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追われかぼちゃと勘当姫  作者: 憤怒の灰かぶり
第二章
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どこにも行かせないよ6

ニト町の前に降り立ったデスドラゴン。赤黒い肉体は血が固まりこびりついたかのように不気味で、体中には今にも絶叫をあげてしまいそうなおどろおどろしい形相の顔がいくつも浮き出ていた。そんなおぞましい姿を目にしても臆する事なく、多くの賞金稼ぎ(バウンティ)達がデスドラゴンの前へと集結する。


「あいつを倒せば特別報酬緋金貨一枚だぞ!」

「うっげ、マジで気持ち悪いな」

「へっ、おまえら油断するんじゃねぇぞ」


余裕の表情の賞金稼ぎ(バウンティ)達。戦士や剣士は各々に武器を構え、魔法使いは詠唱の準備を始めた。


「行くぞ! お前ら!!」


その掛け声を引き金に、賞金稼ぎ(バウンティ)達は一斉いっせいにかかる。


「うおりゃっ!」


戦士の斧は肉をえぐる。剣士の剣は肉を裂く。


「ははっ! EX(エクス)クラスなんて言ってもこの程度かよ!」


戦いは人間達が優勢に見えた。だが魔法使いが未だに魔法を放たない。みればデスドラゴンは翼をゆらゆらとはためかせるだけで何一つとして反撃をしていない。不可解な出来事にとある戦士は魔法使い達に呼びかけた。


「おい! 何してる! 今のうちだぞ!」


魔法使いは驚き困惑した表情でその戦士の一人を指す。


「おい!……ん?」


戦士は自分が指されているのだと気づいて自身の体を見る。


「な、何じゃこりゃあ!?」


戦士は体中の肉が抉れてしまっていた。切り傷に刺し傷が積み重なり戦士の体はボロボロ。気づいた時には手遅れで、そのまま吐血して倒れてしまった。


「い、いやぁ!!」


魔法使い達は見ていた。戦士達や剣士達はデスドラゴンに向かっていったかと思うと、いきなり仲間同士で殺し合いを始めてしまっていたのだ。デスドラゴンに攻撃を与えることなくあっという間に前衛のほとんどがたおれてしまう。


「うぇっ! うぇーっ! も、もう無理……私帰る」


この惨状さんじょうを目撃していた何人かの魔法使いは目の前の恐怖にただただ怯えた。そして呪いが発動する。


「うううぐぐくごぼがあばあばばば」


錯乱状態になり自身の首を絞める者や自身の前上半身を爪が剥がれてしまうほどに掻きむしる者、自身の体を噛みちぎって食したりする者、自身の目を抉って食したりする者、舌を噛んで窒息ちっそくする者がいた。


「ぐおおおおお!!!」「「「「「きぃやあああああおおおおおお

!!!!!」」」」」


デスドラゴンは覇気はきこもった雄叫びを上げるとそれに呼応こおうして、体中の顔達が世にも恐ろしい阿鼻叫喚あびきょうかん悲鳴ひめいを上げる。また、それを聞いた者の多くは錯乱状態。あられもない死に様をさらす事となる。


「やめてやめてやめてやめてやめて!! ……ああああぁただだだぐぎぎぎぎぃぃぃぃげぇえ」


惨劇さんげきすでに始まっていた。デスドラゴンが現れてから雄叫び一つ上げるまでで、死亡者は五十人を越えている。


中位火炎魔法ジェラシー! 中位火炎魔法《 ジェラシー》! 増幅魔法バイリング!」


デスドラゴンは巨大な火炎に包まれた。


「ぎゃあああああおおおおおお!!!」

「皆! しっかりして! 怖がってたらそれこそ命、持ってかれるよ!!」


リリィの掛け声に正気を取り戻す者もいた。戦う士気をなくしていた者は再びデスドラゴンを前に大地を踏みしめる。


「そうだ! 俺達は賞金稼ぎ(バウンティ)だ! 狩る側が恐れてどうする!」

「その通りよ! 私達は魔物になんか屈しない!」

「子供にばかりいい格好かっこうさせられっかよ!」


デスドラゴンはつばさをはためかせて何とか火炎を振り払う。


「「「うおおおおお!!」」」


デスドラゴンに休む間も与えず、魔法使い達は魔法で激しく援護射撃えんごしゃげき。前に出る者は対策たいさくる。


「デスドラゴンの体から出ているガスだ! あれさえ吸わなければ俺達の攻撃は届くぞ!」


生き残っている戦士達や剣士達は再び武器を取った。息を止めてデスドラゴンの間合いに入って袋叩きにする。デスドラゴンは間髪入かんぱついれずにりかかる攻撃に手も足も出ないでいる様だ。


