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追われかぼちゃと勘当姫  作者: 憤怒の灰かぶり
第四章
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ミキ=ホヅミ9

それは一年に一度しか降らないと言われる、世界大災害の一つ。それが降り注ぐ場所が町や村であるならば最後、その原型を留める事はないと言われている。


「おいアリスどうした!」

「シュウよ! よくぞ戻ってくれた。実はの」


大洪雹だいこうひょうとは巨大な雹が降り注ぐ事を指すのだが、その雹の大きさは甚大じんだいであるということ。人ならば当たれば押し潰されて死に至る程だ。その大洪雹が予言者により、このアルストロメリア王国の地に降り注ぐと通告つうこくされた。


「結界を解けアリス。俺が片付ける」

「それはならん……今結界を解けば、魔物の侵入まで許してしまう」


苦渋の面持ちでアリスが言う。


「じゃあどうするんだ!」


シュウは怒りを含んだ口調で吐き散らした。


「そこでじゃ、ホヅミにリリィよ……不躾と知りつつも頼みがあるのじゃ。一時的に妾の力を解いて魔法を使える様にする。お主の魔法で、アルストロメリアを救ってはくれぬか?」


誠実で威光のある真っ直ぐな視線に貫かれた様で、ごくりと唾を飲み込むホヅミ。

断る理由もなかった。ここで活躍すればリリィの不評も減るかもしれない。ホヅミはアリスの依頼を承諾しょうだくした。



アリスの命の下、王国兵士達は王国民を地下牢へと避難させた後、部隊を編成していた。方々に散らばらせ、各々に対処に当たらせる様準備を整えている。その中核として抜擢ばってきされたのがホヅミとリリィだ。ホヅミにとってはこれから降りかかる出来事は想像もつかない。がくがくと震える足が、戦地へと向かう歩を危うくさせる。だがリリィはというと俄然乗り気で余裕綽々《よゆうしゃくしゃく》だった。


「空が……」


ホヅミは見上げてぽつりと零す。重たい暗雲が立ち込めた空。急な冷え込みに肌が粟立あわだつ。空の向こう側に潜む恐ろしい巨大な何かが、自分達小さな人間を嗤う様に唸っている。

ふと暗雲に乱れが出来た。その乱れは亀裂を広げる様に大きくなっていき、そしてそれは姿を現した。


大雹だいひょうだぁ!! 大雹が降ってきたぞぉーっ!!」


大雹はボール球の様な大きさかと思いきや、それは次第にこちらへと近づく程に大きさを増していく。見れば暗雲で他の所からも大雹と呼ばれる氷の塊は姿を現していた。


「リリィ、行くよ!」

「うん! ホヅミん!」


二人は空へと手をかざした。


「(リリィ、力借りるよ)氷槍の縷々(アイシクルヴァベル)! はあああ!」


ホヅミは新たな技術を身につけていた。といっても普段の戦いではその技術もあまり必要はないのかもしれない。それは魔力の増大化だ。魔力を出す感覚を身につけることが出来たために派生した技術。以前よりも数倍は大きさな氷柱が出来ており、凡そドラム缶程の大きさだった。


下位火炎魔法・倍(ジェラ・バイリング)!」


リリィも新たな技術を身につけていた。今までは増幅魔法バイリングを唱える際に、一回一回下位火炎魔法(ジェラ)を唱えていた。今は何度か魔物との戦闘を重ねるに連れて、一度に下位火炎魔法・倍(ジェラ・バイリング)を唱える事が出来る。前よりも魔法発動効率が良くなり燃費も改善していた。

二人の魔法は空から降りかかる大災害を粉々に砕き、溶かし、跳ね除けた。アルストロメリアの少ない人数ではこの大洪雹は防ぎ切る事は出来なかっただろう。それだけに多くの役割をホヅミとリリィは果たす事が出来たのであった。



綺麗に王国の周りを取り囲む様に氷の塊が積もった。氷の塊は運び出して貯水する画策を取るらしい。大洪雹が止んだので避難していた国民達は、出てきて氷の運び出し作業に移る事となった。その作業にはもちろん、シュウやホヅミにリリィが参加する事となる。たくさん魔法を使った後だからか、お腹を幾度も鳴らして氷を見詰めるリリィをホヅミは宥めて、何とか二人で重たい氷を貯水池へと運ぶ。その際にホヅミは気がかりな事があった。


