尚の獲物 迫りくる最初の脅威・・・
レイネさんはあれからずっと僕の事をからかっている。
「あはは、ほんとミカのことをからかうのって飽きないなぁ」
仮にも王女であるのにお腹を抱えて大声で笑うのはどういうことなのだろう。
「はぁ、はぁ、はぁ、笑った笑った。ねぇ、ミカ」
レイネさんは笑い疲れたのか息を切らしている。
顔は少し赤くなっている。そんな状態のレイネさんはさっきまでの声のトーンとは違い、少し低いつまり、本気というか真剣なトーンの声だった。
「どうしたんですか?」
すると、レイネさんは僕の横に座っていたのだが、更に近づいて来る。
レイネさん顔が僕の顔の近くまで来る。もう少し近くまで来ると吐息までかかりそうだ。
「本当に私と結婚してくれない?」
いきなりのことに僕はひっくり返りそうになったがなんとか耐えた。
「な、何言ってるんですか。前も言いましたよね?今は無理だって」
「今はってことは今後はどうなるのか分からないでしょ、それに私だって本気なんだよ。ミカが初めてなんだよ・・・こんなにも私の事をドキドキさせてくれるのは」
レイネさんは恥ずかしかったのか顔を手で隠している。
『可愛いのになんで前は獲物を狩る狼みたいな表情だったのに・・・』
「ねぇ、私にここまで言わせるのなんて君だけなんだよ。分かってるの?」
レイネさんのギャップにドキッとしているのにここで更にレイネさんの上目使いと言う追い打ちがかかる。
「で、でも、魔獣を倒したら僕達は元の世界に戻るので・・・」
「えっ、ミカは残ってくれないの」
「なんで、残るんですか?」
「だって、ミカほどの男子力を持つ人は今後絶対に現れないと思うから、各国の女王様が帰らせないようにするかもしれないよ」
「は、初耳ですよ。そんなこと!?」
「えへへ、じゃあ、ミカは私と結婚してくれるんだよね」
「なんでそうなるんですか?」
「子供は何人作ろうかな・・・えへへ」
レイネさんは一人だけの世界に入ってしまった。
時々えへへとか声を漏らしている。その表情はまるでスイーツバイキング前の女子高生のようだ。
「はぁ、それでは僕はもう戻りますね」
「えへへ、ぐへへ」
「だめだ。全然聞いてない。はぁ、戻ろうかな・・・いやまて、今戻ったらきっとレイネさんは怒りそうだな」
今までの経験上で僕はこういう時は勝手に帰ってはいけないと学んでいる。
例えば、三奈羽と一緒に帰ろうとしているときに誰かが三奈羽と話しており、いつまで経っても帰ろうとする気配がなかったので勝手に一人で帰った時の三奈羽の表情は恐ろしかった。
グリム童話に出てくる怪物までとはいかないがそれでも恐ろしかった。
本当に殺されるかと思った。
「よし、ここは待っておこう」
僕は隣でずっと一人の世界に迷い込んでしまっているレイネさんを見ながら苦笑するしかなかった。
レイネさんが一人きりの世界に迷い込んでから体感時間で十分弱ほど経った時にやっとレイネさんは帰還した。レイネさんは恥ずかしそうにしている。きっと僕にさっきまでの自分を見られていたことを気にしているのだろう。
「・・・恥ずかしい・・・一人であんなにはしゃいで・・・」
頭についている耳が垂れている。
「それじゃ、僕はもう行きますね」
元々僕はレイネさんが自分の世界から戻ってくるのを待っていただけなので部屋に戻ろうとした。
「へっ、あ、うん。ありがとうね」
レイネさんは今回は何も引き留めずに帰してくれた。
部屋に戻った僕はとりあえずベッドに座り込んだ。
部屋には僕以外に誰もおらず召喚された時の服装だった体操服とジャージが掛けられている。
「はぁ、ほんとまだ半日しかたってないのにナンデこんな疲れるの?」
つい、独り言を漏らしてしまうほど精神に疲労がたまっている。
『あんまりため息を吐いちゃうと幸せが逃げちゃうよ』
