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追われかぼちゃと勘当姫  作者: 憤怒の灰かぶり
第一章
25/77

シュウ=トサカ5

「これしかない」


リリィの隠れている部屋はエピルカの書斎しょさいか何かだろう。見た事もない怪しげな魔法術式の書物や実験道具、高価そうな装飾品など、エピルカが大事にしていそうなものがわんさかとある。恐らく不気味な像達も、エピルカにとっては大事なもののはずだ。


下位盾魔法シールド!」


リリィは換気口かんきこうと思しき場所に盾魔法を施した。よってこの部屋は密閉状態。


下位火炎魔法ジェラ下位火炎魔法ジェラ下位火炎魔法ジェラ!」


手当り次第しだいに燃えやすい物に向かって下位火炎魔法ジェラを唱えるリリィ。あっという間に書斎は燃え広がった。リリィは魔法の詠唱を一旦止め、自身まで焼かれてしまわないように早々に部屋を退出。その間際に更にもう一発下位火炎魔法(ジェラ)を唱えて扉を締め切る。


「準備完了」


リリィの作戦では、上手くいったとしてもエピルカの足止めくらいかもしれない。しかしエピルカとの魔法合戦まほうがっせん呆気あっけなく敗北はいぼくきっしてしまったリリィにとっては、最善さいぜんとも言える。


「……そろそろいいでしょ」


リリィは呪文を唱える準備をした。この呪文を唱えた途端に、エピルカはこちらに向かってくる。ドキドキと胸の鼓動が激しく波打ち、リリィの口を躊躇ためらわせる。


「さん……に……いち……下位爆発呪文バグナム!」


これといって何もない通路で、空気は熱を伴い爆発した。その大きな爆発音は広い通路の隅々まで響き渡る。リリィは爆音に紛れて急ぎ階段付近の部屋に隠れた。そしてあたりはしんと静まり返る。すると、コツコツと足早に階段の方から聞こえてきた。


「なんだなんだ、何が起きたんだ?」


足音はリリィの隠れたドアの前を通り過ぎる。


「あの部屋から煙が……まさか!? あそこには私の貴重な魔道具が!!」


足音は駆ける。

ガチャ。扉のノブは回されて、爆音や空気の揺れを感じ取れた。


「ぐあああぁぁぁ!!」


その悲鳴を聞くと、リリィは扉を開け放って階段へと向かう。一気に駆け下りて、自身が先ほどまでに捕らえられていた牢屋の階に着いた。


「皆! 助けに来たよ!」


よどんだ空気がどよめいていく。リリィはさっそく一つ目の牢に向けて手を翳す。牢の向こうには先ほど助けると約束を交わした人間の子供が期待の目をこちらに向ける。


「いくよ! 上位熱魔法オーバーヒート!!」


みるみるうちに牢の鉄格子が溶けていく。


「さ、行こう!」


怯んで目を閉じたが、すぐに子供はすっと目を開ける。子供には封魔錠スペルオフがかけられていなかった。よれよれとした動きでリリィの元に寄る。リリィはその子供の頭を優しく撫でた。


「助けに来たよ」


こくりと頷く子供。そしてリリィは二つ目の牢、三つ目の牢と、次々に鉄格子を魔法で溶かしていった。しかしホヅミの体では、魔力消費の激しい上位魔法は二発が限度だった。


「お姉ちゃん、痛くない?」

「え? あ、あはは……無理やり突き指させられるよりは平気だよ」


リリィはエピルカの書斎でくすねた魔注射スペルインジェクションを繰り返し腕に突き刺して、魔力回復を行っていた。

それから十五の牢を解放しただろうかと思う所で、とある牢に辿り着いた。


「リリィさん、それはラストラビットという魔物です。放っておきましょう」


と、助けた女エルフが言う。

ラストラビットは片目を開いてギロりとリリィを見上げる。その赤い瞳は苦痛に歪んでいる様にもリリィには見えた。


「リリィさん!」


後ろについている女エルフが、リリィがあらぬ気を起こさない様にと呼びかける。しかしリリィはラストラビットから目を離さない。リリィはその牢に両手を翳した。


上位熱魔法オーバーヒート!!」

「リリィさん!?」

「放っておけない。この子だって、同じようにあいつに苦しめられただろうから」


リリィはラストラビットの元に寄り、両腕にかけられた封魔錠スペルオフ錠穴じょうあなに手を乗せる。


「……下位熱魔法ヒート!」


リリィは皆に施した方法と同じように、封魔錠スペルオフの鍵穴へ魔法を加える。


下位氷魔法ヒュルル!」


封魔錠スペルオフからカチリと音がした。錠穴に亀裂きれつが入っている。ラストラビットはそれを床に叩きつけると、パキンと音を立てて封魔錠スペルオフくだける。

それからリリィは、下位回復魔法ヒールでラストラビットの傷を治癒ちゆしていく。


「良いのか? 俺を助けても。俺は魔物だぞ?」


その愛らしい姿には似つかない程の低い爽やかな声にリリィは少し目を丸くしてしまう。


「魔物とかそんなの今は関係ないよ。それにあいつの方がよっぽど危ないよ」


リリィの後ろで困惑するエルフや人間達。すくっとラストラビットは立ち上がると、一層にざわめく。その背丈はリリィの目線よりも高かった。耳を含めれば、この場にいる誰よりも高いだろう。


