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押し寄せる影

明けましておめでとうございます。



 部屋に戻った俺はタオルが用意されていたのでそれと着替えを持って浴場に向かった。

部屋のなかで三奈羽が書き置きでお風呂に行ってくるねとかかれていた。


 



 「はぁ~、いい湯だなぁ」

体をきれいに洗い終わった僕は大きな浴槽に浸かった。

日本人の性とも言えるかもしれないが風呂に入ると自然にだらしない声が出てしまう。


 「ぶはぁ、いい湯だなぁ」

頭にタオルをのせた尚があふれでるお湯の音と共にさっき僕が吐き出した言葉と同じような言葉を吐き出す。


 「風呂はいいよね、体がポカポカするし、なんか心まできれいになっていくみたい」

ボソッと呟いただけなのだが浴場に木霊した。


 「一日の疲れが吹っ飛ぶみたいだな」

尚も僕の言葉に続き爽やかな表情で肩まで湯に浸かる。

「なんか、こうしてお前と風呂に入ってると中学の時の合宿を思い出すよな」

頭にのせていたタオルを手に取りわずかに顔に浮かぶ汗を拭き取った尚はそう言った。


 「そうだね、あのときは確か中学二年の夏が過ぎた位だったっけ

三年生が引退して僕らがチームの要になってすぐだったよね」

僕は三年ちょっと前の思い出を記憶の片隅から取り出す。


 「そうそう、そんでその時に倉瀬が鼻からそーめん吹き出してよ」

「あぁ、あったあった、それでみんな笑ってそこから一ヶ月くらい倉瀬くんのあだ名がそーめん野郎になったんだよね」

ずいぶん懐かしい思いで話が次々に出てくる。


 「その夜はさ全員で女子みてぇに恋バナもして全員好きな子の名前出していったよな」

「そういえば尚が好きな子が米屋さんだったのが以外だったっけ」

「べ、別にいいだろ」

「今はどうしてるんだろうね」

「だな、まぁ、米屋は頭が良かったからすごい高校にでも行ったんじゃね」

浴場の天井を見つめる尚の姿はいつもと違い壊れそうな儚い姿だった。


 「それで実夏が全員から問い詰められて大変だったのも面白かったな」

「他人事みたいに言わないでよ。あの時は全員目が本気だったんだよ。本気と書いてマジの方くらいヤバかったんだからね」

僕はその時のことを鮮明に覚えている。


 「なぁ、実夏の好きな人は・・・まぁ言わなくても分かるか」

尚はどこか思うように悪い笑みを浮かべて僕の方を見た。

「「「あぁ~」」」

すると先輩後輩関係なくうなずく。


 「なんだよ、お前ら」

「別に~、実夏先輩はちょ~美人の幼馴染がいるだけで収まらず真美先輩と香代先輩もいるんだし、ずるいなぁと思いまして」

この丸坊主で親しみやすい雰囲気を纏っている野球少年は俺の後輩の藤丸通称ハゲ丸。


 「だよな、黒崎先輩ってちょー美人だよな」

「三年生の間でも真美ちゃん香代ちゃん黒崎ちゃんは人気あるもんな」

「それを独り占めとは万死に値する」

三人の先輩後輩がハゲ丸の背中を押す。


 「独り占めなんてしてねぇよ、馬鹿言ってないで早く寝やがれ」

「そんな容姿で口が悪かったら可愛さが半減しちゃうよ」

「おい、表に出やがれてめぇ、俺の容姿になんか文句あんのかよッ」

俺は生意気な事をいう後輩を締めようとする。


 「まぁ、まぁ実夏ちゃんも落ち着いて。でも、確かに最初見たときマネージャーにでもなるのかなって思ったのにまさかの凄腕キャッチャーだったなんて誰も分からないよ」

「星田先輩、一応先輩なんで手を出したくなかったですけど、今すぐそのすかした面に一発ぶん殴る」

俺は星田先輩に飛び込む。


 「ヒョイ」

