第19話老紳士の鉄拳
「5、4、3――」
俺が胸の中で静かにカウントダウンを刻んでいた、まさにその瞬間だった。
(バキィィィィィン!!!)
突如として、鼓膜を激しく震わせるような、凄まじい肉体破壊音が処刑場に響き渡った。
直後、俺たちの目の前に立っていた、大柄な体格の敵の隊長が――まるで大型トラックに正面衝突でもされたかのように、文字通り真横へと「ぶっ飛んで」いった。
ガシャガシャと激しい音を立ててコンクリートの壁に激突し、そのままピクリとも動かなくなる隊長。アサルトライフルが虚空を舞い、床に転がって甲高い金属音を立てる。
「え……?」
男装の彼女が、引きつった声を漏らして硬直した。じりじりと距離を詰めてきていた二十人以上のプロの兵士たちも、何が起きたのか理解できず、一斉に動きを止める。
誰が殴ったのか。誰が吹き飛ばしたのか。
呆然とする彼らの視線の中心。そこには――ついさっきまで頭から血を流し、ぐったりと頼りなく立っていたはずの我が右腕、老紳士Jが静かに佇んでいた。
Jはブレザーの袖口をゆっくりと整えながら、冷徹極まりない瞳で残りの兵士たちを見据えている。その右拳には、微かに敵の血が滲んでいた。
「波瑠様、お待たせいたしました。……日常を過ごす間、少々身体が鈍っていたようです」
Jの口から漏れたのは、いつも通りの洗練された、だが地響きのように重い声音だった。
世界最高峰の資産管理責任者、J。だがその正体は、かつて数々の戦場を裏から更地にしてきた、我がグループ最高戦力の元最強特務兵――。波瑠の3兆円の資産を守る男が、ただの事務職なわけがないのだ。
「……はぁぁぁぁぁ!?」
男装の彼女が、帽子がズレ落ちるのも忘れて、綺麗な女の子の声で本日二度目の絶叫を上げた。
コンクリートの床に腰を抜かしていたカヴァリとアトリックスにいたっては、完全にポカーンと口を開けたまま、化け物でも見るかのような目でJを見上げている。
「はっ……?!」
この場で唯一、俺だけが「待ってました」と言わんばかりに不敵に笑っていた。
「おい! この老人を撃て! 撃ち殺――」
パニックを起こした兵士の一人が銃口を向けようとしたが、Jの動きの方が遥かに速かった。
残像すら残る超高速の踏み込み。Jの鉄拳が、銃を構えた兵士の腹部へ目にも留まらぬ速さで突き刺さる。
(ドシュッ! ガハッ……!)
さらに二人、三人と、プロの訓練を受けたはずのテロ組織の兵士たちが、まるで紙屑のように次々と殴り飛ばされ、一瞬で昏倒していく。Jが繰り出す無駄のない一撃一撃が、完璧な暴力となって包囲網を内側から破壊していった。
「波瑠、J! こっち、逃げ道ができたわ!」
男装の彼女が真っ先に我に返り、Jが力技でこじ開けた兵士たちの隙間――地上へと続く非常階段のルートを指差した。
「よし、全員走れ! 一気にここを抜けるぞ!」
俺の号令と共に、腰を抜かしていたカヴァリをアトリックスが担ぎ上げ、俺たちは猛烈なスピードで夜の通路を走り出した。背後からは、なおもJの放つ凄まじい肉体破壊音と、敵兵の悲鳴がディレイのように響いてくる。
ガタガタと崩れ落ちる敵の要塞。
アリスカとボスが出ていったすきに、俺たちはJの圧倒的な武力によって、絶望の檻を力ずくで踏み破り、コードによる解除を阻止するべく、統制室に向かった。
第19話をお読みいただきありがとうございます!
これぞ「なろう系」の真骨頂!普段は完璧で温厚な老紳士であるJが、実は「元・最強の特務兵」としての本気を出し、プロの軍隊を素手でボコボコに叩き潰して逃げ道をこじ開けるという、最高に爽快な大無双回になりました!次回、ついにテロ組織が完全に自滅する大逆転の第20話へ。どうぞお楽しみに!