「どこのどなたかは存じないが、ありがとう。俺の名前はゼロ。これで妹の元に帰る事が出来る」

「妹?」


魔物にも家族がいるのかと考えてすぐに、自分は魔物と人間から生まれた子なのだと思い出す。今まで魔物の事に関しては、ただ恐ろしい存在だと、倒すべき存在なのだと教えられてきた。リリィはもしかするととてもひどい偏見へんけんの目を魔物達に向けてしまっているのかもしれないと、自身の今までの行いや、人や魔族に対しての疑心や恐怖が湧いてきていた。もし、もし魔物が悪い存在でないのなら、なぜ人や魔族は魔物を嫌うのだろう。魔物は倒すべき、魔物は人や魔族を襲う生き物。しかしそれは魔物が人や魔族に対して、正当な理由があっての事ではないのだろうか。先に仕掛けたのは、人や魔族の方ではないのか。



魔物の全てを知ったわけではない……リリィはそれを胸にとどめた。き出してくる疑心や恐怖を抑え、今いるていを脱出する事に焦点しょうてんを置く。



「これで全員だよね」


リリィを含め十二の人間と四のエルフ、そしてラストラビットのゼロが集まった。リリィは皆を率いて前を歩く。恐らくエピルカは倒した訳ではない。けれどここに連れて来られる前の様子からして、エピルカは回復魔法を使えないのだろう。恐らく黒焦くろこげになって息絶えで床にいつくばっているはず。エピルカの仲間がくれば回復魔法でエピルカは復活するが、この地下は深め。さきの爆発呪文を音で気がついたのはエピルカのみだろう。目につくだけの血注射ブラッドインジェクションも回収したので、いきなり回復したエピルカが現れる可能性も低い。だが時間は惜しい。急がなければ、階段から立ち上る煙で気がつかれてしまう。


「皆、息を止めて……一気に行くよ」


リリィの起こした爆発により、エピルカのいる階より上は煙が立ち込めている。リリィはエピルカが倒れているだろう所に顔を覗かせる。思った通りエピルカと思われる黒焦げが床に寝そべっている。動かないところを見ると、気絶しているのだろう。


「……よかった……」


リリィは胸を撫で下ろすと、まず自分が階段を駆け上がり、次にゼロ、そしてエルフ達がそれに続く。


「くそっ!何事だ!」

「下の階から煙が上がっている! 奴隷どれいが何かしでかしたのか!?」


上階からする声を聞いて、リリィは魔法の準備をする。まず片手に下位火炎魔法ジェラ、もう片手にも下位火炎魔法ジェラ


増幅魔法バイリング!」

「何だお前ぬわああああ!!」

「うわああぁぁぁ!!」


大きな火炎に包まれてもだえる兵を避けて、リリィ達は先を急ぐ。


「凄いですねリリィさん。人間なのに、その歳で増幅魔法バイリングを使う事が出来るなんて」

「え? まあね、ボクってて・ん・さ・いだから!」


細かく言えば、ホヅミの体を用いても、だ。

前からは次の兵士が現れる。


「お前ら! この邸から逃げ出せると思うなよ!」


リリィ達の前に槍を突きつけて立ちはだかる兵士。リリィがまた魔法の準備をすると、それを見たゼロが横から遮って前に出た。


「次は俺の番です」

「ま、魔物か」


ぐっと槍を握り直す兵士。それに対し、先程までの優しい目つきとは違って目を尖らせるゼロ。


「魔法! 上位強化魔法ソリッドスキン


ゼロは野生のうさぎの様に足に力を込める。


「舞え、迅速の剛拳(ラピードナックル)!!」

「ぐはっああ!?!?」


消えた様に見えたゼロの姿はいつの間にか兵士の元に、そしてその兵士もいつの間にか消えていて、瓦礫がれきが砕ける様な音がしたかと思うと、向こうの壁には大きな穴が開いていた。


「兵士もやっつけて出口も出来て、一石二鳥いっせきにちょうですね」


返される屈託くったくないゼロの笑顔に、エルフ達やリリィは引きり笑いをする他なかった。


「それはそうと、俺は魔物です。エルフの方々も魔族。魔の力が強い者は王都の結界に弾かれる。おまけに王都は高い壁で囲まれています。いったいどうやって脱出を?」

「そこはボクに任せてよ」


以前ホヅミがリリィの体で、町の結界に弾かれた事があった。それからリリィはずっと考えていた。どうやってリリィの体で町に入れば良いのか。瞳の色が緑に戻った時は魔力が著しく弱まる。その時結界に弾かれる事はなくなるが、瞳の色を制御する事は出来ない。


