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追われかぼちゃと勘当姫  作者: 憤怒の灰かぶり
第一章
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シュウ=トサカ2

ホヅミは宿の部屋に着いていた。

この世界での通貨は、安いものから順に、石貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨が流通している。石貨十枚分が銅貨一枚、銅貨十枚分が、銀貨一枚と、桁が上がる事に通貨の価値も上がるのだと、シュウには教えられていた。手元には銅貨二枚。宿代は銅貨八枚で支払った事となる。残りはシュウの雇用費だ。ホヅミはベッドに寝転んで、じっと銅貨を手に見つめていた。


「これから……生きていけるのかな…私」


ホヅミは先行きに不安を感じる。恐らくエルフに渡されたお金は、エルフの村の少ない財から搾り出したものだろう。元々人との関わりが少ない上に、一度村を襲われているのだ。お金が少ないと感じてしまうのも仕方がない。もしこれで失敗すれば、エルフの期待を裏切るだけでなく、リリィや自身の不幸を招いてしまうだろう。


「あのシュウって人、本当に勇者なの? あんなに乱暴な勇者なんて聞いた事もないよ」


勇者であるかはともかく、日本人という点においては幸いだ。だがシュウの態度を見る限り、あまり人との関わりを好んでいないようで、助け合う事の出来る人間かも分からない。せっかく同じ日本出身なのにと、ホヅミは残念な気持ちである。もしかすれば、異世界での暮らしに困窮こんきゅうしてホヅミをだまそうとしている可能性もない事はない。


「はぁ〜、不安だよ」


ホヅミは目をつむって、日本にいた頃を思い描いた。どれもが嫌な思い出ばかりだ。好きで女の子の格好をしたりしただけなのに、可愛いものを家に飾ったりしただけなのに、没収される。男と言われる度に嫌な感じがしていた。股についた物もいつか自然となくなるのだろうと思っていた時期もあった。そう考えた時、ふとホヅミは自分の体が今、リリィのものであることに気がついた。


「そういえば……今はリリィの体なんだっけ」


太もも閉じて擦り合わせる。そこには前まであったものがなくなっていて、ホヅミは安心という名の感覚に浸ることとなる。


「これが……私の望んだあたり前……これが……私の普通」


リリィには悪いが、ホヅミは少し良い気分に口元を緩ませる。そしてにやにやが止まらないホヅミの耳に、突如声が聞こえる。


「何にやにやしてんだよ、お前」

「っ!?」


驚いて声も出なかった。目を開けると、そこにはシュウの顔があったのだ。


「ちょっと話があってきた」




それからホヅミはこの世界に来た経緯けいいについて聞かれた。ベッドに座り、入れ替わりについては触れずに訥々《とつとつ》と語る。シュウは腕と足を組んで偉そうにベッドに腰をかけて、ホヅミの話を聞いていた。


「なるほどな……俺と似てるな」

「あの……良かったらシュウくんのも、聞かせてよ」


せっかく自身から交流を図りに来てくれたシュウの機嫌を損ねないよう、とげがない様にたずねる。


「あ? 何で俺がお前に教えるんだ?」


こちらの思惑など一切気にせずに、荒々しい態度でいちいち睨みをきかせるシュウ。やはり仲良くは無理だと、ホヅミは肩をすぼめた。


「…………俺は」


にくまれ口を叩いたかと思うと、シュウはすんなり自身の過去を語りだした。その様子にホヅミは少し疑問に思ったが、黙ってシュウの話に耳を傾ける。



シュウは橋川中学校に通う中学三年生で、喧嘩けんか滅法めっぽう強いと自称している。ただの喧嘩好きで、本人(いわ)くヤンキーではないそうだが、売られた喧嘩は買い、喧嘩を売ることもしばしばあったそうな。しかしある日シュウはある男に、追われていると言われ、その男を庇って追ってきた黒服達と喧嘩をしたという。喧嘩では圧倒していたが、行く手をはばむシュウにしびれを切らせて銃で撃ってきたのだ。シュウは撃たれてそのまま意識を失った。気がつけばシュウはこの異世界の荒地あれちに倒れていたという。辺りには何もなく、一人で徘徊はいかいしていた。すると荒地の先に影を見る。人だと思いシュウはけた。だがそれは異様な姿をした怪物で、シュウに襲いかかってきたそうだ。けれどシュウは俄然がぜん乗り気で、喧嘩をする感覚でいとも簡単に倒してしまったのだという。自分が勇者であると気づいたのは、町に到着してから。賞金稼ぎ組合(バウンティユニオン)組合員ユニオンズに登録した際に、自らの能力や称号しょうごう参照さんしょうされ、勇者の称号がそこにしるされていたのだという。


「私も、何か能力があるのかな」

「さあな。あっても俺よか強くねぇだろ」

「へぇー、じゃあシュウくんはどんな能力があったの?」


聞かれたシュウは待ってましたと言わんばかりに、自慢気な表情で胸を張る。


「俺の能力は、スーパーパワーだ」

「スーパー……何その分かりやすいネーミング」

「あんっ?! なんか文句あんのか?」


シュウは馬鹿にされたような気がしてホヅミに突っかかる。


「いえ、ないです」


誤魔化す様に苦笑いで答えるホヅミ。



起点はどうあれ、ホヅミは同じ日本出身のシュウと出会えて良かったと感じていた。言葉遣いは酷いがちゃんと話せる人間で、しばらく日本の話題で盛り上がっていた。聞けばシュウも同じ宿に泊まっているそうな。途中宿主が割り込んで食事の支度か出来たとのしらせがされる。それを聞いたシュウは会話を打ち切り立ち上がった。それを見たホヅミはシュウに、一緒に食事へ行かないかと誘うが、嫌だねと素っ気なくきっぱり断られてしまう。それにはホヅミもしかめっ面。


(何よ、可愛気ない)


シュウは部屋を出ると、それを追いかけるようにホヅミも部屋を出た。良い香りが漂ってくる。自身の部屋に戻るシュウと分かれてホヅミは下の階へと向かう。


「おい、ちょっと待て」

「何ですか?」


少し他人ぶった素振りで振り返ると、頬を指でかきながら照れ臭そうにシュウが横顔を向けている。その様子をホヅミは怪訝けげんに思う。


「…まえ」

「……?」


ボソッと小さく言うものだから聞き取れず、ホヅミは更に怪訝に表情を変える。


「なまえ! お前のなまえ、教えろ」

「何だ名前か……私はホヅミ」

「それ苗字だろ」

「良いじゃない? 可愛くて」


にこりホヅミは笑うと下の階へ向かう。シュウはそれをじっと見つめて鼻を鳴らすと、自分の部屋へと戻っていった。


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