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追われかぼちゃと勘当姫  作者: 憤怒の灰かぶり
第一章
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勇者はいずこに8

カウンター腰には、蝶ネクタイをきっちりと閉め、透き通るワイングラスを綺麗な白い布で磨くマスター。外は暗く、酒場内は天井についた魔法のランプの灯りのみで照らされる。奥で下品に騒ぎ立てる酔っ払い達の火の粉にかからぬ様に、ホヅミは隅を通ってカウンターへと足を運んだ。



すっと綺麗な姿勢で立つマスターに聞けば、カウンター右奥に座る者がホヅミの探し求めていた勇者のようだ。目線を移したそこにはそれらしい人間が一人、大剣を背負ったたくましい姿はまさに勇者らしい。


「勇者さん? ですよね?」


しかしお目当ての勇者は隣にいる人間と話をしている様で、こちらの声には耳をかたむけない。


「お願いしますって。俺がいれば、必ず役に立ちますから」


何やら込み入った話のようで、今話しかけるにはタイミングが合わなかったようだ。


「お願いしますよ! 勇者様!」

「え? 勇者…さま?」


勇者と思っていた男から出た言葉に、ホヅミは驚いた。その男が下手したてに出て話しているのは、更に右隣にいる人物。まさかと思いその人物を覗くと、そこにはホヅミと同じ年くらいの黒髪の少年が、グラスを片手に座っていた。手には黒いグローブ、その腕には腕輪の様なものがめられている。エルフの村長が言っていたソウルリングと呼ばれるものだろうか。


「だーかーらっ! お前はダメだっての!!」

「ちっ……何だよ。仲間はいても減らないだろうが」


目の前にいた男は席を立ち上がると、入口に向かって歩いていく。ホヅミが目を移した少年は、グラスに入った飲み物を少し口にして、ため息をついた。すると後ろの方からドンッと扉を強く蹴る音がして、ホヅミは振り向く。それは先程の男だった。えら御立腹ごりっぷくの様だ。ホヅミは再び少年に向き直る。


「あの……勇者……さん?」

「ガキはダメだ」

「へ?」


ぎろり、少年の鋭い眼光がんこうがホヅミに突き刺さる。


「ガキはダメだ。すぐ死ぬだろ」

「え、は?」

「お前など仲間にいらん」


その愛想あいそのない態度に、少しかちんと頭に来たホヅミの心には小さな火がついた。


「いや、仲間になりたくてきたんじゃないの。お願いがあってきたの」


内心怒り、にこりとさわやかに微笑んでみせるホヅミをいぶかしげに見る。


「聞こう」


少年はグラスに入った飲み物をちょいと口にしてホヅミに向き直った。


「実は、私の友達が貴族にさらわれたの。でも私、何も出来なくて」


少年は目を瞑ってしばらく考え込むかのように飲み物を口にする。


「貴族か……ここらで貴族って言やぁハイシエンス王都のか?」


ホヅミは聞き覚えのある名称に頷いた。エピルカが語っていた王都だ。シュウは大きくため息をつくと、酒のにおいが乗ってホヅミの鼻をつく。


「で、いくら出す?」

「え? い、いくらって……」

「金だよ金! お前、まさか勇者だからって何でもしてもらえるとでも思ってきたのか?」


言われてみれば当然の事ではある。ホヅミは勇者だと聞いて、正義のためならと無償むしょう助力じょりょくをしてくれるのではと、多少なりとも思ってしまっていた。


「これ……だけしか」


ホヅミはエルフ族からいただいた銀貨ぎんかを五枚、ポケットから取り出した。


「銀貨か……ガキにしちゃ持ってんな……で、お前ここに住んでんのか?」

「え? ううん、私は……エルフの……村から」


日本から、と言ってしまいたかったが、もし聞いた事もない地の名前を出してしまえば、あやしまれて依頼を断られてしまうだろうと思い、エルフの名を口にした。


「エルフ? ……お前はエルフじゃないよな?」


ぐいっと身を乗り出してホヅミの瞳を覗く様に見つめる少年。少年の顔が近くなって、思わず意識してしまうホヅミ。しばらく見つめると、少年は席に着く。


「って事は、友達ってのはエルフの事か?」

「え? ええと、友達は人間」


少年はすっとグラスを口に添えて一口。


「……分かった。銀貨四枚で引き受ける。残り一枚で、宿にでも泊まれ。明朝みょうちょう町の入口で待ってろ」


と少年はグラスの飲み物を一気に飲み干すと、席を立ち上がる。


「あ、ありがとう」


半信半疑ではあった。同年代くらいの男の子が、目新しい武器も持たずに、勇者という存在である事は、少し疑問にも思う。エルフのシンラが情報の正確性について五分五分と言っていたことを思い出して、ホヅミは不安になっていた。


「安心しな、ガキ。お前の友達は必ず、この俺、勇者シュウ様が、助けてやるよ」


トントンと肩に叩くと、ホヅミの横を通り過ぎるシュウ。


「何がガキだよ。そっちだって未成年のくせに」


呟いた。限りなく小さな声で。だが勇者シュウの耳にはその声が届いてしまっていたようだった。シュウは慌ててホヅミの肩を掴んでその体を自分へと向ける。ガシリと頬ごと顎を鷲掴わしづかみにして、瞳孔どうこうの開いた目でホヅミを睨みつける。


「今何て言ったあ!?」

「ほへ? ほほふご」


そのあまりの形相ぎょうそうに、ホヅミは自分の発言をかえりみる。


「ちょっと……こっち来い!」


顎から手を離すと、シュウはホヅミの手を無理やり引っ張って行く。


「痛っ……痛いって」

「うるせぇ! それどころじゃねぇ!」


シュウはポケットから取り出した銅貨を一枚取り出すと、カウンターに叩きつけた。そしてそのまま酒場の扉を強く開け放つと、ホヅミを連れて外へと出る。酒場から出てすぐの路地裏に入り込むと、投げる様にホヅミを石壁に叩きつけた。


「痛っ!? ……何するの!」


シュウは間髪入かんぱついれずに勢いよくホヅミに向かって片手を伸ばすと、その掌はれてホヅミの顔の横を突っ切りドンッと音を立てる。


「お前ぇぇぇええええ!! さっき何つったああ!」

「ひぃぃぃいいい!?」


その恐ろしい形相にホヅミは怯える。日本で高橋に襲われた記憶がフラッシュバックする。体は震え出して言う事を聞いてくれない。目からは意識もせずに涙が溢れてきた。


「お前さっき、未成年とか言わなかったか!!」

「いいいい言ったけど、だって、子供だと思ったんだもん!」


シュウは怯えるホヅミから視線を下ろし、石壁についた手を退ける。跳ね上がる心臓が治まらないホヅミは、その様子を不審に思う。


「俺、日本から来たんだよ」

「え? にほん……て、日本?」


見当違いな発言にホヅミは唖然とした。


「俺の名前は、登坂修とさかしゅう。橋川中学三年」

「え……えええええ!?」


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