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追われかぼちゃと勘当姫  作者: 憤怒の灰かぶり
第四章
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ミキ=ホヅミ10

絡めつく舌の感触。意識を根こそぎ持っていかれそうになる感覚。呼び起こる恐怖の記憶。魔法は唱える間もなく遮られた。


亜空の支配者(ジオメトリーグリッド)!」


シュウの魔法は手元に空間の裂け目を作る。繋げた先は異形の側面。シュウは力を込めて思い切り殴りにかかった。しかし拳はユウジの頬に当たれど、びくともしない。やはり素の力では、半人半魔と化したユウジにはダメージを与える事が出来ない様で、シュウは苦渋する。


「何だよ……あいつの仕業か? 邪魔すんなよな」

「ホヅミ今だ! 魔法だ!」


空間の裂け目はユウジの手出しを遮る様に閉じた。そしてホヅミはシュウの叫びを聞いて気を取り直し、魔法の言葉を言いかける。


氷槍の(アイシクル)

「させねぇ」


再びユウジはホヅミの唇に口を添えた。けれどホヅミはそのまま魔法を唱え続けた。心の中で。


(狙撃手(ダーツ))


だがそれはしてはいけない禁断の手法であった。魔法は本人の意思と本人の言霊によって初めて魔力が形を作るものである。ホヅミはその事を忘れてしまっていた。

魔法の暴走。特にホヅミの特大な魔力は、氷槍の狙撃手(アイシクルダーツ)氷槍の縷々(アイシクルヴァベル)の様へと変えてしまう。魔法の統率を出来ずに、天上に顕現されてしまった幾つもの氷柱は鋭い雹の様に、その場に降り注いだ。暴走した魔法はホヅミの意志でも止める事は出来ない。

ゴゴゴゴゴ!!

降り注ぐ雹にその場にいる全員の意識が空へと移る。

シュウは蹲るリリィを抱えて雹を避ける。慌てふためく骸骨は地盤の崩れに足元を掬われてそのまま落下していく。また、シュウの足元も崩れ始めて落下の一途を辿る。


「これだから王女の魔力は」


あのカラナまでもがホヅミの魔法によって翻弄され、崩れゆく地面と共に下へと落下する。


「ここだ! 亜空の支配者(ジオメトリーグリッド)!」


シュウはカラナが宙に浮いたその瞬間を見逃さなかった。落下するカラナの背後に空間の裂け目を生み出し、カラナを異地へと飛ばしてしまう。

地盤は崩れ、地の深い底へと誘われるシュウとリリィ。

こうしてカラナの脅威は一旦なくなった。だが地盤の落下によってリリィとシュウ、ホヅミとユウジで完全に分かれてしまっていた。



シュウとリリィの落ちたそこは暗い地下空洞。粉々に積み重なった地盤は不安定だ。その隙間から漏れる太陽光が頼りになっている。


「ここは………わっ!? シュウ! シュウ大丈夫!?」


気絶から目を覚ますリリィ。目の前には自身に覆い被さる様にシュウがいた。


「くっ……やっと起きやがったかよ」


リリィは辺りを見回した。落ちてきた箇所は地盤の崩れにより塞がれている。所々から漏れる光が立ち上る土煙を彩っていた。

どうも骸骨達は地盤の崩れに巻き込まれてお陀仏らしい。岩と岩の隙間から罅の入った骨の先端が飛び出ている。


「そうだ! ホヅミんを、ホヅミんを助けないとっ。どいてシュウ」


だがシュウは動く気配がない。


「どうしたのシュウ? 早く助けに行かないと」


どうもシュウの様子がおかしい。覆い被さったままでぴくりとも動こうとしないのだ。


「いったいどうしたの? ……ん? なんで岩盤なんか背負ってるの?」


見るとシュウは大きな岩盤を背負っていた。それでいて額に汗をかきながら、何かをぐっと堪えている様だ。


「……見て分からねぇとはこの事だな……動けねぇんだよ」

「動けない? ……………はっ?!」


リリィは気づく。岩盤越しに突き立ち聳える、ホヅミの生み出した氷柱を。その氷柱は貫通し、リリィのお腹すれすれの所で止まっている。


「まさか……ボクを守るために!?」


地盤が落下する直後、シュウは落下の衝撃を緩和すべく、無理な体勢で下敷きになる事を選んでいた。ただそれは、リリィを守るために行った事であり、自己犠牲に等しい。更にはその背中で降り注ぐ落石やホヅミの魔法の暴走による氷柱を防いでいたのだ。


「良いから早く何とかしてくれ」

「わわ分かったっ!!」




一方その頃、地上に残ったホヅミとユウジ。兵士達はホヅミの魔法の巻き添えを恐れて一目散に王国へと避難して行ったのだった。


「マジ危ねぇ。熱魔法で溶けねぇのかあの氷」


ユウジも強大な魔法に驚いてホヅミを突き飛ばし回避に専念していた。そして大洪雹に次ぐホヅミの魔法が止むと、ユウジは再びホヅミの元へと歩み寄っていく。ホヅミは左腕を抑えて苦しそうに俯いていた。


