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追われかぼちゃと勘当姫  作者: 憤怒の灰かぶり
第一章
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勇者はいずこに3

ホヅミはサーラの先導のもと、凸凹でこぼことした道を上り下りと繰り返している。リリィと歩いた道のりを思い出させる、緩急の激しい道のりだ。しかしどうもホヅミにはどれも同じ道に見えてならない。サーラは今自分達がどこにいるかはっきりと理解しているというのに。

川のせせらぎが聞こえ始めた頃。サーラから指示があった。


「少し、水を飲んでいこう」


サーラについていくと、透き通る流水が道を横切っている。サーラは両手を揃えて水をすくい、口に添える。ホヅミも真似をして水を口に運んだ。冷たい水はすっと体に染み渡る様で、とても飲みやすいものだった。


「美味しい」

「ここの水は、ソウハイ山の頂きから湧き出た水が流れてきているものなんだ。水が美味しいのはこの辺りの森がまだ平和な証拠さ」

「まだ平和?」

「そう。最近では、魔族の魔物化が進んで、そいつらが森を、山を荒らすんだ」

「へぇー」


ホヅミはもう一度水を掬って口に運ぶ。


「言い換えれば、この付近に魔物は少ないって事さ……この辺りで少し休んでいこう」


サーラは岩陰を指す。岩に腰掛けたサーラとホヅミは荷を傍におろした。


「涼しくて気持ちいい」


ホヅミが口をこぼす。サーラは籠の中からエルフの森で採れた木の実を取り出すと、そのままガブりとかじりついた。陽の光を葉っぱたちが遮って、緑色のショートにはその影が映される。風に靡くとキラキラ細やかに光が反射して、思わず魅入ってしまうホヅミ。サーラはその視線が、自身の口にする木の実へのものだと勘違いをする。


「ホヅミも食べな。そのかごに入ってる」


我に返ったホヅミは、自分の荷から木の実を取り出そうとした。けれど荷を漁っても漁っても木の実はどこにも見当たらない。


「あれ? ないよ?」

「何? そんなはずは……」


蓋のない籠とはいえ、落としたならばいくらホヅミでも気がつくだろう。ふと細長い何かが籠の中に入っていた。


「何これ?」


それは芯だけを残して、実を何者かによって食い散らかされた後の木の実だった。ホヅミはそれを手に乗せて呆然ぼうぜんとする。


「ぷすっ……っっっ……ホヅミ、それはたぶん猿の仕業だ……ふふふ」


笑いを堪えるサーラ。サーラはホヅミを不憫ふびんに思って、自分の籠の中から木の実を取り出すとホヅミに差し出した。


「アタシのをやるよ」

「い、いいの?」

「いいよ。食べないと疲れるだろ?」


ホヅミはサーラから実のある木の実を受け取り、実のない木の実を籠に戻す。


「ありがとう……ございます」


思わず声の小さくなるホヅミを見て、サーラは微笑ほほえむ。村長に付いている時や、魔法の特訓をしてもらっている時、今思えばサーラはずっと強ばった表情をしていた。今ほど表情のゆるんだサーラを見たのは初めてだろう。そう思うとホヅミは少し嬉しくなった。


「なぁ、そういえばホヅミ、目の色が……変わってないか?」

「え?」


サーラから言われるが、ホヅミは何の事だか分からないでいた。


「今朝に、魔法の練習をしていた時は紅かった……様な気もしたんだが」


ホヅミの入る、リリィの体のひとみは緑色だ。


「目の充血とかじゃなくて?」

「じゅ、充血? ……充血か……」


納得のいかない面持ちでしばらくホヅミの目をじっと見つめるサーラ。ホヅミは木の実にかじりつこうとするも、サーラの視線に気が散ってなかなか動けない。


「サーラ、食べにくいよ」


言われてサーラはごめんごめんと手を立てて、岩に背を戻す。



両とも木の実を食べ終わると、サーラは立ち上がって特訓だと息巻く。ホヅミは食べたばかりであまり動きたくない気持ちであったが、リリィの事を思って力を湧き上がらせる。


「それじゃあやってみろ。よくイメージするんだ。小さな風の渦が、自分の体の周りにまとわりつく様に」


目を閉じすっと空へと手をかざし、サーラに言われた様に心の中で小さな風の渦のイメージを整える。


「落ち着いて、しっかり優しく呼吸をするんだ」

「すぅ…はぁ…すぅ……下位風魔法ブリーズ!」


詠唱と共にホヅミの体をくるくると風のうずまとわりつく。その風によってホヅミの体が吹き飛ばされもしなければ、その風は散失もしない。


「そう! そのままて風の渦を凝縮ぎょうしゅくして、伸ばした右のてのひらに集めて!」

弾丸ショット!」


ホヅミの体を纏う風は、小さな風のかたまりとなって掌にまとまる。あてもなく宙にかざしていた右手を一本の木に向けると、サーラに教えられた様に、風の塊と掌の間で瞬間的に空気を破裂させるイメージを持つ。すると風の塊は、右手を差し向けた一本の木に物凄い速さで向かっていった。一本の木にぶつかったかと思うと、丸い円を形取る様に木の一箇所はジリッと音を立てて、一瞬にして削り飛んでしまった。木には風穴かざあなが出来ている。


「出来た出来た!」


小さく飛び跳ねて喜ぶホヅミ。


「やるじゃないかホヅミ! 今のがブリーズの応用、ブリーズ・ショットだ」

(この分なら良いかもしれないな)



「そろそろ実戦だな」


ホヅミの素早い成長に感心するサーラはそんな事を言い出した。


「それは待って!」


サーラの発言にはホヅミも慌てて拒否反応を見せる。ホヅミの中には一つ腑に落ちない事があった。朝にどれだけ行っても出来なかった魔法であったのに突然出来てしまう。ホヅミは何かを大きく変えた訳ではない。偶然出来ただけの可能性もあると。


「大丈夫さ! でも実戦の前に、もう一つ会得してもらうよ」

「もう一つですか?」


急な実戦ではなくホヅミは安心した。


「ブリーズの応用魔法が出来たんだから難しい事じゃない。そのブリーズを使って、攻撃を躱す練習をするんだ。最初にコツを教える。慣れてきたらアタシが魔法をホヅミに向かって撃つから、ホヅミはブリーズを唱えて魔法を躱すんだ」

「は、はい!」


突然と出来るようになった魔法。ホヅミはその理由はどうあれ嬉しい気持ちには違いなかった。その理由はどうあれ。



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