最後の語り部活動
「さあて、冴木竜也君。何を語ろうか?」
「たまには僕が語りますよ。田中先輩」
僕は言う。田中と名乗っている女に。
「そうかい! 君が語るのか! それは楽しみだ!」
いつもの資料室。女は笑っていた。
「では、『これから殺される女』について語りましょうか」
「楽しみだね。語りたまえ」
「では。下手くそですけど。ある一人の男がいました。その男は……無知でした。それはそうです。男は姉にしかほとんど興味がないし、性格は妄想的で英雄願望と選民思想もある一般的常識のない人間ですから」
この女に騙された後、警察に追われながらも僕は学んだ。世間やら常識やら倫理やら価値観やら。その過程で、僕はやはり他の人間とは違うと気付き、失った自信を取り戻した。騙されただけでは終わらない僕が選ばれた本当の勇者だ。
「ほうほう。それで?」
「それを利用されたんですよ。男は姉を殺したんですけどね。その姉をすり替えられたんですよ。まあ、とんでも話なんですけど」
「そうだね。それにまだ、タイトルの女もでてないし。まったく語り手がそれでは駄目だぞ?」
口を膨らませて女は言う。僕はこいつへの嫌悪をさらにつのらせる。
「すみません。まだまだですね」
「ふふ。私に語らせてばかりだからそうなるんだよ。たつや」
「……話を続けてもいいですか?」
「いいよ。聞こう。話の腰を折って悪かったね。前に首を折られたお返しだ」
「男は姉をすり替えた犯人を殺しに向かいます。これからファンタジーもはいるんですけど。全知全能の神に会ったり、空を飛ぶ感覚を味わったり、偽姉に出会ったりと色々ありました。こぼれ話だと、なんか悲鳴をあげられましたね。イカれたイケメンだ! とか叫ばれましたよ」
「すごい話だね! 一大スペクタクルじゃないか! とんでもない冒険をしたんだね! その男は」
「そうですね。そのどの体験もあっさりしていましたけど。振り返ったらすごい経験をしましたね。男は」
「そうかい。それはよかったね」
「ええ。強烈な経験をして男は一つの力を得る事が出来ましたから」
「ほう。それはなんッ」
僕は女の首を締める。
「『神殺し』と呼ばれる力ですよ! 女は神様らしくてね。普通に殺しても死なないらしいんですよ! ですからこれを手に入れた時は思いましたね! やっぱり僕は選ばれている優れた人間だとね!」
「……ッ!……ッ!」
苦しむ女を見て僕は笑う。
「さようなら! お別れです先輩!」
首を折った感触がした瞬間、女の姿が消えた。
死んだら消えるのか。エコだな。
そんな事を思いつつ、笑った。
何故か涙もでた。