「ぎゃあああああおおおおお!!」


リリィはというと負傷者の元へと向かって下位回復魔法ヒールをかけていた。必要な場合は増幅魔法バイリングで回復魔法を掛け合わせている。


「どこのどなたか存じないが、ありがとう」


負傷者の手当が完了し次々と戦線復帰せんせんふっきしていく。

戦力も多くはないがリリィの魔法が向かい風を呼び込んだらしい。このままいけばデスドラゴンをたおせる。誰もがそう思っただろう。


「ぎゃおおおお!!」


デスドラゴンは動きを止めて、大きく息を吸い込んだ。その不審ふしんな様子に気づいたリリィ。


「逃げて皆!!」


リリィの声は遅かった。デスドラゴンから吐き出される紫色の炎、紫炎しえん。またの名を死炎しえん。この炎は生命力を焼いてしまう。草木に当たれば草木が枯れ、人間に当たれば


「う、腕が……腕が!?」


当たった箇所は壊死えししてしまう。こうなれば通常の回復魔法では治せない。壊死えしした部分を切り落とし、壊死えししていない部分の再生力を利用して長時間かけて元の形に戻すしか方法がないのである。


「も、もう勝てない……何だよこいつ! EX(エクス)クラスって、何なんだよ!」


見れば先までデスドラゴンを押していたはずなのに、デスドラゴンの体には傷があまりついていない。いや、傷が消えているのだ。


「再生? でも早すぎる」


何かおかしいと感じたリリィは辺りを見回した。すると先ほどの死炎で焼けて出た煙をデスドラゴンが吸い込んでいたのだ。


「死炎で焼けて出た煙を吸い込んで再生してる?」


みるみるうちにデスドラゴンの体についた傷が再生されていく。


「無理だ! こんな奴……勝ってこない」

「私ももう魔力が残ってないわ」

「くそっ……殺すなら殺せ!」


皆があきらめめ死を受け入れようとしていた。けれどリリィだけは諦めてはいない。


「皆、どこかに隠れてて!」

「何言ってんだ! まさかお前一人で戦うって言うんじゃねぇだろうな?」

「さっきの魔法凄かったわ、まだお嬢さんなのに。同じ魔法使いとして尊敬したわ。だから逃げなさい。私達が時間を稼ぐから」


それを聞くとリリィは町でなくデスドラゴンにでもなく横に向かって戦場を突っ切っていった。それを見た賞金稼ぎ(バウンティ)達は自分たちの残された仕事をまっとうしようと立ち上がる。


「未来は……たくしたわ……」

「さあこいや!デスドラゴン!」


デスドラゴンは再び息を吸い込んだ。賞金稼ぎ(バウンティ)達は決死の思いで一斉いっせいにデスドラゴンへとかかる。


下位火炎魔法ジェラ!」


その魔法はデスドラゴンの右後ろから放たれていた。


「さあこっちだよ! ボクについてらっしゃい! 飛翔の極意(ラウルーネ)!」


デスドラゴンはリリィの方を見ると、体の向きを変えてつばさを動かした。大きな巨体を浮かす羽ばたきは体重の軽い賞金稼ぎ(バウンティ)を吹き飛ばしてしまうほどだ。


「おいおいマジかよ。あいつ本当に一人で戦うつもりか?」

「追いかけるわよ!」





リリィは西へ西へと飛んでいく。それを追いかけて、後ろからデスドラゴンが追いかけてきていた。


「ぎゃあああああおおお!!」


当たればひとたまりもない死炎しえんをリリィは躱していく。

リリィは草原、森と越え、荒地まで飛ぶと地上に着地した。ここであればいくらデスドラゴンが死炎を吹こうと草木が枯れることも誰かに被害がおよぶこともないだろう。


「ここなら、ボクが本気を出しても大丈夫だよね」


追いついてきたデスドラゴンが地面に降り立つと土煙が吹き荒れる。腕で土煙を防いだらさっそく魔法の準備に取り掛かる。


「ぐおおおおお!!!」「「「「「きぃやあああああおおおおおお

!!!!!」」」」」


雄叫びと多面相が阿鼻叫喚あびきょうかんの悲鳴を上げるがリリィはものともしていない。


「そんなの全然怖くないよ……じゃあ、いいよね」


リリィの唱えようとしている魔法。リリィは子供の頃にとある魔法を使って魔物を倒して見せた事があった。リリィとリリィの母マリィが魔物に襲われて、マリィは魔法ではどうする事も出来ずに立ち往生していた。そんな時にリリィが新しい魔法を覚えたと言ってその魔法を唱えた。その魔法は瞬く間に魔物を消し炭にして周りの木々を燃やし、マリィがやっとの事で鎮火したのだ。


