どこにも行かせないよ5
ホヅミは目を覚ますと、隣のベッドにはリリィがまだすやすやと寝息を立てていた。どうも自分でテーブルからベッドへと移動したらしい。
「ふっ、うーんっ」
昨夜は気持ちよく眠れたらしい。今思えば異世界に着いて色々な出来事があった。出会い頭に頭をぶつけて気絶したら突然入れ替わっていたり。子供の頃に憧れていた魔法を目にしたり。見た事もない魔物や魔族のエルフとも出会い、そして友達が攫われて、助けにいったりと。
(今頃シュウはどうしてるのかな……)
シュウは最初とてつもなく嫌な人間だと思っていたが、後々シュウの優しさに気づかされるばかりだった。
(リリィって何者なんだろう……)
入れ替わり中に王都で目にしたリリィの体の能力。その称号には魔物と人間のハーフとあった。リリィの傍にいて感じたことは、リリィは人間よりも魔物よりも強い力を持っているという事。今のところ、アンデッドを除けば向かうところ敵なしだ。
(もしかしたらリリィって……私の……私やシュウの……)
ホヅミはとある疑念を抱いた。もしそうならばと、ホヅミはしたくもない予想をしてしまいそうになって首をブンブン横に振る。
「よいしょっと」
ホヅミは起き上がって背伸びをした。ベッドから足を出して、そのまま窓へと向かう。両開きのドアを開けると、程よい冷たさの気持ちのいい風がふわりと部屋へ吹き込んできた。
「んはよう……ホヅミん」
「あ、ごめんね。起こしちゃって」
リリィは上半身を起こして眠たそうに目を擦っていた。寝癖の跳ねたところが愛らしくて、先程抱いた疑念を吹き飛ばしてくれる。
二人は朝食を食べて身支度をすると、宿屋を後にした。借家の情報を求めて、組合へと向かう。組合には人が仰山といた。特に依頼書の前には人集りが出来ている。
「ようこそいらっしゃいました。本日は依頼をお探しですか?」
「いえ、そうじゃなくて、借家を探しているんですけど……」
「ああ!借家ですね。でしたら仲介屋をお尋ねください。今地図を渡しますね」
受付嬢は屈むと、カウンター下部から地図を取り出して羽根ペンで丸印をつける。
「こちらが仲介屋の住所になります」
現在地と仲介屋に丸印がつけられていて、仲介屋はそう遠くない場所にある事が分かった。
「ありがとうございます! これ戴けますか?」
「どうぞどうぞ。無料で差し上げますよ」
「ほんとですか!? ありがとうございます!」
ホヅミは地図を受け取って、リリィと二人で組合を後にする。その時屋内から送られていた怪しい視線に気づきもしなかった。
二人は地図を見ながら道を違わない様にゆっくりと歩いていく。
「ここから行った方が早いんじゃない?」
「うん、そうね」
互いに一枚の地図と睨めっこ。話し合いながら目的地へと向かう。
「ここを通ったら近道かも」
「ボクもそう思う」
二人はとある薄暗い路地へと入る。人気がなく少し躊躇ったが、リリィと二人なら怖くないとホヅミは足を踏み入れた。中まで入ると、前からは武器を剥き出しに歩くガラの悪い二人がやって来た。ケタケタと下品に笑いながら少女二人を見る男二人。
「引き返そう」
リリィの提案に小さく頷くホヅミ。だが後ろからも武器を剥き出しのガラの悪い男二人がこちらへと向かってきて挟み撃ちに遭う。
「ボク達に何の様?」
怖いものなしに先に切り出すリリィ。ホヅミは怖気付いて、その陰で身を震わせている。
「お嬢ちゃん達。悪いようにはしねぇから、ちょっとお兄ちゃん達のお願い聞いてくれないか?」
「何なのお願いって」
「昨日たんまりと報奨金もらってたじゃねぇか。それをちょいと分けてもらえねぇか? ほんの八割。いや、九割でいい……くく」
それはもう全部寄越せと言っているに等しい理不尽な文句だった。
「それは出来ない相談だね」
「おっとお嬢ちゃん。俺達には浄化は効かねぇぜ?」
「飛翔の極意!」「わっ!?」
リリィはホヅミを抱えて空へと飛び上がる。ガラの悪い男達はどよめいた。
「なっ!? 飛翔魔法!? 何であんなガキが!」
「何でもいい! 逃がすんじゃねぇ! 」
男達は路地を出て空を探し回るが、どこにも少女二人の姿はなかった様だ。
「くそっ! 見失った!」
一人がやけになって武器を地面に叩きつける。
「あ、あれ……見てください……あれ」
「何だ? 見つけたか?」
「違います……あれ……あれ……」
気が動転してしまった男が指す空の先を見たもう一人の男は動きが固まってしまった。
「ぐあ……ががが……ぎぎぎ」
「おい! どうした!」
男は錯乱状態に陥っていた。自身の腹、胸、首、顔をひたすら掻きむしる。
「何してる! おいやめろ!」
もう一人の男は男の手を止める。
「ぐあ、あ、ああああがああああ!!!…………………………」