「何であいつが」

「知らねぇよ」


奇異の視線をホヅミへと向けながらこそこそと話す者達がいた。よくよく見ればホヅミを避ける様にして皆作業に取り掛かっている。


(まぁ……うん、分かってた…………分かってたけどね)


魔物に対しての偏見は根強い。もちろん魔物の血を半分引いたリリィに対してもだ。その体を動かす自分はどうにも居た堪れない。ホヅミにとってはいつかを思い出す所業だった。


「シュウさんが手懐けたからだろう」

「そうよね。じゃなきゃ……」


するとホヅミの前にふらり、シュウが現れて二人は足を止める。氷を運び終えて次の氷を取りに行く所なのだろう。重たい氷を一人で運搬するのだからさすがの身体能力だとホヅミは感心する。ホヅミはねぎらいの言葉をかけようとした。だがシュウはどうも様子がおかしく、声が詰まる。


「ちっ」


何故か自身を見て舌打ちをするシュウに、困惑のホヅミである。


「しゅ、シュウさん。今回はお手柄でしたな。上手い事その魔物のハーフを使いこなして」


恐る恐る訊ねる一国民。けれどいかにも機嫌の悪そうに睨みで返すシュウ。それを傍目から見るホヅミの予想がつくところでは、今回出番がなかった事にでもイラついているのだろうか。


「……あの」


蛇に睨まれた蛙の様に動きが固まる一国民。


「てめぇふざけてんのか?」

「ひっ……そんな、何もふざけてなど」


おっかなびっくりに掌を前に出して慄く一国民に対して、シュウは向き直る。


「おい、聞けよてめぇら。俺はこいつに何一つ指図しちゃいねぇ。故にこいつは自分の意志でてめぇらの住まうこの王国を守ったんだ。次にこいつに向けて不平不満を言ってみやがれ。全て俺が言われたものだと思うから覚悟しろや!」


その怒号に萎縮した国民達はぴたりとこそこそ話を止めた。シュウがイラついていたのはどうやら出番云々ではないらしい。ホヅミに対して向けられている視線にだった様だ。


「お姉ちゃん!」

「わっ!? え、え?」


不意にホヅミは誰かにお尻に抱きつかれぎょっとする。前方に回された手は小さな子供の手だ。振り返ると小さな少年が自身に抱きついていた。


「お姉ちゃん、すっげぇかっこよかった! ありがとな! 」


お礼を言う少年は初めてアルストロメリアを度だった日にシュウに対して大きな口を叩いていた少年だ。ピンク色の小さな頬を上に持ち上げて、まるで星空の様な瞳でホヅミを見上げている。


「うん、どういたしまして」


ホヅミは笑顔で返すと、その笑顔と少年の行動に民衆がざわつく。どうにもやり切れない様子でいた。



それは一人の兵士による叫び声だった。


「敵襲だぁーっ!!」


シュウは血相を変えて一目散に入口への方へと走っていく。民衆達は皆顔色青く狼狽え始める。ホヅミとリリィは氷の塊から互いに顔を覗かせ合って頷くと、氷の塊を一旦地面に置いてシュウを追いかけていった。






とてつもなく禍々しい邪気を放ち歩いて向かってくるのは四体の魔物。一体は漆黒の衣装を纏い、兵士に近づくと、手を一払い。兵士の胸元は抉られて、地には扇状の血痕が出来る。そして剥き出しになった兵士の臓物の一つを魔物は鷲掴み、握り潰した。


「クリッシュ!!」


仲間の名を呼ぶ声も虚しく。魔物は怯える兵士を見てその鋭く尖った歯列を剥き出しに嘲笑して見せた。それには兵士達も身震いで攻撃に転じる事が出来なくなる。


「てっめぇぇえええ!!!!」


兵士達の背後から突っ切って来たのはシュウ。拳を構えて魔物に向かって腕を振り抜いた。


「おや? あなたは確か」


魔物はシュウの腕をいとも簡単にいなして攻撃を躱す。


「これ程の力……あの時には見せませんでしたねぇ」

「黙りやがれクソ緑野郎」


二撃、三撃と拳を繰り出すが、シュウの攻撃は完全に見切られている様で、全て躱されてしまう。


「力はある様ですが、その様な単調な動きでは簡単に読まれてしまいますよ」


思い出されるのはエピルカ邸でのメイドとの戦闘。培ってきた格闘技術の差。荒くれ者のシュウには、カラナはメイドと同様に勝てない相手なのかもしれない。


「くっ!」


シュウはこのまま攻撃を続けてもらちが明かないと判断して、一度後ろへと飛び退いた。飛び退いた所でホヅミやリリィもシュウに追いついて事態の把握に努める。


「王女! やはりいらっしゃったのですね。先程多大な魔力反応がありましたので来てみましたが大当たりでした。今まで魔力反応を途絶えさせていたので心配していたのですよ」

