてもさすが皆さんです。霧の中を通って来れたんですね!」


感心を露わに、ゼロは三人を見渡す。

霧は心に淀みのある者だけが幻覚に侵される。何も無かったという事は、三人の誰も心に淀みがなかったという事だ。


「おいてめぇ、この街は一体何なんだ?」

「シュウさんも、お久しぶりです」

「挨拶はいい。ここは一体何なんだって聞いてんだ」


がんを飛ばす様な乱暴な口調で、変わらぬ調子のシュウ。シュウは元々魔物であるゼロに対して穏健な態度を取ってはいなかった。だからなのか、それともいつもの平常運転なのかは分からないが、シュウの心底は計り知れない。


「あはは………この街はホーミストという街です。俺達魔物や、魔族、人間が分け隔てなく生活出来る様にと築かれた街ですよ」

「んな事は見りゃ分かんだよ。俺が聞いてるのは、何でこんな街が存在してんだって話だ」


喧嘩腰に問いかけるシュウ。その態度には苦笑を零すしかないゼロだ。


「何でも人間魔族魔物の御先祖様が設けられたそうなんです。俺も詳しくは知らないです」

「ちっ」


物を訊ねる時はある程度の礼儀は弁えるべきだろうと、ホヅミは思いを口を出さずに仕舞いこんだ。


「あ、そういえば俺の家の倉庫に歴史書があったはず。皆さん、もし詳しく知られたいなら、俺の家へどうですか? もうすぐお昼ですし、話を交えながら一緒に食事でも」

「食事!? 食べる食べる!」


食いつきのいいリリィだ。


「それじゃあ俺に着いてきてください。」


こうして三人はゼロに連れられ、ゼロの母屋へと往来を行く。歩けば歩くほどに分かる、種族間の分け隔てのなさ。ホヅミが経験してきたホーミストの外では、魔物に対しても、魔族に対しても、人間の差別心はあまりに酷かった。その逆も然りだ。特にリリィは魔物と人間のハーフ。その事で何かにつけてはリリィは酷い目に合っていた。もしかするとこのホーミストという街は、リリィにとってもホヅミにとっても最も住みやすい街なのかもしれない。

しばらく歩くと往来を外れて、やや静かめな住宅街へと足を踏み入れる。畑や家があちこちに見られて、生活の跡が豊満だ。


「ここが俺の家です」


木造の一軒家がそこには立っていた。左隣には人参畑がありいかにもといった様子だ。

ゼロは柵の扉を開けて中へと入っていく。すると一軒家の右隣の小屋から誰かが出てきた。


「ただいまユキ!」

「お兄様! おかえりなさい!」


木のバケツに大量の水を汲んで歩いてきたのは、さくらんぼのアクセサリーが可愛らしいドレスを着込んだ、赤いくりくり瞳のうさぎさん。ゼロと瓜二つの女の子だ。


「皆さん、紹介します。俺の妹です」


ゼロはユキと呼んだうさぎさんに手を差して紹介する。


「こんにちは。ユキと言います」

「ユキ、こちらの方々は俺の命の恩人。特に彼女、リリィさんは共に脱獄を図った大恩人なんだ」

「まあまあ、そうですか。その節は兄が大変お世話になりました」


三人はゼロとユキに家の中へと案内される。



テーブルの椅子が足りず、倉庫からゼロが椅子を持ってきていた。三人は横一列に腰掛けると、その前にはユキが持ってきたひんやり冷たいミルクが運ばれた。


「良い妹さんだね」

「え? そうです。ユキはとっても気が利くんですよ」

「まあ、お兄様ったら」


リリィはこっそり耳打ちすると、ゼロは喜んで答えた。その屈託のない答えにはユキも頬を赤らめて照れている。


「それじゃあ俺は、倉庫の方で歴史書を探してきます。どうぞゆっくりしていてください」


そして三人は待たされる。

お腹を空かせたリリィはミルクを一気に飲み干して、シュウはなぜだかミルクに手をつけない。どころかじっとミルクを睨みつけては、料理の支度に勤しむユキを睨みつけている。警戒しているのだろうか。そんな二人の様子を見比べながら、ちみちみとミルクを口に含むホヅミだ。


