久子の世界
武家屋敷に三人の住人がいた。
どうやら、三人のうち長い間帰って来なかった住人が帰ってきたようでその屋敷には活気がでていた。
「で、どこに行っていたんです?」
その屋敷の主人と思われる二十代前半の着物を着た黒髪の美しい男が、帰ってきた長い茶髪をポニーテールにした凛々しい女性に話しかける。
「ちょっとクソ異世界にな。てか俺に対する嫌がらせだな。時間経過は。他の奴には時間経過させてねえぜ。たぶん」
「私と旦那様に分かるように説明しなさいクズ」
メイド服を着た金髪碧眼でツインテールの美少女が茶髪の女性を睨みながら言った。
「俺だけ異世界に飛ばされた時の時間に戻らせなかったって事。他は飛ばされた時間そのままに戻ってるぜ? だからどこに行ってたとか他の奴らは聞かれねえわけだ。羨ましい!」
苦笑しながら言う茶髪の女性。
「また変な人にちょっかいをだされましたか……もしや他のちょっかいをだされた人達は別の世界に飛ばされたという記憶もなくしてるんじゃないですか?」
男が聞く。
「頭の回転がはえーな相変わらず。そうだな。干渉に抗った分の罰ゲームだなこりゃ。あーあ無駄に力なんて持つもんじゃねーな」
「力がないクズはもはや火曜日に出されるゴミになりますね」
すかさず毒を吐く金髪メイド。
「そうですね。力を持たない久子さんなら、屋敷から追い出しますね。ゴミとして」
同調する男。
「ははっひでーな」
笑う茶髪の女性。
どうやらこの三人はとても親密な仲のようだ。
ここで茶髪の女性は笑顔を消して
「まあ、いつまでもあいつを野放しにはさせねえけどな……」
と、呟いた。
その呟きは他の二人には聞かれる事はなかった。
それが時には異世界に飛び、数多の人間、魔物、神仏を破り、様々な武術を極め、幾多の困難を乗り越えてきた剣神と呼ばれる女性の、たった一人を滅ぼす事の決意表明だという事を久子本人を除いて誰も知りえなかった。




