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追われかぼちゃと勘当姫  作者: 憤怒の灰かぶり
第四章
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ミキ=ホヅミ5

ホヅミ達が訪れた村は、ロックという名の閑静かんせいな村だ。まるで日本の山奥にある廃村の様に、竪穴たてあな住居をした木造建築が並んでいる。中央には共同で使用するのか、大きな畑があり、野菜の葉が元気に土から伸びていた。

シュウの調べによるとロック村では過去に一度魔物化の一例があったらしい。その真相を突き詰めるべく、三人はやって来た訳だ。


「やったよ! 通れた!」


リリィの話によれば、リリィの体は瞳が赤く変わっている時に魔力が昂るらしい。血の色も赤紫へと変貌する。そんな時に結界を通ろうとしようものなら弾かれてしまう。なので今回アリスから贈られた封魔珠スペルカットを手にかけ、聞いた通りにする。両手で数珠を挟む様にして、神社でお祈りをする時の様に念を込めながら、結界の境界線を越える。すると弾かれる事無く無事に通られた。

村へと入る一行。余所者がやって来たと珍しいもの見たさに村人達が集まる。余程人の訪れない村なのだろうか。


「まずはどうするかな………とりあえずここのおさを探して……」


ブツブツと魔法を唱えるかの様に呟きつつもシュウは辺りを見渡す。高齢そうなのお爺さんを見つけるとつま先を向けて歩き出した。


「あんたがここの長か?」

「いかにも、私がこの村の村長でございます」

「俺達はアルストロメリア王国からの任務でこの村にやって来た」


アルストロメリアの紋章が刻まれた腕輪を、シュウは見せつける。


「おお、これはこれは、アルストロメリア王国の遣いの者ですじゃな。ええ、ですが、しかし、この様な辺鄙な村にいったいどういったご要件でございましょう?」


肉付きのないよぼよぼの体を小刻みに震わせながら、両手を広げて歓迎の意を表明する村長。シュウは続ける。


「過去に起こった魔物化の事件について詳しく聞きたい」


村長は皺だらけの顔に更に皺を浮かべて、難問を投げかけられたかの様に唸る。


「魔物化……確かにこの村では五十年程前にその様な事件が起きておる……だがそれならば、ワシよりも彼女に聞くのが良いじゃろう」


と村長はとある方角を指す。その先には古びた母屋おもやがあった。


「あそこにはシアという者が住んでおる。彼女は魔物化する前の者と友人関係にあったのじゃ。魔物化する直前の現場に居合わせておる」

「そうか。ご協力感謝する」


シュウは村長の指した母屋へと向かっていった。ホヅミ達もそれに続こうとするが、途中リリィが野菜に釣られて食指しょくしを伸ばしており、ホヅミが笑ってその場を紛らわしながらリリィのフードを引っ張っていく。





それはとある昔話。

昔昔、ある所に仲睦まじい夫婦がいました。

幸せなその二人には一人の子供が誕生しました。子供はすくすくと育ちとても魔法が上手になっていきました。子供は村のとある女の子ととても仲良しになりました。しかしある日突然魔物が現れて、女の子は殺されかけました。子供は何とか女の子を守ろうと力を出しました。するとその手は大きな鉤爪かぎづめと変化し魔物を一網打尽にしました。母親は子供を守るために村人達の前で自身が魔物であると自白しました。父親も自分も魔物と言い張りますが、母親は自身の手を鉤爪と変えて皆に見せびらかしたのです。父親にはそれが出来ませんでした。人間だったからです。母親、そして子供まで処刑されてしまいました。怒った父親は妻が何をしたと、子供は魔物から皆を守っただけだと怒り狂いました。怒って怒って、ついには自身の体を魔物へと変えて反撃しました。けれどたくさんの人間達から攻撃を受けた父親はその場でぐったりと倒れてしまいました。とある家族の幸せはこうして壊れてしまったのです。


「最初から父親も魔物であったと言う者もいますが、私はこう思うのです。魔物というのはなぜ生まれるのか。魔物は何かを強く恨み憎み怒りを覚えた者がなる成れの果てなのだと」


シアは視線を落とし、編み物をこなしながら、皺の新しい口元を柔らかく動かす。

三人はシアという遍歴の女性の家に訪れていた。年齢と性別、重要参考人である以外には情報がなかったが、家の隅々には様々な形状をした草が、幾つも並ぶざるに揃えられている。その事から恐らく、薬草などに精通する薬師くすしか何かだろうと三人は見当をつけていた。