「お前は………カラナ!! しつこいなもう!」


カラナは三体の魔物を引き連れて訪れていた。他二体は以前ホヅミが倒したのと同じ様な骸骨の魔物。そしてもう一体は半人半魔の異形だった。だがその異形の顔は、ホヅミには見覚えのある顔であった。それにはホヅミも背筋が凍りつく程であり、目をぱちくりと開いては閉じ、開いては閉じと繰り返し、グローブで目を擦る。しかし目にしている事実は変わらない。


「よぉ穂積……お前をぶっ殺しに来たぜ」


異形の半分は紛れもない、高橋の姿だった。



緊迫した空間に、一筋の風が吹き抜ける。シュウは鬼気迫る表情で、リリィは呆れ顔でカラナを睨みつける。けれどホヅミは、ホヅミだけは一体の異形から目を離す事が出来ないでいた。蘇る恐怖。今にでも自我を失ってしまいそうなホヅミだ。


「どうして……高橋君がここに」

「あ? 誰だお前。何で俺を知ってんだよ。俺が用があるのはそっちの奴だよ」


振られたリリィはきょとんとしてホヅミの方を見やった。


「ホヅミん、あれ知り合い?」

「え? ………その………」


暗くなった表情でうつむくホヅミの様子を窺うリリィは何かを察した様に眉を顰めた。


「あ? 何がどうなってんだ? あっちが穂積の野郎だろ? カラナさん。どういう事すか?」


カラナもやり取りの様子を見て、違和感を抱いている様だった。


「もしかすると……もしかするかもしれませんねぇ。一度確かめてみますか」


言うとカラナは躊躇いなくホヅミ達の元に向かって歩く。警戒する三人。


「さて……"どなたかの"を見せていただきましょうか」


五メートル、四メートル、三メートル、と近づいてきた所でシュウは足で地面を軽く抉って砂煙を上げた。カラナがそれに怯んでいるところをシュウは攻めかかる。


スーパーパワー(金剛力)!!」


しかしカラナは砂煙の入った目を右手で擦りながら、左手の一払いでシュウの拳を簡単にいなしてしまう。


「ではあなたのを見させていただきましょう。その力も気になりますし」


カラナは左手でシュウの首を鷲掴みにして体を持ち上げた。


「離し……やがれ……」

「おっと、暴れないで下さい。あなたの首が折れますよ?」


抵抗出来ずに苦悶を浮かべるシュウを、砂の取れた目で厭らしく見詰め、右手をシュウの額へと持っていく。


記憶の瞬き(メモリア)


シュウの頭には今までの記憶が走馬灯の様に駆け巡る。


「なるほどなるほど……そういう事だったんですか」


カラナは右手を下げると、シュウを横に投げ飛ばした。


「そんな………シュウさんが」

「アルストロメリアはもう……終わりなのか?」


戦意喪失する兵士達。それを尻目にカラナはホヅミとリリィの二人を見比べてにやりと口角を上げる。


「王女と入れ替わっているのですか……ならば話は早い。用があるのは王女の体です。体の方だけいただきましょう」


カラナは後退っていくと交代で骸骨の騎士二体が前に出てきた。長剣と小さな盾を装備している。


「無駄だよ! ホヅミんには浄化魔法の力がある」

「ユウジ! 事情は分かりましたね? どうやら王女の体の方に、あなたの目的である穂積さんが入っている様です」


骸骨の後ろから半人半魔の異形は歩み寄ってくる。


「つまりどうしたらいいんすか?」

「殺さない程度に痛めつけてください」


カラナは後ろへと下がって、ホヅミとリリィの前には半人半魔の異形と骸骨が立ちはだかる。


「元よりそれがしたかったんだ」


悪辣あくらつな笑みにホヅミは肝を冷やして動けない。そんな様子を見たリリィは咄嗟にユウジという異形に向けて掌をかざした。


「(ホヅミんを守らなきゃ!) 下位火炎魔法・倍(ジェラ・バイリング)!」

「おっと」


リリィから放たれる巨大な火炎は躱されて、代わりに骸骨を包み込む。けれど骸骨には火炎魔法は通用しない。


灼陽の幻影(カゲロウ)

