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追われかぼちゃと勘当姫  作者: 憤怒の灰かぶり
第一章
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勇者はいずこに6

トントン、部屋のドアが叩かれる。


「お食事のご用意が出来ました」


そういってドアは開かれると、女宿主が姿を現した。偽の勇者であるローレンスはちょうど今眠っていたところで、足はだらしなくベッドからはみ出しており、シーツは床に落ちてしまっている。


「むにゃ……んあ? 宿主さん? わざわざありがと」


それを確認すると、女宿主は一礼をしてにこやかに退出する。

窓からは朝日が差し込み、二度寝は許さないと言わんばかりにローレンスの目を刺激する。


「ふわぁ〜」


大きく口を開けてあくびをしながら背筋をぐいっと伸ばすと、ベッドから起き上がって部屋を後にする。ゆったりとした足取りで階段を降りていくと、美味しい食事の匂いがふんわりと空気中にただよう。焼き立てのパンの匂いがとっても香ばしい。


「おはようございます勇者様、朝食支度は整っております、どうぞこちらへ」

「ふむ」


女宿主ににこやかに案内され席へとつくローレンス。他にも宿に泊まっている客が居るようで、食卓は多少にぎやかになっていた。そして町で一番の宿というだけあって泊まっている客はそれ相応に小綺麗な格好をしていた。それを見てローレンスは乱れたホワイトシャートのえりを整える。


「どうぞごゆっくりなさってください」

「ふむ」


ローレンスはナイフとフォークを手に取り食器に乗った焼きたてのパンにナイフを入れる。溶けたバターの芳醇ほうじゅんな香りが鼻をくすぐり、寝起きの胃袋を刺激して食欲を駆り立てる。だがローレンスは場の空気を読んで、上品な仕草に気を抜かない。咀嚼音そしゃくおんを立てないのはもちろん、ナイフさばき、口に食事を入れるその瞬間までにも気を遣い、皆に恥ずかしい振る舞いを見せぬようにつとめる。


「ふむ。宿主殿、食事をありがとう。美味かった」

「そんな、勿体もったいないお言葉!」


ローレンスは席を立つと再び二階へと向かう。自室につくと、洗面台に立った。洗面台の蛇口には下位水魔法スプラッシュの術式がかけられており、少し魔力を込めると水が出る仕組みとなっている。部屋に備え付けの歯の洗浄粉と木製のブラシを手に取り、口の中を洗浄する。そして最後に顔を洗った。目の前の鏡に映る自分の顔を見て、歯を出してポーズを決めてはにやけ、ポーズを決めてはにやけるのを繰り返す。


「今日も俺、決まってんじゃん」


すると次にローレンスは浴室に向かう。浴室には固定された大きな蛇口が取り付けられていて、蛇口には穴が複数空いた蓋が取り付けられている。この蛇口には下位水魔法スプラッシュ下位熱魔法ヒートの二つの術式がかけられており、魔力を込めるだけでお湯が出る仕組みだ。また、熱湯を必要とする際は下位熱魔法ヒートの術式をかけ直さなくてはならない。もちろん湯浴みをするだけなので熱湯は必要ないが。

ローレンスは着ている衣服を脱いで、蛇口から出るお湯で全身の汗や汚れを洗い流す。備え付けの洗浄粉を布につけてゴシゴシ洗ったり、洗浄粉を頭につけて泡立てて頭の汚れを洗い流したりとすると、浴室を後にする。ここで宿に備え付けの布を使い体を隅々まで拭いていく。濡れた長髪は下位風魔法ブリーズの術式を施した小さな小筒に、魔力を込める事で出る送風で乾かしていく。予め用意しておいた衣服に着替え、鎧や武器を身に纏った。

準備が整ったローレンスは荷物を肩に下げて、先程脱ぎ捨てた衣服を拾って部屋を出る。


「宿主、衣服の洗濯を頼む」


すると近くにいた女宿主は慌てて駆けつける。


「かしこまりました勇者様。衣服はお預かり致します」

「それから、少し外に出る」

「かしこまりました! もしや、見廻みまわりですか?」


と言われ、少し目を逸らしながらローレンスは言う。


「そそ、そうだ。見廻りだ。勇者たるもの、いついかなる時も襲い来る魔物に警戒をおこたってはならないからなっ。また昨日の様に町の結界を上手くくぐった魔物が忍び込んでるやもしれんからな」

「そうですかそうですか。勇者様がいてくだされば、この町も安全です」

(んなわけねぇーだろ。散歩だ散歩)

「では、行ってくる」


そう言うと、深くお辞儀をして見送る女宿主を背に宿を出た。

外では露店ろてんが出ており、朝から客の呼び込みやら町人同士でのお付き合いやらで賑わっていた。歩いてやって来るローレンスの姿を見つけては皆が注目する。


「勇者様!」

「勇者様よ!」

「勇者様! こっち向いて!」


どこもかしこも勇者勇者と、偽物だと知らずに持てはやす町人を嘲笑あざわらって、大手を振って町を歩くローレンス。


「勇者様! ウチの新商品! ぜひ試してみてください」


露店に立つ活気のいい中年に呼ばれローレンスは出向いた。


「これは?」

「動物をモチーフにして作ったお焼きです。中には甘い果実をすり潰したものが入っています」

「ふむ」


中年からそれを受け取ると、ローレンスは口に運んだ。


「ふむ、なかなかの味だ」

「ほんとうですか!? ありがとうございます!」

「おいオヤジ! それ俺にも一つくれ」

「私にも!」

「僕にも!」


ローレンスの立ち寄った露店にはすぐさま人集りが出来る。


(はぁー、そろそろ飽きてきたなぁこの町も……来てからもう三日経つなぁ……そろそろ旅立たないと、勇者の面目が立たないだろうなぁ)


