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追われかぼちゃと勘当姫  作者: 憤怒の灰かぶり
第一章
21/77

シュウ=トサカ1 (挿絵あり)

挿絵(By みてみん)

冷たい床が、頬に、腕に、太ももに、張り付いている。エピルカとの戦いから録に治療も施されず、体のそこら中から血が滲む。前の両手に大きな手錠をかけられていた。目の前には大きな鉄格子。薄暗く、魔法のランプの火に照らされてゆらゆらと影を揺らす。

リリィは目が覚めた。体中が熱い。特に右手は腫れ上がってぱんぱんだ。指も変な方向に曲がったままであり、力を込めても動かす事が出来ない。リリィは起き上がって体を鉄格子まで引きずる。

リリィは牢屋に入れられた後に意識を失っていた。よって連れてこられた時の様子を思うにここはかなりの深さの地下牢である。石造りの牢屋が左右にずらりと複数並び、その内の一つに収容されている様だった。目先の牢屋にはボロボロになった布キレ一枚を着て、力なく項垂うなだれて座っている者がいた。リリィと同じ様に大きな手錠をかけられている。そして気になったのは切れ長な耳。エルフに見られる特徴だ。リリィは村長の言葉を思い出した。


「あの、すみません」


話しかけるリリィ。しかし反応を見せない。聞こえていないのだろうか。すると遠くからコツコツという音が響いてきた。しばらくするとそれは足音だと気がついて、リリィは慌てて反対の方向を向いて寝そべる。


「おい、出ろ」


リリィはそっと後ろを向いた。少し目を開けて見やると、隣の牢の前に人影が少し見える。


「エピルカ様がお待ちだ」

「……いや」

「何を言っている。貴様は既に、エピルカ様のもの。貴様の意見など「もう嫌だあああああ!!!」」


叫び声が地下に響く。壁からはゴンゴンゴンと何かをぶつけるような音が連続する。そしてボコっと生々しい音が一つ聞こえてバサリ。誰かの倒れた様な音が聞こえた。ズルズル引きずる音ともに、人影は消える。やがて音が途絶えると、リリィは震えるため息を吐いた。

それからしばらくだ。上の方から悲鳴がとどろく。胸をいばらしばり上げられる程の痛々しい悲鳴にリリィは思わず耳をふさぎたくなるが、両手にかけられた手錠てじょうはそれをさせてはくれない。

悲鳴が止むと、リリィはふらつきながらも立ち上がる。牢屋から脱出しようと、何か方法はないかと中を見回した。中には備え付きのボットン便所が隅にあり、それ以外は何も置いてはいなかった。そういえばとリリィは自分の体を見回した。エピルカに受けた風魔法のせいでボロボロ衣服だが、ホヅミの着ていた異世界でのもの。もしかすると、脱出に役立ちそうなものが衣服に身につけられているかもしれないと、手錠のかかった手で探る。

胸ポケットにはヘアピンが二つ。この二つのヘアピンを使えば、解錠ができるかもしれないとリリィは考える。リリィは塾で鍵の仕組みについて習った事があった。その際に二本の針金を使い、鍵を開けるピッキングの技術をも授業で習っていた。知恵のついた魔物も、鍵を利用する世の中だ。魔物にもし捕えられてしまった場合、ピッキングが必要となってくる。

リリィは一つのヘアピンを、動かせる左手と口を使って真っ直ぐに伸ばし、もう一つのヘアピンは口に加えたままに。二つのヘアピンを手錠の鍵穴に差し込むと、ゆっくり鍵穴の中の形状に合わせてヘアピンを奥へと差し込んでいく。

カチャリ。

ヘアピンを回すと解錠が成功した。 すぐに封魔錠スペルオフを体から離し、体に残る魔力を左手に込める。


下位回復魔法ヒール!」


ぱんぱんに腫れ上がり、変な方向に折れ曲がった指は次第に元の形状や元の位置に戻っていく。握って広げて右手が自由に動かせる事を確認すると、今度は両手を体に(かざ)して下位回復魔法・倍(ヒール・バイリング)をかける。よって火傷したかのように熱かった痛みが体から引いていく。体中の傷は癒え、少し気が楽になった。

リリィは牢屋の鉄格子に近づくと再び魔力を手に込める。燃え盛る火を心に置いて、熱くなるその意識を翳した掌に集中させる。


中位熱魔法アップヒート!」


グォンと空気の波が広がると、同時に手を翳した範囲で鉄格子てつごうしが黄色い熱を帯び、みるみるうちに溶けて……いかない。


「あれ? 足りないかな……あ! そっか、ホヅミんの体だと、魔力が足りないのか」


リリィは考える。浮かび上がったのは上位魔法。塾ではまだ習うことのない魔法だ。本来ならば、リリィの年齢で上位魔法を使うことなど出来ない。しかしリリィには出来る。また、リリィは増幅魔法バイリングという魔法の威力を増幅する魔法を使うことが出来るが、これは得意とする火炎系、回復系にのみ使用が可能であった。熱魔法では使えない。だがこの場で増幅魔法バイリングを用いた下位火炎魔法ジェラを発動してしまうと、周りの牢屋にいる者まで被害が及んでしまう。もちろん増幅魔法バイリングなしの下位火炎魔法ジェラでは鉄格子を溶かすにまでは至らないだろう。リリィは上位魔法を使うことに決めた。ホヅミの体では上位魔法による魔力消費が心配であった。生き物は皆僅みなわずかな魔力をたよりに生命を維持していると言っても過言ではない。特に魔力を使い切ってしまうと、魔法が発動しないどころか動けなくなってしまうかもしれない。それ故に使用がはばかられるがそうも言ってはいられなかった。リリィは覚悟をしつつ、目の前に両掌を翳す。


上位熱魔法オーバーヒート!」


グオオォン。


大気は揺らぐ。牢屋の鉄格子は一瞬にして溶けたどろどろに変形した。その威力は前の牢の鉄格子にまで影響を与えて、一部が黄色く光っている。


「よし……あ…」


とふらつくリリィ。尻もちをついてしまう。


「やばい……魔力使い切っちゃったかな」


リリィはやってやったと不敵にわらう。ぷるぷると震える足でゆっくりと立ち上がると、ふらつく足取りで牢屋を出た。そして先程話しかけても反応を示さなかったエルフのいる牢屋に近づく。


「エルフさん……必ず、助けるから」


その声に一瞬エルフの瞳に光が戻った様な気がしたが、色のない表情で俯いて黙り込んでいるだけだった。気づくと上階から聞こえていた悲鳴が止んでいる。無音の恐怖に心を侵食されながらも、リリィは奥に構えた上階へと続く階段に向かって足を動かした。その道すがら、牢屋に捕えられている者達を見た。ほとんどが虚ろな目をして外を歩くリリィに見向きもしない。生きてはいるのだろうが、生きた感じのしない表情を誰しもがしている。エルフ以外にも人間や人間の子供までが囚われていた。


「お願い……助けて」

「大丈夫、必ずお姉ちゃんが助けてあげるからね」

「ありがとう」


せ切った顔に笑窪えくぼを浮かべる子供。リリィが決意を込めてぐっと固く拳を握りしめると、上階へとのぞんだ。




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