頭の中に黄泉の声が響く。
「そうは言っても仕方ないじゃん。あの魔窟に行くのは精神力がとんでもなく消費するんだもん」
『疲れすぎてか分からないけど口調まで幼くなってるよ』
「知らないもん」
黄泉と話すが内容はほとんど今までたまっていたストレスを吐き出すようなものだ。
『ミカも大変だね。魔法が使える男性ってことで注目を浴びると思うし、男子力がオールEXなんてありえない数値まで出してさ』
「男子力は僕の所為じゃないもん。それに魔法だって男だったら一度は使ってみたいでしょ」
『魔法ばっかに頼ってないで私にも頼ってね。私なんて相手の首に刃を付ければ自動で相手の命を狩り取る
ある意味さいきょー装備なんだよ』
黄泉は明るい声で楽しそうに話しているが内容は結構エグいことを言っている。
黄泉の力は確かに強力だ。相手の首に攻撃を浴びせれば相手は確実に死ぬと言うことだからだ。
それだけで耐久力が高い魔獣などを相手にするときに役立つし、相手がどれだけ上の実力であっても首を攻撃してしまえば確実に仕留めることが出来る。
「そういえばさ、黄泉を使う時のデメリットとかってないの?」
『う~ん、デメリットって言えるほどのモノはないけど私を使える人間はほとんどいないってことかな。
あとは、大鎌の扱いに慣れてなかったら懐に入られた時の対処が難しいね。熟練した大鎌使いなら問題はないと思うけどそのレベルに至るまでが大変だね』
「ってことは、デメリットはないってことか」
『うん、そうなるね。だからさミカも熟練した大鎌使いになれるように昼食を食べ終わった後にでも食後の運動として大鎌の訓練をしようね』
黄泉の言っていることは合理的だ。
強くなるにはそれ相応の努力が必要、それだけじゃない。実践経験も豊富でないとこれからの戦闘でも
冷静に動けるかどうかが問われてくる。
昨日のゴブリンとの戦闘では自分の中ではまぁ冷静に動けたと思う。
しかし、騎士団の人達や実践経験の豊富な人達から見れば只のお遊び程度にしか見えないだろう。
それに、まだ大半の生徒がこの世界をゲームの様に見ているだろう。
自分たちはゲームの中の勇者の様に魔獣を討伐する。
只それだけだが、そんな甘い考えが命を落とすきっかけになってしまうということは痛い程分かっている。
ネット小説やゲームではうまくことが進んでいるが現実であのようにうまくことが進むとは思えない。
運任せにするよりも自分たちが確実に真珠を仕留められるように強者になればいい。
以上のことからやはり黄泉の言っていることはこの先のことを考えても重要な事だ。
黄泉に言われたことをずっとベッドに横たわりながら考えていると二冊の本が目に入った。
タイトルは初級魔法の習得ともう一冊は魔獣大戦だった。
前者はタイトルのまんまの本でこれのおかげで魔法を習得出来た。
後者の本はこの世界の歴史と一般常識が書かれている本だ。
二冊とも全部読み終わっている。
そして、そこから少し離れた場所にもう二冊の本があった。
タイトルは魔獣図鑑Ⅰ、もう一冊は簡単レシピ家庭料理編と書かれた料理本。
魔獣図鑑は途中までは読んだが料理本はまだちっとも読んでなかった。
昨日はゴブリン討伐とかがあった為、完全に忘れていた。
「まぁ、気分転換にはなるのかな?」
この世界の家庭料理が気になった僕は気分転換のつもりで読み始めた。
「へぇ、この世界でも調味料とかはあまりないけど野菜とかは変わらないんだなぁ」
読み始めて三十分経った。この本に書かれているレシピのほとんどは塩気の多い料理だった。
まぁ、この世界では前の世界のような冷房器具とかが存在しないため汗をよく書くことから塩分をよく取っているのだろう。前の世界と同じ調味料は塩と砂糖があった。そのほかはなんと醤油と味噌があった。