「なぁ穂積。俺さ、ずっと思ってたんだよな。人で遊びたいって」

「ひぃっ」


ユウジの声に反応を示して、ホヅミは顰めっ面で見上げる。半魔体のせいか、それはこの異世界に訪れる前より一層に、恐ろしく邪悪に微笑んでいた。


魔力具現リアライズ。切り刻んでやるよ」


ユウジの腕を目に見えない何かが纏う。ホヅミには認識出来なかったが、何か危険なものである事は感じられた。

ユウジは腕を振り下ろす。するとホヅミの衣服は裂ける。そして徐々に感ずる下腹部の痛み。血が腰巻きにまで滲みホヅミを苦しめた。


「ぐああああっ!」

「ははははっ! 苦しそうにしてる所が堪らねぇ。さすが俺のサンドバック」


二振り目。跪く太ももを横一文字に切り裂く。複数の激痛がホヅミを狂おしく攻める。


「ああっ!」

「はははは! 最高だ。持っと泣け、持っと喚け!」


それからもユウジは何度も腕を振り下ろし、その度にホヅミの体に傷が刻まれていく。致命傷にならない程度な弱加減で、ホヅミをじわじわといたぶるユウジ。次第にホヅミの意識は朦朧とし始めていた。全身の痛みのあまりに気絶まであともう一歩といったところだろう。


「おい、何寝てんだこらっ!」

「ぐはっ!?」


ひとしきり切り刻んだ後、ユウジはホヅミのお腹に蹴りを入れる。

いっそ気を失ってしまえばどんなに楽だろうか、ホヅミは自身の血によって汚れた地面を眺めながらそう思っていた。

ドゴォォンン!

その時、空気を破裂させる程の破砕音が轟く。


「ホヅミぃーっ!」

「ホヅミん!!」


先程地盤の崩壊があった箇所から現れたのはシュウとリリィだった。リリィはシュウに背負ってもらっている。


「あ? ちっ、んだよ良いところなのによぉ……ていうか、カラナさんはどこいったんだ?」


ユウジは辺りを見回してもカラナの姿が見当たらない事に疑問を抱く。そしてその僅かな時間で、シュウは地面を蹴ってあっという間にホヅミの元へと辿り着いた。


「ホヅミん! そんな。どうしてこんな………お前か! お前がホヅミんを!!」


震えるほどに腹を立てたリリィ。後先を考えずにユウジへと殴りかかろうとする。


「待て! お前の力じゃ通用しないだろ! それよりもホヅミの治療を」

「うん、そうだったね……下位回復魔法(ヒール)下位回復魔法(ヒール)増幅魔法(バイリング)!」


リリィの治療が始まる。それを確認したホヅミは、痛みがまだ治まってもいないにも関わらず安らかな表情をする。リリィはそんなホヅミを憂い、懸命に回復魔法に専念した。


「何だよつまらねぇ。何で治すんだよ」


ユウジは不満気に口を尖らせる。


「てめぇ、覚悟は出来てんのか?」

「あ? 何だよ覚悟って……え? もしかして怒ってんの? 何で? …………あ、そっか。お前ら知らねぇのか。だったら教えてやるよ。そいつさ、オカマなんだぜ?」


しれっとした態度でにやけるユウジを見たシュウの眉間には皺が寄る。


「うるせぇんだよタコ!」


ボコォオオオオオ!

シュウの渾身の一撃は無防備なユウジの腹に収まり、生々しい骨の折れる音を幾多にも鳴らして、体を一直線に吹っ飛ばす。


「ぐはっ! がはっ! げはっ! ごはっ!」


その勢いは止まる事無く、ユウジはどこまでもどこまでも遠くへと飛ばされていってしまう。やがてはその嗚咽すらも届かない遠い地まで、ユウジは飛ばされるのだった。



リリィの治療が終わると、ホヅミは先程までの痛みが嘘の様で一安心する。けれど体中を見渡せば衣服がもう使い物にならないくらいにボロボロだった。その事についてはホヅミはリリィに謝罪をする。しかしリリィは怒るどころかホヅミの身を一番に案じていたので、ホヅミが無事である事に喜びの感情を振り撒いていた。


「あの……さっき……高橋君が言ってた事なんだけど……」


ユウジが吹っ飛ばされる直前に言っていた言葉。それはもちろんシュウの耳にも入っただろう。それがあって、ホヅミは気まずい気持ちだ。


「実は……」


ホヅミはシュウに事実を話した。性同一性障害である事を。性同一性障害とは何なのかを。

シュウがどんな答えを返そうとも、自分がどんな目に逢おうとも構わない。自分の運命は、ここで決まる。


「まあ……」


さすがのシュウもいつもの様に怒った口調で流暢に返す事はしなかった。ただそれだけに、ホヅミの肝は冷える。


「別に……」


シュウの言葉を待つ中で、ホヅミの心臓の鼓動は早くなる。いっそ首切り台の様に一瞬にして切り落としてくれと言わんばかりに、心で早く終わってくれと連呼する。


「つかよ、お前と初めて会った時、お前女子の制服着てたじゃねーの? んで風呂の一件もあるし、言われなくても分かってたよ」


しまったとホヅミは自身の抜かりに気づく。だがシュウはその事を初めから分かっていて今まで自身に接してきたのかと思うと、ホヅミは不思議な面持ちだ。


「気持ち悪くないの?」

「んなわけねぇ」


そう言うシュウはいつもと同じ様にへの字顔だ。そんなシュウに安堵するホヅミ。


「そっか、ありがとう」


にこり笑って見せると、シュウは背中を向ける。気になって少しだけ覗いてみると、紅潮こうちょうした頬が見えた。


「それにしてもこの服、ボロボロになっちゃった。ごめんねリリィ」


ユウジのおかげで服の至る所が血に染まってるわ裂けているわで散々だ。


「いいよいいよ。後で洋服買いに行こ」

「うん」

「おやおや、ここは……また遠い果ての地まで飛ばされましたねぇ」


そこは先程までいたアルストロメリアとは、正反対の場所。戻るには何千キロという距離を歩かねばならない。


「ユウジ一人だと心配ですね。殺されていないと良いのですが」


暗く深い森の中、闇と同化する様にカラナは進む。

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