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追われかぼちゃと勘当姫  作者: 憤怒の灰かぶり
第一章
13/77

勇者はいずこに1 (挿絵あり)

挿絵(By みてみん)

「すまぬホヅミよ……助けてやりたいのは山々じゃが、ワシらにはあの人間は手に負えん……強過ぎる……それに町の中に入られでもすれば、魔族のワシらはそれ以上追いかけられん」


大椅子には頭に包帯を巻いた村長が居座っていた。その両端で目線を下に向ける付きエルフ。


「私……いったいどうしたら」


ホヅミは無残になったリリィの姿を思い出して泣いていた。

ユーナラ町に向かう途中、慣れない林道を歩いて挫けそうになる自分を何度も励ましてくれた事。魔物に襲われた時、傷をあっという間に治してくれて、魔物から自分を守ってくれた事。リリィが取ってきてくれた魚を焼いて、二人で食べた事。どんな理由があってかは知らないけれど、自分が町に入れなくて野宿することになった時も、リリィがこっそり起きて見張りをしてくれていた事。そんな優しくて強いリリィがあっさり連れ去られて、その上見ている事しか出来なかった自分の弱さに、ホヅミは悔しくてただ涙するしかなかった。


「ひっく…今頃…っく…リリィは……」

「……………………」


考えるだけでも恐ろしい。誰かに助けてもらいたかった。エピルカという貴族の強さは、魔法の知らないホヅミでも見て取れるように理解出来た。おそらくリリィ以上に強い者は、このエルフの村には存在していないだろう。


「どうしよ…っく…このままじゃ…リリィが…リリィが!」

「一つ……方法が無い訳でもない」


その言葉にホヅミは食いついた。


「方法って!?」


泣きそうになりながらリリィを救える可能性にすがるその姿に、村長はこくりと頷いて訥々《とつとつ》と語り始める。


「勇者を……探す事じゃ……勇者ならば、エルフでない人間を、あるいは」

「勇者? でも、いるか分からないんでしょ?」


ホヅミは少し前の村長との話を思い出す。


「いいや……魔王誕生を騒がれている今、勇者もまた存在するはずなのじゃ。だがしかし、その勇者にも偽物が出回っておるのじゃ。勇者の名を語り、私利私欲を満たす下賎げせんやからがおる。勇者と称される者は、ソウルリングと呼ばれる腕輪をはめておる。じゃがワシらエルフは、この村にこもって生活をしておるが故に、その情報についてはさっぱりなのじゃ」

「つまり勇者なら……リリィを助けてくれるかもって事?」

「そうじゃ……しかしお主、探す宛もじゃが、魔物と戦えるのか? 探し回るという事は、エルフの村を一旦出るということじゃ。外にはたくさんの魔物があちこちに彷徨うろついておるじゃろうて」


ホヅミは泣くのを止めた。リリィを助けるために、決心をして立ち上がる。


「村長さん! 私に、私に魔法を教えてください!!」









ハイシエンス王都の外れにある町の大通りにて。


「コラァァ! 思い知ったか! 魔物!」

「ひぃぃぃーっ! お助けぇー!」


筋肉のあまりない体を分厚い鎧で固めている金髪ロンゲの男が、魔物と思われる何かの尻を足蹴りして剣を空に突き立てている。怯える何かは、両手を頭の上で組んで泣きべそをかいていた。採れたての菜果を売る露店が左右にずらりと並び、人通りの絶えない大通りの真ん中で、男と何かは注目を集める。


「この勇者様が来たからには! この町の平穏は邪魔させはしねぇぜ!」

「ひぃぃぃ!!」


勇者という言葉に惹かれ、興味を持った人々が次々と足を止め、男と何かを中心に囲んでいく。


「おお! 勇者だ!」

「皆! 勇者様よ!」


人々は次々に勇者の登場に、拍手喝采はくしゅかっさいを上げる。


(はっはー、これで噂は広まるだろう。この町の長も黙っちゃいないってわけだ。後は俺が町長の家に出向く。勇者様!ワシらの町を守って! となる。ご馳走にありつく。資金としてたんまり金が貰える。最高だ)