なんでも、何代か前の勇者がこの世界で流行らせた調味料らしい。
『ナイス先輩』
これだけの調味料があれば日本の料理の半分くらいはなんとか百パーセントまではいかないが何とか再現は出来るだろう。
「これは、美味しそうだな」
僕が目を付けた料理はチュルストットという名前の料理で塩漬けにした野菜を多く使用し、それと一緒に干し肉を混ぜて蜂蜜を使ったソースをかけた簡単なレシピではあるが美味しそうな料理だった。
入っている材料はキャベツやトマト、ニンジンに大根とキュウリと牛肉と豚肉、蜂蜜とレモン、砂糖を少々と醤油を少量混ぜたソース
写真はないが絵が描かれており、鮮やかな野菜の真ん中にボリュームたっぷりの肉が居座りその上から
少し茶色が強い黄金色のソースがかかった美しい見栄えだ。
「今度時間があったら作ってみよう」
内心ワクワクしながら次のページをめくる。
あれから更に三十分ほど経った時に三奈羽が部屋に戻ってきた。
「あれ、どこ行ってたの?さっき騒がしくなってたけど」
「ちょっとね」
「ふーん、何読んでるの?」
ジト目を僕に向けながら話題を変えてきた。
「料理本だよ」
「何々、料理作ってくれるの?」
「うーん、今は無理かな。厨房とか行ってもメイドさんとか料理長さんとかに止められそうだし」
「確かにありそうだね。皆様はごゆっくりしてくださいとか言って」
「そうそう、だからさ今はまだ無理かな」
「じゃあ、今度作った時に食べさせてね」
「分かった。でもこの世界の料理は初めてだからうまく出来るか分からないよ」
「別に良いもん。実夏の料理が不味いとかないもん」
三奈羽はそう言いながらベットに倒れこんだ。
「はぁ、疲れたぁ~」
「どったの?」
「さっきねレイネさんだったっけ、一緒にいたんだけど話してたんだ」
「あ~なるほど、それで疲れたと」
「そう、一応王女様だから不敬が無いように頑張ったんだけど、そのせいで肩こっちゃった」
「うら若き乙女が何を言ってるんだ」
「はぁ~」
枕に顔を蹲りながらため息を吐く。
「それにしても、お腹空いたなぁ」
突然蹲っていた顔を顔を上げた三奈羽は呟いた。
「僕も思ってた。さっきからお腹の虫がずっと泣いてる」
コンコンと誰かが扉を叩く音がした。
「失礼します。昼食の準備が出来ましたのでお集まりください」
シアさんが扉を開けながら呼びに来てくれた。
「はい、わかりました」
返事をした僕はベッドから起き上がり、いつもの場所に向かった。
生徒の大半が集まっていた。
生徒の顔を見ると今朝は少し悪かったが今は大分マシになっている。
今朝の顔は何だか死人みたいな顔だったのに今は部活が終わった後のようなさっぱりしているように見えて疲れているみたいな感じだ。この例えもどうかと思うが・・・
「おにい、さっきどこに行ってたの?」
席に着くと香代が聞いてきた。
香代は既に昼食を食べており、口元に食べカスが付いていた。
「少し散歩に行ってただけだよ『魔法が使えるなんて言ったらどんな反応するんだろう』」
「散歩ねぇ、ウソだよねソレ」
声のトーンが一気に低くなり背筋がゾクッとした。
「なんで、そう思うの?」
「だって、女の人がついてたじゃん。鎧を着ていたから騎士団の人とが思うけど・・・ナンデナノ?」
更に声が低くなり、僕と香代の周りだけ一気に氷点下まで下がった気がした。
「えっ、その、確かに騎士団の人がそばにいたけど、それは護衛みたいな役割だったから・・・」
「護衛?・・・そっかぁ~なるほど、確かにおにいには護衛の人が必要そうだもん。ふぅ、ビックリして損しちゃったよ」
低くなっていた声のトーンがもとに戻り、どこか虚ろだった瞳ももとに戻っていた。
「どうしたの?ってなんか二人の周りだけ肌寒くない?」