「つまり、強い魔の力を結界が感知するんでしょ? なら弱々しい微弱な魔法壁を体の周りに張り巡らせれば良いだけだよ」

「なるほど! 確かにそうすれば、私たちエルフでも通れそうですね。凄いですリリィさん」

「えへへ」


リリィは後頭部こうとうぶを掻きながら照れている。


「賢いですねリリィさん。俺も思いつきませんでした。いえ、思いついても実行不可能。微弱びじゃくな魔法制御は、恐らく元々魔の力が色濃いろこくない人間だけが可能でしょうから」


エピルカ邸は王都の東。最短距離で更に東へ進んで壁を目指す。


「どうしたんですか?」


リリィは耳を抑えて苦悶の表情を浮かべる女エルフAの姿を見る。


「はぁああっ!」

「ご、ごめんなさい。この子、エルフの中でも特段耳がいいんです」


と、別の女エルフが女エルフAの背中をさすってあげている。


むち……むちで打たれてるっ……叫び声が聞こえる……きっとエルフよ……はぁあっ」


リリィは思い出していた。自身のいたエルフの村ではエルフざらいが出ている。エピルカはエルフの村の情報とエルフルートを手にしていた。その提供者は貴族か貴族へ情報を売る者であると考えるのが妥当だとうだろうか。だとすれば連れ去られたエルフ達が王都にいる可能性は高い。


「とりあえず、立ち往生おうじょうしていたらいつあいつが復活してボクらを捕まえにくるか分からない……辛いけど急ごう」


リリィと他の者は東へ向かって進んだ。道無き道を掻い潜り、壁の方に抜け出ることが出来た。幸い、ここまで誰とも遭遇そうぐうする事はなかった。先ほどから苦悶を浮かべる女エルフAも、耳を抑えるのを止めていた。


「エルフの方々、力を貸してください。あなた達とボクの風魔法で一人一人を壁の向こう側に移します」


エルフ達は顔を見合わせて頷く。


「リリィさんは休んで。飛翔の魔法は上位魔法。人間のあなたでは二回が限度でしょう? 魔注射スペルインジェクションも多用すれば、副作用であなたの身が持たないわ」


リリィはその言葉に甘んじて、この役割はエルフ達だけに任せる事にした。エルフ達はそろって人間達に両手を翳す。


「上位魔法! 飛翔の極意(ラウルーネ)!」



人間達は皆次々と壁の向こうへと飛ばされていく。そして残ったのはエルフとリリィとゼロ。


「俺は魔法壁さえ張って貰えれば、壁を駆け上がっていけますから」


自信のある態度でゼロは言うと、リリィは微弱な魔法壁をゼロの周りに張り巡らせた。


下位魔鎧魔法・微ぺらぺら・マジックアーマー


ゼロはというと見事みごとに高い壁を駆け上っていき、壁の上から手を振って見下ろしている。皆驚いていたが、一エルフは驚くよりもぺらぺらというおかしなネーミングにぷっと吹き出す。でもリリィは気にせずエルフ全員にぺらぺらな魔法壁を施した。


「ぺらぺらとは、ずいぶんなネーミングだなぁ」


その一言にリリィやエルフ達は凍りついた。


「いやぁ見事見事。先の爆発は効いたねぇ。リリィ、ますます気に入った!」


パチパチパチ。拍手でやって来たのはエピルカだった。ぴんぴんとしている所見るに、回復魔法による治療がもう済んだらしい。


「皆! 早く飛んで! 下位火炎魔法ジェラ

「させるか。鋭利な旋風(ウィルウィンド)」「下位火炎魔法ジェラ増幅魔法バイリング!」「「「「飛翔の極意(ラウルーネ)!」」」」


大きな炎の竜巻たつまきが現れる。同時に四エルフは空へと飛び立っていった。


「ちっ……まあ良い。他は飽きた。私は君が欲しいのだよ……リリィ! 竜巻の弔砲(スクリューデッド)!!」


巨大な炎の竜巻は一瞬で掻き消えた。そして向かってくる、圧縮された風の大砲。当たれば間違いなくただでは済まない。恐らく上位魔法。しかし特位魔法に匹敵ひってきするほどの迫力を持っている様にも見受けられる。


中位風魔法ウィンド! なっ!?」


リリィは多少無理にでも身を交わそうと風魔法を唱えた。だがそれによって生まれた旋風は、エピルカの放った竜巻の弔砲(スクリューデッド)に飲み込まれてしまったのだ。


「まずい、やられ」


ドゴォン。すさまじい轟音ごうおんに、王都の分厚ぶあつい石壁には大きなクレーターが出来てしまった。 あともう一発、二発同じ魔法を繰り出せば大穴が空いてしまう程に。


「大丈夫ですか? 俺の事分かりますか?」

「……ゼロ?」


リリィは間一髪の所でゼロに抱えられて、無事に生きていた。


いーやぁ、エピルカさん融合したせいかなんかやばいっすね。とにかくやばいっす。人と魔族の融合怖すぎっすね。もしかして、一匹だけ魔物を捉えていたのは何か関係あるのかもですねぇ。

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