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追われかぼちゃと勘当姫  作者: 憤怒の灰かぶり
第一章
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シュウ=トサカ3

リリィはまず魔力の回復をしなくてはと、ある物を探していた。上階へと一つ登ったところには人の気配がなく、先まで聞いていた悲鳴は更に上の階から聞こえてきていたものだろう。今いるフロアには部屋が三つ左沿いに存在しており、リリィはちょうど二つ目の部屋を探索していた。


「ない! ここにも! そこにも! んぁあーっ!」


リリィの探しているのは、魔力を回復するための魔注射スペルインジェクションだ。また、傷を治癒するための血注射ブラッドインジェクションというものが存在している。


リリィは書斎の机から棚の上、タンスの中まで隅々に探すがお目当ての物は出てこなかった。


「くそっ、次の部屋行こ」


リリィは二つ目の部屋を後にして、三つ目の部屋に向かう。薄暗い部屋。魔法のランプに魔力を込めるとともる。照らされ視界に映ったのは、白い粉で床に大きく描かれた真新しい魔法陣。赤やら緑やら紫やらと色々な液体の入ったフラスコが机には並べられ、一冊の本がその隣で開かれている。木で出来た不気味な彫像ちょうぞうが壁にずらりと並べられ、リリィを出迎えていた。今にも動き出しそうな勢いで、リリィより少し上の目線から部屋を見下ろしているものもあれば、苦しんで今にも叫び声を上げそうなものから邪悪に笑う像までもが置かれている。


「何? ここ」


リリィは色々なフラスコの置かれた机の引き出しを開けた。するとそこには、魔注射スペルインジェクションや、血注射ブラッドインジェクションまでもが用意されていた。やっと見つけたと、リリィは魔注射スペルインジェクションを手に取ってキャップを外し、その尖った切っ先を自分の肩に突き刺す。シリンジを押し出して液体を注入すると、魔力の高まりがはっきりと感じられる。


「よしっ……早くこんな薄気味うすきみ悪いとこ出よう」


リリィは魔注射スペルインジェクションを持てるだけ持って部屋を出ようとする。しかし時が遅く、それはやってきた。


「ちっ! 使えない玩具だな。いったい私がいくら払って買ってやったと思っているんだ!」


怒りに任せて毒づく男の声。忘れもしない。リリィは慌ててランプの灯りを消して、彫像の後ろへと身を隠す。


「ん? 扉が開けっ放しではないか ……まあいい」


バタン。男が床に何かを放った。ランプに火を灯すと、浮かび上がるのは忘れもしないあの顔。エピルカだった。エピルカは辺りを見渡すと、机に視線を合わせる。床に放られた、ボロボロの布キレ一枚を着せられ衰弱すいじゃくしきった女エルフの背中を踏みつけ、視線の方へと向かっていく。


「ふっ、貴様など……我が力のかてとしてやるだけありがたいと思え」


エピルカは机に置かれたフラスコに入った液体を、赤、黄色、緑の順で一つの試験管に調合する。女エルフの元に寄って屈み、その口元に調合された液体の入った試験管を添えた。


「ほら、飲め」


言われても反応を示さない女エルフにイラつき、無理やり口の中に試験管をねじ込む。女エルフが液体を飲み込んだ事を確認すると、試験管を机に戻した。


「エイビョウイヤァーサーシンビョウイヤァーサー……」


訳の分からない呪文じゅもんをエピルカが口にすると、床に敷かれた魔法陣が眩い光を放つと、エルフの体に異変が起きる。


「ぬ、ぬおおおおお!!」


驚く事に、エルフの体は溶ける様に少しずつエピルカの体と融合ゆうごうしていっているのだ。このままでは女エルフが死んでしまう。リリィはその場に出てエピルカの魔法を妨げようと思ったが、リリィの体は竦む。声を出そうとも、のどがつかえる。気づけば胸の動悸どうきが激しく、息をすることにすら苦しみを覚えていた。やがてエルフの姿は跡形あとかたもなくなってしまう。


「ふははは……力がみなぎる! これだから止められんのだ! 禁呪法きんじゅほうは!」


大きく身振りを交えて笑う様は、悪魔のようにも見えた。


「さて、リリィといったか。あの新しい玩具で楽しむとしよう……じゅる」


凍りつくほどの恐ろしい笑みを見たリリィの頬には冷たい汗と生温なまぬるい涙が伝い気持ちが悪い。いつの間にか唇は噛み切れて、鉄の味が口の中に広がる。


魔物は横暴おうぼうで邪悪で卑劣ひれつ故郷こきょうのトト村の塾で散々《さんざん》と教えられてきた言葉が自身の脳裏のうりに浮かぶ。エピルカはまさに魔物のそれと同じ。もしかすれば、エピルカは魔物化した人なのではないだろうか。もしくは魔物が人の姿に化けているのではないか。ふと以前トト村で出会ったカラナという魔物を思い出した。カラナは肌の色が青白く、明らかに魔物と区別は出来たがエピルカは違う。見た目だけならば何もかもが人と酷似こくじしている。禁呪法による魔族との融合ゆうごうは初めて知ったが、それが原因なのだろうか。何にせよ狂気きょうき沙汰さたは魔物そのものだ。

そうこう考えているうちに、エピルカは部屋を出ていった。すると足の震えが治まってきてほっとするリリィ。だが少し考えて、まずい状況にいる事を改めて知る。今のエピルカの様子だと、恐らくエピルカは牢屋に向かうのだろう。新しい玩具と口にしていたので、恐らく自分の事だ。もし自分がいない事をエピルカが知ったら、慌てて自分を探し回るだろう。それに逆上ぎゃくじょうして、他に囚われたエルフや人間の子供に手を出しかねない。


「どうする、どうする」


エルフとの融合を果たしたエピルカは力が漲ると言っていた。予想するに以前戦った時よりも強さが増しているに違いない。


「あぁ…元のボクの体があれば」


リリィは自身本来の体でない事をなげいた。


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