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追われかぼちゃと勘当姫  作者: 憤怒の灰かぶり
第一章
30/77

解けた入れ替わり1

二人はエピルカ=シエンス邸に向かっていた。昨日ツキジから受け取った王都の地図を見ながら、丸印が記された箇所を目指してシュウが先導する。

その間、ホヅミは一人考え込んでいた。先程賞金稼ぎ組合(バウンティユニオン)に行ってから浮かない顔だが、それもそのはず。リリィは魔物と人間のハーフで、そのリリィは家を勘当されたと言っていた。それにはホヅミも、何か深い事情がある様に思えてならなかった。おまけにユーナラ町にリリィの体が入れなかった事をリリィ自身は心当たりがあった様で、あの日あの時、涙を流したリリィの姿をホヅミはこの目で見ていたのだ。


「リリィ」


他にも疑問が残る。まず自身の本体の能力についてだ。入れ替わりの能力自体はそもそもどうやって使用するのだろうか。この世界に来た時、リリィと頭を激突させた。それが条件なのだろうか。また、リリィの体では全魔法が使用出来るのに、シュウに水魔法の使い方を教えてもらっても、リリィの体のホヅミが使えなかったのはなぜか。風魔法は使える。もしかすると、元の体で使える魔法しか使えないのかもしれない。そもそも、体はただの媒介で、魔法の根源は精神や魂にあるのやも。


「おい、おい!」

「えっ!?」


あれやこれやと考えていたホヅミははっとする。


「ぼーっとするな!もうすぐ着く、気を引き締めろ」


心ここにあらずだったホヅミはシュウの呼び掛けに気づくのが遅れてしまっていた。

シュウは地図を握り締めて、ピリピリとした緊迫感を放っている。王都北東。住宅街より外れ、人通りのない一本道。両側では高い木々が不気味に風に靡いている。先に見えるのは大きな屋敷。同時に広めの庭があり、黒い鉄柵てっさくが周りを囲んでいる。門には二人の兵士が棒立ちしていた。


「こっちへ来い」


シュウは茂みに入って手招きしていた。


「結局こっそり侵入するの?」

「んな事したらバレちまうだろ。大抵貴族の屋敷には魔法の壁が張られている。ガラスみてぇなもんだ。割れば音で気づかれる」


シュウは巾着袋から何かを取り出していた。チャリチャリと音を立てて出てきたのは鎖。先には鉄の輪っかがついている。もう一つは文字入りの手枷。ここまでくると何をするかは予想はついた。


「ねぇ、待って。それは嫌」

「じゃあおめぇはどうやって中に入るんだ?」


言われて考えてはみても、身分証を持たないとなるとホヅミには何も思いつかない。こんな事ならばシュウに作戦を任せっ切りにしなければ良かったと悔やむ。


「いや………だから、他にないの?」「ねぇ」


即答。呆然とするホヅミの両手にさっさと封魔錠スペルオフや首には鉄鎖のリードをカチリと嵌めていくシュウ。


「それじゃ、ここで少し待ってろ」


その言葉に我に返るホヅミ。シュウは一人茂ひとりしげみの中へともぐり込んでいった。


「どこ行くの?」

「ちょっと裏面工作りめんこうさくをな。すぐ戻ってくる」


言われて、ホヅミは茂みに隠れる様にしてシュウを待った。この様な状況を誰かに見つかってしまっては何をされるかも分かりはしない。早く帰ってきてと何度も心に願ってしばらくが過ぎた頃、シュウは戻ってきた。


「あぁー、すげぇ疲れた。じゃあ行くぜ」


額に汗をかいているところを見ると、何かをしてきたのだろう。シュウを先導に、一行は邸の門へと向かった。近くまで来ると、鎖を引きずる音に門番が気づいたようだ。門番の前までくると、門番は互いに槍を混じらわせてクロスの形を作っている。


「何者だ!」

「どうもお初にお目にかかります。わたくしはこういうものでして、どうかのエピルカ伯爵様に直接ご商談をと参った次第でございます」

(うわっ、人変わり過ぎでしょ。何あの笑顔初めて見たんだけど)


シュウはにこやかに、巾着袋から手形の様なものを取り出して見せると、門番はそれを手に取って吟味ぎんみし始めた。


「なるほど、行商手形ぎょうしょうてがたか。悪いが奴隷なら間に合っている」

「いえいえ、そんな粗末そまつなものよりももっと素晴らしいものを手に入れましてね」

(粗末そまつぅ〜?? シュウめぇ〜)