椅子を引いて座りながらそう聞いてきたのは真美だ。
「別に、少し散歩してただけだよって話をしていたんだ。肌寒いのはきっと気のせいだよ」
真美にまで同じことを聞かれると二度手間になってしまうので適当に答える。
「気の所為かな?でも、外は結構暑いし、ここだけ肌寒いって言うのはなんか変だしなぁ」
真美はまださっきの香代の下げた周りの温度を気にしている。
それをした張本人はさっきの事はまるでなかったかのように美味しそうに料理を口に運んでいる。
パクパクと次々に料理が乗った皿を空にしていく姿はダイ○ソンの掃除機を見ているようだ。
昼食を食べ終わりみんな各自の部屋に戻ったため今は人が少なくさっきまで騒がしかったはずがシーンとしている。
唯一の音といえばメイドさんが運んでいる食器の音ぐらいだろう。
「さて、お腹も膨れたし少し休憩してから黄泉の訓練でもしよう」
隻から立ち上がった僕は食後の散歩と一緒に訓練場まで向かう。
道中では黄泉と一緒にどんな風に大鎌を使うのか少しだけだが教えてもらった。
『大鎌を扱うときのコツはからだ全体を使って振ることだよ』
「それは何となくわかるけど特に体のどの部分を使いのか聞きたいんだけど?」
『足腰は当たり前だねあとは大鎌を振るときのモーションにも関係はあるけど足腰はどのモーションでも必ず使うね。
あとは手首とかも大切だね。手首の家からが弱かったら何も出来ないし、ちなみに足で一番使うのは指の対からで踏ん張る力が重要だよ』
「手首だったら強い自信があるけど」
『じゃあ、あとは訓練しながら自分に足りない部分を鍛えていこう』
「それもそうだね」
今日の訓練の内容を簡単に考え付いた僕は訓練場に着いた。
訓練場にはもう見慣れたが騎士団の人が訓練をしている。
しかし、今日はいつもと違って訓練場の端に何人かの影が見えた。
その影が気になり近くに行くと全部知っている影だった。
「おっ、実夏も訓練しにきたのか?」
僕が近くまで来ると最初に声を掛けてくれたのは尚だった。
「そうだけど、尚も訓練?」
「あぁ、そうだぜ。全力で暴れることの出来る場所と言えばここしかないからな」
「それもそっか、それで尚はどんな武器使ってるの?」
「実夏は俺のスキル覚えてるか?」
「うん、投擲だよね。尚にピッタリじゃん」
「そうだな。それで、投擲は投擲武器に絶大な補正がかかるスキルで俺は投げナイフとブーメランを使うことにした」
尚は懐から五本の投げナイフを取り出す。
「ブーメランってド〇クエじゃん」
「確かに」
尚がそう言うと横から黒い色をした影が飛び込んできた。
「うわっ、あぶねぇ」
尚が声を上げる。
その間にも黒い影は僕に近づいて来る。
僕はその黒い影をキャッチした。
黒い影は僕の左手に衝撃を残して止まった。
黒い影の正体はブーメランだった。
「これって、尚の?」
「あぁ、俺のブーメランだ。今ので大体五分弱ってところだな」
「五分弱ってその間ずっと飛んでたのコレ」
「すげぇだろ」
ニカッと音がしそうな笑顔を向けてくる。
「ほんと、とんでもないね」
「それをキャッチしたお前もとんでもないぞ」
「僕が尚の投げた球を捕り損ねる訳ないじゃん」
「流石、俺の相方」
「僕は引退してるけどね」
「ねぇ、さっきから楽しそうに何、話してるの?」
横から声を掛けてきたのは渡辺だ。
「渡辺、怪我は大丈夫なの?」
「えぇ、もう全回復したわ」
「そっか、良かったじゃん」
「ありがとう。迷惑かけたわね」
「別に迷惑なんて思ってないよ。あんまり無理したら駄目だよ」
「分かってるわよ。それくらいあんたに言われなくても」
渡辺が少し怒ったように言った。
「それで何楽しそうに話してたの?」
「えっ、あぁ、尚のブーメラン攻撃がとんでもないって話をしてただけ」