下位火炎魔法・倍(ジェラ・バイリング)! やった! 当たった」


直撃するリリィの魔法。だが次の瞬間、リリィのお腹に埋められた拳は、ユウジのものだった。


「ぐはぁっ!?!?」


防御なく、物凄い力によって捌けられるリリィ。シュウの元まで吹っ飛んでいく。口からたくさんの液が溢れ出て、息が出来ずにその場でうずくまり横たわる。


「お前うぜぇよ」

「リリィ!」


ホヅミはリリィの元に駆け寄ろうとするが、ユウジによって胸ぐらを捕まれてしまう。


「よぉ穂積。てめぇ女の体になっていよいよ気持ち悪くなったじゃねぇの」

「っ………」


体を易々と片腕で持ち上げられるホヅミ。その尻目にはリリィとシュウの元へと向かう骸骨の姿があった。早く助けなければと心が逸る。


「何余所見してんだよ。こっち見やがれ、オカマ野郎!」

「ぐあああああ!」


ユウジはリリィ達のいる反対側の二の腕を握り締める。ホヅミの悲鳴を聞いて嬉しそうに、次第に力を強めていく。


「ああああああっ!!!」


モキュリ!!

ホヅミの左腕は握り潰され不快な音を、ユウジには愉快な音を奏でた。


「痛い……痛いよぉ……」


耐え難い痛みに声がか細くなる。


「はははっ! 泣けよ泣けよ。お前の涙が俺の心を満たすんだぜ? 最高だよ」


するとユウジは腕を組み替えて、今度はホヅミの右の二の腕を握り始めた。


「ひひっ、こっちの腕も潰してやるよ」

「うああああ!!!」


悲痛な叫びが地を駆け巡る。その声に兵士達は涙を流し、カラナとユウジは喜びの表情を浮かべた。


「やめやがれぇぇえええ!!!」


カラナの魔法の影響で気絶していたシュウが目を覚まして、ユウジの元へと駆ける。


「おっと、手出しはさせませんよ。下位結界魔法(オビスミノール)

「なっ!」


地を蹴る速度が急激に落ち、シュウはバランスを崩して転げてしまう。


「何だと……魔物のお前が……結界魔法?」


シュウは結界の中では固有能力スーパーパワー(金剛力)を使えない。だがそれよりもシュウは、魔物を弾く結界魔法を魔物が使った事に驚いていた。


「記憶で覗かせてもらいましたよ。あなたの力は結界内では使えないんですね」

「クソッタレ! ……おいホヅミ! 魔法だ! 魔法を使え!」


ホヅミはシュウの叫び声を聞いて、忘れていた事を思い出したかの様に、右掌をユウジにかざす。


「気をつけなさいユウジ! 入れ替わっているとはいえ王女の体です。魔力は人とはかけ離れている!」

「分かってますよ(要は魔法を唱えさせなきゃ良いんだろ)」


ユウジはホヅミの口元を見詰める。魔法が唱えられるその直前。ユウジはホヅミの唇を奪った。

じゃかじゃかじゃかじゃかじゃん!


後悔の魔法講義ちゃんは………じゃなかった。今回の魔法講義ちゃんは第30弾!!


ててってぇぇえええ!!!!


皆さんいつも応援ありがとうございます!

皆さんがご愛読して下さる事で、とても励みになっています。

どうぞこれからも魔法講義ちゃんを……じゃなかった、追われかぼちゃと勘当姫を応援してください!

つきましては評価なんかいただけると嬉しいです!

どうぞよろしくお願いします♪(*≧∀≦)


というわけで、魔法講義ちゃん第30弾ですね!

※事故が起きました。間違って同じ魔法を二回紹介してしまった様です。


はい、改めまして今回の魔法は灼陽の幻影(カゲロウ)

この魔法はですね、熱魔法の応用魔法です。実はユウジ=タカハシ君は熱魔法しか使えないんですね。ですがそれの応用魔法を磨いてしっかり武器にしています。

灼陽の幻影(カゲロウ)は陽炎を生み出す魔法です。蜃気楼みたいなものですよ。幻覚です幻覚。分身の術とも言うのかな??

つか最強じゃん。


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