第21日常のカウントダウン
ボスの断末魔が響き渡った統制室に、間もなくして赤と青の激しいサイレンの光が差し込んできた。
Jが事前に手配していた国際警察の特殊部隊が、重武装で一斉にビルへと突入してきたのだ。床に転がるボッコボコにされたテロリストたちを見て、百戦錬磨の警察官たちが一瞬で硬直した。
「波瑠様、お怪我はありませんか!」
非常口の向こうから、アリスカの身柄を完璧に確保した男装の彼女が、キャップを回しながら戻ってきた。そのすぐ後ろからは、警察の保護班に肩を貸された初老の男――行方不明になっていた、メガ企業のローレンス社長が姿を現す。
「ローレンス……無事だったか」
俺が声をかけると、ローレンス社長は痛々しい姿のまま、俺の前に崩れ落ちるようにして両膝をついた。
「波瑠様……筆頭株主であるあなた様を、私の不徳の致すところでこのような大事件に巻き込んでしまい……本当に、本当に申し訳ありませんでした……!」
世界的な巨大企業のトップが、18歳の高校生の前に額を床に擦りつけて涙を流し、必死に謝罪している。警察の幹部たちや、我がグループのクラウス、ヘンリックがそれを見守る中、俺は小さく息を吐いてローレンスの肩に手を置いた。
「もういい、ローレンス。お前が最後にあのデータをアリスカ(ネズミ)に盗まれる前に俺に託そうとした、その忠誠心は本物だった。事情は全て把握している。お前を裏で脅迫していたテロ組織も、お前の秘書だったアリスカも、全て俺とJで完全に片付けた」
「あ、ありがとうございます……!」
俺は立ち上がり、Jに視線を送った。
「J、後始末の陣頭指揮はお前に任せる。7200億の損失処理、負傷した現地職員への通常の三倍の補償手続き、それからローレンスの社長職への復帰に関する法的処置。全て最速で終わらせてくれ」
「御意。波瑠社長代理の指示通り、ミリ秒単位で執行いたします」
Jがいつも通りの洗練された一礼を向けた。
世界経済を揺るがした大事件の戦後処理。それを数言の命令だけで完璧に終わらせ、俺は統制室の時計にふと目をやった。
東欧の現地時間、深夜四時。
脳内で時差を逆算し、日本の現在時刻と、 SKYTOON のスケジュールを頭の中に思い浮かべた、まさにその瞬間。
俺の背筋に、テロ組織の銃口を向けられた時以上の、本当の冷や汗がドッと噴き出した。
(――待て。今日、何曜日だ……!?)
スマホの画面を叩きつけるように起動する。画面に表示された日本の日付と、久から送られていたLINEの通知が、俺の網膜を激しく突き刺した。
【久:おい波瑠!マスコミはなんか黒服の男たちが全員追い払ってくれたけど!それより明日ライブ本番だぞ!早く日本に戻ってこい!!】
「あ……ライブ、やばっ……!!!」
思わず、世界を裏から牛耳る支配者としての威厳をかなぐり捨てて、素の高校生キーボーディストの声で叫んでしまった。
Jやアリスカを捕まえた彼女、最高幹部たちが一斉にポカーンと俺を見る。
「J! プライベートジェットのエンジンを今すぐ最大戦速で回せ! 日本の管制塔をもう一度力技で黙らせろ! あと二十四時間以内に日本の上空へ入らないと、俺、バンドのクビがかかってるんだ……!」
「かしこまりました。……国際法を三回ほど無視して、マッハの限界を超えさせましょう」
Jが不敵に笑い、即座にコンソールへと飛びつく。
世界を救う裏の戦争はこれにて完全落着。
だが、俺には何よりも絶対に遅れてはならない、あいつらとの『夢のステージ』が待っている。ワイシャツの煤を払うのももどかしく、俺は日本のスタジオへ向かって、再び東欧の滑走路へと全速力で駆け出した。
■ あとがき&ちょっとした用語解説
第21話をお読みいただきありがとうございます!
評価とブックマークをおねがいします。
「日本帰国・メンバーとの再会編」がスタートします!お楽しみに!




