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追われかぼちゃと勘当姫  作者: 憤怒の灰かぶり
第一章
27/77

シュウ=トサカ7

茜色あかねいろに染まる整然された町並み。初めて都会に来たような、おどおどとした様子で辺りをキョロキョロするホヅミ。石造りの建物がのきを並べていて、道までもが石造りで舗装されている。その他にも、例えば井戸の様な木製の建造物も見受けられる。ニト町よりも人の手で一層開拓された様でだだっ広い下町。ずっと先に高くそびえるのは、夕日を背に大きく構えた立派なロマネスク建築のお城だ。そしてそれら全体を何十メートルとある高さの石壁が囲んでいる様だ。


「色んなお店があるね」


露店だけでなく、一軒家いっけんやで店を構えているところがいくつもある様だ。そしてリリィはある事に気づいた。


「あれ? 何語の文字か分からないのに読めるよ! 何で?」

「それは俺も分からねぇ。この世界に勝手な招待ぶっこいた奴が、勝手なサービスお見舞いしてくれたんだろーよ」


看板かんばんを見れば、花、レストランマエストロ、雑貨、武器、防具、薬、果物、野菜、理容、肌、化粧、などなど、一通り見回すだけでも様々なお店が建てられていた。その様子にホヅミはどこか日本に似た雰囲気を思い出していた。そして日本よりは空気が良い。科学でなく魔法に頼る世界は空気を汚さないのかもしれない。


「あれ、あの子何であんなにボロボロな服着てるの?」

「あれは奴隷だ。この世界では普通なんだとよ」

「あんな小さい子が?」


シュウは首を横に振る。


「小さいからだ。親が魔物に殺されただ野盗に襲われただで孤児こじになったり、どこかから誘拐ゆうかいされたり、特に力も知識もない子供は抵抗も出来ないし、しても大人には勝てない。言う事を聞かせやすいんだとよ」


やけに詳しいシュウに対していぶかしげな視線を向ける。それにはシュウも軽蔑けいべつの目を向けられている様な気がして焦る。


「これは聞いた話だ。勘違いすんじゃねえ」


この異世界では空気は良い。でもそれはあくまで成分的なもので、雰囲気という面では空気は日本と変わらないか、それ以下だろう。日本と似た息苦しさを感受かんじゅできるのは、そういった理由もあるからかもしれない。


「分かってて助けないの? あれだけ力があるのに? どっかの王国の紋章が入ったご立派な腕輪だって持ってるくせにぃ? 勇者だって名乗ってるのに」

「うるせぇ!俺だってな…………とにかく、治外法権ちがいほうけんだ。目立った真似まねは出来ねぇ」


それを聞いてホヅミは大凡おおよそ見当けんとうがつく。


「ふーん。アルストロメリア王国だっけ? 迷惑めいわくをかけられないから、治外法権の場所では問題を起こしたくないのね。あ、分かった! 統治とうちする王様が女王様で、惚れちゃってるんでしょ?!」

「ぶふぅーっ!!!?」


図星ずぼしなのか突拍子とっぴょうしもない事に驚いているだけなのか、シュウは思い切り吹き出していた。


「てめぇ、な…何でそこまで言い切れるんだ!アン!?」

「別に言い切ってないわ。かんを言ってみただけ」

「な!?」


シュウは頬を染めて、更には目が泳いでいた。どうやら図星の様っただ。ニト町からこの王都までの道のりでは散々上手(うわて)に回って言いたい放題のシュウだったので、狼狽えるシュウにはホヅミも少し驚いている。