力の抜けるような声を出して避ける星田先輩。そこに俺は更に追撃をする。

「ほらほら、落ち着いて」

先輩は体が大きい為、僕は簡単に捕まえられた。


 「さて、夜も遅いしそろそろ寝るぞ」

「うぇーい」

後輩の一人が返事をする。

「あっ、そうそう、実夏の事が羨ましいと思う奴は一時までだったらなんでもしていいぞ。怪我にならないはんいなら」


 部屋の明かりを消そうとした部長はとびっきりの悪い笑みを浮かべて電気を消した。

その瞬間キュピーンと全員の目が光った。





 「うぅ、今思い出すだけでもあれはひどいよ」

「確かに、全員獲物を捕らえた狩人みたいだったな」

尚は他人事だと思い笑っている。


 「それじゃ、そろそろ上がるか」

「そうだね、もう少しで呼ばれると思うし」

僕と尚は風呂から上がり部屋に戻った。


 部屋にはまだ三奈羽は戻ってきていなかった。

「あっ、そうだ本返しに行かなくちゃ」

僕は部屋の片隅に置かれている机の上に積まれている三冊の本を手に取り図書室に向かう。


 図書室の前まで来た僕は城内の様子が少し変だと感じたが気にしなかった。

「クリストフさん。いますか」

図書室と言うこともあり少し小さめの声でこの図書室の司書のクリストフを探す。

「おや、誰かと思えばミカさんではないですか」

「この本読み終わったので返しに来ました。とても役に立ちました」

「それは、良かった。聞きましたよ。ゴブリン討伐の際に大活躍だったと」

読んでいたであろう本を閉じて少し興奮気味に話題を振ってきた。


 「そんな大活躍っていうほどでもないと思いますよ。ただゴブリンに初めてを奪われたくなかったのと

クラスメートのみんなが混乱していたので」

「それでもミカさんは冷静に対処できたのでしょう。それはすごい事なのですよ」

まだ会って時間にしても三十分ほどしかないだろうがそれでもクリストフさんのテンションの高さは異常だった。


 「あの、なんでそんなにテンションが高いのでしょうか?」

「いえ、未来の英雄をこの目で見ることが出来て興奮しないものなどいませんよ」

僕はそんなクリストフさんに借りていた本を渡す。

「今日は本を借りますか?」


 返した本を脇に抱えたクリストフさんは本を元の場所に戻しに行く直前そう聞いてくる。

「じゃあ、他の魔法について書かれた本とか二冊ほど借りたいんですけど」

「分かりました。では、簡単な魔法が書かれた本を持ってきますね」

そう言うとクリストフさんは本棚の向こうへ消えて行った。


 僕は入ってきた扉の近くに置かれていた椅子に腰を掛ける。

「本の臭いはいつ嗅いでも落ち着く」

羊皮紙に書かれたインクの臭い。時代を感じさせるその匂いは人間の発展と等しい価値がある。


 「持ってきましたよ」

椅子に腰掛けて二分ほど経つとクリストフさんが戻ってきた。

「ありがとうございます」

クリストフさんに渡された本の題名を見る。

付与魔法(エンチャントマジック) 文字魔法(スペルマジック)


 「おぉ、なんかテンプレみたい」

「どちらの魔法も魔法が使える人は誰でも使える魔法ですのでミカさんでも使えますよ」

ニッコリとしてくれるクリストフさん。

「あれ、なんで僕が魔法を使えるって知ってるんですか?」

「それは、私も一応この国では高い地位を持ってますからね」

「そ、そうなんですか!あの失礼な態度とかは・・・」

「気にしなくていいですよ」

フフフと笑うクリストフさんを見て僕は一安心する。


 「それにしてもすごいですね。魔法が使える男性が現れるとは」

今度は興奮ではなく興味が湧いたと言いたそうな表情を向ける。

「スキルのおかげですから・・・」

 

