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追われかぼちゃと勘当姫  作者: 憤怒の灰かぶり
第一章
32/77

解けた入れ替わり3(魔法講義ちゃん、始動)

ガチャリガチャリと音を立て足並みを揃えて下町を行く、城の兵舎を拠点にした兵士達と馬車が、通りを埋め尽くすように北門まで押し寄せている。先をゆくのは高い壁の中を詰所として潜んでいた兵士達だ。

北門は南門とは違い、森林でなく大草原だ。一度足を踏み出せば遠くまで見渡せるほどに広く、魔物の大軍が小さくもずらり、地平線と一体化していた。兵士達は兵隊長の指示の元、ある場所まで来ると横に広がってそれぞれ陣営じんえいを固める。前衛ぜんえいの武器持ち兵士。後衛こうえいの魔法兵団。そして前々衛には馬車が反対を向いて一定間隔いっていかんかく配置はいちされた。


口火くちびを切れぇ! 前々衛! 走る爆弾! 開始!」


合図と共に馬車からボロボロの布切れを着た者が1人ずつ下ろされる。馬車に乗っていたのは手錠をかけられた奴隷。下ろされた奴隷は兵士に注射を打たれると、我を忘れて暴れ出す。しばらくすると大人しくなり、兵士が奴隷に何か指示を出すと、奴隷はいきなり走り出して魔物の軍勢に突っ込んでいく。





魔物軍。


「人間なんぞ恐るるにたらん! 積年せきねんうらみ、晴らす時だ!!」

「「「「「うおぉぉぉぉおおお!!!!!」」」」」


軍団長と思われる狼の魔物、ボスウルガルフが雄叫おたけびを上げる。


「団長! 前から人間が走ってきます!」

「こっちもです!」

「エルフが走ってきやがった」


目立った武器も持たずに命を捨てにくる様子から、私怨しおんか何かだろうと軽視けいしした軍団長。


「構わない! 葬れ!」


しかしそれは誤判だった。いや、分かっていたとしても逃れることは出来なかっただろう。走ってきた人間やエルフは魔物達に飛び込むと光を放つ。そして空気も景色も吹き飛ばすほどの大火力な爆発が炸裂した。


「こ、これは」

「「「ぐぁああああ!」」」

「「「ぬおおおおお!」」」

「「「ぎゃあああああ!」」」


まさにそれは、走る爆弾。その身に術式を施し、後方のものが術式を発動させる。周りで次々と爆発する人間やエルフに驚きを隠せないでいる軍団長。そして軍団長の元にも人間の子供が飛び込んできていた。


「おい人間、なぜお前はそう命を粗末に出来るのだ!」


話しかけるが何も反応を示さない。


「よせ! もっと命を大切にするのだ! その軽視けいしがやがて他の命までもを軽視けいしする事になるのだぞ!」


軍団長は暴れる人間の子供を抑えようとしていると、図らずも自身の鋭い爪でその小さな体をつらぬいてしまっていた。だが人間の子供は暴れ続ける。更にその人間の子供は軍団長を見ていないようで、後方へと向かおうとしている。


あやつ……られている?」


先頭を切って出た軍団長は後続の魔物に追い越されていく。軍団長の周りの魔物の密度が高くなると、人間の子供は光を放って爆発する。その凄まじい爆発に周りの魔物のほとんどが死傷者で、爆発の中心にいた軍団長だったが、そのタフさで大きな火傷を負いながらも焦げた大地を踏み締めていた。


「人間……人間!! ほとほと呆れたぞ!! 貴様らの様な愚かな生き物は、この俺がこの手で…この爪で引き裂いてくれるわあぁぁあっ!!!!!」





ハイシエンス王都の壁の上。

ゼロは持ち前の脚力で、リリィはホヅミを抱えて飛翔の極意(ラウルーネ)で壁にのぼっていた。


「嘘でしょ……人間が……エルフが……」


三者は戦争の始まる様子を目撃していた。それはとつてもなく衝撃的なもの。前々衛に配置された馬車からは人やエルフが飛び出して、魔物の軍勢の中で魔物を巻き込み爆死を遂げるというもの。あまりに残酷で卑劣なやり方にリリィは怒りのボルテージが収まらない。


「あいつらぁ、許さない。絶対に許さない!」


リリィは走り出そうとしたが、ゼロに肩を引かれて制止される。


「リリィさん、気持ちは分かります。でもあなたが行ってもどうにもならない……それに」


ゼロは顔に憂色ゆうしょくたたえて、うつむき加減でいる。その様子をホヅミはじっと見ていると、見られている事に気がついて、ゼロは優しい表情を返す。


「ボクに……ボクにもっと……力があれば」


ドクン。

ホヅミの心臓が大きく脈打った一瞬、ホヅミは意識が飛んでしまいそうになる。


(今のは……何?)


