勇者はいずこに4
トラウマ回です。これに耐えられれば後のもいけるんじゃないでしょうか? 心の準備をよろしくお願いしますm(*_ _)m
痛い。痛い。
それは今までに感じた事もない苦痛だった。幼い頃に間違って他の子供に向けて魔法を撃ってしまった時に、叱られて受けたママのビンタよりも。はしゃいで走り回って道端の石に躓いて転んで、膝や腕を擦りむいた時よりも。
全身が焼けつく様に痛い。そんな痛覚の猛襲が意識を徐々に覚醒させていく。カタカタと音を立てながら自分を揺らすこの場は、いったいどこだろう。リリィは薄らと目を開ける。
揺れる視界。銀の膝当て。見上げると、全身を銀の鎧で固めた兵士が床板に槍をついて、高貴な作りをした紫色の椅子にずっしりと座っている。
「こ……こ…は」
リリィは声を出した。
声は出たが、痛みが酷く体がぴくりとも動かせない。目は動くのでもう少し横に目を逸らすと、視界にはくるりと捻れたちょび髭を鼻の下に生やす、憎たらしい面の男が映る。似合わない蝶ネクタイを胸元につけており、こちらの顔を覗き込んだ。その瞬間、視界がぶれる。
「ぐぁっ……!?」
髪の毛を乱暴に掴まれて、体ごと持ち上げられるリリィ。
全身に走る激痛に苦悶を浮かべ、目に映るエピルカの不敵な笑みを睨みつける。
「お目覚めかな。いい目だ。堪らん。それでこそ私の玩具だ」
ぺろりと舌を出し、リリィの体を下から舐めるように見回す。
(ご……めん。ホヅミん。この体、無事で返せないかも)
「ところで……リリィといったか? 今から我が屋敷にお前を迎え入れるところだ」
エピルカはリリィの髪の匂いを嗅ぐ。
「リリィ、君がこれからどうなるかを少しばかり教えてあげよう。我が屋敷に着いたら、まずは……そうだな、君の悲鳴が聞きたい。今日の君の悲鳴はとても良かった。それをまた聞かせてくれるかね?」
「ペっ」
リリィは血の混じった唾を吹くと、それはエピルカの頬に滴る。
「ふっ……ふふふ。そうだ、そうでなくっちゃなぁ? その小生意気な面が、恐怖に変わる様を見たくなったぞ!」
エピルカは力を込めると、リリィの頭を何度も馬車の座席に打ち付ける。
ドコン! ドコン! ドコン! ドコン! ドコン! ドコン!
破裂してしまいそうなほどの鋭く激しい痛みの連続。リリィの額からは新たに出血し、痛みで息をするのもままならない。
「お、おやめくださいエピルカ伯爵! ヒールをかけたとはいえ、まだ重傷の身には変わりありませぬ。それ以上なされては」
ブシュッ。
兵士の首が馬車の中を舞った。首を失った兵士の首の根元からは、ドクドクと赤い液体が流れ出る。首は馬車の外に転がり落ち、続いて脳の統率をなくした体も崩れる様にして馬車の外へと転がり落ちた。
「なされては?」
「ひ、ひぃぃぃ」
隣で見ていた兵士は縮み上がって、小さく悲鳴を漏らす。エピルカの左手には、血の付着した細長い剣が握られていた。エピルカは剣で空気を切って付着した血を振り払うと、腰に差し戻す。
「リリィよ、君は知っているか? 魔法拷問を。拷問をするものと治癒魔法を得意とするものによって行われる、いわば儀式だ。例えばだ」
頭に響く様な疼痛に苦悶するリリィの右手を、徐に持つエピルカ。その掌にエピルカは自身の左手を重ね合わせる。そしてエピルカの人差し指には力が込められる。リリィの人差し指を奥へ奥へと押し込まれていき、ボキリ。
「んぬぁーっ!!」
リリィの人差し指はぶら下がる。
「ふははは! 良い悲鳴だ。唆る、唆るぞ!」
エピルカは次に中指に力を入れていく。
ボキリ
「んっっ!!!」
リリィは唇を噛んで、声を出さない様に堪える。エピルカに自分の悲鳴を聞かせてたまるかと、リリィは痛みに耐えた。
「……ほう? だがまだ指は三本あるぞ」
薬指。
「っ!!」
小指
「っ!?!?」
リリィの目からは涙が滲む。そっと激痛の走る右手に視線を移すと、変な方向に折り曲がってぶら下がる指に恐怖を抱く。エピルカは最後の親指を押し込まずぎゅっと握った。そして力強く捻じる。捻じる。捻じる。
「んがっ!!!」
「ほう、耐えた耐えた……ふっふっふ」
息を荒くするリリィは、指を全て折られた右手を見る。よく耐えた、よく頑張ったと、心で自分を讃えて溢れそうになる涙を抑え込んだ。
「何を安心している? ……おい、ヒールをかけろ」
「は? し、しかし」
「良いからかけろ、首を撥ねられたいのか」
兵士はヒィッと小さく悲鳴を上げると、震える両手でリリィの右手の指を治癒していく。
嫌な予感がした。リリィは恐る恐るエピルカに視線を戻すと、そこには邪悪なる悪魔の様な笑みが浮かび上がっていた。
「屋敷に着くまで時間がある……しばらく遊びを楽しむとしよう」





