5.由希子さんについて
5.由希子さんについて
実は由希子さんのことを僕はよく知らない。
どこで生まれ、どこで育ったのか。
年齢がいくつなのかも正確には知らない。
見た感じは僕より少し年上。二十代半ばではないだろうか。
身長も僕と大きく変わらないから、160センチ代後半だろう。女性にしてはやや背が高めだ。
少しだけ茶色に染めたショートボブの髪型は初めてあったときから今でも変わらない。
そう。初めてあったとき。あのときのことは忘れない。
兄貴と親父とお袋が確かに死んでいるのを確認してから、僕は家を出た。目指したのは裏山の中腹にある遊園地跡だった。長い坂道を自転車で登り切るのは現実的で無いと判断し、生まれて初めて僕は無免許運転という犯罪に手を染めた。
乗ったのは原チャリだ。
クソ兄が随分昔にバイトして買ったものだった。
潰れた遊園地に夜中ひとりで入り込むのは結構なスリルだ。
満月で、夜とは思えない程明るかった。
もしもあの日、夜空に月が輝いていなければ、懐中電灯のひとつも用意していなかった僕は、あまりの視界の悪さにそれ以上進むのを諦めていたかもしれない。そうなると由希子さんと出会えなかったわけで。
まあ「もしも」を今さら考えても仕方ないだろう。
事実は、原チャリを降りて月明かりを頼りに廃遊園地内を進んだ僕が、三十分後にカゴが外れた観覧車の前で、自分の首に包丁を突き刺しぶっ倒れたということだ。
そして由希子さんに助けられた。それ以来、由希子さんは僕の家に住んでいる。家族四人を一度に失った僕を心配して、面倒をみてくれている。
由希子さんは優しい人だ。
人間とは思えないほどの優しさを持っている。