「ふんふんふーん。ふふんふーん」


ユキは奥の台所で楽しそうにコトコトと音を立てて野菜を切っている。首を伸ばして覗いてみると、どうやら人参を切っているようだ。うさぎが人参の料理を作っている絵面。ホヅミにはどうしてかこうしてか、それが面白く思えてならなかった。


トントン。


ふと、家の扉からノックの音がする。ユキは料理に夢中で気づいていない様だ。


トントン。


シュウはノックの音に見向きもしないでミルクとユキを睨みつけている。リリィはノックに気づいて、どうしようかとまごついている。


トントン。


「あのぉ、ユキさん。来客です」


踏ん切りのついたホヅミが声を上げた。


「ん? はぁーい。今行きますよー」


ユキは料理の手を止めて、扉の方へと向かっていった。

カチャリ。

扉を開けると、現れたのは狼の顔だ。ユキの頭上から覗かせている。


「あ、ノックさん」


ノックと呼ばれたのはウルガルフによく似ている。けれど人型をしている所を見ると違うのだろう。シュウは変わらず警戒心むき出しな視線を送っている。リリィもその姿には少なからず驚いた様だ。


「ユーキみゃん。今日も綺麗だね。そんな綺麗な君に、これ、似合うかと思って」


ノックは背後から赤いチューリップの花束を取り出してユキへと手渡す。


「まあ綺麗、ありがとう。あ、もしかして。もうすぐお昼だから、食事が目当てなんでしょ?」

「あ、バレちゃった? ユキみゃんさっすが〜」


今にもユキが食べられてしまうのではないかと内心思ってしまっているホヅミ。そんな思いと裏腹に、ノックと呼ばれる狼は甘々な口調で語りかける。


「良いわ、中へ入って。今食事の用意をしている所なの」

「ほんとに!? やったぁ〜!」


まるで子供の様に態とらしく燥ぐ不自然な素振りを見るからに、あれは惚れているな、とホヅミは確信した。


「でもね、今お客さんが来てるの。だからお行儀よく待っててね」

「はーい! ………って、お客さん?」


ユキは台所へ戻っていくと、三人とノックの遮りはなくなる。


「あん?」


シュウとノックは目があった。


「お、おとこぉ〜!?」


口を大きく開けて、開いた口が塞がらないと言った様だ。目が点になっている。


「ゆ、ゆゆゆゆゆっ………ユキみゃんが、男を連れ込んでるぅ〜っ!!!!!」


ノックの背筋には衝撃が走った。


「お前! いったい何もんだ!」

「あん? 何だてめぇ」

「どこから来た! 何の目的だ! まさかユキみゃんを我がものにしようと」


シュウとノックはメンチを切り合う様に、その視線と視線がパチパチと音を立ててぶつかり合う。


「お前! 今から俺と勝負しろ!」

「あん? 喧嘩か? おういいぜ。やろうじゃねぇか」


まずい、と思ったホヅミは二人の間に割って入るが、互いに意識し合ってしまった二人の視線は外れない。


「ノック!」

「はいっ!!」


ユキの声に背筋をぴんと伸ばして固まるノック。


「お行儀よくして!」

「はいぃっ!!」


ユキが一喝いっかつを入れてその場は収まった。



それからゼロがとある歴史書を抱えて戻ってきた。


「おや? ノック、来てたのかい?」

「あ、これはこれはお義兄様! お邪魔させていただいておりまぁす!」

「ノック、お義兄様は止めてくれ」


そんな他愛ないやり取りが行われると、いよいよゼロは歴史書を開いて、シュウ達の前で朗読して見せた。ゼロは主要なページだけを読んだらしい。内容はこうだ。

古来人と魔族と魔物は、種族間分け隔てなく暮らしていたという。けれどある時、魔王と呼ばれる存在が現れ、人と魔族と魔物を戦乱の世へと陥れたのだという。互いに争わせ、奪わせ、混沌に染まった世の中で、立ち上がったのが魔物の戦士達。戦士達は世界的に起こった大戦争をしずめて、魔王との戦いに赴いた。しかし魔王の正体とは、魔人であった。魔人の元は人間であり、幾度に渡り魔族や魔物の命を媒介にし実験を行い、そして生まれた。魔物の戦士達は魔人との戦いに破れ、魔王の所業を擦り付けられ処刑される。時代の真実。魔人の画策により、人と魔族と魔物の亀裂は再び広がってしまう。


