勇者はいずこに7
死んだ。そう思って、味わったことのない、味わいたくもなかった死を今か今かと待つ。だがいつまで経っても痛みはやってこない。痛みを感じる間もなく、魂のみとなってしまったのかと錯覚する瞬間、地鳴り。そっと目を開けた先に見えたのは、仰向けに倒れるキングベアー。ローレンスは自分がまだ生きていることに気がついた。そして屈み込んで自身を覆う影の正体に目を移す。
「ったくよぉ、大きなうめき声が聞こえたんで来てみりゃ……何だよそのザマは。勇者様?」
「はひ?」
「グオオオオオオォ!!」
起き上がって口から滲む血を腕で拭うキングベアー。怒りを加速させて、目の前にいる腕を構えて不敵に笑う少年に、尖らせた赤色の瞳を向ける。
「ローレンス? だっけ? 勇者の名を語るんなら、Sクラス程度の魔物にビビってんじゃねぇよ!」
「誰だよお前、いったい、何したんだよ……」
「俺か? ……俺はなっ!」
言うと地面を蹴り高く空へと跳躍する。起き上がったキングベアーに焦点を合わせると、にぃと笑う。体を屈めて回転し、その勢いに任せて踵落としを繰り出す。踵は魔物の頭にめり込み、少年の何十倍もあるその巨体は凄まじい勢いで地面へと叩きつけられる。少年は着地。キングベアーは突っ伏す。その光景を目にしていたローレンスは開いた口が塞がらない。自分はキングベアーに少しも歯が立たなかったというのに、自分よりも小さな体躯であのキングベアーを圧倒してしまう少年。
「シュウ……シュウ・トサカ! まぁ、勇者だ」
「ゆ……勇者? まさか本物!?」
地面に頭をめり込まして寝ているキングベアーに、シュウはゆっくりと歩み寄っていく。足に力を込めてキングベアーの下顎を蹴り飛ばした。キングベアーの体は仰け反り数メートル先まで吹っ飛んでしまう。
「グオオオォォォ」
「おいおい、まさか熊が死んだフリとは呆れるなぁ」
にやりと何やら楽しそうに笑みを浮かべるシュウ。蹴り飛ばされてすっかり怯えきったキングベアーはゆっくりとやってくるシュウから逃げるように体を後ろへと引きずる。
「なぁ、知ってるか? 俺は武器を使わない主義なんだ。だってそうだろ? 武器なんてもんを使っちまえば、相手は簡単に伸びちまう」
シュウはそう言うと足を止める。
「逃げるなよ。せっかく見つけたサンドバッグだ。もっと俺を……」
瞬間、シュウはキングベアーの目と鼻の先に姿を現す。
「楽しませろよ」
シュウはどのような表情をしていたのか、この場にいる誰もが知らない。キングベアーだけが知っている。その魔物よりも魔物らしい、悪魔の微笑みを。
こうして町に襲来した魔物キングベアーは、勇者シュウの手によって惨殺される。町の人々にはSクラスの魔物と必死に渡り合っている勇ましい姿に見えたのだろう。
そしてシュウが人々に持て囃されると同時に、ローレンスは町から追われる身となる。





