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追われかぼちゃと勘当姫  作者: 憤怒の灰かぶり
第一章
26/77

シュウ=トサカ6

ホヅミとシュウは荒野を抜け、今度は打って変わって快適と言える程の森の中を歩いていた。というのも、途中には川もあって十分にホヅミの喉を潤してくれていて、更には道が平坦へいたんだ。いよいよ王都も近いのだろう。


「ねぇシュウさん? この後王都に着いたらどうするんです?」


シュウはうんともすんとも言わない。そして聞こえていないはずがない。だが先程からホヅミが語りかけても何も返答してはくれないのだ。


「シュウさん? 王都ってもうすぐ着くんですか?」


するとシュウは鋭い目つきでホヅミの方に振り返る。やっと何か言葉を返してくれる気になったのだろうかと期待した。だが向かってきた拳にホヅミは慌てて屈む。


「ピギャアア!?」

「ちっ、弱ぇやつばっか狙って何が楽しいんだよ。俺を狙いやがれ!」


その怒声に周りに潜む生き物達が尻尾を巻いて逃げていった……様な気がしなくもない。


「もう嫌だよこんなのぉ」


ホヅミは自身の後ろに散乱した肉片に、目に手を当てる。


「おい、ホヅミ」


とシュウが口を開くものでホヅミは二つ返事で耳を傾ける。


「熱い。お前扇風機になれ」

「うんうん……は?」


言葉の理解が追いつかないホヅミは唖然あぜんとしていた。


「お前風魔法しか使えねぇんだろ? だから風魔法で扇風機やれ」

「は?…………は?…………は?」


言葉を失うホヅミにシュウは舌打ちしたかと思うと、ぐっとホヅミにった。


「は? じゃねぇよ。てめぇ水魔法教えてやったのに何で語尾ごびにワンついてねぇんだアンッ!!」


怒鳴り声ですごむシュウはホヅミの胸ぐらをつかんで離さない。その凄まじさに大した物言いでもなくて更に呆気にとられるホヅミだが、ならばと負けじと言い返す。


「そもそも使える魔法と使えない魔法の系統があるだなんて知らないもの!! 水魔法教えるって言ったんだから、水の系統の魔法が使えるかどうかも考えて、水魔法がちゃんと使える様になるまで監督かんとくするのが責ってものでしょ!! 何よ騙す様な事して!!」

「アンッ!? 何だてめぇ喧嘩売ってんのかコラァッ!!!」

「怒鳴ってれば言いなりになると思った? 大体何が語尾をワンよ! 子供なの? 悪趣味すぎ!」

「俺はもう十七だコルラァッ!!」

「まだ子供じゃないの!! 子供の癖して酒なんか飲んで気取ってたの? だっさ!! 未成年!!」

「グルルルル…………ふぅ……もうそろそろ着くぜ。着いたらすぐに賞金稼ぎ組合(バウンティユニオン)に行く。あそこには情報を金と引き換えに渡している情報屋がいる可能性が高い」


にらみ合いはシュウが観念かんねんして試合終了。見事ホヅミに軍配ぐんばいが上がった。それどころかホヅミの質問をしっかり聞いていた様で今になって返してくれている。ということはつまり語尾にワンをつけなかったというたったそれだけの事で怒っていたのだろうか。


「それとも、この世界に来たばかりのお前に何か有益な情報でもあれば聞くが?」


何か言い足りなそうにしているホヅミを見て、あてつける様に問う。


「え? ……ない……です」

「けっ」


シュウは足を止める。巾着袋からカチャカチャと音を立てて何か取り出した様だ。鉄の輪っかに長いくさりつながっている。そしてもう一つ、何かの文字が掘られた手枷てかせの様なものだ。


「あ、それ。何だっけ……す、す……」

「これは封魔錠スペルオフだ。魔力を封じる手枷で、これをかけられた者は人だろうが魔族だろうが魔物だろうが魔法が使えなくなる」

「はぁ……」


封魔錠スペルオフには聞き覚えがあった。リリィが連れ去られる時に、エピルカが兵士に向かって口にしていた。だがどうして突然こんなものを取り出したのだろうか。ホヅミはますますシュウの考えている事が分からなくなって混乱していた。