「ボクにもっと……もっと」


ドクン。


(また……苦しい)


「ホヅミさん?」


ドクン。

するとホヅミの視界はぐるり。黒い空間へといざなわれ、やがて意識が途絶えてしまった。だが


「ん? リリィさん!? リリィさん、大丈夫ですか!? リリィさん!?」


倒れたのはリリィだった。ゼロは慌ててリリィの元に寄り体を揺さぶるが反応がない。ゼロは愛らしい手でリリィの呼吸を確かめる。


「呼吸をしていない?……そんな! リリィさん!! リリィさん!!」


ゼロは必死に呼びかけるがリリィは目を覚まさない。


「ホヅミさん! リリィさんが!……ホヅミ……さん?」


ホヅミは何も言わずに、真っ直ぐと戦場を見据えていた。足を一歩、また一歩と、自身の歩調を確かめる様に歩いていく。


「ホヅミさん? まさか戦場へ?!」

飛翔の極意(ラウルーネ)!」


ホヅミは使えないはずの飛翔魔法を唱えていた。ホヅミの体は浮き上がり、そのまま戦場へと赴いていく。


「ホヅミ……さん?」





命を奪い、命を奪われる。過酷を極める苛烈かれつな戦いは始まったばかりだ。


「おのれ魔物!! ここは俺たち人間の世界だ! 好き勝手暴れてんじゃねぇ!」


果敢かかんに攻めくるう魔物の覇気はきに、人間達は負けじと勇猛ゆうもうに立ち向かっていく。


「魔物め! 俺の子供を殺しやがって、絶対に許さねぇぞ!」


両者互いに恨み合い、憎しみ合う。そんなどろどろとした模様が、戦いの士気しきを生んでいた。


「気持ち悪いんだよ! 魔物め! 生きてるだけで罪だ! 死にやがれ!!」


人間と魔物ではやはり力の差は歴然たるものだった。人間は走る爆弾などの卑劣な手を用いているにも関わらず、魔物は単純な力や耐久たいきゅうで勝り、人間の軍を圧倒している。


「へっ、魔物め! 次は右腕か? 左足か? 目をえぐるなんてのもいいな」


人間は次の手を講じた。後衛に潜んだ弓兵きゅうへいが、矢を放つ。その矢には毒が塗られており、一発でも当たった魔物達は次々に形勢けいせいを崩していく。


「苦しめ! もっと苦しめ!」

ひるむな同士達よぉ!! 今こそ積年せきねんうらみを果たせぇぇええ!!」


ボスウルガルフは吠える。その雄叫おたけびは毒矢に当たった者までも再起させては人間の軍を再び圧倒あっとうしていく。



激しい戦場の空には、一つの影が存在していた。その影は宙に浮いたまま、人間の軍へ片掌を向ける。


極位火炎魔法・倍ロゼ・インガルフ・バイリング


パチパチと空中で鳴る。鼓膜こまくやぶってしまう程の、火花が弾ける音をその場の誰もが聞き、そして見上げた。その美しい炎に誰もが魅了みりょうされ、誰もがとりこになり、人間の誰もが死を忘れた。盛大な薔薇ばらの庭園へといざなわれるように。そして人間の誰もが気づく。自分は薔薇ばらの香りで死んでしまったのだと。

人間の軍は滅びた。そしてそこに確かに存在していた大きな街並みは跡形あとかたもない。奇跡的に魔法の犠牲ぎせいからまぬがれていた生き残りの兵はしっぽを巻いて立ち去る。あっという間の出来事に、たかぶっていた魔物達は呆然とその場で立ち尽くしていた。


「な、何が……起きやがった」


ボスウルガルフは天上に浮いている影に畏怖いふした。これまでに一度足いちどたりとも恐れにくっした事のないほこり高きウルガルフの主将しゅしょうでさえも、膝をついてわなわなと震えていた。


「ま、魔王様」

「魔王様だ」


魔物達から声が上がった。やがてこの場にいる誰もが天上に浮かぶ少女に拍手喝采はくしゅかっさいを浴びせる。


「「「「「うぉ! うぉ! うぉ! うぉ! うぉ!」」」」」


今まで魔物達を統一するために軍団長が教え込んできた掛け声で、魔王の復活を讃えるかの様に息を揃えている。しかし天上に浮かぶ少女は気を失った様で、魔力が霧散し地面へと落下していく。誰もがその様子に吃驚し、どよめく。そして地面の落下直前、何かが猛スピードで焼け野原を突っ切っり少女を連れ去っていった。


魔法講義ちゃん始めちゃいます!


では、今回ご紹介する魔法ですが……じゃかじゃかじゃかじゃかじゃん!!


時限(タイム)黒穴(ブラック)です!

シュウくんが使っておりましたね。

出現と同時に魔法壁が割れて、何人もの兵士さん達が連れ去られていきました。

まるでブラックホールみたいですよね?

でもその実態はただのワープゲートなんです!

シュウくんの意向で、ワープ先がどこか高い所にセットされてるんです。

気圧傾度力を利用して、兵士さん達を吸い込んでいました!

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