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追われかぼちゃと勘当姫  作者: 憤怒の灰かぶり
第一章
24/77

シュウ=トサカ4

明朝。シュウとの約束を守り、ホヅミは早起きをする。ぐっすりと快眠をしたようで、体が軽い。早めに寝ておいて正解だったようだ。日がまだ顔を出していないので、冷たい空気が肌を刺す。ホヅミは着替えがなく、宿主に自身の着ていた服を洗濯してもらう代わりに寝巻きを用意してもらっていた。鏡の前に立つと見慣れぬ異世界の寝巻きに、見慣れぬ寝惚ねぼけた面、寝癖ねぐせねたブロンドセミロング。まるでゲームの世界で、ゲームキャラを選んでそれに自身が入って動かしているような、そんな気さえしてくる。


「えっと、こうするんだっけ」


ホヅミは蛇口じゃぐちに意識を集中させる。すると魔力が強すぎたようで勢いよく水が噴射ふんしゃする。


「わわっ」


慌ててイメージを"滴る水滴"まで整え直すと、水はなだらかに蛇口から流れ出る。ホヅミは両手で水を掬うと、顔にかけて洗う。冷たい刺激がしゃきりと顔の表情を引き締めた。備え付きの布で濡れた顔を拭いて、横のバスケットに目を移す。そこには昨晩宿主に渡しておいた洗濯物が綺麗に畳まれて置いてあった。


ホヅミはブラシを使って髪の毛を整える。歯ブラシを使って歯磨き。昨日、宿主に記憶を無くしたとかで濁して、異世界について何も知らない旨を話すと、一通り説明をしてくれたのだ。電気水道、それらにあたるものは全て魔法の術式によって補われている。昨日に行った湯浴みも、さすが日本とは違い新鮮な気持ちで楽しめていた。そんなホヅミは何とか異世界の勝手に慣れてきたようだ。ホヅミは着替えると、ベッドの横の台に置いた短剣に目線を移す。


「忘れないように…ね」


ホヅミはぎゅっと短剣を抱きしめて祈りを込める。


「サーラさん、どうか私とリリィを守ってください」


ホヅミは部屋を後にする。集合場所は町の入り口ではあったが、その前に挨拶あいさつをと思いシュウの泊まっていた部屋へ向かった。

トントン。

ノックをするが反応がない。すると誰かが階段から上がってくる音がした。


「あら、あんた…勇者様ならささっと支度して出ていったよ」


宿主の言葉にホヅミは慌てて宿から出ようとする。


「あ、待って! お弁当用意したんだよ。朝早いからって聞いてたからね」

「ありがとうございます」


宿主から巾着袋きんちゃくぶくろを受け取ると、宿を後にする。町の入り口までは走っても十分はかかるだろう。早起きをしたつもりがシュウに後を越されてしまっていて、少しくやしく思いながら急いで町の入り口に向かう。そしてその姿が見えた頃には、日はのぼり始めていた。腰に両手をえていかにもといったようにイライラをき出しに待ち構えるシュウに、ホヅミはあせりを抱きながらシュウの元へと到着する。


「はぁ、はぁ、ごめんなさい…はぁ、まさか、こんな早く来てるなんて」

「ふんっ」

「あ、はぁ、待ってよ…はぁ」


ホヅミの言葉を気にもかけずにそそくさと歩くシュウの後に、息を切らしながらついていくホヅミ。



しばらく歩くうちに日が昇り、温かい日差しが二人の頭にうららかに注ぐ。


「ねぇ」


ホヅミはシュウに声をかける。しかしシュウは見向きもせずにずんずんと先を行く。


「…ねぇ」


まるで聞こえていないかのように反応を示すことがなく。


「ねぇ!」


するとシュウは動いた。手を腰に巻いた巾着袋に回して、その中から竹筒を取り出すと、キャップを外してゴクリと水分補給。ホヅミの思っていた行動とは違っていた。さすがのホヅミもイラつき、シュウに駆け寄ってその肩に手を伸ばす。


「ねぇっわわっ!」


宙を一回転。ホヅミは背負い投げをされてしまう。そして地面に叩きつけられる瞬間、腕を引っ張り上げられてシュウの前で着地する。何とか無事で済んだホヅミ。けれど突然の事にさすがのホヅミも怒り心頭。振り向いてシュウを睨みつける。


「何すんの!!」

「何じゃねぇよ! いきなり俺の肩に触れんじゃねぇ魔物かと思ったろうが!」


シュウもホヅミに張り合うように睨みをきかせて言い返す。だがホヅミも負けじとシュウに張り合う。


「へー、魔物か人間かも区別がつかないんだぁー。勇者の名も形無しだねー」

「んだとてめぇ! あ゛! もういっぺん言ってみろよコラあ!」

「何度でも言ったげるわ勇者の名も形無かたなし! このチビすけ勇者!」


シュウの目付きが鋭いものへと変わった。地雷を踏んでしまったのだろうか、ホヅミは動揺。シュウは腕を曲げ拳を握ると、それはホヅミ目掛けて放たれる。


「え? うそ? 冗談じょうだんだって!」


ホヅミは頭を抱え縮こまった。


ドゴォン。


「グギャアアアアア!!」


後ろで何かの悲鳴が聞こえる。自身には何も起こらないのでちらっと片目でその方を見ると、胴体のちぎれとんだ大きなニワトリの様な魔物が叫びの表情をして、数メートル先にまで吹っ飛んでいた。下半身は手前に残し、そこからは青黒い血が噴き出しており、驚いたホヅミは慌ててシュウに抱きつく。


「抱きついてんじゃねぇよコラ」

「…ごめん」




それからホヅミを体から離したシュウはしばらく考え事をしていた。先ほどのホヅミとのやり取りが腑に落ちないでいる。


(あいつに触れられた時、急に魔物の気配が現れてすぐに消えた……あれは俺がさっき倒した魔物とは違う……もっとものすげぇ……感じた事のねぇ気配だ……)


倒した魔物は鶏の頭に蛇の尻尾を持ったコカトリスという魔物。シュウに言わせればたかがBクラスの魔物だった。


(なんなんだ……この違和感は……勘違いなのか?)