「すっ……何て悲しいお話なの」


啜り泣くリリィ。シュウやホヅミの面持ちもあまり良いものではなかった。

三人はシアから五十年前のお話を聞かせて貰っていた。シアの話し方はまるで魔物よりもこの村にいた村人を非難している様に三人には窺えた。


「あんたは恨んでいるのか? 村人を」

「……魔物は殺して当然と言われています。けれど魔物にも生きる権利はあって、魔物にも心はあると思うのです。魔物の力で、私を助けてくれたハンの様に」


過去を懐かしむシアは悲しくも穏やかな目をしていた。


「何を戯けた事を」


後ろからの介入に三人は振り向いた。


「心配をして来てみれば……この恥知らずめが。魔物は生かしてはいかぬのじゃぞ? それが例え元人間であったとしても。魔物になってしまった者を悼んで苦渋に命を奪う決断を下した我らの痛切な想いを何じゃと思っとる」


下手に回っていた先程までとは違い、強気な村長だ。怒りを露に重たい瞼をこじ開けて小さく鋭い目をシアへと向ける。


「遣いの方々、申し訳ない。彼女の話には少し偏りがあってですね…」


村長は誤解を解くかの様にさとしていく。


「何せ昔話ですからな。今となっては物語に過ぎませぬ。どうでしょう皆さん。今日はこの村にお泊まりになっては」


そうして三人はシアの家を後にする。ロックの村には宿屋等の経営はなく、村長の家へと停泊する事となった。村の長というだけあるからどれだけ立派な建物だろうかと期待するホヅミだが、他の軒とは変わらぬ竪穴たてあな式の木造建築を更に二倍も三倍にもしただけの大きさだ。来客の際にはよく重宝ちょうほうされているらしい。


「狭いところですが、どうぞおくつろぎになられてくださいじゃ」

「ほんとに狭ぇな」

「ちょっとシュウ!」


軽率な言動をするシュウに、ホヅミは耳打ちで注意を促す。だがシュウは何とも思っていないらしい。


「ほっほっほ。気にしないでくだされ。王国からいらっしゃったのじゃ。この様な田舎の村など、狭苦しくとも当然じゃ」


村長は腰を叩いて謙遜けんそんの態度を取る。


「それでなのですがじゃ。こういった頼み事は何分差し出がましいと恐縮なのじゃが、どうか聞くだけでも聞いて下され。実は最近、この村の付近で魔物の遠吠えが聞こえてくるのじゃ」


そう話を切り出す村長の皺だらけの顔には、険しさが目立つ。それにはシュウに続いて二人も眉を顰めていた。


「それは魔物なのか?」

「魔物ですじゃ。村の者が狩りに出かけた際、岩山の洞穴ほらあなからソルムという魔物が出てきおって、遠吠えをしておったそうじゃ。」


ソルムという言葉に、三人は心当たりがあった。ソルムは犬と同様鼻が良く利く。近くで村人が目撃したのであれば、すぐにでも気づかれて襲われてしまいそうなものだ。村人は無事だったのだろうかと、村長の話を遮ってシュウが問う。


「目撃した村人は無事だったのか?」

「そうじゃ。おかしな事にソルムは村の者を襲わなかった。目線まで合ってしまったらしいのじゃが、何故じゃろうな。放っておいても迷惑なのでな、賞金稼ぎ(バウンティ)組合ユニオンに討伐依頼をしようと思うたのじゃが、この村は見ての通り寂れた村じゃ。雇い金など到底……」


シュウは眉間に皺を寄せて村長を睨みつける。村長はすぐに失言をしてしまったと気づいて慌てて訂正を試みた。


「ああいやいや、もちろんあなたがたにはそれ相応のお礼はするつもりじゃ。金銭は無理じゃが、畑にある作物さくもつをたんと持っていってくだされ」


と聞いたリリィは喜んでいた。リリィは食事のない期間が長かった分なのか、ずっとお腹を空かしている様だ。



三人はそれから食事にありつく事になる。村長は来客に料理を施し慣れていたために、質素ながらも立派な筑前煮ちくぜんにを作ってきた。村で取れた作物や山菜なども用いているようだ。肉類などは見られなかったが、十分に三人の舌とお腹を満足させていた。