「で、こっちは…………ただの鉄で出来たリードだ」

「へぇ……で、それで何するわけ?」

「決まってんだろう?」


シュウはホヅミに寄って、首元に手をかける。手にしたリードの首輪部分を手際良くカチッとめた。


「うんうん、似合ってるぞ」


とにこやかに微笑むシュウ。


「あ、ほんと? えへへーじゃなあああぁぁぁいい!!!!!! さっきの今で、まだこんな悪趣味な事させるんかああ!!!」

「は? 違ぇよ。作戦だよ作戦」


怒声に対して怒声で返すでもなく、先とは比べ物にならないくらい落ち着いた口調でシュウは答えた。むしろ優しささえ感じるその奇妙きみょう声色こわいろに、ホヅミは疑心をいだいてしまう。


「作戦?」

「ほら、封魔錠スペルオフもかけるぞ。両手出しな?」

「あ、はい」


これまたカチャリとすんなりホヅミの腕に封魔錠スペルオフがかけられる。


「ほいじゃ、行くぜ」


そしてシュウはホヅミにかけたリードを引いて、ホヅミはその後をついていく。


「って……これ……作戦? ほんとに作戦なの? ……何の作戦?」

「ごちゃごちゃ言うな」


そうこう言い合ってるうちに、くねった道のない真っ直ぐな道に入る。道の先には大きな鉄の城門。両傍りょうかたわらには兵士の様な人影が見えた。


「あ! 見えた! あそこだよね! やっと着いたぁー!」

「ちっ、あーうるせぇいちいちさわいでんじゃねぇ! もっと静かにしてろ!」


見えたとは言ってもやはり多少なりとも歩かなければならなくて、着いたというにはまだ早かったのかもしれない。けれどホヅミとシュウは"無事"にハイシエンス王都に辿り着く事が出来た。そして城門前に到着すれば当然まず門番が反応する。


「何か身分を証明する物を」

「ほらよ」


シュウは腕を掲げた。その腕には綺麗な装飾そうしょくほどこされた銀の腕輪が嵌められている。腕輪には黒い宝石の様な物が埋め込まれていた。


「そ、そそそ、それは!? アルストロメリア王国の紋章もんしょうの入った腕輪! は、ははぁー」


兵士は地面に膝をついて頭を下げている。しかしそれに驚いたのは兵士だけではない。


「え? ちょっと待って? それ、ソウルリングだよね? 勇者だけが持ってるっていう」

「は? ソウルリング? 何言ってんだお前」


何の事だか分からない素振りにホヅミは開いた口が塞がらない。エルフの村の村長の言葉が頭の中で再生される。綺麗で高価そうな腕輪なものだから勝手にソウルリングだと決めつけてしまっていた。


「通っていいな?」

「はい! お止めするなどわたくしには烏滸おこがましいぃ!」


呆然としているとシュウに急にリードを引かれたホヅミはき込む。


「お待ちを、あなた様でしたらお通し出来るのですが、こちらの……女子おなご様は……」

「こいつは俺の奴隷だ」


(は!? は!? は!?)


これがシュウの言った作戦だろう。確かにホヅミには身分を証明する物がない。そういった意味ではシュウの作戦は手っ取り早く分かりやすいものだった。その上ソウルリングを持っていないシュウが勇者でない可能性も出てきてさすがにホヅミは黙ってはいられない。


「シュウさん? ちょっと待ってシュウさん?」

「あ? 何?」


面倒めんどう臭そうにシュウは聞き返す。


「ちょっと、聞いてないよ。色々……聞いてないよ?」


シュウがやれやれといった表情でため息をついた。


「あの、ごめん。私やっぱり帰らせてくれますか? ソウルリング持ってないのに勇者って、私を騙してたんですか? こんな恥ずかしい格好までさせて……もしかして私を奴隷として売り飛ばすつもりじゃないでしょうね?」