門番から手形を受け取ると巾着袋に仕舞う。代わりばんこに出てきたのは、何とアルストロメリア王国の腕輪だった。


「こ、これは!?」


ホヅミもそれには驚いていた。邸に潜入するがためとはいえ、自身の仕える国の誇りを取引道具として用いるシュウの気が知れない。


「私もエピルカ様のお手伝いがしたい。そんな思いでこれを今回の取引の目玉にさせていただこうかと」


門番はゴクリと喉を鳴らす。


「……分かった。通れ」

「ありがとうございます」


こうしてシュウとホヅミはすんなり門を通る事が出来た。


「ねぇシュウくん。私、この格好する意味あった?」


シュウは前を向いて黙ったままだ。


「シュウくん? おーい、シュウさん? ほんとはこういうの好きなだけで、つけたかっただけなんじゃないですか? シュウさん?」

「奴隷が口きくな」

「なっ!? ……ぐぬぬ」


その冷たい反応にホヅミは顔を真っ赤にして睨みを利かせるホヅミ。騒げば後ろの門番が面倒になるので、こらえて大人しくする事にした。


「どの様なご要件でしょうか?」


出迎えたのは目つきの鋭いメイド。眼鏡の下の突き刺す様な視線は、道端で水を求めて苦しんでいる人間を平然と踏み殺してしまうほどに冷たいものの様に感じられる。


「商談をお持ちした次第でございます。こちらを御覧ください」


シュウは巾着袋から腕輪を取り出すと、メイドはぴくり眉を動かして、眼鏡めがねの位置を指で整える。


「なるほど。ではこちらへ、待合室へご案内致します」


一行はエピルカ邸のメイドに連れられて邸内を進む。邸内は清掃が行き届いており、一言で綺麗と言い表せるほどだった。だがしかし警備の兵士は前のメイドと似たように、心做しか冷たい雰囲気を醸し出しているようにホヅミには思えて、居心地の良いとは言えない場所だった。


「こちらが待合室にございます。どうぞお入りください」


とある個室の扉を開けて、冷ややかな表情で中へと促されるシュウとホヅミ。部屋の中央には光沢感のある長方形の木製のテーブルが置かれていて、豪快なソファがそれを挟む様に位置する。天井にはシャンデリアの様に細かな装飾品が、煌びやかに明かりを部屋に注いでいる。それは紛れもない光で、この世界にも電気は通っているのかとホヅミは気に留めるが、これも魔法の類なのだろう。


「ではこちらでお待ちください。伯爵様をお呼びして参ります」


メイドは扉を閉めようとした。するとシュウはメイドに飛びかかる。腕を締め上げてメイドの体を床に叩きつけた。そのまま寝技を決め込み、じたばたするメイドを無理矢理押さえ込むシュウ。


「おっと声を上げるんじゃねぇ、妙な真似をしようものならお前の首をへし折るぜ」

「ふっ……ずいぶんと……人が…変わった様ですがああっ」

生憎あいにく、こっちが本性なものでね……おいホヅミ! 扉閉めろ!」


ホヅミはその様子にあたふたとしていたが、言われて咄嗟に扉を締め切った。


「そろそろいいな……発動、時限の黒穴(タイムブラック)!」


バリィンッ! バリバリバリバリ。

大きく分厚いガラスが割れる音をはじめに、更に続けてガラスが割れていく音がした。


「何事だ!!」

「侵入者! 侵入者!」

「出合え出合え!!」


バタバタと待合室の外から何人もの駆け足が聞こえてくる。


「な……にをした?」

「この邸に張られていた魔法壁にちょっとした細工をした。外に出てった奴は今頃足止めくらってるだろうよ」





外。

「何者かが魔法壁を壊したぞ!」

「あそこだ! ゆくぞ!」


門番も混ざって幾人もの兵士たちが魔法壁の崩壊ほうかい点に向かって走る。


「わっ!? な、何だ体が浮いて……わぁーっ!?!?」

「お、俺も…うわぁああ!!」


それは空間に突如出現した大きな黒穴こっけつ。凄まじい吸引力が、近くに来た兵士達を丸呑みにしていく。


「くそ! 何なんだあれは!」

「これ以上近づくな! 罠に違いない!わ、わああっ!?」


外に出た兵士達は次々と大きな黒穴こっけつに呑み込まれ、残りの兵士はその場で腰を抜かしてしまっていた。



やがてその黒穴が消えると、後にリリィ達がそちらの方角へと脱出していく。兵士の数も少なくなって、魔法壁が既に割られてしまっている事にも気づかずに、とどこおりなく邸からの脱出に成功する。





