どこにも行かせないよ2
悲鳴を上げるホヅミ。森の中から姿を現したのは長剣と小回りの利きそうな盾をそれぞれ持った二体の骸骨。光っている様に見えたのは月光に反射した長剣の切っ先だった。そして襲いかかってくる二体の骸骨。リリィがホヅミを庇う様にして前に出る。
「ホヅミん下がって!」
「ぐぁが!」
一体の骸骨がリリィに向かって剣を振り下ろす。リリィは寸でのところでステップを踏んで攻撃を交わした。続いてその後ろの骸骨もリリィにかかる。骸骨の動きはそれほど機敏ではなく、振り下ろされる剣さえ躱していれば何も問題がないほどだ。後は距離をとって得意な下位火炎魔法をぶち込む。
「効いてない!?」
その火炎はホヅミの体で唱えた時よりも凄まじく燃え盛る。増幅魔法を使わずとも、下位火炎魔法・倍に相当するほどだった。だが骸骨には痛い、熱いという感覚がまるでない様子。リリィは振り下ろされる剣に対して躱すことしか出来ないでいる。このままではいずれ体力も尽きて攻撃を受けてしまうだけだろう。
「くそっ」
リリィは増幅魔法を用いても下位魔法程度ではこの骸骨をどうにも出来ないと感じていた。何か物理的に働きかける事が出来るもの、エピルカの様な応用魔法を用いれば可能かもしれない。だがリリィは火炎魔法を得意と言って、応用魔法は大して出来ない。せいぜい出来て炎の原型を変えたりするくらいだろう。
「……何か武器があれば……」
それを聞いたホヅミはエルフのサーラから手渡された短剣を思い出す。その短剣は今、リリィの腰後ろ側に回されていてリリィ自身その存在に気づいていないようだ。
「リリィ! 腰にある短剣を使って!」
リリィは腰に手を回すと、短剣の柄に触れる。
「ぐぁぐぁ!」
キン!
鋭い音。剣と剣の衝突。しかし力が足りず押し負ける。何とか長剣をいなしてリリィは再び距離をとった。
「ホヅミんありがとう!」
リリィは呼吸を整える。これから使う魔法は初めての魔法だった。見よう見まねで覚えた新魔法。目尻を決して唱える。
「いくよ、中位強化魔法!」※強化魔法に中位のものはありません。
ゼロが魔法を使う際に、その魔力の流れを肌で感じ取って覚えた魔法。今までとは比べ物にならない素早さで骸骨との間合いを詰める。
「はっ!」
キン!!
繰り出される素早い剣筋に骸骨は剣と盾で守りに徹した。そんな二体の骸骨を相手にしてもリリィは押して押して押しまくる。
「もらった!」
カン!
リリィの斬撃は骸骨の上腕骨を直撃。だがリリィの腕力が足りなかったのか、短剣の切れ味が劣っていたのか、上腕骨には傷一つついていない。
「がっがっがっ」
濁声で勝ち誇った様に笑う骸骨。リリィは再び距離をとって次の手を考える。
「どうしたら……」
リリィは苦い表情で迫り来る骸骨に身構える。
(あれは)
骸骨の剣は錆びていた。つまり鉄で出来た剣。リリィはこの突破口を見逃さなかった。
「中位氷魔法!」
骸骨の周りには冷気が発生し急激に温度が下がり、骸骨の動きは止まる。
「中位熱魔法!」
続けて魔法を放つと今度は骸骨の周りが熱せられて、動けるようになった骸骨。蒸気を立ててリリィに再び迫る。
「割れろー!」
パンッ!
リリィは素早い動きと太刀筋で骸骨の長剣を叩き割った。もう一方の骸骨の長剣も叩き割り、リリィは不敵に笑う。
「これでどう? あなた達はもう戦え」
リリィは油断していた。骸骨達の剣に拘りすぎていたのだ。骸骨は関節を回すと、リリィのお腹に拳を埋める。
「がはっ!?」
よろよろとリリィは後退りして尻もちをついた。それにはいてもたってもいられずホヅミはリリィの元に駆け寄る。
「リリィ!」
「ごぼっ! ごほっごほっ! ごほっ!」
激しく咳き込むリリィ。当たり所が悪く、血を吐き散らしていた。
「詰めが甘い」
その声は頭上から聞こえてきていた。いつからいたのか、ホヅミは見上げる。空からゆっくりと降下してくるその者はどこかで見た様な姿、顔。その手下と思われる骸骨も、動きを止めていた。
「いやはや、次代の王がこれほどのうつけでは溜まりません」
「お……前は……カラナ」
ホヅミも王都の宿屋で対面した事はあったが、それ以上にリリィはその魔物を知っているようで、ホヅミの顔はリリィと魔物を行き来していた。
「王都では見事な働きぶりで感心していましたのに、がっかりです。それにしてもあの素晴らしい魔力、素晴らしい破壊力、素晴らしい悲鳴、驚嘆でした」
カラナは両手を広げて感動を表現する。
「またボクを連れ去りに来たの?」
「そうです……本当ならばその素晴らしい力を我が者にしたい所ですがね」
カラナはにぃと口角を上げて答えた。
「だったらもう断ったでしょ? あんまりしつこいと燃やすよ?」
リリィは掌を上に返すと、すぐさまカラナは骸骨の背後まで地面を蹴って飛んだ。