「以上が、この歴史書の大まかな内容みたいです」


ゼロは話し終えると本を閉じてテーブルの上に置いた。


「皆さん、お食事の用意が出来ましたよ」


ユキによって運ばれてきたのはシャリシャリ人参だ。


「うわぁ美味しそう。ボクお腹ペコペコだよぉ」

「私も運ぶの手伝います」

「あ、ボクもボクも」


ホヅミとリリィは立ち上がってユキと共に台所へと向かう。シュウはというと仏頂面で何かを考え込んでいる様だ。ゼロの隣にいるノックは腕を組んであたかも分かった風に何度も頷いている。


「あ! 俺も手伝うよ! ユキみゃん!」


後から遅れてノックは続いた。



料理が運ばれると、皆席について合掌する。


「「「「「いただきます!」」」」」

「ん〜美味しいぃ〜っ!」


先に手早く食事を口に運んだのはリリィだ。かけ込む様にして食事を楽しんでいる。よくお腹の空く子だなぁと、自分の体に疑念を抱くホヅミ。


「やっぱりユキみゃんの手作り料理は美味しいなぁ。美味しいし、ユキみゃんは可愛いし最高だよぉ」

「もう、止めてよノック」


皆が楽しく食事にありつく中、一人難しい顔をして未だに食事にもミルクにも手をつけていない者がいた。


「シュウ? 食べないの?」


試しにホヅミは聞いてみる。


「あん? もし毒が入っていたら、この場で全員陀仏(だぶつ)だろ」


その発言に皆の手の動きは止まる。


「そんな……毒なんて」


ここで可哀想なのはユキだ。せっかく皆の為に一生懸命作った料理を疑われているのだから。


「お前! やっぱり表に出ろ! 俺と勝負だ!」

「止めろノック。シュウさん、俺達は見ての通り魔物です。魔物の作った料理が疑わしいのは、人間であるあなたならば仕方ないかもしれません」


楽しげな食事が不穏な空気へと変わっていっている。それを感じ取ったホヅミはシュウに促す。


「ねぇシュウ、ユキさん一生懸命作ってたよ? 食べてあげなきゃ」


じっと考え込んでいたシュウは、ホヅミの言葉を聞いて箸にゆっくりと手をつけた。そして箸でシャリシャリ人参をひとつまみ。徐々に口に運んでいく。

パクっ。

その場の皆がシュウの咀嚼を固唾を飲んで見守る。


「美味い」


その言葉にぱっと晴れやかな面持ちになるユキ。不穏な空気も吹き飛び、再び楽しい食事が始まる。



食事を終えると、ゼロから提案があった。


「もし良ければ、今日一日だけでも泊まっていってはいかがですか? リリィさん達の色々な話も聞きたいです」

「私も聞きたいです。外の世界の話」


外の世界とはミラージュフォレストの外という事だろう。つまるところ、ユキはこのホーミストから出た事がないのかもしれない。

リリィとホヅミは泊まりたいのは山々だ。だが決定権は引率であるシュウにある。二人は物欲しそうな目線でシュウを見詰めた。


「あん? 何だよ。別に構わねぇぜ俺は。調べたい事もあるしな 」


シュウの許可もあり、三人はホーミストで今日一日滞在する事となる。



ホーミストには宿屋がないらしい。ミラージュフォレストの霧のせいで、旅をする者は誰も近寄らないのだと言う。そんな中で宿屋の営業が儲かるはずもないのだ。それを考えても、今回のゼロの提案は、シュウにとって都合の良いものだったのかもしれない。

シュウは一人、家を出て調査へと出かけてしまった。残るホヅミとリリィは、ゼロ達と談笑。ハイシエンス王都の戦争の後、ゼロと別れたあの日を遡って、順を追って旅路について話していく。