二人が歩く道のりは、草原、森と越え、荒地。ホヅミが今までに歩いてきた道よりは、遥かに楽な道のりではあった。だが辺りには何も無い。川の水も流れてはいない。ホヅミは喉が渇いていた。そして異世界について何も知らないホヅミは水筒も持ち合わせていなかった。疲弊ひへいも重なりそろそろ休憩をと言いたいところだが、シュウは何も提案してはくれない。


「ねぇ、シュウくん。そろそろ休憩にしませんかぁー?」

「まだだめだ」


返答はしてくれるようになったところ、遅刻した事についてはもう怒ってはいないらしい。


「ねぇ、シュウくん。私もう喉が渇いたよぉ」

「あ? だったら自分の小便でも飲んでろ」


と冷たい一言が返る。


「シュウくんって…冷たいよね」

「あ? ……ちっ」


するとシュウは巾着袋から水筒を取り出すと、ホヅミに差し出す。


「え? くれるの? 私に? やったぁーって、え?」


ホヅミが水筒に手を伸ばすと、シュウは避けて水筒を頭上に振りかざす。


「この水筒が欲しいか?」

「うん、欲しい」

「三回廻ってワンだ」

「え?」


ホヅミは聞き慣れない言葉にもう一度聞き返す。


「三回(まわ)ってワンと言え。出来たらこの水筒をお前にくれてやるよ」

「な、何それ! 意味わかんない!」

「ほぅ、じゃあいらないんだな?」

「そ……それは」


ホヅミはしばらく考え込む。喉はカラカラで声も掠れているほどだ。しかしどうしてもプライドが許せない。


「や……やるわけないじゃん」

「そうか……ならばやらん」


向き直って歩を進めるシュウ。ホヅミはふくれっ面でその後に続く。



しばらく経っても景色も全く変わらず何も無い荒野続き。脳みそまで乾いてしまいそうなほどだ。どうもシュウが言うには自分達のいる場所は乾燥帯かんそうたいらしい。通りで草木が枯れ辺り一面荒野な訳だ。そんな納得をする頃には、ホヅミの渇きは一層増していた。ふとシュウは振り返る。


「この辺りで休憩にしよう」


シュウは岩に腰掛けると、巾着袋からお弁当を取り出した。ホヅミも反対の岩に腰掛けてお弁当を取り出したが、渇きが酷く食事も喉を通りそうになかった。


「どうした? 食わねぇのか?」

「は? べ、別に」


喉がカラカラで声も上手く出ない。そんなホヅミを知ってか知らずか水筒を取り出して水を飲みかけるシュウ。


「あああぁ」


水を飲もうとするシュウを見てホヅミはつい声が漏れてしまう。


「…水、欲しいのか?」


ホヅミは首を全力で縦に振る。


「三回廻ってワンだ」


言われてホヅミは下唇を噛んだ。私にだってプライドはあると我慢を選ぶ自分と、プライドなどどうなってもいいと言いなりになるのを勧める自分がいた。渇きは益々《まずす》増しており、ホヅミは強まる葛藤かっとうに苦しめられていた。そして更なる追い討ち。シュウは見せつけるようにして水筒を口に添える。


「分かった、やればいいんでしょ? やれば」


ホヅミはぐっと恥を堪えて決意を固める。そして、一回、二回、三回とその場で廻ると


「ワン!」


パチパチパチ。その姿にシュウは笑顔で拍手をする。


「よく出来ました。じゃあやるよ」


シュウは放る様にホヅミに水筒を渡す。ホヅミは恥という苦難を乗り越え手にした水筒のフタを開けて、待ってましたと言わんばかりぐいぐいと水を飲み干す。


「どうだ? 美味しいか?」

「ぷはーっ! 生き返るぅー!」

「そうかそうか、俺が今までに何度も口を添えたその水筒に入った水がそんなに美味しいか。そんなに俺との間接キスを喜んでくれる奴を見るのは初めてだよ」


その言葉に思わず吹き出してしまうホヅミ。


「は? ふざけないでよ! アンタの間接キスなんか喜んでないし!」

下位水魔法スプラッシュ!」


シュウの頭上で水の塊が浮遊する。


「まあ、こうすれば良かったんじゃない?」


シュウは竹で出来た細筒を水の塊に挿してストローの様にして、ゴクゴクと水を飲んでいた。


「私……風魔法しか……使えないもん」

「教えて欲しいならこれから語尾をワンにすること」

「嫌よ! もう絶対嫌だから!」

「ちなみにこれから先、ずっと乾燥帯で…喉が渇くと思うんだけどなぁ」

「…………」


恥をかかされる身にもなってみろと言いたいところだが、シュウの言う通り水が飲めないのは困る。ホヅミはゴクリ唾を飲み込むと、拳を握る。


「教えてください……ワン」

「良いだろう」


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