「おい……死んだのか?」
腹から顔までが引っ掻き傷だらけになって白目を剥いた男は、口から吹き出した泡をもう一人の男に塗りつけるにして地面に転がる。
「兄貴! こいつ、どうしちまったんでしょう!」
兄貴と呼んだ男に、仲間の異常な行動やその姿に怯える子分が問いかける。
「兄貴!?」
「おまえらバッカ!早く逃げるぞ!デスドラゴンが向かってきてる!」
兄貴と呼ばれた男は一目散にその場から逃げ出していた。
「えっ!? あの冥界の死竜が!? ……あ!ま、待ってくださいよ兄貴!」
「俺も置いてかないでください! 兄貴ぃ〜!」
こうしてガラの悪い男三人は町から逃げ出していった。
空へと飛び上がって四人組から逃げ出した二人は建物の陰を利用して見つからないようにすぐ陸地へと降り立っていた。
「この町物騒だね」
「私もそう思う……(王都ほどじゃないけど)」
ホヅミは手に持つ地図を広げて再度仲介屋への道筋を見るが、気乗りしなくなってしまった。
「どうする?」
この町での居住は芳しくないと、目や身振りでリリィに示唆する。
「うーん。やっぱり別の町にする?」
リリィの力量ならば、あの四人組が相手でも大した障りにはならない。けれどホヅミは気が休まらない思いをする事になる。
「一旦、組合に戻ろっか。別の町に行くための地図とかあるか聞いてみようよ」
「うん、そうしよ!」
リリィの案に納得したホヅミ。二人は組合に戻ろうと地図を見る。組合に向かう道すがら、入口付近に大勢の人間が集まっているのが見えた。皆武装しているようだ。気づけば辺りが騒がしい。
「何かあったんですか?」
リリィが聞くと、あたふたとした男は足を止めずに町の奥へと走っていく。耳栓でもしているのだろうか。
「あのぉ!」
リリィの声などまるで聞こえていないかのように走り去っていく。
「ねぇリリィ、あれ……」
愕然としたホヅミが空を見上げて指している。それを見たリリィはホヅミの指す方角に沿って視線を合わせていく。
「あれは……冥界の死竜……デスドラゴン!?」
その巨大でとてつもなくおぞましい姿には、思わずリリィも目を見張る。
「ホヅミん、ホヅミん!?」
「ぅぅうううあ…あ……あ」
ホヅミは急に自身の首を絞め出していた。どうやら錯乱状態に陥っている様だ。
「ホヅミん!怖がっちゃダメ!意識をしっかり保って!」
リリィはデスドラゴンを知っていた。塾で習った事だ。この世には恐怖を与えるだけで命を奪ってしまう魔物がいると。
「ホヅミん! 目を覚まして! ホヅミん!!」
「ぐぐぐぐぐぐ」
ホヅミの頭には血が上り真っ赤に染まっている。そしてその口からは白い泡が吹き出ていた。
「ホヅミん!ボクが絶対守るから!……だから怖がらないで?」
「っ!? うぇえっ!! えっえっ! げぼっ!げほっげほっ!!げほげほげほ! げほっげほっ!…………はぁ、リリィ?」
「良かった……死んじゃうかと思ったよ……ホヅミん」
涙を流すリリィをホヅミは不思議に思った。
「いいホヅミん? ここから何があっても、何が聞こえても絶対に怖がっちゃだめ」
「う、うん……分かった」
「それからホヅミん。ここで耳を塞いで待ってて」
リリィの真剣な面持ちに事の重大さを感じ取るホヅミ。
「どうして? あの魔物は何なの?」
「あれはデスドラゴンっていうEXクラスの魔物。あの魔物の前でもし恐怖を見せてしまったら、呪いで命を奪われる」
それにはゾッとするホヅミだったがぐっと堪えた。
「なら大丈夫!……怖がらなきゃ良いんでしょ?」
「だめ! 危険すぎる!」
リリィの必死な目つきにホヅミは押されてしまう。
「だったらリリィだって……」
「ボクは大丈夫………強いから」
そう言うリリィは不敵に笑ってみせた。そして脇目も振らずに走り出す。
(さっき……絶対守るって言ったじゃん)
分かっている。リリィの守るというのは、魔物を絶対にホヅミの元へは行かせないという事だ。ホヅミ自身それは理解していた。
(私も……リリィの力になりたいよ)
残されたホヅミは一人その場で割座する。
魔法講義ちゃん第7弾!
今回の魔法は……じゃかじゃかじゃかじゃかじゃん!
増幅魔法です!
この魔法……皆さん気になっておられたのではないですか??
実は全魔法の中で一番強い魔法なんですね。
増幅魔法とは固有魔法に属しております。同じ魔法を同調させて威力を二乗します。つまり四倍ですね。使い方を誤ればあっという間に特位魔法並の火力になっちゃって、たかだか人間なら身を滅ぼしちゃいますから。
ちなみに増幅魔法は三形態あります。リリィの使用しているのは一形態目です。まあこれも後々紹介していくとおもいます。今言っちゃうとネタバレですもんね。