「そんな事があったんですね。とても大変でしたね、リリィさん、ホヅミさん」


思い返してみれば、僅かな期間でほんとうに色々な出来事があった。リリィからしてみれば、二度も捕まったのだからいい迷惑だろう。それに何より、この旅で一番辛い思いをしているのはリリィに違いないのだ。笑って話を流すリリィだが、内心大きな傷を負っているに違いないと、ホヅミは思う。


「そうだ、リリィさんとホヅミさんに、ホーミストの街を案内しましょう。どうです?」

「え! ぜひぜひ! ホーミスト食いだおれツアーだ!!」

「リリィ、まだ食べるの?」


来客を考慮したユキの料理の量は少なくはなかった。多めに作り過ぎたと言ってもおかしくない量ではあったが、ほとんどをリリィやノックが食べ尽くしてしまっていた。

リリィの体は自身の体であるというのに、いったいいつそんな大食らいな胃袋を手に入れたのだろうと、ホヅミは不思議に思うばかりだった。



ホーミストの街は交易はない。だから質素な暮らしかと思えばそうではない。他とのやり取りがないからこその自給自足に特化した数々。美味しそうな香りを漂わす屋台が、往来を活き活きとさせている。


「おじさんこれちょーだい!」

「あいよ!」


リリィは早速何かを買っていた。実をいうとリリィもホヅミも、アルストロメリアから給金が少し出されていたのだ。以前にアンデッドドラゴンを倒した時の賞金は、ルノーラ帝国の兵士に奪われてしまったので持ち金はさほどないが、屋台で使うお金くらいは持っている。ホヅミもちょうど小腹が空いてきたので、おやつ感覚で屋台を楽しむ事にした。


「ユキみゃーん! これ、どうかな? 君に似合うと思って買ってきたんだ」


ノックは途中姿をくらましていたが、たった今戻ってきた。どうやら何か買い物してきたらしい。ユキに手渡されたのは、ビーズを通したネックレスの様な物だ。


「可愛い! ありがとうノック」

「いやぁ、照れるぜ。へへっ」


各々に屋台を楽しんだ所で、辺りはあっという間に夕暮れ時だ。どこか遠くから鐘の音が鳴っている。


「では、そろそろ戻りましょう」


一行はゼロ宅へと戻る。

家の中に入るが、ノックも家の中に入ろうとするものだから、ユキは言い止めた。


「ノック、自分の家へ帰らないの?」

「え? あ、あーそうだよな。もう帰らなくちゃだよな」


残念そうに気を落とすノック。


「それじゃあなユキみゃん。また明日」

「うん、また明日ね」


下手な笑い顔で手を振って背を向けたノックの首はがくりと落ちた。



しばらくするとシュウがふらりと戻ってきて、ちょうどよく夕食の時間。ユキが今回も料理する訳だが、それを気になっていたホヅミはリリィを連れてユキの元に行く。


「ねぇ、私達も手伝っていい?」

「まあ、嬉しい。ありがとうホヅミさん、リリィさん。それじゃあ一緒に作りましょ?」


男子厨房に立たずで席について待つゼロとシュウ。シュウは難しい顔でずっと考え事をしていた。ゼロは待っているだけなのも退屈なので、何とかシュウに話しかける事を試みるも、どれも素っ気のない返答がなされるだけだった。



料理が出来上がると、ユキ、リリィ、ホヅミの三人は男子達が待つテーブルへと料理を運ぶ。白い湯気の立ったほかほかのパイは、一瞬にしてその香りをリビングに広める。


「じゃじゃーん。ボク達の作ったフルーツパイだよ。たんとお食べ」


と言うリリィはちゃっかり、自分の分を通常より倍の大きさにしているものだからお笑いだ。



食事の時間。ホヅミはユキのアドバイスで上手に焼く事の出来たパイを口に押し込む。サクっとほろほろ崩れる生地に、とろりと流れ出す果汁のクリームが、口の中でふわりふわりと浮遊している。最高の味だった。


「んーっ! 美味しいぃーっ!」


和気藹々と談笑しながら、美味しい食卓を囲んだ一時はやがて、静かな夜を迎える。

寝床はユキ、リリィ、ホヅミと、ゼロ、シュウで分かれて就く事となった。

星空の綺麗な夜、しんと澄み渡る虫達の囁きが、皆を癒す子守唄となって、眠りの中へと誘った。

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