『リリィ、その魔法は絶対に使っちゃだめよ?』


超位火炎魔法インフェルノ!」


空中にバチバチバチと破裂音が鳴り響く。リリィの空に掲げる掌の上には激しく燃え盛る豪炎ごうえん


「まだだよ……超位火炎魔法インフェルノ増幅魔法バイリング! はぁっ!」


リリィは火の粉が森に降りかからないように魔法を球体状きゅうたいじょうに整えた。よってその炎は直径二百メートルを前後する巨大な豪炎球ごうえんきゅうと化した。


「天に召されろ! デスドラゴン!」


不敵に笑むリリィの瞳は紅色に輝く。


「ぎゃあああああ!!!!!!!」「きぃやあああああ!!!!!!!」


デスドラゴンと多面相の奇声の様な断末魔が荒地にひびき渡る。悶え苦しむその影が炎の中で動かなくなるまで、その炎が消えることはなかった。





リリィは魔力を霧散させてぱっと炎を消し飛ばす。


「ぎぃ……ぎゃあああお」


デスドラゴンは見るも無惨に焼け焦げた姿になってもなおまだ生きていた。死炎を吹こうとするが全身を焼かれていて息をすることもままならないようだ。このままではデスドラゴンも無意味な苦痛を味わうだけなのでリリィはもう一度魔法を放とうと掌を翳す。


「待て」

「え? ……今の……デスドラゴン? ……あなた喋れるの?」


今まで獣の様に叫ぶだけ叫んでいたデスドラゴンが驚くことに言葉を話したのだ。言葉を話すデスドラゴンなど、リリィは塾で習いもしなかった。


しゃべれないのでない、人間も魔族も喋るに値せぬのだ」


息も絶え絶えに震える声を絞り出しながら語るデスドラゴン。


「答えよ。お前が私の友を殺したのか?」

「友? ……デスドラゴン…さんの友だから……同じデスドラゴンさん?」


こくりと頷き返すデスドラゴン。


「ボクは分からないかな。襲ってきたら燃やすけど」

「そう……か……がはっ!」


デスドラゴンは青色の血を口から吐き出した。苦痛に顔を歪め、息も荒い。早く楽にしてあげなければならないとリリィの心が騒ぐ。


「最後に……魔物でも……人間でも魔族でもないお前に……頼みがある」


どうやらデスドラゴンにはリリィの正体がバレていたようだった。


「私の肉を……完全に燃やしてくれ……一片の細胞も残さずに燃やしてくれ………………私の……デスドラゴンの肉体が……誰かの手に渡るなど…………誰かに食されるなど…………あってはならんのだ……それが人間や魔族ならば……甚だ屈辱だ……」


リリィは考えていた。冥界の死竜と呼ばれる魔物がなぜ人間の町を襲いに来たのか。それも王国や王都でなく、何の変哲もないただの町にだ。わざわざ町をほろぼしにくるだけの並々ならぬ事情があったのかもしれない。デスドラゴンの目はそれを言うだけの目をしていた。せっかくならば事情を知りたいところだが、今のデスドラゴンに聞くのは酷な事だろう。


「分かった……超位火炎魔法インフェルノ!」


完全に消し炭にするならば、半端はんぱな魔法は不要だった。また、人間や魔族を嫌うデスドラゴンを思い、人間や魔族がまず使う事はほぼ不可能な超位魔法でけりをつける事にした。


魔法講義ちゃん第8弾!


今回の魔法は……じゃかじゃかじゃかじゃかじゃん!


飛翔の極意(ラウルーネ)です!


この魔法は上位魔法。風系統の応用魔法になります!

誰でも使えるわけではありません。風魔法が得意なのは魔族の中ではエルフなど。作中ではエピルカさんが風魔法のエキスパート(自称)でしたね。それからリリィも。こいつら皆空飛べます。

ただ飛翔の極意(ラウルーネ)で空を飛んでもね、空を飛びながら戦うのはとても難しいんです。リリィですら飛翔の極意(ラウルーネ)使いながら他の魔法打てませんもん(自我ありではまだ)。

また飛翔の極意(ラウルーネ)は自分だけでなく他の誰かにかけることも可能なんですね。飛翔の極意(ラウルーネ)使えない他の誰かにかけて、その誰かをそのまま谷底へ突き落とす……なーんてサイコキネシス的な事にも応用出来ますよ??


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