すると向こうから叫び散らす若者がこちらの方に向かってやって来る。


「大変だぁー! 大変だぁー! 勇者様ぁー!魔物が、魔物が結界を破って入ってきただぁー!」

「何!? 魔物だと!?」


ローレンスは驚いた。


「大丈夫! 慌てなくていい! なんと言っても我らには、勇者様がついているんだからなっ!」

「そうだ! ここには勇者様がいるんだ!」


「「「「「勇者! 勇者! 勇者! 勇者! 勇者!…」」」」」


人々が口を揃えて勇者を連呼する。しかしその当の勇者と呼ばれているローレンスの内心は、魔物の登場にひどく怯えていた。


(ど、どうしよおおおお! 金もらったらすぐ別の村に行けばよかった! 何だよ結界破って入ってきたって。結界破れる魔物って事は、少なくともAクラスの魔物。いや、S(スーパー)クラスかも)


「来たぞぉー! キングベアーだ!」


(S(スーパー)クラスきたぁーっ!!)


「グオオオオオオオオオォォォォォォォォォォッッッ!!!!」


地鳴りを立てやって来たのは、家の高さを優に越してしまう程の巨体。目は真っ赤に染まり、きばをむき出しにうなるキングベアー。


「グオオオオオ!!」


キングベアーは暴れて腕をぶん回す。逃げ行く人々。するとキングベアーの腕が民家に突っ込んだと思ったら、民家の二階を吹き飛ばしてしまった。もしあれが人にあたっていればどうだったろうか。恐らく骨折では済まないだろう。想像するだけでも恐ろしく、足の竦むローレンス。


(あんなの当たったら死んじまうじゃねぇか! じょ、冗談じゃない。俺は逃げるぞ)


そして一歩後ずさるローレンスの足にしがみつくのは、期待を目に乗せて見上げる小さな子供。


「勇者様! やっつけてくれるんだよね!」


(何だよこのガキ! 離せよ!)


「グオオオオオォォッッッ!!!!」

「やーい! 魔物! お前なんて怖くないぞぉー!」


子供はローレンスの陰に隠れ魔物を挑発。おかげでキングベアーの血走る目がローレンスをぎろりと睨みつけると、地を揺らしこちらに向かって歩き出す。


「頑張ってね! 勇者様!」


(なんて事してくれたんだこのガキぃー!)


子供はウインクをしてローレンスから離れる。きらきらと目を輝かせて見守る子供をちらりと見ては、ローレンスは震える手を腰に差した剣に置いた。



ローレンスは至って普通の人間だ。魔物を討伐して国からお金をもらって、その日その日を繋いで生きてきた賞金稼ぎ(バウンティ)だった。しかし今ではその魔物も活発化の一途いっと辿たどる。太刀打ち出来ない強力な魔物に追いかけ回され、逃げ回る日々へと変わったローレンスは、勇者の存在を利用して人々の信頼や、金を騙し取る悪党に身を落とす始末。だがそんなローレンスにも心はあった。それは賞金稼ぎ(バウンティ)を目指した遠き日の思い出。





「父さん! やったよ! 俺、初めて魔物を倒したんだ!」


少年は初めて魔物を狩り、その興奮をいち早く尊敬する父に伝えた。少年の手には魔物からぎ取った大きな尻尾が握られていた。


「おお、やるじゃないかローレンス」

「えへへ、すごいでしょ」


少年の頭を撫でて褒める父に、少年は無邪気に笑いをこぼす。


「ローレンス! あんたまた一人で外に行ってたのかい! 危ないって言ったろう!」


すると腰に手を据え、眉を釣り上げて怒る少年の母が姿を現した。


「良いじゃないか。ローレンスはもう十五になるんだ」

「まだ十五です!」


怒る母になだめの言葉は通用しない。それだけ母にとっては、我が子であるローレンスを心配しているということだろう。


「俺! もっともっと修行して、父さんみたいな賞金稼ぎ(バウンティ)になって、お金いっぱい稼ぐからね!」





ドシンドシンと大きく地面を揺らし迫り来る獣。剥き出しの牙から垂涎すいぜんするのはえているあかし。ローレンスは震える体で長剣を構える。


「来るなら……来い!」


やがてローレンスの前にキングベアーが立ちはだかる。ローレンスは勇気を振りしぼって長剣を振りかざし、キングベアーに向かって突っ込んでいく。


「てぃやああああああ!!」


振り下ろされた長剣は、キングベアーの足元に突き立つ。しかし何度も長剣を突き立てても、キングベアーの硬い皮膚に傷一つつけることが出来ないローレンス。


「ええい! てやっ! たあ!」


その様子にキングベアーはにぃと口元をゆがめる。


「何だソレは、コウゲキか?」


キングベアーはその巨大な腕を振りかざし、ローレンスに向けて振り下ろす。


「ひぃ!?」



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