いくら出身が同じ日本だとしても、この突然連れてこられた世界で生きていくために奴隷売買に手をめたとしてもおかしくはない。もし奴隷として売り飛ばす口実こうじつに勇者だと嘘をついていたのだとしたら。奴隷をつのるためにそうしていたのだとしたら。今まで道中自分を守ってくれたのも、商品を守るためだとしたら。

ホヅミは考えれば考えるほどにシュウの事を疑わしく思えてきた。


「ちっ」


シュウは面白くなさそうにそっぽを向いている。ホヅミはシュウのその態度でやはりそうなのだと確信した。今なら兵士に頼めば助けて貰えるかもしれない。ホヅミは助けを求めようとした瞬間


「ああそうだよ。これも勇者稼業(かぎょう)ってやつだよ。バレちゃ仕方ねぇな」

「やっぱりそうだったのね! 兵士さん、助けてください!」


とそのやり取りに狼狽うろたえる兵士。


「あ、あの、わたくしは……俺はどうしたら!?」


シュウはわざと兵士に腕輪を見せつける素振そぶりをする。


「兵士さんお願い! 私を助けて!」

「お前、俺を止めることすら烏滸おこがましいんだよなぁ?」


兵士は二人に圧倒されて、今にも泣きそうになっていた。


「この卑怯者! こんな事をして、同じ日本人として恥ずかしい! 有り得ない! 悪魔!」

「アアン?」


シュウは鬼の様な形相でホヅミを睨み返した。


「ちっ、めんどくせぇな。いい加減黙かげんだまれや」

「ひっ!…むっ……んっ」


その行動にホヅミはまた開いた口が塞がらないでいた。シュウの顔が離れるさいに、シュウが何かを言った気がする。ぐでぐでに地面にへたりこんだ兵士を置き去りにして、何が何だか分からないままシュウに連れられて詰所つめしょに寄った。


「あ、聞こえましたよ? そいつ奴隷なんですってね。しかも人間の。僕にもちょっと触らせてくださいよ」

「俺の所有物しょゆうぶつだ。触れるだけでも命がないと思え」

「へ……へい、わ、分かってますよ。ほんの冗談ですってば」


首のリードを引かれるがままで抵抗ていこうする力が湧いてこない。このまま我を失ったままでいれば奴隷にされてしまう。早く何か、何か反抗しなければ。


「目を覚ませ!!」


ぱっと正気に戻ったホヅミ。どうやら人目ひとめのないせま路地ろじにいるようだった。


「何だおめぇ、泣いてんのか? まさかほんとうに奴隷にされると思ってたのか? 馬鹿なやつだ」


シュウがてきぱきとリードの首輪や封魔錠スペルオフを解除して、巾着袋にしまっていった。


「まああんまりさわぐからよ、ほんとうに奴隷にしちまおうと思ったぜ」


バチン。

無意識だった。ホヅミの目の前には、赤い手形てがたほほにつけて驚くシュウの顔があった。シュウはビンタの勢いで顔がれたまま戻そうとしない。


「………………………」

「………………………」


二人はお互いに何も言葉を出せなくなって、しんとした空気に包まれていた。路地の外はガヤガヤと騒がしい。さすが王都。人が多いせいだろう。


「えっと……その……昔、似たような事があって……その……」


シュウは顔を合わせる事はなかった。それどころか、背を向けて路地の外へと歩き出した。


「今から賞金稼ぎ組合(バウンティユニオン)に向かう。友達を助けてぇんだろ? 行くぞ」

「え? うん……」


そして路地を出る前にシュウは足を止めた。


「悪かった」


つぶやいた。ホヅミは思い出していた。シュウはあの高橋とは違う。


『いいから俺を信じろ。これは演技だ、お前の友達を助けに行くための』


門の前、放心する中で聞いていたシュウの言葉を心に、ホヅミはシュウの後についていく。


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