「おいホヅミ! 袋ん中に封魔錠スペルオフの鍵が入ってる。そいつを解錠してこっちへ渡せ!」


ホヅミは言われるがままにシュウの巾着袋を探ると鍵の様なものを手に取った。それを鍵穴に差して回すと、カチャリ。封魔錠スペルオフが床に落ちる。自由になった手でそれを拾うと急いでシュウに手渡した。

シュウは封魔錠スペルオフをメイドの背中で施す。メイドは両腕を後ろで固定されて自由な身動きが取れなくなってしまった。


「それじゃあ案内してもらおうかああっ!?!?」


シュウはお腹を踵で蹴り上げられたショックでたくさんの体液を口から吐き出した。


「ったく……世話のかかる」


手を使わずに起き上がったメイドは、出会った時と変わらず冷たい目でホヅミを見下ろすと、見えない早さで一発の蹴りがホヅミのお腹にめり込む。


「がはっ!!」

「あまりメイドを舐めないでもらえますか?」


メイドは靴と靴下を脱ぐと、器用にホヅミの落とした鍵を足の指で挟んで、背中の両腕にかけられた封魔錠スペルオフに差し込み回す。封魔錠スペルオフは床に落ちて、自由になった両腕の体操を始めた。

そして意識をいち早く持ち直したシュウはその隙を狙って蹴りを入れる。するとメイドは見向きもせずにその蹴りを躱して見せた。


「雑な蹴り。見え見えですね。蹴りというものは、こうするのですよ」


読めない動きから、目で追えない早さで飛んでくる鋭い蹴りに、シュウは無意識下で腕を前に出していた。


「ほう、受け止めましたか。ですがあなたには見えていない」

「そうか分かった。こうなりゃ仕方ねぇ。お前をボコボコにして無理矢理案内させるだけだ」


シュウとメイドの攻防が始まった。メイドは蹴りを得意としている様で、連続した鋭い蹴りをシュウに向けて繰り出している。対しシュウは防戦一方。飛んでくる蹴りに対して、腕で受け止めるのが精一杯の様だ。


「くっ」

「どうしました? 攻撃はしないのですか?」

「るっせぇ!」


何とか隙を探ろうとするが見つからない。そもそもシュウ自身、喧嘩が得意なだけであってちゃんとした格闘技の経験は一度もない。誰から教えてもらう事も教わる事もなかったのだ。メイドの繰り出す蹴りは格闘技のそれだろう。シュウは下唇を噛む思いだ。


(くそっ、このままじゃやべぇ)


平和な時代の日本で育ち、二年この世界で過ごしたシュウと、魔物との命の奪い合いによる死を生まれた頃から常にとなりに置いて生きてきたこの世界での人間とでは、格が違う。結界さえなければシュウは力のごり押しで勝つ事は出来るだろう。だがそれはどうにもならない。


「どうしようどうしよう」


意識を取り戻したホヅミは押されるシュウを見てまごついていた。何か自分に出来る事はないかと辺りを見回していると、手に触れる鎖。ホヅミはこれだと直感が働いた。シュウの巾着袋を拾って中を漁ると、先のとは別の鍵を取り出した。鍵を首の後ろにある鍵穴に差し込んで回すと鉄の輪っか部分が外れる。ホヅミは鎖を握ると、頭の上でブンブンと振り回して、戦闘中のメイドに投げつけた。


小癪こしゃくな!」

(ここだ!!)


