とある姉弟の話
とある姉弟がいた。
その姉弟は、はやくに両親をなくしていて、親戚に引き取られていた。
親戚は姉弟の事を疎ましく感じており、日常的な暴言と暴力を繰り返していた。
そして学校でも姉弟は虐められていた。
彼と彼女の安らげる場所は世界に一握りしかなかったのかもしれない。
彼は、自分と他者は違う。自分は選ばれた人間なのだと妄想し、度重なる壮絶な境遇を受け入れた。
彼女は彼とは違い、今の現実を受け入れ、虚飾の嘘で自分を塗り固め、壮絶な境遇を受け入れずに拒否した。
妄想を受け入れた弟。
現実を受け入れた姉。
同じ境遇にいながらも二人は似て非なる境地に至る。
弟は、自分と似ていながらも現実を受け入れ続け笑う。そんな姉に怒り殺した。
姉は笑顔の仮面をしていただけだったのに。
弟は姉を愛していた。
姉を殺すことでしか自分の妄想の世界を守る事が出来なかった。
一方、姉は愛する弟に殺される現実すら受け入れ死んだ。
だって、現実を受け入れてすでに彼女は絶望しかしてなかったから。
愛する弟に殺される事すら彼女は喜んだ。
どうしようもなくこの二人は壊れてしまっていた。
これは二人のどちらも覚えていない忘れ去られている僅かな安らぎの会話。
とある小学生の会話。
「たつや。何してるの?」
「なんだ姉さんか。これはペットボトルロケットを作っているんだよ。暇潰しだね」
「たつやはすごいね! 私、どうやって作ってるのか分からないよ」
「僕は選ばれた人間だからね。何でも出来るのさ」
「あはは。そうだね。たつやはすごいもんね」
「ああ。僕はすごいんだよ……だから姉さんの願い事も一つだけ叶えてあげてもいいよ」
「私がたつやにお願いしてもいいの?」
「ああ。僕が何でも叶えてあげるよ」
「うーん。友達が欲しい出来れば同姓の……いや、これは自分で叶えないと……どうしようかな……」
「姉さん。何でもいいんだよ。何でも叶えてあげるよ。僕は誰よりも偉くなって何でも叶えるから」
「うーん……よし。決めた! 一緒の高校に行こう! それで、たつやが私の事を『先輩』って呼ぶの! 私、面白くてずっと笑顔になっちゃうよ! だから私、中学生になったら頑張って新聞配達とかのバイトして、私、少しでも学費を稼いで叔父さんと叔母さんを説得するから!」
「……僕が叶えるんだよ。何で姉さんが働くんだよ。何でも叶えてやるんだ。僕は何でも出来るはずなんだから」
「たつや、何か言った?」
「いいや。何でもないよ。そんな事なら叶えてあげるよ。お安いごようさ」
「うん! 後はたつやとずっと一緒にいれば私は満足かな!」
「……僕も姉さんがいれば他のやつらはどうでもいいよ……」
「えっ何?」
「何でもないよ!」
中学二年生になった姉を、親戚の叔父はビール瓶で頭を殴り付け、半身不随にさせる。
それでも笑う彼女を、弟は首を締めて殺した。
弟は泣き叫び、妄想の世界へ逃げ込む。
献身的な姉。愚かな姉。優しかった姉。現実と闘う姉。
その強き妄想は姉を神の座へと至らせる。
物語の幕が開く前兆がここにあった。