 クリストフさんに渡された本の中身を軽くパラパラと見てみる。

内容は簡単な初級魔法の物への効果付与と魔法文字での魔法の発動法。

見れば見るほど興味が湧いてくるが今は置いておいてクリストフさんにお礼をする。

「ありがとうございます。それじゃ僕は部屋に戻りますね」

「はい、気を付けてくださいね」

「気を付けてくださいって、王城ですよ」

「ふふふ」


 変な事を言うクリストフさんを置いて僕は部屋に戻った。

三奈羽も戻ってきていた。

「あっ、お帰り。もう少しで夕飯だからって」

「分かった。もう行くか」

「そうだね。早めに行っといたほうがいいかもいつも遅いし」


 自分のベッドに本を置いて三奈羽と一緒に広間に向かった。

向かう道中で明らかに様子がおかしかった。騎士の人がたくさんいた。ピカピカの鎧を纏った姿はこれから戦場にでも行くかのような迫力をコートの様に着込んでいた。


 「どうしたんだろうね?」

「何かあったんだろうね。もしかして魔獣かな?」

と言っても僕らが出来る事は無いので一端みんなが集まっている広間に向かい状況を確認する。


 広間はみんな様子がおかしい事が分かっていたようだが席に座っていた。

真美と香代とも合流し尚もいた。渡辺は先生と話している。

「皆さん集まっていますか?」

鈴のような高い声が響く。

「集まっているようですね。皆さんも感じたと思いますが城内は今、少し騒ぎになっています」

王女であるセリアさんが話をする。


 「この城から馬車で三日ほど離れた村が一つ壊滅しました」

突然の発言にみんな何のことか分からなくなる。

「ついさっき、村からの救援要請がありましたがこれを起こした犯人は魔獣の中でもトップクラスの強さを

持った天災級魔獣のグラン・ド・二ールと分かりました。下手をしたらこの城どころか、この国が亡びるやもしれぬ存在です」

みんなも状況が把握できたようでガヤガヤと騒いでいる。

「静かにしてください。そこで私達は討伐部隊を編成し早朝に出るつもりです。皆さんは本来なら出ないでもらいたいところですが、もし、出てくれるという人がいましたら私に言ってください」

王女はこの緊急事態に猫の手でも借りたいと言った。


 僕達はまだ実践経験がほとんどない。ゴブリンなんてそんな魔獣と比べれば天と地ほどの差がある。

それでも僕達に出てもらえる人を探すということはそれだけ人員も足りないのだろう。各国の騎士も護衛の為に十数人くらいだと考えればこの国の騎士も合わせても多くて千人いくかどうか、つまりそれだけでは勝てないと言うことだ。だったら神器を貰った僕達も出るのが良いのだろうが、まだ訓練もままならない。


 「良いですか皆さん。この討伐は強制ではないので街の冒険者などもかき集めて出ます。先ほども言いましたが出発は早朝です。それまでに覚悟のある人は準備をして私に話しかけてください」


 それだけ言ってセリアさんは王女様と広間から出ていった。


 騎士の人も全員が出て行くと広間は僕達だけになり静かになった。

この広間の中には七十人ちょっとがいる筈になのに誰一人として声を発さない。

只聞こえるのはみんなの呼吸をしている音がわずかに聞こえるくらいだ。


 そんな静寂というのが最も合っているこの場に音をもたらした人がいた。

「さて、みんなはどうするつもりだ?私は教師としては君たちに危険な事をさせるなどと言うことはさせたくないが・・・」

西条先生だ。

西条先生は銀のグラスに入っている果物のジュースを飲みながらそう言った。


 広間は静かだったため、良く響いた。

「僕は行きます」

椅子から立ち上がりハキハキとした声音ではっきりと言い切ったのは生良だ。

「やめろって言っても聞かないだろうから言わないが生良だけか?私も教師として同行はするが身の保証までは出来る限りはするが絶対に死なせないとは言い切れない。どうする?」


 僕は椅子から立ち上がり、部屋に向かう。

「どこに行くんだ早乙女?」

「いえ、部屋に戻って準備でもしようかと思いまして。こんなところでたまっている時間はもったいないと思いましてね」

「そうか」


 先生はそれだけ言うとフフッと笑った。

僕はそんな先生を後目に広間から出て行った。


 やはり王城の中はメイドや騎士の人があちこちにいた。

出来るだけそんなみなさんの邪魔にならないように端っこを歩き部屋を目指す。


 部屋に着いた僕は傷薬などのアイテムの整理をする。

毒消し、回復薬、薬草、ポーション、清潔な布、これらのアイテムは騎士団の人から渡されたものだ。

訓練の怪我などはみんなこれで治療をしていた。

毒消しや薬草はそのままでは使えないが布に包み綺麗な水につけ絞ると使える。

回復薬やポーションはそのまま使えるので戦闘時はこちらを使い、戦闘後などは薬草を使うのがベターだ。


 支給されたポーチに回復アイテムを入れたあとは非常食の準備というか保存が効く食料の準備だ。

この世界では干し肉などが一般的なモノだ。あとはこの世界にしかない食料が何個か・・・

それだけでは戦闘の時に力が出ないためもっと良いものを準備したい。

出来れば騎士団の人やクラスメートなど全員に食べてもらえるくらいの量ともなればたくさんいるが。


 「そう言えば、騎士団の人達の食糧ってどこからもらってるんだろ?」

僕はあれだけの量の食糧を一体どこからもらっているのかが頭をよぎった。

 