「とにかくだ……女王がどうだのは関係ねぇ。王国の紋章が入った腕輪、こいつを身につけるって事は、少しの問題でも戦争に繋がりねないって事だ」

「へぇー…………女王様なんだ」

「んはっ!?」


吹き出す空気もなく、代わりに内蔵が飛び出そうになるシュウ。


「てめぇいい加減にしろよ……?」

「良いじゃん別に。恋の相談乗るよ?」

「このっ…………はぁーー」


大きくため息をついたシュウは諦めた様に前へ向き直る。



二人は下町の広場にドンと構える賞金稼ぎ組合(バウンティユニオン)に到着した。王都経営とはいえ、周りの建物と比べ外観が一際立派だ。入口がやけに大きいが、二、三メートルはあるかと思われる巨体の筋肉が入っていくところを見ると、それも納得出来る。


「ちょっとシュウさん! あの上半身裸の人、今私達を見て鼻で笑いましたよ?! 良いんですか! 小馬鹿にされてますよ!」

「うるせぇ無視しとけ」


詰め寄るホヅミをあしらって、とっとと賞金稼ぎ組合(バウンティユニオン)の入り口を潜る。


「わぁ」


ホヅミは思わず口が開く。真正面奥には正装をした受付嬢と思われる三人がカウンター越しに立っている。手前には四かける四の配置で十六台もテーブルが並べられていて、幾人いくにんもがつどい話し合いをしている様だ。左奥には二階に通ずる階段もあり、フロアの広さは教室六個分はあるだろう。そしてそれよりもホヅミはこの場にいる人間達に驚いていた。ここには先程の図体ずうたいの極端に大きい筋肉。怪しげな外套がいとうに身を包み、ハットからギロリと目をのぞかせる者。大きな水晶玉を先端に嵌め込んだ杖をつき、ローブを纏う者。人前で堂々と刃渡り六十センチ以上の長剣を満ち足りた表情で眺める甲冑かっちゅう剣士。ホヅミにとってはファンタジーで登場する様な人物像そのものだった。

するとホヅミの初々しいに態度に、粗暴そぼうに会話をしていた三人組が鋭い視線をぶつける。


「こういう所、あんまり得意じゃないかも……」


身構えおびえるホヅミに目もくれず、シュウはじっくりと見渡す。そしてある箇所かしょに目線を定めると、そそくさと屋内を突っ切っていく。


「あ、待ってよぉ」


ホヅミは慌ててシュウの後を追う。シュウの向かう先は右奥。壁際に丸椅子がいくつか並んでおり、内一つに男が座っていた。男は太っていて腹が出ている。武器は腰の短剣以外何も身につけている様子もなく、賞金稼ぎ(バウンティ)にしてはあまりに似つかわしくない。


「おいツキジ、お前にたずねたい事がある」


酒にっている様で、火照ほてった顔にわった目でシュウを見上げた。


「おやおや……ひっく……見知った顔じゃねぇか…っく」


無精髭ぶしょうひげがだらしなく、ますます場違い感が酷い。このツキジというのがシュウの探していた情報屋なのだろうが、持っている情報すらもホヅミには胡散臭うさんくさく思えてしまう程だ。