「「ごちそうさまでした!」」

「……ごちそうさま」


遅れて小さく言うシュウ。食事の決まりである始終挨拶には慣れていない様で照れ隠ししていた。

食事を終え冷え込む夜、村長を含めた四人は囲炉裏いろりだんを取る。ホヅミとリリィで仲良く話し込むもので、取り残されたシュウと村長は異世界での世間話にふけり始める。時にリリィやホヅミがシュウに話を振ったりして、会話の流れをおかしくするが、時はしっかりと過ぎていた。


「さて、そろそろお開きの様じゃの。囲炉裏はこのままにしておきます。お布団のご用意を」

「クォオオン」


皆一同に息を止めた。静寂する夜中は立ち上る孤独な遠吠えに鳴動する。


「今のは!」


リリィの一言で一同は息を吹き返した。


「確かにありゃあソルムの声だな」


シュウは立ち上がると、藁暖簾を潜って外へと出ていく。それを見たホヅミとリリィもシュウの後に続いた。


(ん? あいつは……)


シュウは視界の全体を見渡す際に端に捉えた一つの影。月の薄い明かりに照らされるのみであったが、その影は間違いもしないシアの影だ。シアは村の門番の目を盗むようにしてこそこそと村の外へと出て林の中へと身を隠す。


「あれってシふむっぐ!?」


名前を言おうとしたホヅミがシュウに口を塞がれる。ホヅミはシュウの右手を振りほどこうとするが、頬を鷲掴みにするその力はどうにも出来ない。


「あいつか?」


シュウは後ろへ振る。するとひょいっと布団を抱えたままの村長が暖簾をくぐり、そのいかめしい表情で頷いた。


「そうですじゃ。毎度毎度気味が悪い。それに住み着かれては村の者がおどおどするばかりじゃ」


それを聞くとシュウは満月か彼方かなたを見据えてに歩き出す。


「行くぞてめぇら」


見向きもしないで語るシュウの背中を追従するホヅミとリリィの二人。

シュウは魔物感知が出来る。遠吠えと共に動き出した様に見えたシアを追う事は出来ない。けれどもしかすれば、ソルムとシアの間に何か関係があるかもしれない。昼間に見たソルムの体中に巻かれた包帯は第三者が施さなければ不可能に近い。一匹狼の魔物であるソルムが、まさかシアと繋がりがあるとは思えないが、可能性を疑ってかかるに越したことはないとシュウはおもんぱかる。

白い霧は無くなっており、冷たい肌寒さがホヅミを小刻みに揺らしていた。リリィとシュウは何でもない様で、ホヅミは二人に呆れている。

気づけばそこは昼間に通りかかった場所だ。ソルムが林の奥へと身を潜めていった場所。その証拠に乾いた青血が土面に染み込んでいる


「この先だ」


シュウは言うと、昼間ソルムが消えた林の中へと足を踏み入れていく。月明かりを遮る木々達は林の中に小さな闇を作り出していた。今にも何か幽霊の様なものが出そうも怯えるホヅミだが、リリィはそんなホヅミを、生物の方が怖いよと説き伏せる。

三人はしばらく林の中を進む。リリィが気を利かせて火炎魔法で照らそうとするが、シュウは余計な事はするなと取り上げなかった。


(あそこにいるのは……やはりそうか)


シュウは闇の先にある光を見た。月光に照らされるその一匹と一人は、まるで美女と野獣の様に対照的に幻想的で、思わず恍惚こうこつとさせられるシュウ。ソルムの傷ついた体に包帯を巻き直していくシアは、三人の来訪らいほうに気づき身構える。


「まさかそのソルムを飼い慣らしてる女だったとはな」


そこは洞穴ほらあなの入口前付近。断崖絶壁だんがいぜっぺきにソルムを預けて、その前にシアは立ちはだかる。


「この子を殺すなら……私も殺しなさい」


六十代とは思えぬ気迫に三人は息を呑む。


「別に殺しゃしねぇ……その魔物には敵意はない様だからな」


魔物は静かに息をしていた。物言わぬその態度に、シュウは何かを感じたのだろう。



ホヅミとシュウはリリィに促され、シアのする手当を手伝う事となった。

リリィは最初回復魔法をかけようと思っていた。だが真摯しんしに治療を施すシアとそれを眺めるソルムを見て、自身の魔法は無粋だと感じ、回復魔法の手を下げていた。

シアは三人の行動に少し驚いていた様だが、包帯が巻き終わる頃には腑に落ちた様に警戒心を解いていた。巨体を巻くのは一苦労で、ホヅミに至っては疲れが見えていた。


「さて、これでようやく話せるな。てめぇは何で魔物といやがる? そいつは何なんだ?」


間髪入れずに糾弾するシュウに、シアは疲れも見せずに落ち着いた様子で語り始める。


「以前私が山菜採りに出掛けた頃、林の中で傷だらけになって倒れていた所を見つけたの。この子が言うには、一人の人間と一匹の魔物に襲われたらしいわ。でも戦ったのは人間の方。とてつもなく強かったって」

