解けた入れ替わり4
「ふぅ、ここまでくれば安心か」
ゼロはホヅミが天上から魔法繰り出す直前、うさぎの危機察知能力の部分が働いて、リリィを抱えてあの場から逃れる事が出来ていた。王都一つを飲み込む程の魔法に、ゼロはあまりに驚いて腰を抜かしてしまっていたが、ホヅミの体が落下していくのを見て、即座にその俊足をもってホヅミをキャッチ。ゼロは無事二人を抱えて離れた森の中へと身を潜めるのであった。
「あれ……ゼロ? ここは?」
「良かった、ホヅミさん。気がつきましたか」
その問いかけにきょとんする少女。
「何言ってるの? ボクはリリィだよ?」
「……ん?」
「だからぁ、ボクは……って……あれ? そこに倒れてるの……あれ?」
リリィは自身の顔中や体中を触って確かめる。その様子を不思議に思うゼロ。
「あの、ホヅミさん?」
「元に戻ったぁ!!」
リリィはホヅミとの入れ替わりが解けたことに気がついた。久しぶりに実感する自身の体に嬉しい気持ちだ。
「ううーん」
リリィの嬉声で起こしてしまった様で、ホヅミの体を持ったホヅミが目を覚ました。
「良かった! 一時はどうなる事かと思いましたよ、リリィさん」
「むにゃ……ん?? 私ホヅミだよ?」
「……え? あれ……はて……」
こっちがホヅミでこっちがリリィで、とゼロは考えていると頭がこんがらがってしまう。先のとてつもない体験に記憶障害を起こしてしまっているのかと疑ってしまうほどだ。
「ホヅミん! ボクたち元に戻ってるよ! うははーっ!」
言われて目の前に映る少女の姿に目を丸くするホヅミ。そして顔中や体中のあちこちを触って確かめると
「あー、そこはあるのね……はぁ」
つい触れてしまった汚物に気を落とすホヅミ。
「あれ? ホヅミん嬉しくないの? 元の体だよ元の体。ほら? あはは」
のんきに自身の体を堪能するリリィと暗い面持ちのホヅミに挟まれ、何が何だか分からないでいるゼロ。
ホヅミとリリィは事情を話すと、ゼロは頭がすっきりしたようで晴れやかな気持ちになったようだ。それから更に話の中で、ホヅミが賞金稼ぎ組合で能力照会をした際に、本・固有能力入れ替わり作動中の表示があった事をホヅミは説明した。
「それはつまり、ホヅミんの能力が入れ替わりなのかな?」
「俺は賞金稼ぎに狩られる側なので、詳しい事は分からないです」
二人の様子からして能力の真相がはっきりしない事は分かったが、入れ替わりの能力はホヅミ自身にある可能性は高いだろう。
「そうだ! じゃあさ、さっそく入れ替わりが戻った事だし、二人で賞金稼ぎ組合行ってみる? その時はゼロに外で待ってもらうけど」
するとゼロは深刻な表情で俯いた。その様子にリリィやホヅミも不可解な印象を見受ける。
「ゼロ?」
「あ、そういえば戦争……どうなったんですか?」
ホヅミが切り出した。あれほど鮮烈な戦いをしていたのに今の今まで忘れていたのも愚鈍だった。
「え? 戦争? 何の事?」
とリリィは戦争についてすっかり忘れている様で明るい笑顔を振り撒いている。
「リリィさん、覚えていないんですか?」
「え?」
ゼロはホヅミとリリィを連れて森の外へと向かった。王都からあまり離れないように走ったので、木々を抜けるとすぐに大草原が広がり、焼け野原と化した箇所が目に入る。すっかり魔物の気配も人の気配もなくなり、遠くからでも誰かの目に止まってしまう程の広い地を堂々と"三者で"歩いてもあくせくしないで済んだ。
「えっと……ゼロさんは今王都に向かっているんですよね?」
「そうです」
ゼロの向かう先に一向に目的地が見えない事を不思議に思う二人。そしてある場所でゼロは足を止めた。
「ここが王都です」
「えっと……え?」