メイドが鉄の輪っかを弾き飛ばした刹那せつな。シュウはそこに出来た隙を逃さなかった。


「くらいやがれぇ!!」


シュウは中指を少し突き立てた拳で、メイドの鳩尾みぞおち目掛けて腕を振り抜く。見事拳はメイドの鳩尾みぞおちに命中し、メイドはあんぐりと口を開けては白目をいていた。


「あ、あ、はぁっ」


バタリ。メイドは床に倒れる。どうやら気絶したようだ。


「はぁっはぁっ、はぁっ……やったぜ」


シュウは相当に疲労したようで大の字に床へと寝転がる。


「大丈夫?」


恐る恐る寄ってきたホヅミにシュウは微笑む。


「助かった。お前のおかげだ、ありがとう」


礼を言われて顔を赤らめるホヅミ。冷や冷やはしたもののこうして二人無事でいられることに安心していた。


「全く、良い奴隷を持ったものだ」


感激のシーンはその発言で台無しとなってしまう。


「は? 誰がいつあなたの奴隷になったんですか? いい加減にしてよね!」

「ふっ」


ドガアァン!!!!!

突然と耳に入る爆音。この場からは離れた所からだ。ホヅミは、またシュウの仕掛けた何かだろうと高を括っていたが、シュウの綻んだ顔が難しいものへと変わっていて怪訝な面持ちだ。


「ちっ……何が起きてんだよ」


シュウは起き上がると、封魔錠スペルオフを拾って伸びたメイドに再びかける。そして傍に落ちていた鉄鎖のリードの鎖部分で、メイドの足をきつく縛り上げた。


下位水魔法スプラッシュ!」


水の塊をメイドの顔に被せる。


「ごほっ! ごほっごほっごほっ……ふっ、さすがにこれでは、動けませんね」

「さあ、案内しやがれクソ女」


シュウはメイドをお姫様抱っこすると、部屋の入口に向かう。そしてホヅミには指示を出して扉を開けさせた。


「まあ、大胆なお方」

「殺されてぇのかてめぇ」

「あら怖い」


部屋の外には誰もいなかった。シュウの起こした最初の騒ぎで、邸にいた警備兵がほとんど出払ってしまったらしい。そしてその外も、窓から覗いた様子では誰の姿も見えなかった。


「シュウくん、兵士の人達ってどうなっちゃったの?」

「あ? ああ、今頃どこか高い所でほうけてんだろうよ」


それは生きているという意味なのだろうか。死んでから行くどこかの事だろうかと追及したい所だが、知らぬが花という言葉を思い出して止める。その会話の様子を見ていたメイドがクスリと笑うと、それがシュウのしゃくさわったようだ。


「何笑ってやがんだてめぇ」

「あなた、奴隷と仲良しなのね」


ホヅミは危うく転びそうになる。


「違う! 違うから! 私奴隷じゃありませんから!」

「あら、そうなの?」


そうこう話しているうちに、とある通路に辿り着いた。その先の中央には大きな火炎が燃え盛っていて、更にその先の壁には風通しのいい大穴が空いている。


「あらあら、ずいぶんとやらかしたのね。これは後でお掃除ね」


ホヅミは大きな火炎を見て、どこか見覚えのある様ななつかしい感じを覚えていた。炎なんてものから感じるはずもないのかもしれないが、今この時ホヅミには"何か"を感じられていたのだ。


「おい! どこなんだ奴隷の収容場所は」

「あそこよ、あのけむりの上がってる所」


見ると床に空いた穴からけむりが上がっていた。近くに寄って穴を覗いてみるとそこには階段があり、煙が床下に蔓延まんえんしている事がよく分かる。これでは床下には向かえない。


「ちっ……ん?」


床をよく見ると、薄ら素足すあしの跡がいくつも先の大穴まで続いているようだった。


「逃げたのか? 奴隷が」

「そのようねうわぁっ!?」


シュウはもう用はないと言ったようにメイドの体を通路沿いに放り投げた。


「ホヅミ! 奴隷達は逃げたのかもしれねぇ。さっきの大きな音も、恐らく奴隷達の仕業しわざだ」


シュウの指した床に、たくさんの足跡をホヅミは見る。


「シュウくん!」


二人は互いに首を縦に振って、先の壁に空いた大穴に向かって駆けていく。


ようやく、ホヅミとリリィが再会しそうな展開ですね。

いやぁ、短いようで長かった。

つか人間強過ぎじゃない?

って思った方。

そもそもスーパーパワーなんてとんでも能力がなければシュウくんはただの17歳の少年なんです。

喧嘩好きではありますが。

固有能力に頼り過ぎでは、きっといつか足りないと感じる事もあるでしょう。

力でごり押しでなく、力を最大限に生かすにしていきましょう!

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