「ちょっと待て、人間がか?」


H(ハイ)クラスの魔物を一人で倒せる人間など自身以外には考えられない。そういった様子だが、何だか少し嬉しそうな横顔をしている、きっと強い相手と喧嘩が出来るかもしれないとふるい立っているのだろうとホヅミは考察する。


「シュウさんだったかしら、どうかこの子の事は」

「ああ分かってるよ。他言しねぇ。だがよ、あんたも分かってんだろ? そのソルムにここにいられちゃ村の奴らが迷惑なのは」

「それは……」


シアはシュウの正論に返す言葉も見つからなかった。不意にシュウはすっと左掌を虚空に翳す。


亜空の支配者(ジオメトリーグリッド)!」


ブォォオオン。空間が裂け広がり、別の地と繋がる。


「この先はここよりもずっと離れた場所に繋がってる。そのソルムにこの空間を潜ってもらうんだな」


シアはソルムと共に目をぱちくりとさせながらシュウの神秘な魔法に唖然とする。


「この魔法は……何と奇怪な………いや……ありがとう坊や。でもね、せめて後一日くらいはこの子を見ていてあげないといけないから、明日もう一度お願い出来るかしら。この子ね、放っておくとすぐあちこち動き回るの」

「んあ? ………ちっ……明日までそいつとここにいるのか?」


すると面倒臭そうにシュウは両手を腰に据え、魔法で作り出した空間の歪みは元へと戻っていく。


「ええ。早朝になったら村にこっそり戻ります。家を空けておくと不審に思われますから」


言うとシアとシュウ達はその場で別れる事となる。

魔物と人の絆が今、深く結ばれようとしている。あの形こそこの異世界の正しい在り方なのだと、三人は各々に思いを馳せていた。そんなしんみりとした空気が流れる中、村へと戻り際にリリィが突拍子もない事を発言する。


「シアさんとソルム、何だか恋仲みたいだったよね」

「ぶっ! こ、恋仲?!」


シュウにはそれがゆくりなくも、あまりに唐突で度が過ぎた表現に感じられた様で、たじろいでいた。


「ホヅミんもそう思うでしょ?」

「え? うん、そうだよね。何か良い感じだったかも」


気分上々に盛り上がる二人についていけない様子のシュウは、やれやれといったように両手を広げていた。


「それよりも……ソルムにあそこまでの痛手を負わせた人間って方が気になるけどな」


かしましく騒ぎ立てる二人の話の腰を折る様に言い放つシュウ。


「え? 確かにそれはボクも気になるかな。ちょっと不穏な気配がするよ」

「リリィリリィ、違うよ。シュウさんの気になってるのはそこじゃないと思う」


シュウはがしりと拳を掌にパンパンとぶつけて不敵に笑みを浮かべていた。それを横から覗き見るリリィ。


「あ、ほんとだ」


ホヅミとリリィは互いに頷き、納得の意を示した。

三人は村へと戻ると、村長の御出迎えだ。期待に胸を膨らませて、シュウ達の朗報を今か今かと待っている。


「あー悪ぃ、暗くて見つからなかった。明日になったらまた探すからそれまで待っててくれ」

「な、何と………」


二の句を継げずに肩を落と村長へささやかな謝罪を通り過ぎ様に零していくホヅミとリリィ。三人は村長を置き去りに、村長の家へと戻っていった。

じゃかじゃかじゃかじゃん!!

第26弾!! 魔法講義ちゃん!

やっていきたいと思いまーす。

ふぅーっ!!

今回は俺が登場だぜ。

イアツカンだ。

漢字で書くとこうだぜ?

威圧感だ。

良く分かったかい?

それじゃあいくぜぇ!


今回の魔法は、中位風魔法ウィンド

この魔法はよぉ、風魔法の攻撃として使えるぜ。まあ例えるなら……旋風、みたいな?

単一魔法としては弱い部類かもしれねぇが、例えばだ。砂煙を上げる事で目眩しにも使えるんだぜ?

という訳で、今回の魔法講義ちゃんこれにて終了!

お疲れぃ。


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