女と刑事と姉嫌い
「なんだかすごい夢を見ていた気がするぅ……」
あたりを見回すと覆い尽くす白の風景。そして一人の女。
詩人ぽく表現してみた。
ぱっと見、病院の一室と友達だね。
「あっ! かなっち。おはようー」
私の見舞品だと思われるメロンを食べながら軽く挨拶するのっちゃん。
本名は確か一ノ瀬野々って名前だった。
「ここ……病院だよね? とりあえず、私どうしたの?」
聞いてみた。
「仕事中に倒れた。疲労が原因だね。三日間ぐらい眠ってたんじゃない?」
マジか~こりゃ出勤したら大目玉だなぁ。
「で、かなっちはクビになったよ会社」
はあ?
「ほわい?」
「いや。会社の人が病院に来てさ。私に、動かなくなるようなヤツに用はないクビ。なんてかなっちに伝えてくれっていうわけよ。友達にそんなこと言えってぶっちゃけありえないよね。だからなぐっちった。そしたら交友関係もヤバイとか言い出してさ。完全にかなっちはクビだよね。メンゴメンゴ」
めんごじゃねえ……
「のっちゃん。暴力は現実でやっちゃいけないんだよ? とりあえず殴って話を聞かせるのは勇者とか魔法少女とかソッチ系の人なんだよ?」
「マジか。私勇者なん? スゲー」
そういう話じゃないんだけどなあぁ。
「てかナースとか医者を呼んだ方がいいんかな? ナースコール押していい? 押したことないんだよ! マジで」
「どうぞ……」
こんな事なら夢を見ていた方がよかったかもなぁ。
あーでも今の現実と同じぐらい嫌な夢だった気がする。
やめやめ!
イエーイ女やもめ! フゥ!!
まあ、いいや。三日眠ってたせいかすごい疲れてる。
面倒な事は明日考えようっと。
「起きてくださいよ。先輩!」
「すげえ痛いな……なんかなげえ夢を見ていた気分だぜ。どのくらい寝てたんだ?」
防弾チョッキを着ていたところで衝撃は残る。ましてやあんなばかでけえ口径で撃たれたら意識も飛ぶ。
「起きたんすね! 三十分ぐらいっすね」
「バカ野郎! 俺が起きてんの待ってんじゃねえ! その間にお前だけでも逃げるなり出来るだろうが!」
「無理っすよ! てかライフルで狙撃されてんすよ!? 先輩ぐらいっすよライフルの弾を受けて死なないの! この遮蔽物に先輩を運んだ事を感謝してくださいよ!」
「それは、ありがとうな。死なないのは防弾チョッキを着ていたからだ!」
「着てても普通死ぬっすから!」
「それは修業不足だな」
「ええぇ……」
俺も修業不足だ。テロリストと交戦中に相手のライフルの弾を喰らって変な夢を見るなんざな。
「よっしゃあ! 俺が起きたからにゃ、もう奴等の好きにはさせねえ! 全員に法の裁きを受けさせてやるぜ!」
「さすが先輩! お手伝いしますぜ!」
「とりあえずこの安全そうな遮蔽物で応援が来るの待つぞ! ライフルは無理だ!」
「先輩!?」
あいつ、絶対に許さない。
田中とか名乗ったあの女は僕に最悪の事をさせた。
あれは、夢なんかじゃない。現実だ。現実なんだ。僕が間違えるわけがない。
僕は選ばれた人間なんだ。他の奴とは違うんだ。
そんな僕に偽りの記憶を与えて知らない女を姉だと思わせて殺させた。
あの女は絶対に許さない。
僕の姉さんはただ一人だ。その姉さんは僕が殺したんだ。
なのにあいつは僕に殺させたんだ。知らないクソ女を姉さんだと思わせて殺させたんだ。
許さない。許さない。許さない。殺す殺す殺す。
「ああ……姉さん……僕の嫌いな姉さん。姉さんは姉さんだけだよ。たった一人の肉親だ。だから待ってて。僕達の家族の絆を侮辱した最低のあいつには最低の最期を与えるからね……」