 一度それを確認するために部屋から出て騎士団の人に聞いてみる。

「すみません、お尋ねしたいんですが騎士の方の食料とかは誰が用意しているんですか?」

「たしか、厨房の方と商人の方が用意してくれていたと思います。あとは各領地の名物などが月に一度送られてきますので、それを私たちがいただいてますね」

「そうですか。ありがとうございます」


僕はお礼を告げてまた部屋に戻る。

「とりあえず食料の確認は出来たから調味料の用意をしたいけど厨房に行けば貰えるかな?」

この世界の調味料のことはまだあまり知らないが味噌や醤油などはあったからそれをもらおう。

そう思い僕は厨房に向かう。


厨房に着いたが中は男性がたくさんいた。

「あれ、どうかしましたか?」

中の様子を見ていた僕に男性が話しかけてきた。

「え、えぇ、そうですね。味噌や醤油などを分けてもらいたいんですけどいいですか?」

「いいですが、何に使うんですか?」

男性は不思議そうな顔をしている。

「いえ、馬車で移動するっていってたので少しでも栄養のあるものをみんなに食べて欲しかったので保存の効く調味料と

簡単な食材を使って美味しい料理?を食べてもらいたかったので」


それを聞いた男性はプッと小さく吹き出した。

「わかりました。味噌と醤油の他になにか欲しい調味料とかはありますか?」

「では、蜂蜜と塩と砂糖で、あとは・・・お酢ってありますか?」

「ありますよ。では、用意しますので少し待っていてください」

そういうと男性は奥の方へ消えた。


二分ほど経つと奥から男性だけでなく二十人くらいの女性が出てきた。みんなが大きな袋や瓶をたくさん持っている。


 「お待たせしました。奥にあったものの1/3ほど持ってきました。今から馬車の方へ運んでいただくのであなたは他の準備をしておいてください」

「こんなにもらっていいんですか?」

「はい、私たちが本来は現地で調理しないと行けないのですがそれが出来ないのでミカ殿が調理してやってください」

男性はニコッと爽やかな笑みを浮かべる。


 「って、僕のこと知ってたんですか」

「それはもちろんですよ。あれだけの男子力を持っている方などいませんし。私たちにしてみればいつかは同じ厨房にたってもらってその技術を盗みたいと思っていました」

男性がそういうと後ろにいた他の男性もうんうんとうなずく。


 「ありがとうございます。遠慮なく使わせてもらいますね」

僕は全力の笑顔でお礼を告げてその場を立ち去った。


 食料の問題は解決したとして他の問題は自分の力の問題だ。

出来れば大鎌の練習をしたいが、あいにく外は暗く他の騎士団の人が

あちこちを歩いているため邪魔になるかもしれない。ここは自分の部屋で魔法についてかかれた本を読んで少しでも援護などができるようになればいいだろう。幸い今日借りた本のなかには付与魔法(エンチャントマジックの本を借りたのでそれを少しでも活用できるようになれば戦力は増えるはずだ。ただでさえ男性は魔法を使えないっていうハンデを持っているのに少しでも女性の方にかかる負担を軽く出来ればいいのだが・・・


 部屋で最終の荷物の確認を済ませて僕は本を取りだし読み始める。


 付与魔法とは様々なものに一つの魔法を埋め込み一種の魔道具にする魔法である。しかし、付与魔法によってできた物と魔道具の大きな違いは付与魔法によって付与された魔法の効果は一定の時間で切れてしまうが、魔道具は所有者の魔力が続く限り半永久的に使い続けることができる。

 

 付与できる魔法の効果は簡単なものだと誰でも付与することができる。初級魔法の付与は魔法を使える者ならば誰でも使えるということだ。

 

 例を出すと靴に風属性の初級魔法を付与するとその靴は一定の間

風の力が付与され移動速度が大幅に上がる。

他にも簡単な鉄の剣に火属性の初級魔法の火を使えば中級魔法クラスの氷を切ることができる。このように付与魔法の安定した使いやすさが冒険者などには人気だ。男性はここでも大きなハンデがある。

男性は本当に戦闘時のハンデが大きすぎる。


 しかし、私も女性であるために男性の気持ちはわからないが男性の方は男子力を鍛えて私たちに癒しを与えてほしいと思う。

おっと、話がそれてしまったがこの本には世間に公開されている簡単な付与魔法の組み合わせを表示しておく。もし、付与魔法の基礎を学びたいのであれば是非ともこの本を活用してほしい。


 以上がこの本の最初にかかれていたものだった。

ここから先はひたすら付与魔法の組み合わせが載っていた。

「よし、とりあえず使えそうなものだけでも覚えるか」

僕は使えるのかわからないため少しずつ実際に使ってみながら時間の許す限り魔法の練習をするのだった。


今年もこの作品をヨロシクお願いします

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