「有坂君の?さっきから何を投げているのだろうと思ってたけどブーメランだったの?」
渡辺は不思議そうな表情から一気に驚いた表情になった。
「こいつ結構すごくてよ、キャッチする瞬間は刃が消えるけど、投げてその後は刃が形成されてるみたいなんだ。木なんかは簡単に切り倒せるんだぜ」
尚がブーメランの端を撫でる。
「グローブの手入れしてる時の表情になってるぞよ」
「そうか?まぁ、この世界での俺の相棒になってくれる獲物だからな」
尚はまたニカッと笑うと投げナイフを懐にしまってブーメランを投げる体制になる。
「よし、もういっちょ行くか」
ブーメランを投げるフォームは野球のピッチャーがマウンドから投げるフォームとは全くといって違う。
普通、ピッチャーをずっとしていた尚にとっては違和感があるだろうが、今の尚の姿を見ると昔からブーメランを使って遊んでいたとしか言いようのないような綺麗なフォームで投げる。
ブーメランの事をあまり知らない僕でさえそう思わせるのだから尚の投擲センスとスキルは火を見るよりも明らかだろう。
ビューンと風を切りながら尚の放ったブーメランは野球場より大きいであろう訓練所を大きく周り再び
尚の元まで帰ってくる。
バシッとブーメランを掴んだ尚の顔にはやはり笑みが浮かんでいる。
「ほんと、スキルって不思議だよな。ブーメランなんて全く使った事がないのにこうもピッタリと手になじむようなんだぜ。異世界ってほんとに何でもアリなんだな」
「そうだね。なんでもアリの異世界に勇者として呼ばれた僕達は魔獣を倒すまで帰れない。争い何て縁のないような生活をしていた僕達からしてみればこの世界の常識は考えられないけど、世界が違っても困っている人がそこに居る」
僕の口から出た言葉は簡単に聞こえるかもしれないけど、僕達からしてみれば大きな意味があるだろう。
「なんか早乙女がカッコいいこと言ってる」と渡辺が冷やかしを入れてくる。
「実夏ってたまにカッコいいこと言うよな」
「そうよね、いつもぼんやりしているように見えて頭の中はいつも三奈羽の事を考えている。もしくは家事のことか、新しいレシピ、明らかに高校二年生の男が考える事じゃないように思えるのだけど」
「失礼な。もっと他のことも考えてるよ」
「へぇ、例えば?」
ニヤリと笑った渡辺は僕に追い打ちをかける。
「た、例えば・・・商店街の肉屋で今日は何を買おうとか、今日はスーパーで玉ねぎの安売りだとか」
「明らかに男子の思考じゃないわよ「べ、別にいいじゃん」でも、いつも誰かに優しかったり、明るかったり、そんなところがクラスメートである私達にとっては光みたいな存在、私達にとってなくはならない存在ってことは確かよね」
渡辺は聖母を思わせる慈悲深い優しい笑みを僕に向ける。
「あっ、実夏の顔が赤くなってる」
尚が茶化す。僕は顔を見られないように手で顔を隠す。
「フフフ、あんたって本当にいじりがいがあるわよね」
渡辺は僕をからかっていたようだ。
「渡辺ッ、からかったな」
「フフフ、あんたをいじるのは飽きないわ」
「こりゃ一本取られたな」
更に顔に熱が集まる。さっきのが表現するのであったならば照れていると言えるだろうが今度は純粋な怒りだろう。
「じゃあ、私はもう行くわね」
渡辺は立ち去ろうとする。
「コラッ、待てッ」
僕は呼び止める。
「嫌よ。汗かいちゃったから風呂に入りたいのよ・・・もしかして一緒に入りたかったの?」
「////////」
「また赤くなった」
今度は笑いながら王城の方へ戻っていった。
「------」
渡辺が何かを言ったように聞こえたが突然強い風が吹き、その声はかき消された。
僕達はまだ知らなかった。この強風まではいかない風がこの世界に来て一番最初の強敵との出会いになるなんて、誰も思いはしなかった・・・