「あの! ローレンスさん!」

「うるせぇ静かにしろ!」

「でも俺、トイレ行きたいんすよ……何とかしてくれやせんか」

「黙れ!お前は今魔物なの! もう少し我慢してろ。じゃねぇと金払わねぇぞ!」


魔物の着ぐるみを来た者は、渋々ローレンスと呼んだ男にお尻を蹴られているフリを続ける。


「えぇい魔物め! 成敗してくれる」

「ひぇぇえっ!」


と男は着ぐるみを切ると、着ぐるみを着た人間は、切り口から青い液体をこぼす。


「ぐあぁぁぁあああ」


着ぐるみは倒れるフリをした。


「はっはっは、この勇者ローレンス=アサシエイト様が来たからには! この町も安泰あんたいだ」



「おい、町長に知らせろ! この町にも勇者様が参られたぞ!」



(いいねいいね。いい盛況だ)






そこはある大きな屋敷の中にある一室。上座と下座に、ソファが備えられ、その間には大きな大理石のテーブルが置かれていた。

やって来た女の召使いによって、テーブルにそっと置かれた紅茶の香りが辺りを包む。ローレンスはティーカップを手に取り香りを嗜むと、上品に口に添えて一口含む。ティーカップを白い小皿の上に戻したローレンスは笑顔を作り、自身の前に両手を組んで堂々と座る男の顔に目線を合わせる。


「いやぁ、勇者様に来ていただければこの町も安泰ですな」


町長は高らかに言った。


「当然ですとも! それに先程、町の周りの魔物を一通り蹴散らして来たところですよ」

「それは本当ですかな!? いやぁありがたやありがたや」


と笑顔で口髭を生やした中年の町長は、すっかり調子よいローレンスのホラに騙される。


「それでなんですけが、実は、勇者の活動を続けるのに資金が足りていなくてですね」

「ははっ、それはそれはいきませんな」


ローレンスは頭に手をついてとても困り果てた様子を町長に見せつけ、その同情を誘う。ローレンスはちらり、町長が眉を曇らせるのを確認すると、話を続けた。


「それでちょこんと、この町のお金をっすね、分けていただければなぁと思いましてね! 前の戦いで出来た傷が痛むので、休息のために寝床を」

「やや! なるほどそんな事ですか! えぇ、分かりましたとも。資金についてはこのニト町からぜひ出させていただきます。寝床については! この町一のお宿をお使いください。すぐ手配致します」


町長が召使いに向けて指示を出した。


「いやぁ話が分かる方で、この勇者ローレンスも助かります」

「そんな、恐れ多い。私は私の出来る範囲で勇者様のお手伝いをしなければなるまいと思ったのです。どうぞゆっくり体を休めてくだされ」


こうして勇者を名乗るローレンスの一仕事は完遂する。今回の町長はすんなりと承諾したが、中にはそうもいかない町長もいる。そんな時には落とし所を見つけて言いくるめ、資金と称して金をせしめるのだ。ローレンスはそうやって日々を繋いでいた。

町長からいただいた資金の十分の三は、町長の屋敷のすみで待機をしていた、協力者であるラジクが受け取る。


「ありがとうございやす。また、機会がありましたら、声掛けてくだせぇ」


魔物の着ぐるみで汗だくになりげんなりとしていたラジクは、報酬を受け取ると同時に晴れた顔で、スキップをしながら屋敷を離れていった。


「さぁて、この町一の宿とか言ってたな」


ローレンスは町長から貰った簡易地図を見ながら、宿へと向かう。しばらくすると、町長のお屋敷とさほど変わらない大きな建物が見えてくる。


「あそこだな」


ドアを開けるとチャリンチャリン。連動したベルが軽快に音を立てる。


「ようこそ勇者様! ささ、どうぞこちらです」


(この町一ね、まぁまぁって所かな)


既にローレンスの顔を知っていた女宿主に、とんとん拍子に案内されて二階へと上がる。これからしばらく居座ることとなる部屋へと着いた。


「では、ごゆっくり〜」


女宿主が扉を閉めると、ローレンスの肩に入っていた力がすっと抜けていく。


「よっこらせっと」


ブホッ。ローレンスのお尻を受け止める、柔らかいふかふかの羊毛ベッド。ローレンスはそのまま倒れ込んで目を瞑った。


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