そこは黒い焦げ跡の残った、廃墟という言葉が相応しい場所だった。たくさんの瓦礫が一帯にのあちこちに積まれていて、王都の面影が微塵も感じられない二人。
「ゼロ? 冗談はやめて。ボクは騙されないからね」
「冗談ではありません。ここが王都です。戦争で……いえ、あなたがこの王都ごと、戦争を終わらせたんです。リリィさん」
「ボ……ボクが……」
リリィは動揺していた。リリィの記憶にあるのはエピルカを倒したところまで。しかし言われて、自分でない自分が起こした事であると思える様な記憶が脳裏にちらついていた。リリィは思い出そうとしているようで、無意識に思い出さないようにしている。もし思い出してしまえば、たくさんの人の命を奪った罪に苛まれてしまうから。
「そ、そんな……ボクは何も……ボクは……ボクはやってない……ボクは……やって」
「リリィさん……俺は魔物です。魔物の軍勢を救ってくれた事は感謝します。もし人間の軍をやっつけてくれなければ、多くの魔物が死んでいた。だから俺は感謝しています」
ゼロは悲しそうに礼を言った。ゼロは望んでいたのだろう。お互いが傷つかずに解決する事を。人であるホヅミやリリィと共にいる事自体が、それを表明している。
『お前のせいだ! この人殺しめ!』
「へ? な、何? 今の」
リリィの頭の中に直接流れる声。
「リリィ?」
『よくもまあのうのうと生きていられるもんだ』
「ひっ、何? 何なの?」
「リリィ、深呼吸して」
ホヅミは突然様子がおかしくなったリリィに声をかける。
『早くこっちへ来い』
『地獄へ落ちろ』
『穢らわしい! この魔物め!』
『魔物は滅びるべきだ!』
『殺してやる……殺してやる』
『俺の子供を返せ』
『お姉ちゃんがパパとママを殺したの? お前も殺してやる!!』
「やめて……こないで……ちがう……ボクはなにも……」
リリィは青ざめた顔で激しく呼吸をしながら森の方へと走っていった。
「リリィさん!」
「リリィ!」
ホヅミとゼロはリリィを追いかける。
リリィは森に入ると、木に何度も何度も頭をぶつけ始めた。
「忘れろ! 忘れろ! 忘れろ! 忘れろ!」
正気を失ってしまったリリィを慌てて後ろからゼロが止めに入る。
「リリィさんやめてください! そんな事をしたって何も変わらない!」
「はぁっはぁっ、ボ……ボクは……はぁっはぁっ、人殺しなんかじゃはむっ!?」
ゼロはリリィの口を手で塞いだ。よってリリィの過呼吸の発作が何とか収まった様だ。
「リリィさん、よく聞いてください。あなたはきっと、ものすごい力を秘めています。それこそ、世界を変えてしまえるほどかもしれません」
ゼロはリリィの手を両手で取り、ぎゅっと握りしめる。
「そんなあなたが逃げてはいけない。確かにあの時、別の方法があったかもしれない。犠牲を出さずに済んだかもしれない。そんなのは口で何とでも言える。ただ確かに今残った事実は、俺達魔物を救ってくれた事なんです。例えそれが不十分な答えだったとしても、人間があなたを恨んでも、俺は感謝したい。ありがとう」
ゼロの必死な説得によって、リリィは落ち着きを取り戻したようだ。その頬には、一筋、二筋と涙が伝っていく。
「ありがとうなんて……言わないでよ」
俯いたままひっそりと泣く姿を、ゼロは無理に見ようとはしなかった。それからリリィが泣き止むまでは、森でじっとしている事となる。
魔法講義ちゃん第2弾!
今回の魔法は……じゃかじゃかじゃかじゃかじゃん!
下位火炎魔法です!
この魔法はですね、火炎を生み出す魔法なんですが、いったい何が燃えているのかって話ですね。
ズバリ!!
魔力を燃やしているのです!
なので煙も出てきません。
とってもエコなんですよっ!