「危ない危ない。あなたの魔法は危険ですからね……そのためにこの不死身の兵を連れてきたんです」
リリィはカラナから二体の骸骨へと視線を戻した。短剣も通用しない、打撃は力不足。リリィは苦汁を飲まされる。
「さあ、続きを始めましょう。お前達、王女は必ず生け捕りにしなさい」
「「ぎゃぅわあ」」
リリィは先程骸骨に殴られた影響でまだ立ち上がる事も出来ないようだった。
「下位回復魔法!」
リリィはすぐに回復魔法をかけるがどうやったって間に合わないのは自分でも分かっていて、下唇を噛んで骸骨を睨み上げる。
「風の弾丸!」
ホヅミの放った魔法は骸骨の体に当たると弾けて消える。
「させないよ! 殴るなら私を殴ればいい!」
ぷるぷると身を震わせて、足もガクガクと遊んでいる。目と鼻からは液体が溢れて、いかにも弱々しいその立ち振る舞いに、カラナは冷ややかに笑みを浮かべる。
「兵よ、その人間は殺してしまいなさい。邪魔です」
カラナの指示に一体の骸骨は腕を振り上げる。その瞬間ホヅミは目を閉じた。
「ぐああああ!?」
聞こえたのは骸骨の悲鳴。ホヅミは恐る恐る目を開けると、骸骨の兵達はホヅミを見て三歩引き下がる。
「お前達! 何をしている! その人間も殺せと命じているのだぞ!」
声を荒らげて憤るカラナ。その様子にホヅミは誰かが助けてくれたのではないかと後ろを振り向くと、眉を顰めて骸骨の挙動を不審そうに見ているリリィが、その場で座り込んでいるだけであった。
「何だ! どうしたんだ」
「ぐぁぐああがが」
「ぐぁがが? がが?」
骸骨は何かを話し合っている。そして骸骨は互いに顔を見合わせて頷き合うと、振り返ってカラナの元へと歩いていく。
「ちっ、命令違反か。お前達、そのつもりならば」
骸骨は歩みを止めた。表情は読めないが何やら顔を下に向けている様にも見える。そして何かが起こる事なく、時間がコツコツと過ぎていく。
「何だ? 何をしたいんだ?」
痺れを切らしたカラナが切り出した。
「ぐぁがが」
「何? 今更何の話がある?」
相変わらずただ呻いてるだけとしか思えないホヅミ。カラナは骸骨の主人なだけあってその言葉が分かるようだった。
「ぐぅがぐぅが」
「何!? 昇天したいだと!?」
「ぐぅが、がぐがぐきゃあおうがぐぐががぎぎぐうぐぅが」
「元々未練があって昇天出来なかった。でもあいつに触れば昇天出来る……ふざけるなぁ!だったら王女を動けなくなるまで痛めつけてからにしろ!」
カラナは骸骨の言葉に激しく憤慨し、怯えた骸骨達はホヅミ達へと向き直る。カチャリカチャリと音を立てる以外に何の表情も読み取らせてはくれない骸骨。じっくり見れば見るほどに人間の骸骨をただ眺めている自身が馬鹿馬鹿しく思えてくるホヅミ。
「ぐあああ!(翻訳:うおおお!)」
一体の骸骨は盾を振りかぶる。ホヅミは腕を交互にして防御の姿勢をとった。
「ぬ……ぬぬ……ぬっ!……?」
けれどいつまで経っても攻撃がホヅミになされる事はなかった。骸骨が振りかぶったまま静止しているのだ。ぴくりとも動かないところを見るからに、中の魂か何かが出ていったのではないかと思えてしまうがそれは違った様だ。骸骨は動いた、ただその行動は予想外のものだった。
「ぐあぅわぁ〜ん(翻訳:聖女様ぁ〜ん)」
骸骨はホヅミを抱きしめると眩しく輝き出す。
「ひゃあああ……!?」
ホヅミは口をぱくぱくと動かして仰天。輝きが止まると抱きついた骸骨からは力が抜けた様で、バラバラとホヅミの足元に崩れていく。
「ぐぁがぁ!(翻訳:ずるいぞ!)」
二回目のハグ。もう一体の骸骨も眩しく輝いて、輝きを失うとバラバラと先の骸骨に重なるようにホヅミの足元へと崩れていく。あまりの唐突な出来事に、カラナ、リリィそして何よりホヅミが度肝を抜いていた。
「さて、回復完了!」
未だに唖然とする二人を差し置いて、リリィは元気になった体で起き上がった。
「カラナ、まだ"ボク達"と戦うつもり?」
カラナははっとする。手を口に添えて爪を噛む。
「天に召されたいなら、しっかり燃やすけど、どうする?」
リリィは掌をカラナに向けた。
「き、今日のところはこれで帰らせていただきます」
カラナは外套を翻し空へと逃げていった。それを見ると、二人は肩の荷が下りた様でため息をつく。リリィは腰から地面にへたり込んで、ホヅミは膝から地面にへたり込む。
「ホヅミんありがとう、さっきの何なの?」
「え!? い、いや…私にもさっぱり……ん? ひゃあああ!」
ホヅミは自身の周りに人間の骸骨が散らばっているのを見て背筋が凍りついた。
魔法抗議ちゃん第4弾!
今回の魔法は……じゃかじゃかじゃかじゃかじゃん!
鋭利な旋風です!
エピルカがよく使っていた応用魔法ですね。
この魔法は元々中位風魔法という魔法から派生しました。
風を刃の様に鋭くするために、ウィルという魔法が掛け合わされたんです!