「この王都にいる、エピルカという貴族について聞きたい」

「ひっく……エピルカ……ああ、エピルカ=シエンス伯爵ね……っく」


ツキジは腕をふらふらと持ち上げて、三本指を立てた。


「三枚だ」

「銅貨か?」

「っく……銀貨だ」


シュウは不満気にツキジを見下ろす。


「高いんじゃないのか?」

「ひっく……何を言ってんだ……貴族様の情報は高ぇんだぞぉ? っく、銀貨三枚くらい当然だろぉ?」


ホヅミは思い出していた。シュウをの雇用費は銀貨四枚だ。さすがに雇い主のために、報酬ほうしゅうのほとんどやそれを超えて別の誰かに支払ってしまうはずもない。


「…………今出せるのは銀貨一枚だ。後払いする。急ぎだ、必ず払う」

「ぬぁにぃ?…っく、さすがにあのアルストロメリアのシュウさんといえど、それはいけねぇ」

「頼む、時間がない。待ってくれるなら、銀貨五枚、いや八枚出そう」


ツキジは両の掌を上げてやれやれと言ったように首を振る。


「いーや、今出してくれ。でないと情報は渡さねぇ」

「……ちっ」


ふとツキジはホヅミの方に目が移る。


「ん? そいつぁ、あんたの連れかい?」


まじまじと下から上まで見詰められて、ホヅミは少し恥ずかしい気持ちになる。


「ど……どうも」

「まあ……どうしてもってぇなら……そうだなぁ……ぱふぱふさせてくれたら……銀貨一枚でもいいんだがなぁ……いけるかい? 嬢ちゃん」


唐突とうとつなセクハラ発言にホヅミは引き攣り笑い。だがこのままではツキジは情報を渡してくれそうもないし、シュウに無理をさせるのも良くない。しかしこの体はホヅミだけのものではないのはホヅミ自身がよく分かっている。


「だ、だめだよ。絶対、だめだからね! ほ、ほら、これ借り物だから、絶対だめ!」

「は?」


ホヅミの失言しつげんに、ツキジははと豆鉄砲まめでっぽうを食らったように言葉が出ない。そしてシュウはホヅミを庇う様に腕を前に出し、まなじりをいてツキジを見下ろしていた。


「よし分かった今決めた。無理矢理にでもお前から情報を引き出してやる全身の骨ずたずたにされる準備は出来てんだろうなアアンッ?!!」

「わ、分かった……分かりました……シュウさん。銀貨一枚で……一枚で大丈夫ですってば」


シュウの凄まじい剣幕けんまくにツキジは折れたようだ。そのツキジの態度に、シュウはやや疑いを残した目を向けながらも、掴んでいた胸ぐらから手を離した。


「ほっ…………それじゃあ先払いで銀貨一枚いただきますよ」


言われてシュウはポケットから銀貨を一枚取り出してツキジに手渡す。ツキジは先ので酔いが覚めたのか、しゃっくりも引っ込んでしまったようだ。


「へへっ……確かに。伯爵について何が知りたいんですか?」

「そいつの家と、趣味趣向……もし知っているなら、商取引の履歴を教えろ」

「ほほぅ、金品をせびるおつもりで?」


ツキジはシュウの発言に興味を示して、にやにやとしている。それを「とっとと話せ」とシュウは強引に急かす。


「近頃の伯爵の様子からすると、何やら怪しげな魔道具や魔本に物資ぶっしの調達、奴隷の買い取りとかでしょうかね……なかでも魔族のエルフを何体も買い取っているそうです」


それを聞いたホヅミはそのエルフの多くがエルフの村の者ではないかと考える。そうだとすれば、リリィ共々に助けられる可能性が出てくる。


「ああそうそう、噂話うわさばなしなんですがね。魔物を一体邸に捕らえているだとか」

「魔物を?」


シュウはしばらく考え込んでいた。


「どうにもきな臭ぇ……ホヅミ、お前だけの問題じゃねぇかもな」

「え?」


ホヅミに見向きもせずに、顎に手を添え眉をひそめるシュウ。そんな姿を少しかっこいいと思ってしまう自分がいて、ホヅミは慌てて王都までのシュウの事を思い出し、妙な雑念ざつねんを振り払おうとする。


「どんな魔道具か魔本かは分からないか?」

目撃もくげきした者が言うには、怪しげなものらしいです……そうだ、怪しげな実験をしているってぇ噂も」


騒がしいフロアで一人静かに思考を巡らすシュウ。何かを決断したかのように顔を前に戻した。


「助かった。また来るぜ」

「あ、待ってよシュウさん」


きびすを返してそそくさとまた、来た方向を後戻りしていく。ホヅミも慌ててその後についていった。


あれ? エピルカの買ったエルフは皆どこに??

ツキジさんの情報は果たして正しいのか。

それよりもシュウさん何か優しくなりましたね。

やはりホヅミっちのビンタが効いたんですかね笑

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